音読授業を創る  そのA面とB面と    05・12・23記



「おおきくなあれ」の音読授業をデザインする



●「おおきくなあれ」(さかたひろお)の掲載教科書…………光村2上



            おおきくなあれ
                 さかた ひろお


           あめの つぶつぶ
           ブドウに はいれ
           ぷるん ぷるん ちゅるん
           ぷるん ぷるん ちゅるん

           おもくなれ
           あまくなれ

           あめの つぶつぶ
           リンゴに はいれ
           ぷるん ぷるん ちゅるん
           ぷるん ぷるん ちゅるん
           おもくなれ 
           あかくなれ




            
作者について


  1925年、大阪生まれ。東京大学文学部国史学科卒。叔父は作曲家・大中
寅二(おおなかとらじ)、その子で「さっちゃん」「犬のおまわりさん」な
どの作曲家・大中恩(めぐみ)は従兄、娘は宝塚の大浦みずき。
  大阪朝日放送に入社、編成局ラジオ制作部次長を経て退職。以後、文筆
業に専念。朝日放送デレクターのとき「ABCこどものうた」など数々の童
謡の制作を担当。自らも「さっちゃん」「夕日が背中を押してくる」「おな
かのへる歌」「うたえバンバン」などの童謡を書き、国民的な愛唱歌とな
る。詩、童謡、合唱曲、童話、絵本、放送脚本、ミュージカル、小説など幅
広い分野で活躍する。1975年、『土の器』で芥川賞受賞。「うたえバン
バン」で第4回日本童話賞受賞。『童謡でてこい』『まどさん』で第9回巌
谷小波賞受賞。その他、モービル児童文化賞、坪田譲治文学賞、FM童謡大
賞、毎日童謡賞、なども。


           
イメージ化の一例


  子供たちはこの詩をどう解釈するでしょうか。子供たちは子ども達なり
にいろいろな受け取り方をすることでしょう。
  以下、わたしの身勝手な、わたしなりの解釈を書きます。
  題名は「おおきくなあれ」です。
  「何が大きくなあれ」と言っているのでしょう。「ブドウが」「リンゴ
が」です。
  「どのようにしておおきくなあれ」と言っているのでしょう。雨のつぶ
つぶがブドウにはいって、雨のつぶつぶがリンゴにはいって、大きくなあ
れ、です。「雨のつぶつぶ」という書き方は、雨滴の一粒一粒というイメー
ジがあります。
  この詩は、光村版二年生上巻の教科書に掲載されています。子供たちは
一年生の時に生活科で草花(朝顔など)を栽培し種蒔きから種取までの生長
の経過を観察しています。そのときはじょうろで毎日の水遣りををしたこと
でしょう。植物は水がなければ枯れてしまいます。子供たちは植物の生長に
は水が必要なことを学習しています。
  ブドウ畑やリンゴ園は、一個の朝顔の鉢植え栽培のようにじょうろで水
遣りをしていては間に合いません。雨が必要です。植物は雨の水分を根から
吸い上げて生長していってます。
  この詩では、雨のつぶつぶがブドウに、リンゴに、「当たれ」とは書い
ていません。「はいれ」と書いています。雨の一粒一粒がブドウの一粒一粒
にはいれ、リンゴの一個一個にはいれ、といっていると読みとれます。
しかし、ブドウもリンゴも、はては果物一般、はては植物一般が、水をいっ
ぱい吸って、雨水をたくさんもらって、雨水をうんと飲んで、雨の恵みや雨
のおかげで大きく大きくなっています。語り手は、雨の一粒一粒がリンゴの
一個一個にはいれ、ということは、雨水を根からうんと吸って大きくなあれ
と言っていることと同じで、要はレトリック(詩的表現のしかた)の問題の
ように思います。結果としては、同じになるのではないかと思います。

  擬態語について書きます。雨水を吸って大きく生長(ふくらむ)してい
く様子を「ぷるん ぷるん ちゅるん、ぷるん ぷるん ちゅるん」と書い
ています。同じ表現が、ブドウにもリンゴにも使われています。細かいこと
を言えばこの擬態語の表現はブドウには適して、リンゴには適さない、リン
ゴにはもっと他の擬態語の表現がありそうです。
  でも、「ぷるん ぷるん ちゅるん、ぷるん ぷるん ちゅるん」とい
う表現は、雨つぶたちが、小粒で、なんとなく丸っこくて、ふくらんでいる
様子を表象させ、心地よい響きのリズム調子となって果物一般の成長を促進
させ、実り豊かな成熟と収穫をもたらす雨の恩恵を表現していると考えれ
ば、ブドウとリンゴとの相違はなくなってしまいます。果物一般の豊饒な実
りの収穫、その大きく大きく成熟していくダイナミックな様態(様子)を表
現している擬態語であると考えるなら、両者の区別(果物の種別)のちがい
は関係なくなると思います。

  語り手は、雨のつぶつぶが、「ブドウにはいれ、おもくなれ、あまくな
れ」と命令形で書き、「リンゴにはいれ、おもくなれ、あかくなれ」と命令
形で書いています。「あまくなれ」(ブドウ)、「あかくなれ」(りんご)
との個所だけが違っています。ブドウとリンゴとの種別的な成熟への期待
の相違はあるにしても、これも、果物の実りには、赤味と甘さは二つとも必
須な成熟のための要件であることを考えると、二つの相違はそんなに関係な
くなり、同じと考えてもよいと思います。

  この詩の構成をまねて、ブドウやリンゴに代わって、「なし」「かき」
の例を使って、まねた詩を書かせる作業があってもよいでしょう。



           
音声表現のしかた


  二年生児童たちのもっている地声で素直に音声表現させましょう。つま
り、高音で、はぎれよさがあります。屈託のない、おおらかさがあります。
  どうしても早口になりがちです。早口にならないようにさせましょう。
字づら読みにならないように、自分なりのイメージを浮かべ、そのイメージ
をゆっくりと声にしていくようにさせましょう。文字の一つ一つをていねい
に、はぎれよく、声にしていくようにさせましょう。
  「あ、め、の、つ、ぶ、つ、ぶ、ブドウ、に、は、い、れ」のような感
じで、ゆっくりと音声表現していくぐらいでよいでしょう。

  「ぷるん」は、雨のつぶつぶがブドウやリンゴにはいる、その様態や量
感や質感をあらわしています。「ぷるん」でも「ぷ、る、ん」でも、悪くな
さそうです。「ぷーるん」は、どうでしょうか。「ぷるーん」はよさそうで
す。「ぷーるーん」はどうでしょうか。雨のつぶつぶがブドウやリンゴには
いる様態ですから、速く一気の場合も、ゆっくりと少しずつの場合もある
でしょう。
  「ぷるん」「ちゅるん」の擬態語はいろいろな音声表現のしかたがあり
そうです。子ども達にいろいろな読み方をさぐらせて発表させてみましょ
う。発表された読み声をみんなで模倣したり、わたしはこれを選ぶなどの話
し合い活動もあってもよいでしょう。

  「おもくなれ。あまくなれ。あかくなれ。」は、命令形です。命令する
音調で音声表現させましょう。同じ命令する音調でも、子ども一人ひとりで
みな違ってくるでしょう。そうなるのが当然です。強い命令で「おもくな
れ」と言う子もいるでしょう。柔らかい命令で「おもくなれ」と言う子もい
るでしょう。頼み込んでいる命令で「おもくなれ」と言う子もいるでしょ
う。「おもくなーれ」と伸ばして言う子もいるでしょう。同じ命令の音調で
も、やさしい音調、かわいらしい音調、大声の音調、小声の音調、ささやき
の音調、表現する児童のイメージの浮かべ方の違い、性格(気立て、気性)
の違いなどでさまざまに変化するでしょう。
  一年生の国語教科書の教材「おおきなかぶ」の文章に「あまい あまい
 かぶに なれ。大きな 大きな かぶに なれ」というフレーズがありま
した。これを思い出させ、関連づけて「雨をたくさん吸って、大きな実に
なってね。赤く熟れてね。大きな甘い実をつけてね。」という願望の気持ち
をいっぱいにして音声表現するとうまくいくでしょう。


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