音読授業を創る そのA面とB面と        08・07・09記




  「ニャーゴ」の音読授業をデザインする




●「ニャーゴ」(みやにし たつや)の掲載教科書…………………東書2上

          
           
        
作者(みやにし たつや)について

  宮西達也(1956年〜   )静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術
学科卒業後、人形美術、グラフィックデザイナーを経て絵本を書きはじめ
る。童話、紙芝居、イラスト、エッセイなども手がけている。「きょうはな
んてうんがいいんだろう」で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。「パパはウル
トラセブン」ばどでけんぶち絵本の里大賞を受賞。
  「ぼくにもそのあいをください」「おまえうまそうだな」「おとうさん
は」ウルトラマン「にゃーご」「おっぱい」「はらぺこおおかみとぶたのま
ち」「きみはほんとうにステキだね」など。


             
教材分析


  この物語の理解には、「ねずみにとってねこは天敵である」、「ねこは
ねずみを捕らえる、そして、食う」、「ねこは、ねずみにとって恐怖の対象
物である」という事柄をはっきりと事前に認識させておくことが重要です。
このことが事前に分かっていないと、この物語はおもしろく読み進むことが
できません。
  ですから、冒頭場面で、ねずみの先生が子ねずみ達に「これが、ねこの
顔ですよ。つかまったらさい後、あっというまに食べられてしまいますよ」
と教えています。ここをていねいに指導して、この事実をしっかりと把握さ
せておくことが大切です。また、ねこがねずみを捕らえ、食べるという児童
達の経験の知識を事前に話し合っておくことも必要でしょう。
  最近のねこは、ねずみを捕らえて食うことはあるのでしょうか。都会地
の家屋では、ねずみが住まなくなっており、ペットとして飼われているねこ
が、ねずみを捕らえることも少なくなっているのではないでしょうか。で
も、農山漁村に住んでいる人々は、そこに住んでるねこ達が、田畑の野ねず
み、すずめ、へび、かまきりなどを捕らえて、口にくわえて歩いている姿を
よく目にするということです。
  この物語は、こうです。
  三匹の子ねずみ達は、同級の友達が教室内で熱心に先生の話を聞いてい
るというのに、三匹だけはみんなと離れた場所でぺちゃくちゃと長いおしゃ
べりに夢中です。同級生は勉強が終わって教室から立ち去ってしまっている
のに、それにも気がついていないほど、三匹はおしゃべりに夢中です。
  同級生がいなくなり、三匹の子ねずみ達がやっとおしゃべりを止めて、
桃をとりに行こうと立ち上がりました。ちょっとだけ歩き出したところへ、
大きなねこが「ニャーゴ」と言って出てきます。ねこは両手を広げてねずみ
達に通せんぼをします。
  三匹の子ねずみ達は、逃げることをしません。ねこが怖ろしい天敵であ
るということを知りません。桃をとりに行こうとしている丁度よいところに
来てくれた遊び友達としか考えていません。「ニャーゴ」は自分達への親し
みのこもった挨拶言葉だとしか理解していません。
  大きなねこは、三匹のねずみ達を、チャンスがあったら、「捕らえて、
食べてやろう」とねらっています。そのチャンスを早く作って、ひっ捕らえ
てやろう、食ってやろう、と虎視眈々とねらっています。ところが、三匹の
子ねずみ達は、「よい遊び相手が来てくれた」と喜び、一緒に桃をとりに行
こうよ、そして一緒に遊ぼうよ、と大歓迎の応対をします。大きなねこは、
当てが外れてしまいます。まごついています。不意をつかれて、うろたえあ
わててしまいます。突然の予期せぬ事態にうろたえ、あわて、とまどってし
まいます。
  これら二組の考え方のズレがこの物語のおもしくさせています。二組
の認識のズレがこの物語をおもしろくさせているしかけ(装置)になってい
ると言えます。
  読者は、三匹の子ねずみ達は、いつ捕らえられ、食べられてしまうのか
と、はらはらどきどきしながら読み進めます。どぎまぎしながら、いつだろ
うとはらはらしながら読み進めます。しかし、三匹の子ねずみ達は、大きな
ねこが虎視眈々と狙っている気持ちにはいっこうに無頓着です、無防備で
す。
子ねずみ達は、ねこが恐怖の対象だということを知りません。自分達のよい
遊び相手のお友だちだとしかみていません。子ねずみ達は、大きなねことす
ぐ打ち解けて、子どもらしいかわいらしさと無邪気さで、何の屈託もなく無
防備に大きなねこと応対しはじめます。
  結局は、ねこは、そうした三匹の子ねずみ達の応対の仕方に「ねずみ達
を、襲ってやろう。ひっ捕まえてやろう。食ってやろう」というチャンスを
見出すことができなくなってしまいます。チャンスをなくし、戦意を失って
しまいます。すごすごと三匹の子ねずみ達と別れてしまう結果となります。
読者は、これまではらはらどきどきさせられておったのですが、ここにき
て、何事もない結果となり、ほっとさせられます。


           
音声表現のしかた


  物語「ニャーゴ」にある会話文は、演劇の台本にある台詞のように生き
生きした言葉で書かれています。話す言葉に現実感、迫真感があります。人
物の気持ちがよく出ている会話表現になっています。ですから、会話文の役
割音読を主な活動にしながら、この物語を楽しく学習させていったらどうで
しょう。
  それぞれの人物のお面などをつけて会話文を語らせると、会話文にリア
ル感が増してくるでしょう。ねずみ、ねこのお面作りをしましょう。お面を
顔面いっぱいにぴたりとはりつけると文字が見えません。ひたいや頭部にあ
てがうぐらいで、両目は隠れないようにします。
  初めに会話文を語る役の児童、地の文を語るナレーター役の児童を決め
ます。ナレーター役は、一名の児童でもよいですし、学級全員でもよいで
す。
  初めは、全員が席に着いたままで役割音読をします。次に、劇の立ち稽
古みたいに場所を作って動作化をします。会話文を語る役の児童は席を立ち
ます。その場面(舞台)を設定して、ちょっとした動作(劇化)をしなが
ら、台詞を言うようにさせます。簡単な身振りをちょっとだけ入れさせると
よいでしょう。
  場面ごとに、初めは着席したままでの役割音読をします。役割音読に慣
れてきたら、少しばかりの劇化をして楽しみましょう。
  この物語を、私は四つの場面分けにしてみました。もっと小さい場面分
けもできます。教師の指導意図や学級児童の実態によっていろいろあってよ
いでしょう。下記を参考に、皆さんの学級の実態に合わせて、いろいろな
ヴァリエーションを工夫して、楽しい音読劇の授業をしてみましょう。


             
第一場面

文章範囲
教師    「いいですか、これがねこです。この顔………食べられてしま
       いますよ。」から、
ナレーター 「子ねずみたちは、先生の話をいっしょうけんめい………お
       しゃべりしている子ねずみが三びきいますよ。」まで。

指導のアウトライン
  初めに全員が着席したままで、音読個所の役割を割り当てて分担読み
(役割音読)をします。
  次に教科書の挿絵のような場面を作って、先生ねずみ一名、熱心に聴い
ている子ねずみ数名、外れねずみ三名を場所に配置します。先生役とナレー
ター役とが語ります。

先生役のしゃべり方
  全文が三文です。三分の区切りでたっぷりと間をあけます。「いいです
か」の「か」を強めに言う。「ねこです」を「ね・こ・です」のようにゆっ
くりと区切って言って強調する。「にげなさい」や「食べられて」も強めに
言って強調する。
ナレーター役の語り方
  以下の地の文は、会話文にして語ってもよいでしょう。聴衆の方を向い
て、聴衆に語って聞かせているように語ります。「でも、あれーー。先生の
話を、ちっとも(大げさに言う)、聞かずに、おしゃべりしている子が、さ
んびき(「さん」を強めに言う)、いますよーー。」


             
第二場面


文章範囲
ナレーター 「しばらくして、三びきが」から、
ナレーター 「ねこが、手をふり上げて立っていました。」まで。

指導のアウトライン
  会話文の話し手はこうします。
子ねずみ1 「あれれ、だれもいないよ。」
子ねずみ2 「それじゃあ、ぼくたちは、ももをとりに行こうか。」
子ねずみ3 「うん、行こう 行こう。」
大きなねこ 「ニャーゴ。」
  この場面のねこの絵(お面)は、「ひげをぴんとさせた大きなねこ」で
す。そんなつもりでお面をつくるとよいでしょう。ねこの飛び出し方の動作
は、突然に三匹のねずみの前に両手を上げて、前に立ちふさぐように、通せ
んぼをするようにするとよいでしょう。「ニャーゴ」は大声で、恐そうに言
うとよいでしょう。

しゃべり方・語り方
  三匹のねずみ達の会話文は、三匹が顔を合わせて、やりとりしている感
じの話し方にします。
  ナレーター「手をふりあげて立っていました」は、やや声調を強めに強
調して言うとよいでしょう。


             
第三場面

文章範囲
ナレーター 「三びきは、かたまってひそひそ声で話しはじめました」から
ナレーター 「ももの木の方へ走っていきました。」まで。

指導のアウトライン
  初めは、着席したままで、役割音読をする。役割音読に慣れてきたら、
動作を入れた劇化をする。

  動作化では、次の会話文は三匹のねずみ達がかたまって、顔を合わせつ
つ、ひそひそ声で、そっと話してます。
子ねずみ1 「びっくりしたね。」
子ねずみ2 「このおじさん、だあーーれ。」
子ねずみ3 「きゅうに、出てきてニャーゴだって。」

上の続きの演出メモです。
三匹一緒に 「おじさん、だあーーれ。」(三匹は今まで丸くなって顔を寄
       せ合ってひろひそ話をしていたが、猫に向きを変えて、声を
       そろえ、大声で言う)
大きなねこ (予期せぬ事態に平静さを失って)ねこは、ちょっと胸を両手
       で押さえる動作、うろたえまごつく動作をする。
三匹一緒に 「おじさん、だあーーーれ。」(声をそろえて、元気よく、大
       声で言う。前の同じ台詞より更に大声で言う)
ねこ    「だれって、だれって………たまだ。」(……個所はどう読む
       か、児童に話し合わせてみよう。考えている間、言いそびれ
       てる間、どう話そうかためらってる間、どぎまぎしている
       間、です。ぼそぼそと、小さく、とぎれとぎれに言うとよい
       でしょう。)
子ねずみ1 「そうか、たまか。ふーーん。」(ここは、三匹一緒に同時に
       言ってもよい)
子ねずみ2 「たまおじさん、ここで、なにしてるの。」(質問音調で言
       う)
大きなねこ 「なにってーー、べつにーーー。」(口をとがらせて、ぼそぼ
       そと答えて言う)
子ねずみ3 「じゃあー、ぼくたちといっしょに、おいしいももをとりに行
       かないーー」(誘いかけて言う)
大きなねこ ねこは、今まで三匹のねずみに向かって話していたが、今度は
      ねこのひとり言ですから、
      今度は観客の方を向いて、つまり三匹の子ねずみに背中を向け
      て、観客に聞かせるようにぼそぼその独り言にして語ります。
      いじわるそうな、人の悪そうな語り声で言う。
     (おいしいももか。うん、うん。その後で、この三匹を。ひひ
      ひ。きょうは、なんて、ついてるんだ。)

  次は、ねこが三匹のねずみを背中にのせる動作はできません。ここはナ
レーターの語りで運びます。「ねこは、子ねずみたちをせなかへのせると、
ももの木の方へ走っていきました。」と。
  次の会話文は、ナレーターの語りでは省略したほうよい地の文です。動
作を連続させていくだけで、ナレーターは語りません。
「ねこはどきっとしました。そこで、子ねずみはもう一ど」
「と、元気よく聞きました」
「ねこは、言ってしまってから、少し顔を赤くしました。」
「ねこは、口をとがらせてこたえました」
「それを聞いて、ねこは思いました」


             
第四場面

文章範囲
ナレーター 「三びきの子ねずみとねこは、ももを食べはじめました」から
ナレーター 「ももを食べながら思いました」まで。

指導のアウトライン
  ここの文章個所は短いですから、第三場面に含めて同時にやってもよい
が、ここでは一応区分けをしています。ねことねずみ達が桃を食べている場
面です。
  三匹の子ねずみ達が、ひとかたまりになって、うまそうに桃を食べてい
ます。そうした動作をします。一方、ねこは少し離れた場所で桃を食べるの
を一時止めて、観客に向かってひとり言を語ります。「うまい。でも、たく
さん食べたらいけないぞ。おなかいっぱいになったら、こいつらが食べられ
なくなるからな。ひひひひ。」と。
  たった、これだけです。

             
第五場面

指導のアウトライン
  次に第五場面の台本と、その演出メモを書きます。
ナレーター 「ももを食べ終わると、三びきの子ねずみとねこは、のこった
       ももをもって、帰っていきました。そして、あと少しのとこ
       ろまで来たときです。ねこは、ぴたっと止まって」
ねこ    「ニャーゴ」(できるだけ怖い顔して叫ぶ)(つづけて直ぐ、
       次のナレーターが言う)

ナレーター 「おまえたちを、食ってやるーーー。」と言おうとした、その
       ときです。(「おまえたちを食ってやる」よりも「そのとき
       です」の方が大声で、強く、速めに読む。)
子ねずみ1 「ニャーゴ」(できるだけの大声で、叫んで言う。)
子ねずみ2 「ニャーゴ」(できるだけの大声で、叫んで言う。)
子ねずみ3 「ニャーゴ」(できるだけの大声で、叫んで言う。)
子ねずみ1 「へへへ、(たまおじさんと、はじめて会ったとき、おじさ
       ん、ニャーゴって言ったよね。)(あのとき、おじさん、
      「こんにちは」って言ったんでしょう。)(そして、いまが
      「さよならーー」なんでしょ。)」
      (「へへへ」は、あまりに大声を三人が立て続けに言って、ご
       めんね。という気持ちで、謝る気持ちで軽く言うぐらいでよ
       い。子ねずみ1の会話文は、全文が三文なので、かっこのよ
       うに三つに区切って、そこを間をあけて話すとよく分かるし
       ゃべり方になるでしょう。)

子ねずみ1 「おじさん、はい、これ、おみやげ」(桃を一個、ねこに手渡
       す動作をする) 
子ねずみ2 「みんな、一つずつだよ。ぼくは、弟のおみやげ」(自分の分
       を一個手に持って、それをみんなに見せる)
子ねずみ3 「ぼくは、妹に」(自分の分を一個手に持って、それを見せ
       る)
子ねずみ1 「ぼくは、弟に。たまおじさんは、弟か、妹、いるの」(質問
       口調で尋ねて言う)
大きなねこ 「おれのうちには、子どもがいる」(小さい声で言う)
子ねずみ2 「へえーー、なんびきーー」(質問口調で言う)
大きなねこ 「四ひきだ」(はっきりと答える)
子ねずみ3 「四ひきもいるなら、一つじゃ足りないよね。ぼくのあげる
       よ」
子ねずみ1 「ぼくのも、あげるよ」
子ねずみ2 「ぼくの、ももも」
大きなねこ 「ううんーーー」(軽く「うーーーーん」と小さく言う、た
       め息をついてるように言う)
ナレーター 「ねこは、大きなためいきを一つ、つきました。ねこは、もも
       をかかえて歩きだしました。子ねずみたちが、手をふりなが
       らさけんでいます。」
子ねずみ1 「おじさーーん、また、行こうねーーー」
子ねずみ2 「やくそくだよーーーー」
子ねずみ3 「きっとだよーーー」
大きなねこ 「ニャーゴ」(ねこは桃を抱えた動作をしながら、ねこは振り
       返って、小さな声で返事をしている) 
   

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