音読授業を創る そのA面とB面と 04・09・26記 「お手紙」・「お手がみ」の音読授業をデザインする ●掲載教科書…………「お手紙」光村2下、日書2上、大書2上 「お手がみ」教出1下 アーノルド・ローベル作、三木卓訳 教材化の視点 一通の手紙をとおして、かえるくんとがまくんとの心の触れ合い、友情 の絆が深まっていく様子を描いた物語です。他人の気持ちを思いやることの 大切さ、共に悲み、共に喜び合うことのすばらしさを味わわせてくれる作品 です。 かえるくんはがまくんに出会うと「どうしたんだい。きみ、かなしそう だね。」と相手の様子の変化に気づき、相手を思いやる会話から始まりま す。かえるくんはがまくんが悲しくなると、自分も心配で悲しくなります。 がまくんを喜ばせようと大急ぎで家に帰り、がまくんに手紙を書きます。が まくんは、かえるくんのやさしい心配に、しだいに心が和らいでいきます。 二人は玄関にすわって手紙がくるのを幸せな気持ちで待ちます。お手紙をと おして二人は大切な親友であることを再確認し、より深い友情に結ばれてい きます。 二人がどんな過程をとおってより深い友情を築いていったか、読み深め ることが主目標となります。授業をとおして相手を思いやる気持ちや気配り の行動の大切さを理解させたいものです。 役割音読で楽しもう この物語には会話文が多くあります。がまくんとかえるくんの会話で進 められている文章個所が多くあります。どの会話文は誰が発話者か、区別せ ずにずらずら読んでいく児童がいると思われます。発話者は誰か、会話文の 上部に記号をつけたり、色別にしたり、色分けシールを貼ったり、お面をつ けて読ませたり、などの方法も考えられるでしょう。 この物語は会話が豊富で役割音読するには好適な作品です。役割音読し ながら二人の話し意図(気持ち)により深くもぐりこませるとよいでしょ う。声に出すことによって身体に響かせることで、相手への思いやりの行 動、友情のすばらしさをより深く準体験することができます。積極的でねば り強く行動するかえるくん、消極的だけれど安易な妥協はしないがまくん、 二人の対照的な性格(行動)を、会話文のやりとりの感じで表現できたら大 成功です。参考資料・後述。 会話文の分断表現に気づかせる この物語には、連続したひとつながりの会話文個所が多くあります。こ の物語には、会話文と会話文とのあいだに地の文が書かれているのも多くあ ります。一つだけ例示しましょう。 「がまくん。」 かえるくんがいいました。 「きみ、おきてさ、お手紙がくるのを、もうちょっとまってみたらいい と思うな。」 地の文「かえるくんがいいました。」の前後の二つの会話文は、実際はひ とつながりに話された会話文なのです。「がまくん。」と「きみ、おきて さ、おてがみがくるのを、もうちょっとまってみたらよいと思うな。」この 二つを「かえるくんがいいました。」なのです。英文表現の「he sai d」を直訳して、こうなっているのではないかと思います。 ですから、この二つの会話文は実際はひとつながりに発話されている会 話文なのです。役割音読するときに、こうした会話文のひとつながりはつな げて音声表現するようにしなければなりません。物語「お手紙」の中に多く みられるこうした会話文記述とその 音声表現ついては、拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社)に詳しく 述べています。くわしくことを知りたい方は、この本の101ペ〜106ぺ、245 ぺ〜246ぺあたりをお読みください。 会話文にト書きを入れる 会話文を音声表現するときは、次のことを事前にはっきりと知っておく ことで音声表現が容易になります。発話者がどんな気持ちで話しているか、 どんな話し意図(つもり)をもって話しているか、どんな思い(気持ち・願 い)で何を伝えようとしているか、どんな顔の表情や動作で話しているか、 二人(発話者たち)の立場の違いはどうで、今は何をしよう・したい・伝え ようとしているか、などを明確に知っていると音声表現がしやすくなりま す。事前にそれを話し合ってみよう。 次のような学級児童からの発表があるといいですね。 役割音読においては、やりとりの雰囲気やかけあいのリアリティーが音 声に出るといいですね。 次にある会話文の右側(ここでは右寄せ下段もあり)に児童から発表さ れた事項を板書して、それを記入したプリントを児童に配布します。それを 役割音読の台本として使用します。児童達は右側のト書きを参照しながら、 それを音声表現の目当てに、会話文の練習させます。(児童配布の台本資料 は縦書き。) 「がまくん。」 《親しい友だちによびかけて言う。》 「きみ、おきてさ、お手紙が来るのを、もうちょっとまってみたらよいと思 うな。」 《あきらめるのはまだ早いよ。おきてさ、まって みなよ。という気持ちで言う。》 「いやだよ。」 《きやしないよ。ぜったいにこないよ。いくらまっ ても今までと同じさ。あきらめている気持ち。 元気なく、低い声で言う。》 「ぼく、もうまっているの、あきあきしたよ。」 《がっかりしている気持ち。しずんだ気持ちで言 う。》 「がまくん。」 《しんけんな顔で、がまくんの顔を見て、よびか ける。》 「ひょっとして、だれかが、きみにお手紙をくれるかもしれないだろう。」 《がまくんを元気づけて。いきおいこんで言う。 だれかが、かならず手紙をくれるよ、元気だし なよ。という気持ちで言う》 「そんなことあるものかい。」 《まってたって、むだだよ。こない よ。》 「ぼくにお手紙をくれる人なんて、いるとは思えないよ。」 《きやしないよ。むだなことをいうなよ。ぜったい にこないよ。全く期待していない、あきらめの気 持ち》 「でもね、がまくん。」 《しんけんな顔で、よびかける。》 「きょうは、だれかが、きみにお手紙をくれるかもしれないよ。」 《「きょうは」を、つよく、たかい声で、言う。 ぜったいにくれるって、期待していいよ、という 気持ちで言う。》 「ばからしいことを、言うなよ。」 《力なく、低い声。がっかりした気 持ち。完全にあきらめている。》 「今まで、だれも、お手紙くれなかったんだぜ。きょうだって、おなじだろ うよ。」 《今までとおなじ、くれるはずないよ、こないよ、という 気持ち》 「かえるくん、どうして、きみ、ずっと、まどの外を見ているの。」 《へんだなあ、ふしぎそうな顔で言う。さっきか ら、まどのそとばかり見ている、どうしてかな、 おかしいな、という気持ちで言う。しつもんして いるように言う。》 「だって、今、ぼく、お手紙をまっているんだもの。」 《あかるい声でへんじする。胸おどらせて言う。》 「でも、来やしないよ。」 《ぶすっと、くらく、なげやりに言 う。》 「きっと来るよ。」 《しんけんな顔で言う。自信をもって力強く 言う。》 「だって、ぼくが、きみにお手紙出したんだもの。」 《はっきりと、明るく言う。はくじょうしているように言 う。》 「きみが。」 《おどろいて。びっくりして。はやくちで高い声で言 う。》 「お手紙に、なんて書いたの。」 《しつもんしてるように言う。》 「ぼくは、こう書いたんだ。 『親愛なるがまがえるくん。ぼくは、きみがぶくの親友であることを、うれ しく思っています。きみの親友、かえる。』 《一字一字を目でなぞって読むように、ゆっくりとぽつぽつ と読む。》 「ああ。」 《「ああ。」の音声表現については、前掲の拙著、 103ぺあたりに詳しく記述してある。》 「とてもいいお手紙だ。」 《よろこんで。うれしそうに。あかるい 声で》 かえるくんのいらだちを音声表現する かえるくんとがまくんが、がまくんの玄関の前で二人並んでかたつむり くんを待ちます。かえるくんは「かたつむりくん、遅いなあ。」とじれった く思っています。かえるくんのいらいらしている気持ちを音声表現させてみ ましょう。 次の四つの地の文個所を抜き出して教科書に赤線で枠を書かせます。ど んな場面の地の文であるか、違いはどこか、を話し合います。 (1)がまくんは、ベッドで、お昼ねをしていました。 (2)かえるくんは、まどからゆうびんうけを見ました。 かたつむりくんは、まだやってきません。 (3)かえるくんは、まどからのぞきました。 かたつむりくんは、まだやってきません。 (4)かえるくんは、まどからのぞきました。 かたつむりくんは、まだやってきません。 (1)と(2)と(3)と(4)の地の文は、かえるくんがかたつむり くんに手紙を託してからの、がまくんとかえるくんの行動を描写している解 説文です。 (2)と(3)と(4)には、「かたつむりくんは、まだやってきませ ん。」の同一文章が繰り返し書かれています。この三つの地の文を音声表現 するときは、読み手はかえるくんの目や気持ちに寄りそって読んでいくこと になります。 (1)は語り手が客観的に描写している文ですから、「昼寝している」 事実を報告するように、聞き手に事実をポンと差し出すように淡々と客観的 に読んでいくとよいでしょう。 (2)から(3)へ、(3)から(4)へ移るにつれて、「カタツムリ 君、早く来てほしい、急いで、急いで。じれったいなあ。」という、かえる くんの待ちきれない気持ち、いらいらしている気持ち、いらだっている気持 ちがしだいにつのります、昂じていきます。 (4)では、じれったい気持ちが最頂点に達します。そして、とうとう 自分が手紙を出したことを白状する事態へと発展していきます。 ということから、(1)から(4)までの、この四つの地の文だけを板 書して取り出し、順次に、つまり時間の経過とともにつのっていく思い、 (2)から(4)へいくにつれていらいらの気持ち、じれったい気持ちが次 第に増幅していっている様子が想像できますので、それを音声に表現できた らすばらしいです。挑戦させてみましう。 「かえるくんの気持ちになって読んでみよう。気持ちが昂じていってい る違いを声で表現しよう。」と問いかけます。この四つの地の文に変化をつ け、じれったい気持ちが(4)で最頂点になるように音声表現しよう、と問 いかけます。 ここの指導で身につけさせる能力は次のことです。読み手の身体の中に 想像力で人物をとりこみ、一体化して生きる状況を作る能力です。人物の表 現意図(心理、感情)をつかみ、人物になりきって、人物の内面と触れ合っ た共振リズムで音声表現する能力作りです。人物の身体に同調させて読む能 力育てです。その場面における人物の緊張関係の中にわが身をおき、人物に 変身したつもりになって音声表現する能力育てです。 わたしが二年生を担任した時、「お手紙」の授業でこの実践を試みまし た。その時のテープ録音があります。いま聞き直してみると、(1)から (2)、(3)から(4)へと進むにつれてかえるくんのいらだちの気持ち の差は音声にかなり出ています。もう少しいらだちの気持ちが大胆に、めり はりを大きく、遠慮することなくドーンと音声表現していたほうがもっよ かった、そうするともっと分かりやすい音声表現になるなあ、と思います。 参考資料(1) 下記は、今仁恭子(元・兵庫県尼崎市立武庫小)さんが1年生(教出1 下)を担任した時の「おてがみ」の音読授業の報告です。一年生たちが音読 の仕方についてとてもよい話し合いをしています。児童言語研究会編集『国 語の授業』(一社)1984年2月号より引用。 ●立ち止まりの話し合い文章個所 「そんなこと、あるものかい。」 「ぼくにてがみをくれる人なんて、いるとはおもえないよ。」 ●教師のねらい 表現よみによって、がまくんのイライラした気持ちをくわしく話し合 う。 ●話し合いの記録 【梶田】 「そんなことあるものかい」の「かい」のところで言います。腹 が立った言い方です。 【麻生】 がまくんの気持ちで言います。くるはずないのに。 【大利】 ほかに、がまくんの気持ちで。うそつくなよ。 (略) 【中原】 「おもえないよ」の「よ」を、おこった感じで読めばいい。 【大利】 よく似たことで言います。「おもえないよ」の「よ」を、強く言 えばいい。 【山崎】 大利さんにつけたして言います。急に強く言えばいい。 【西垣】 腹たった感じで言えばいい。 【梶田】 「よ。」のところで、少し伸ばして言えばいい。 【甲斐】 「よー」というの。 (甲斐さんは、よー、と疑問に聞こえる読み方をした。) 【中原】 ちがって言います。のばしたら、おこっていないようになってし まう。 【松本】 「よ。」で止めたほうがいいと思う。 【梶田】 よく分かりました。 (文末表現「よ」のところに着目した話し合いです。 「思えないよ」を伸ばしたらと言う梶田の発言、「よー」とすねたよ うな言い方をしたかったのかも分からない。それを受けた甲斐が疑 問のように語尾を上げた。 そのため「ちがって」と反論の手がたくさん上がった。このとき、 教師が全体に問いかけて、このことを話し合わせて確認したほうが よかったと思う。) ●立ち止まりの話し合い文章個所 「ばからしいこというなよ。」 「いままで、だれもおてがみくれなかったんだぜ。きょうだって、おなじだ ろうよ。」 の二つの会話文について。 ●教師のねらい かえるくんの言葉に腹を立てて怒り出すがまくんの気持ちをくわしく話し合 う。 ●話し合いの記録 【教師】 ここで、がまくんは、どんなふうに言っているかな。 【児童】 がまくんの様子でいいます。本当は、もう言いたいけど、言わへ んの。 【児童】 よく似たことで。えらそうに言っていると思う。 【児童】 よく似たことで。おこりながら言っている。 【児童】 よく似て。がまくんの気持ちは、くるはずないと言っているから こないんだよ。だから、怒ったように言っていると思います。 【児童】 冗談言うなよ、という気持ちで言っている。 【児童】 そんなことあるものかい、しつっこいなあ、という気持ちで言っ ている。 【児童】 思ったことで。さっきより、怒っているみたいに言っている。 【児童】 よく似たことで。イライラしながら返事している。 (略) 【児童】 「くれなかったんだぜ。」の「ぜ」について思ったことを言いま す。いやな気持ちと悲しい気持ちがこもっている。 【児童】 らんぼうそうな言い方で言っていると思います。 【児童】 いつもこないんだから、今日だってこなくてあたりまえ、という 気持ちで言っている。 【児童】 がまくんの様子は、くやしそうに言っている。 (文末「……ぜ。……よ。」が使われているので、子ども達はそこに 着目して話し合った。その中で、がまくんの気持ちをくわしく読み 取っていた。) 【荒木の感想】 一年生にしては、とてもよい発言内容です。音声表現の仕 方・声の出し方だけでなく、人物の気持ちを話し合っているところ、気持ち と声の出し方、二つをからませて話し合っているところなどが、とてもよい 話し合いだなあ、と感心しました。 話し合いの中に、実際の音声表現をしたと書かれていませんが、(した のかもしれませんが、)話し合ったことをもとにして、それを参考に実際に 声に出しつつ、その実際の声についても話し合うというような授業をしたら もっとよかったと思います。 こんな音声表現の仕方で・声の出し方で、と児童たちから意見が出た ら、「じゃ、やってみて。」とか「みんなでやってみよう。」とか誘いかけ て実際の音声表現を取り入れて授業を進めます。出された実際の読み声を材 料にして更に解釈深めをしたり、上手な音声表現を求めたりして授業を進め ていきます。音声にして、人物の気持ちを読み手の身体に響かせていくと楽 しんで授業ができるし、音読の上達も速くなります。 (注記) 本教材は、教科書会社によって1年生と2年生に配当されています。 本稿は、一年生教材「お手がみ」も、二年生教材「お手紙」も、同じ内 容の音読授業デザインとなっています。これは当然に指導内容が違ってくる べきです。みなさんの学級の実態に応じて相応の指導内容でご指導を願いま す。 一年生は会話文の分担読み、つまり、役割音読で人物のなって会話文を声 に出して楽しむ授業をするのもよいでしょう。また、会話文にト書きを書い た台本を配布して、それを手がかりに音声表現を工夫するようにさせるのも よいでしょう。 二年生は、かえるくんのいらだちの音声表現に比重をおいて挑戦させてみ てください。相手をおもいやる気持ちが大きければ大きいほど、いらだちの 気持ちが大きくなります。役割音読では、がまくんとかえるくんの気持ち の違いを声に出して読むように努力させるのもよい方法です。これには事前 に二人の性格・状況の違いを話し合っておくことが大切となります。 トップページへ戻る |
||