音読授業を創る そのA面とB面と     08・5・16記



「くま1ぴき分はねずみ百ぴき分か」
                 の音読授業をデザインする




●本教材の掲載教科書…………………………………………………学図2下

          
           
        
作者(かんざわとしこ)について


  神沢利子(かんざわとしこ)。本名:古河トシ。1924年、福岡県戸
畑市に生まれる。炭鉱技師の父の転勤に伴い、北海道と樺太で幼少期を過ご
す。文化学院文学部を卒業。佐藤春夫に師事して、詩・童話を学ぶ。詩作を
経て、昭和30年ごろから童話、童謡を書き始める。「ちびっこカムのぼう
けん」は空想物語の傑作といわれ、冒険と夢に満ちた新しい世界をひらく。
詩、絵本、幼年童話、長編小説と作品の幅は広く、子どもの心をぴたりとと
らえたストーリーには定評がある。日本文芸家協会会員。
「あかいくつ」「あしたのあかいうま」「こぶたのプウタ」「これなあに」
「チコとゆきのあひる」「くまの子ウーフの絵本」「うりこひめ」など。
「くま1ぴき分はねずみ百ぴき分か」の出典は、「くまの子ウーフ」(ポプ
ラ社、1996年)より。


             
教材分析


くまの子のウーフの家の井戸は、モーターでくみ上げる井戸です。他の動物
達の井戸は、小さな井戸で晴天がつづくと、すぐ枯れてしまう井戸のようで
す。晴天が続きました。ミミちゃんの家の井戸だけは、まだ枯れていませ
ん。ウーフの家の井戸は、モーターがこわれて、今は使えません。
ここからウーフにとっては、嫌な事件が起こります。ツネタ一家のエピソー
ドは、晴天が続いて水不足が川にまで及んでいる事実を知らせています。
ミミちゃんの家にウーフが水をもらいに行くと、小さな動物達の先客がい
て、かれらから「こまるよ。そんなに大きなバケツじゃ。ぼくらのバケツの
百倍分だよ。ミミちゃんちの井戸は小さいから、ぼくらの分の水がなくなる
よ。くまさんは、いちご、くり、かきがなったって、くま一匹で、ぼくらの
百倍分食べちまうんだから」と非難の言葉を受けます。

ウーフは、りすとねずみから非難を受けて、家に帰ります。そして
「ぼく、ねずみにもりすにも、水がほしいと言ったら、あげるよ。でもね、
きみ一ぴきでかたつむり百ぴき分だなんて、言わないぞ。」と語っていま
す。切れのいい、パンチの効いた、すごい言葉ですね。ねずみとりすの前で
言ってほしかった言葉ですね。
何を基準にして、何と比べるかによって、全然違ってくるんですから。
かたつむりやかにを基準に、りすやねずみと比べたら、どうでしょう。
りすやねずみを基準にして、やぎやきつねと比べたら、どうでしょう。
やぎやきつねを基準にして、くまと比べたら、どうでしょう。
くまを基準にして、ぞうと比べたら、どうでしょう。

学級児童の、事件への感想意見を出させるのによい物語です。批判的思考を
出させるのによい物語です。ツネタのお父さんへ、ツネタと弟たちへ、
りすやねずみ達へ、学級児童たちの感想意見を出させてみましょう。

事件の解決は、この物語の最後部にあるウーフと、ウーフのお父さんとの対
話の場面にあると言えます。
お父さんは、ウーフに「この村のみんなで話し合って晴天が続いても水の心
配がなくなるように貯水池を作ることになった。これからその相談に行くと
ころだ。」と語ります。ここから後の部分の本文を抜き出してみよう。

(1)「どこにつくるの。ねえ、それ、みんなで作るの。おとうさんもはた
    らくの。」
(2)「そうだよ。」
(3)「おとうさんは力もちだからな、ウーフ。」
(4)「ねずみ百ぴき分よりも!」
(5)「くまは百ぴき分食べるから、百ぴき分はたらけばいいんだ。そうだ
   ね、とうさん。」
(6)「いいんだよ。ねずみは、ねずみ一ぴき分、きつねはきつね一ぴき
   分、はたらくのさ。だれの何びき分なんかじゃないんだよ。おと
   うさんはくまだから、くまの一ぴき分。ウーフなら、くまの子の
   一ぴき分さ。みんなが一ぴき分、しっかりはたらけばいいんだ。
   や、にじがむこうの上までかかったよ。」

(6)の冒頭「いいんだよ」は、どういう意味でしょうか。(5)で、ウーフ
が父に「そうだね、おとうさん」と念押しのような質問をしています。それ
で父は(6)で、それに答えています。
(6)の「いいんだよ」は、「そうだよ」という肯定の意味でしょうか。
「そうじゃないんだよ」という否定の意味でしょうか。
もちろん、否定の意味です。「くまは百ぴき分食べるから、百ぴき分はたら
けばいいんだ、そうじゃないんだよ。」という意味です。そんなことを考え
なくとも「いいんだよ」、そんなことはどうでも「いいことなんだよ」、と
いう意味です。つまり、「だれの何びき分なんかじゃないんだよ」という意
味です。
このへん、はっきりと押さえて指導しなければ、物語の前部のある「りす」
や「ねずみ」の強引で我儘な考え方に引っぱられ、引きずられてしまうこと
になり、この物語の重要な部分を見落としてしまうことになります。

(6)の父の会話文は、この物語の重要な部分ですから、上手な音声表現を
させたいものです。物語「モチモチの木」の最後にあった、じさまの言葉
「人間、やさしささえあれば……」と同じですね。

まず、区切りをはっきりさせて読むようにさせましょう。

(いいんだよ)●(ねずみは、ねずみ、一ぴき分)●(きつねは、きつね、
一ぴき分)○(はたらくのさ)●(だれの、何びき分なんかじゃ、ないんだ
よ。)●(おとうさんはくまだから、くまの、一ぴき分)●(ウーフなら、
くまの子の、一ぴき分さ)●(みんなが、一ぴき分)○(しっかり、はたら
けば、いいんだ。)●(や、にじが、むこうの上まで、かかったよ)

全体を、意味内容の区切りでしっかり間をあけて、一つ一つの言葉をかんで
含めるように、念押ししているようにゆっくりと押さえて読み進めましょ
う。
(   )の中は、意味内容のつながりを、ひとつながりにして読みます。
●のしるしは、ここで、たっぷりと間をあけます。ここで意味内容を一度、
ちょん切ります。
○のしるしは、ここで、意味内容を断止させないで、次へつながる音調にし
つつも、軽く間をあけて読みすすめます。
読点(てん)の個所は、ほんの軽くだが、きちんと間をあけて読みます。

次は、更にメリハリをつけて音声表現するために語句を強めに読んで強調す
る個所を太字にしています。強調のために、音をのばす・ひきずる個所を
「ー」や「ーー」のしるしをつけています。
これらは、一つの参考で、これと同じに音声表現しましょうなんてことは、
とんでもありません。感じをつかんでいただければと思い、書いています。
わたしだって、読むたびに、その時の調子で違ってくることがあるのですか
ら。

いいーーんだよー)●(ねずみは、ねずみ、っぴき分)●(きつねは、
きつね、っぴき分)○(はたらくのさ)●(れの、何びき分なんか
じゃー、ないんだよーー。)●(おとうさんはくまだから、くまの、っぴ
き分)●(ウーフなら、くまの子のっぴき分さ)●(ーーんなが、
ーっぴき分)○(っかり、はたらけば、いいーんだ。)●(、にじ
が、むこうの上まで、かかったよ)

この物語の最後尾の文章には「にじも、にじ一本分、いっしょうけんめいか
かっているように見えました。」と書いてあります。虹は、虹なりに、自分
の本分(仕事)を十分にまっとうして(完全に果たして)輝いている、とい
うことでしょうか。

           
音声表現のしかた


いろいろな音読の指導方法が考えられるでしょう。本稿では、この物語は会
話文が多いですから場面ごとの役割音読(分担読み)の音声表現指導につい
て書くことにします。
それぞれの人物は、簡単にでよいですから、お面を作ってかぶると、演者に
も観客にも分かりやすいでしょう。動作(身振り・動き・行動)が出来ると
ころは動作を、顔の表情が出来るところは表情をつけながら台詞を語るとよ
いでしょう。

本稿では、七つの場面に区分けして、音声表現のしかたを記述しています。
指導計画の全体時数もありましょう。これら七つの場面を全部指導するとい
うことではありません。幾つかの場面を選択して指導して下さってよいので
す。また、台本も、これと同じでなくても、ちっともかまいません。参考台
本として扱ってください。


☆指導目標
 
 会話文を、場面の様子を浮かべ、人物の気持ちになって音声表現できる。

(「人物の気持ちはどうですか。人物になって気持ちを言ってみよう。人物
の気持ちを、ひとり言にして、ノートに書き出してみよう。」という発問も
いいですが、それよりか、人物になって会話文を音声表現するほうが、ずっ
とらくに人物の気持ちに入り込むことができ、しかも、身体に響かせ感情ぐ
るみで深く人物の気持ちが理解でき、そして楽しんで物語を読みすすめる学
習ができます。)


☆冒頭の状況説明の場面☆

グループでの交代読みをします。学級全員を四グループを作ったとすると、
文章全体を八個のピースに区切ります。グループ分けを幾つにするかによっ
て、文章のピース分けは違ってきます。
ゆっくりと、はぎれよい声で、響く声で、読みます。他人に合わせようとす
ることに気を使わなくてもいいです。文章の意味内容を外へ押し出そうと意
識して、自分の思いや調子を押し出して読むようにさせます。
本稿では、四つのグループ分けですから、次のようにしました。

(1)グループ  お天気が……
(2)グループ  いく日も雨が……
(3)グループ  小さな井戸は、……
(4)グループ  けれど、ウーフの家では……
(1)グループ  ウーフの家に、……
(2)グループ  水も草も……
(3)グループ  つぼみのまま、……
(4)グループ  林の木のはは、……


☆ウーフが、かたつむり、かにと出会った場面☆

配役を決めて役割音読をします。人物の心理説明の地の文は除去して読みま
す。ストーリーの流れの地の文はナレーターの読みとします。登場人物は、
ところによって軽い身振り・動作や顔の表情を入れると、状況にはまること
ができるので、より上手な音声表現になるでしょう。

ナレーター「ウーフがやぶに行くと、やぶの小えだに、かたつむりがひから
      びていました。」
ウーフ  「かたつむり、角出してごらん。」
     (かたつむりを覗てる動作をする。やさしい声で、
            かわいらしく呼びかける。話しかける)
かたつむり「からからだ からからだ
      からも 体も からからだ」
      (かすれ声で、弱々しく)
ウーフ  「ねえ、かたつむり、きみ、水がほしいのかい。」
ナレーター「かたつむりは、もう、へんじをしませんでした。」
     (ウーフ、かにがいる場所へ移動する。のぞいて)
ウーフ  「やあ、かに。そんなとこで、何かんがえてるの。」
かに   「こうらが ひびわれる。 こうらが ひびわれる。」
       (かすれた、きしきしした声で、つぶやく)
ウーフ  「水がないからかい。」
       (やさしく尋ねている、質問してる)
ナレーター「かには、もう、へんじをしませんでした。」


☆ウーフがツネタの父さんと出会った場面☆

ナレーター「ウーフは、かたつむりと、かにを、ポケットに入れて、川の方
      へ歩いていきました。」
ツネタの父「おう、どいた、どいた、どいた。」
       (バケツを下げて、駆けて来て、命令口調で、大声で言う)
ウーフ  「あっ、ツネタのおとうさんだ。」
       (目を丸くして言う)
ツネタの父「川は水がないんだ。あそべやしないぜ。さ、早く帰った、帰っ
      た。」
       (ウーフと対面して、みつめながら、言う)
ウーフ  「水がないって、かたつむりや、かににやる水もないの。」
       (たずねて、質問して、言う)
ツネタの父「ああ、ない、ない、ないね。さあ、どいたどいた。」
       (いらいらして、じゃまだ・じゃまだ、という気持ちで
        早口で言う)
ツネタの父「あらよ!」
       (ウーフの肩をちょいと押してから、去っていく)


☆ウーフがツネタ兄弟と出会った場面☆

ナレーター「すると、そのあとから、ねじりはちまきをしたツネタと小さい
      弟たちが、やっぱりバケツを下げてやってきました。」
       (ウーフが一人でいるところへ、ツネタ兄弟が入場する)
ツネタ  「あらよ!(ウーフを見つけて)や、ウーフだな。何しに来
      た。」
ウーフ  「かたつむりとかにを、水のあるところにつれてきたのさ。で
      も、ツネタくんとこ、みんなで魚とってるのかい。(バケツ
      を、のぞきこみながら言う)すごいや。ずいぶんとれるんだ
      ね。」
ツネタ  「へ、川の水がなくなって、魚は手づかみだぜ。町へ売りに行っ
      て、ひともうけするんだ。」
       (自信たっぷりに、じまんして言う)
ウーフ  「そんなら、ぼくもするよ。」
ツネタ  「だめ!、ここのやつは、もうみんな、注文とってあるんだから
      な。この川は、ぼくのなわばりさ。ウーフは帰れよ。」
      (大きな声で、絶対に駄目だ、という気持ちで、強い口調
       で、言う)
ツネタの弟 「ぼくのなわばりさ。ウーフは帰れよ。」
      (口をとがらせて、ツネタの言いぶりの口真似して言う)
ウーフ  「へえ、ずるいの。」
     (ツネタ兄弟が、退場する。一人残ったウーフが独り言口調で、
      考えているように、言葉をつむぎだして、ひとりごとする。)
ウーフ  「ツネタくんのうちでは、水がないからって、ぼくのうちに水も
      らいに来るのにな。ただなんかであげて、そんしちゃうよ。今
      度から、バケツ一ぱい百円にして、もうけようかなあ。」


☆ウーフが家に帰った場面☆

ナレーター「ウーフが家に帰ると、どうでしょう。井戸水をくみあげるモー
      ターがこしょうして、水が出ません。」
お母さん 「おとうさんが、町に、しゅうりやさんをたのみにいったのよ。
      水がないから、ミミちゃんのところから、もらってきてね。」
       (母が、ウーフと向かいあって,言う)
ウーフ  「じゃ、行ってきます。」
    (バケツをもつ動作をしてから母親に、いってくるよ、の片手をあ
     げる。それから、ポケットのなかに目をやりながら語りかける)
     「かたつむりもかにも、もう少しまつんだよ。今、水をもらって
      あげるからね。」


☆ミミの家の井戸の場面☆

(先着の、やぎ、きつねが中位の大きさのバケツをもって並んでいる。次に
ウーフが大きなバケツをもって列の後に並ぶ。その後に小さなバケツをもっ
たりすとねずみが列の後に並ぶ。バケツは絵に描いたものでよい。)
(やぎときつねが水をもらって帰ってしまう。ウーフが井戸の水の出口に
バケツを差し出そうとすると、後ろのりすが不満そうな口調で、言う)
りす  「ウーフくんとこは、水があるんだろ。」
      (不満そうな口調で、言う)
ウーフ 「今、モーターがこしょうで、水がくめないんだよ。」
りす  「こまるよ。そんな大きなバケツじゃ、ミミちゃんの井戸は小さい
     んだもの。ぼくらの分がなくなるよ。」
    (ふくらっつらして、小言のように、ぶつくさと言う。「こまる
     よ」の「こ」、「小さいんだもの」の「ち」をを強めに読んで
     強調する)
ねずみ 「そのバケツは、ぼくらの百倍分だよ。」
     (「百倍」を強めに読んで強調する)
りす  「こまるなあ。くまなんか、いつもそうなんだ。」
      (いばって、言う)
りす  「山にいちごがなったって、かき、くりがなったって、くま一ぴき
     で、ぼくらの百ぴき分食べちまうんだ。」
ねずみ 「ぼくらの百ぴき分!」
     (「そうだ、そうだ、ぼくらの百ぴき分だよ」という気持ち
       で、どなって、応援して、言う)
ウーフ 「いいよ、そんなら、いらないや、かたつむり一ぴき分と、かに一
     ぴき分の水だけもらうよ。」
     (ウーフは、ポケットのかたつむりとかにをバケツに入れて、水
      をたらっとかける動作をする)
ウーフ 「どうもありがとう、さいなら。」
     (と言って、その場から立ち去る)


にじがかかった場面☆

ナレーター 「雨がふりつづいて、五日めに晴れました。」
ウーフ   「あ、にじだ。」
       (畑でウーフ、父がいる。感嘆して、叫ぶ)
ウーフ   「おとーさーーん、にじだよー。」
       (おとうさんがいる方向に向き直って、呼びかける)
お父さん  「やあ、きれいだなあ。」
       (虹を見上げて、ほんとに感嘆した音調で叫ぶ)
お父さん  「おかーさーーん、にじだよ。それから、ぼうしを、とってお
       くれー」
       (お母さんのいる窓を向いて、呼びかけて言う。父は畑から
        去る様子)
ウーフ   「おとーさーーん、どこへ、行くのーー}
       (お父さんの方向を向いて言う)
お父さん  「ミミちゃんのうちで、あつまりがあるんだよ。こんどから、
        水でこまらないように、ちょ水池を作ろうって、そうだ
        んするんだよーー。」
ウーフ   「どこに作るのーー。ねえー、それ、みんなで作るのー。おと
       うさんもはたらくのー」
お父さん  「そうだよ。お父さんは力もちだからな、ウーフ。」
ウーフ   「ねずみの百ぴき分よりもーー」
       (大きな声で、さけんで言う。ちょっと間を置いてから)
ウーフ   「くまは、百ぴき分食べるから、百ぴき分、はたらけば、いい
        んだ。そうだよね、おとうさん。」
お父さん  
いいーーんだよー)●(ねずみは、ねずみ、っぴき分)●(きつねは、
きつね、っぴき分)○(はたらくのさー)●(れの、何びき分なんか
じゃー、ないんだよーー。)●(おとうさんはくまだから、くまの、っぴ
き分)●(ウーフなら、くまの子の、いっぴき分さ)●(みーーんなが、
っぴき分)○(っかり、はたらけば、いいーんだ。)

≪これまでは、お父さんはウーフに向かってはなしていたのだが、ここで
ウーフに背中を向け、虹の方へ向き直って、続けて、次の言葉を言う≫
、にじが、むこうの上まで、かかったよー)

ウーフ   「林から出て、山の上まで、まるで、たいこばしみたい
        だーー」
お母さん  「んとにー、ひさしぶりのー、にじねえ。」


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