音読授業を創る そのA面とB面と 05・6・5記 「せいのび」(詩)の音読授業をデザインする ●「せいのび」(ぶしかえつこ)の掲載教科書…………………学図2上 せいのび ぶしか えつこ まぶしい くもに さわりたくて きは きのうも せいのび きょうも せいのび とりのように くもを とまらせたくて きょうも せいのび あしたも せいのび 作者について 1928年東京生まれ。詩人、作家。 ペンネーム・武鹿悦子。本名・荒谷悦子。東京都立第8高女卒。松竹大船シ ナリオライター一期生。1952年ごろより西条八十に師事し、詩作をはじ める。戦後早くから詩や童謡を書いていたが、50年NHK幼児番組「歌の おばさん」に童謡を発表したことを契機に放送・レコード界で活躍する。日 本コロンビア学芸部勤務。戦後童謡のすぐれた書き手のひとりとなる。 童謡集『こわれたおもちゃ』(国土社)、詩集「ねこぜんまい』(かど創 房)、童話『りえの雲の旅』(小峰書店)など100冊ちかくの著作物があ る。 力強く伸びんとする感動 生きとし生けるものすべて、昨日から今日へ、今日から明日へ、ぐんぐ ん生長(成長)しています。生長(成長)のありさまは、ほんのかすかで目 には見えないけれどぐんぐん伸びていってます。生き物たちのぐんぐん伸び る生命力の神秘さには、ただ驚嘆し、畏怖の念を抱くばかりです。 詩「せいのび」は、樹木がたくましく、けなげに生長していく様子を 寓話的・物語的に表現している短詩です。 第一連では、樹木は、まぶしい雲に触りたくて、昨日も背伸び、今日も 背伸びしていると書いてあります。明日も背伸びとは書いてないが、言外に ちゃあんと書いてある(含意している)ことが詩全体を読めば分かります。 樹木たちは、毎日、毎日、休むことなく、上へ上へと背伸び(生長)を続け ています。この詩は、その驚嘆と感動を表現しています。 背伸びしているのは、樹木だけではなく、生きとし生けるものすべて、 動植物すべてに言えることです。とくに人間は、肉体的にも、精神的にも、 いつも「せいのび」をめあてに努力して社会生活を営なんでいる存在です。 「きは」を「にんげんは」と入れ替えても、この詩は成立します。この詩 は、人間の肉体的成長はもちろん、精神的・人倫的成長をも含めて象徴的 に表現している詩だとも読めます。 蔵満逸司先生(本稿の初出・小学校教師用メールマガジン、の管理者) は、このメール(本稿)へのコメントの中で「この詩を読むと、いつも前向 きに生きることのすばらしさを感じます」と書いています。ぐんぐん背伸び していく樹木の姿を、ぐんぐん背伸びしていく人間の姿に重ねて読みとって います。短詩なるが故に、いろいろと解釈が可能となります。 第二連では、樹木は鳥を停まらせるのはごく普通のことだが、それだけ でなく、樹木は天空に浮かぶ雲をも停まらせたくて、天空へと高く高く伸び 上がっている、昨日も・今日も・明日も休むことなく伸び続けている、と書 いてあります。雲を触らせる(第一連)、雲を停まらせる(第二連)とは、 いくら樹木がぐんぐんとせいのびしているとはいっても、やや大げさな誇張 表現ですね。 しかし、この誇張表現が、樹木が力強い勢いで天空へ天空へとぐんぐん 伸び上がっている様子(擬人法による意志力)を目に見えるように鮮やかに 表象させてくれる効果を発揮しています。このレトリック表現によって、天 空とのあいだの距離感をかもしだし、樹木たちがぐんぐんと、高い所へ高い 所へと伸び上がっていく様子(擬人法による意志力)をありありと目に浮か ぶように表象させてくれます。 第一連には「きのうも せいのび」「きょうも せいのび」と書いてあ り、第二連には「きょうも せいのび」「あしたも せいのび」と書いてあ ります。第一連は「きのう→きょう」のことであり、第二連は「きょう→あ した」のことのように読みとれます。しかし、前述したように第一連も第二 連も、「きのう・きょう・あした」の三つの時間経過の全てを含んでいるこ とは詩全体を読むと、その意味内容から推察できます。 こう書き分けることで、短詩ながらも、この詩にストーリー性・物語性 を与えていることが分かります。こうした書き分けで、この詩に時間経過を 作ってストーリー性を与え、また樹木たちの生長の時間経過に動的な流れを 構造化させています。こうした時間的な区割りの文章構造が、樹木が伸びる 事象に時間の経過と、物語としての流れを与え、ストーリー性を形作ってい ることが分かります。 音読のしかた この詩の主題は「きのうも せいのび」「きょうも せいのび」「あし たも せいのび」にこめられた樹木の力強い、伸びんとする勢い、生命力 (生長力・成長力)のけなげなすばらしさでしょう。昨日も、今日も、明日 も、上へ上へと背伸びしていく生命力の力強さ、旺盛さ、たくましさへの感 動でしょう。この感動を音声にして表現すればよいわけです。 第一連の「きのうも せいのび」と「きょうも せいのび」、第二連の 「きょうも せいのび」と「あしたも せいのび」、これら二つのペアーを 対比的にリズミカルに、上へ上へと伸び上がる思いをいっぱいにして、力強 く、断言的音調の語勢にして力強く音声表現していくとよいでしょう。この 二つのペアーを、上へ上へと伸び上がる気持ち・思いをこめて、力強く・際 立てて音声表現していくとよいでしょう。これら第一連と第二連の最後の二 行を、どう力強く音声表現するかが、この詩全体をを上手に音読するか、下 手に音読するかの分かれ道になるとも言えるくらいです。 「きのうも せいにび、 きょうも せいのび」」と「きょうも せいの び、あしたも せいのび」は、二つとも、たたみかけ、おいこみ、もりあ げ、うねりや動きを作ってていく音調にして音声表現するとうまくいくでし ょう。 また、この詩は、語り手が木の気持ちや願いを斟酌して、外側から木が たくましく伸びんとする生長の様子を描写しています。木の気持ちや願いを よく理解して、この詩を音声表現していくことが大切です。 この詩の音声表現の区切り方は、意味内容から、 (まぶしい くもに) (さわりたくて) (きは) (きのうも せいのび、 きょうも せいのび) (とりのようの) (くもを とまらせたくて) (きは) (きょうも せいのび、 あしたも せいのび) のようになるのではないかと思います。 第一連「さわりたくて」、第二連「とまらせたくて」は、「はっきり と、ゆっくりと、ていねいに、際立たせて」音声表現しましょう。この語句 の後でたっぷりと間をあけます。ここまでがこの詩全体における「どのよう に」に当たる前半部分であります。 二つの「きは」からあとは、「木は どうしてる」の後半部分が始まり ます。各連ごとの二つの大きな区切りを意識して、そこで二分して、間をあ けて、この詩全体を音読するようにしましょう。 第一連「きのうも、きょうも、 どうしてる」、第二連「きょうも、あ したも、どうしてる」個所にある、三つの語句「きのう」「きょう」「あし た」は、際立たせ特立させて、目立つように音声表現します。 第一連の「きのうも せいのび」よりは「きょうも せいのび」のほう を目立つように力強く音声表現するとよいでしょう。第二連の「きょうも せいのび」よりは「あしたも せいのび」のほうを目立つように力強く音声 表現するとよいでしょう。同じ語句の繰り返しは前者よりは後者を、力強 く、声量を大にして、一層の伸び上がる思いをこめて、語勢を強くして音声 表現するとよい音声効果が得られるでしょう。 「だんだん だんだん 大きくなる」「少しずつ 少しずつ 大きくな る」のように同じ語句がつづく場合は、繰り返す二つの語句を同じ調子で読 まないほうがいいのです。繰り返す語句の二つに音調変化をつけて音声表現 すると意味内容が鮮明に音声に浮き立つようになります。こうしたテクニッ クを知っておくと便利ですよ。 わたしの授業実践の紹介 この詩は、群読で音声表現すると、いっそう力強さに迫力を増します。 わたしは、「せいのび」の第一連と第二連の1行、2行は個読(一人の 読み)、3行と4行とは群読(集団の読み)で音声表現する授業をしまし た。そのときの群読の読み声が、本ホームページにあります。。 本ホームページの第19章第2節「その他の詩作品、群読の読み声例」の 「読み声例3・せいのび」録音に耳を傾けてみよう。荒木学級児童たちの群読 読み声録音です。 トップページへ戻る |
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