音読授業を創る そのA面とB面と        07・4・2記




「さけが大きくなるまで」の
          音読授業をデザインする





●「さけがおおきくなるまで」の掲載教科書………………………教出2上



              
教材分析


  教材名が「さけが大きくなるまで」、単元名が「じゅんじょをおって」
とあります。この教材は、さけが川で産卵してから稚魚、成魚となり、海を
回遊し、生まれ故郷の川に回帰するまでの「さけの一生」について書いてあ
ります。
  この教材の主な学習活動は、こうしたさけの成長過程を時間的な順序の
記述にそって具体化しながら話し合い、さけの成長過程の区切りを表として
まとめていく作業などが考えられます。
  第1段落には、課題文が書いてあります。「さけはどこで生まれ、どの
ようにして大きくなっていくのでしょう」とあります。この課題提示が、以
後の文章内容を引っ張っていき、文章内容を規定していくことになります。
読者は、いつもこの問題提示に導かれ、この問題提示を意識しつつ、第2段
落以後を読みすすめ、卵から成魚へと成長し、回遊し、回帰していく様子を
幾つかの区切りごとで読みすすめていくことになります。

≪秋≫産卵のため生まれ故郷の川へ戻る。70センチほど。産卵の様子。
≪冬≫卵から孵化。稚魚は卵黄と腹につけてる。3センチほどになる。
≪春≫5センチほどになって川を下る。川口で1か月ぐらい暮らし、10セン
   チほどになる。
≪海で3,4年≫夏になり海の水のなれて、海へと泳ぎだす。3年〜4年、海
   を回遊する。
≪秋≫産卵のため、生まれ故郷の川に戻って来る。
 
  この教材文には記述上で工夫してほしかったところがあります。
  課題文が「どこで生まれ、どのようにして大きくなったか」です。です
から、下記のような記述が明記されていたらもっと分りやすい説明文になっ
たなあ、教科書という説明文の典型的な資格をもつ記述表現としては不十分
なところがあるなあ、と思いました。
【いつ】1月とか2月とか。春とか夏とか。それぞれにほしい。
【大きさ】1センチぐらい、2センチぐらい。それぞれにほしい。
【成長の変化の様子】大体は書かれているが、それぞれに成長の様子(行
動)の変化、際立った特徴の記述がおおざっぱすぎる、もう少しの配慮がほ
しかった。


           
音声表現のしかた


  本教材文の音声表現のしかたは、全体的に「ゆっくりと。はぎれよい発音
で。聞き手に分るように伝えて。」読むことです。意味内容の切れ続き、ひ
とつながりで区切って読むに配慮して音声表現することです。
  さけの行動の様子が聞き手に分るように音声表現するには、メリハリを
工夫して読むことが必要です。本教材文のメリハリ付けの大体の要点につい
て以下に書くことにします。

  「目立つように音声表現する。つまり、ある文章個所を強調して読む」
が多くあります。文学作品と違って、説明文の音声表現にはこうした部分が
特に多くなります。
  「目立つように。強調して」とは、たとえば「め・だ・つ・よ・う・
に」のようにスタッカートにしてポツポツとゆっくりと間をあけつつ区切っ
て目立たせたり、または、区切るのでなくその語句を強めに高めに読んで目
立たせたり、または逆に小さな声で低くボソボソと読んで目立たせたりする
ことです。

第1段落(課題提示)
  「どこで生まれ」「どのようにして大きくなったのでしょう」の二つ
を、質問して、問いかけている音調にして目立たせます。
第2段落(回帰してくる)
  「秋に」「(たまごをうみに、)(海から川へ)」「三メートルぐらい
のたき」「(川上へ)(川上へ)」を目立たせて音声表現します。
第3段落(産卵のようす)
  「おびれをふるわせて」「川ぞこを」「うんで」「うめて」の語句を目
立たせて音声表現します。
第4段落(孵化のようす)
  「赤ちゃんがうまれます」を目立たせます。
  「はじめは………つけていますが」(ここまではできるだけひとつなが
りに読み、ここでたっぷりと間をあけてから、次を読みすすめる)「やが
て………小魚になります」(ここまではできるだけひとつながりにして読み
すすめます)
第5段落(稚魚の川下り)
  (はるになるころ)(五センチメートル………子どもたちは)(海にむ
かって川を下りはじめます)。(水にながされながら)(いく日も………川
を下っていきます)のように区切って読みます。
  「(いく日も、)(いく日も)」を目立たせて音声表現します。
第6段落(川口での生活)
  「川の水と海の水がまじった」は「川口」にかかるように音声表現しま
す。つまり「川の水と海の水がまじった川口」はひとつながりにして読みま
す。
  「川の水と海の水がまじった川口のところ」まではひとつながりにし
て、ゆっくりと、はぎれよく読んで目立たせます。
第7段落(海での生活)
  (海の水になれて、体がしっかりしてくると)(いよいよ)(広い海の
くらしがはじまります)のように区切ります。
  「ぐんぐん大きく」を強く高く読んで目立たせ、「けれども」以下は声
を落とし、ゆっくりと音声表現していきます。
第8段落(生まれた川へ戻る)
  「(三年も)(四年も)」「もとの川へ」を目立たせて音声表現しま
す。


             
参考資料


  文章構成は、「さけはどこで生まれ、どのようにして大きくなったので
しょう?」という問題提示に答えて、初めにさけの産卵を、次に卵からか
えった稚魚の成長過程を説明し、最後に、産卵の時には自分の生まれた川へ
帰ってくると結び、冒頭へと続いていきます。時の経過と場所の移動を示し
ながら、さけの成長していく過程を、二年生の子ども達にもわかりやすい文
章展開で説明しています。産卵に関する行為やさけの成長の様子が表象で
き、具体化できるような書きぶりになっています。
  しかし、この教材文には説明不足で具体的に表象することができない簡
略すぎる文章記述の個所もみられます。
  山地芳弘(元・横浜市立大綱小)さんは次のように書いています。下記
の引用は教師が授業していく中で、文章記述の不足を補っていく必要があり
ます。下記の引用は児童への口頭説明の補充としての参考資料となるでしょ
う。

ーーーー引用開始ーーーーーー  

●「あながふかさ五十センチメートルぐらいになると……」では、穴の深さ
はわかりますが、長さや幅がわかりません。したがって、穴の形や大きさを
具体化する読みができません。
 「さけの一生」(阿部譲著)によれば、穴の大きさは、長さ七十〜七十五
センチ、幅五十〜六十センチ、深さ三十〜五十センチで、楕円の形をしたも
のとなっています。
●「ちょうど赤いぐみのみのようなものをおなかにつけておよぎますが、そ
れがなくなって……」。卵黄の入った袋を「ぐみの実」にたとえた表現で
す。ぐみの実を知らない子が多いでしょうが、教科書にのっている写真で具
体的に知ることができます。説明不足なのは、「やがて、それがなくなっ
て」です。これでは、さけの稚魚の成長にかかわる、卵黄の働きが読みとれ
ません。まだ自分の力でえさを十分にとれない1センチほどの稚魚は、卵黄
を吸収して育つのだそうです。
●ほか、さけの産卵に関する行為でとりあげられていない事柄
(ア)さけは川に入るとまったく食物をとらずに川を上ること。
(イ)川を上るときに群れをつくっているが、川上ではオス・メス一対と
なって産卵場へ分散していくこと。
(ウ)産卵床にはオスとメスとが並んではいり、、メスの産卵直後にオスが
放精すること。
(エ)卵を埋めるときも尾びれをふること。
(オ)さけの尾びれは、痛ましいほどすりへってしまうこと。
(カ)卵を埋めてから二、三日ぐらいするとさけはともに疲れ果てて死ぬこ
と。
●さけの産卵行為には成魚を死に至らせるきびしい自然法則があること、成
長過程においても産卵時から多くの仲間が他の魚に食べられていくこと、図
鑑によれば産卵時の卵数は約四千個、それが孵化直後で約三千五百尾、川を
下る直前には約百尾になるそうです。孵化したさけが無事に成長するにも自
然のきびしさがあり容易なことではありません。こうした自然の法則、摂理
を二年生なりに感じとらせることがなければならないと思います。
      児童言語研究会編集『国語の授業』23号(一光社)より

ーーーー引用終了ーーーーー


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