音読授業を創る そのA面とB面と         08・7・7記




「名前を見てちょうだい」の音読授業デザイン




●「名前を見てちょうだい」(あまんきみこ)の掲載教科書………東書2下

          
           
        
作者(あまんきみこ)について


  本名:阿満紀美子(あまんきみこ)。1931年、旧満州国の撫順市に生ま
れる。新京、大連に移り住む。大阪府立桜塚高校を卒業。日本女子大学(通
信)家政学部児童学科卒業後、坪田譲治主宰「びわの実学校」に「くましん
し」を投稿し、同人となる。新日本童話教室第一期生。日本児童文学者協会
員。数多くのファンタジックな、人間性あふれる童話や絵本を書き続けてい
る。日本文学者協会新人賞、旺文社児童文学賞などを受賞。
  「あかいくつ」「あかいはながさいたよ」「えっちゃんの森」「えっ
ちゃんとふうせんばたけ」「かえりみち」「おっこちゃんとタンタンうさ
ぎ」「車のいろは空のいろ」「すずかけ写真館」「七つのぽけっと」など。


         
読書へいざなう読解指導を


  本教材は、読解教材であると同時に読書教材ともなっています。教科書
に書いてある単元のねらいが二つ書いてあります。
(1)出てくる「人ぶつ」が、どんなことをしたかに気をつけて読みましょ
   う。
(2)いろいろなお話を読んで、「読書ゆうびん」を書きましょう。

  ですから、この教材の単元目標は、「名前を見てちょうだい」を読ん
で、(1)「登場人物がどんな順序で、どんなことをしたかを順番に読みと
ること」と、(2)「読書ゆうびん」で自分が読んだ本の紹介文を友だちに
書いて渡すこと」、この二つにあると考えられます。
  そして(1)と(2)とはばらばらであってはならず、(1)の文章内容
を読みとる学習と同時に(2)の目標も達成する必要があります。「登場人
物がどんな順序で、どんなことをしたかを読みとること」の指導において
も、子ども達が「本を読むことが楽しいなあ、本っておもしろいなあ、ほか
の本もたくさん読みたくなったなあ」という思い・感想、そうした動機づけ
ができたら成功といえるでしょう。つまり、「名前を見てちょうだい」の読
解指導にも、読書へ誘う楽しい指導をしていくことが大切なのです。
  それには、教師からの一方的な質問攻めのような読解授業をしていって
はいけません。
 「その時の、えっちゃんの気持ちは?」「なぜ、ぼうしをぎゅっとかぶっ
たの?」「強い風とは、どんな風のこと?」「牛さんは、なぜすまして答え
たの?」「えっちゃんの体から、なぜ湯気が出てきたの?」というような教
師からの一方的な発問に導かれた話し合い読解授業では、子どもが読書へ興
味を示すような授業にはならないでしょう。

  では、どうすればよいか。簡単な劇化を利用した授業をすると子ども達
は興味を示すのではないでしょうか。それぞれの場面を作って、配役を決
め、簡単な動作化や会話文を台詞として語らせる、そうした子どもの身体を
動かしながら読解授業をしていくのです。子ども達が、えっちゃんになった
り、きつねさんになったり、牛さんになったりしながら、それら人物に同化
して簡単な動作・身振りをさせます。また、会話文は役割音読をして、学級
児童に役の配役を割り当て、会話文の台詞を対話で語らせます。子ども達
は身体を動かすこと、会話文の分担読みを喜びます。楽しく読書へ導く読解
授業ができるのではないでしょうか。物語を読むことが楽しいなあ、他の物
語を読もうとする動機づけ指導のなるのではないでしょうか。
  子ども達がこの物語に読みなれてきたら、一問一答の話し合い学習はし
ません。すぐに簡単な動作化や役割音読に入ります。その場面がどんな場面
かを、先に、はっきりさせておく必要があります。まず、この物語の場面分
けの学習作業をします。大きく分けると、四つの場面になります。各場面が
どんな場面か、おおざっぱな話し合いをします。次に各場面の名づけをしま
す。各場面の名称(名前付け)は学級によっていろいろであってよいでしょ
う。第4場面は、更に細分できますが、大きくは四つでしょう。

(1)おかあさんが出てくる場面
(2)きつねが出てくる場面
(3)牛が出てくる場面
(4)大男が出てくる場面

  これら四つの場面には、それぞれに「強い風→えっちゃんの帽子が他の
人物の頭へ→えっちゃんの「わたしの帽子よ」の問いかけ→他人物の返答」
という、それぞれの四つの場面にこれらが繰り返してある物語構成になって
います。児童の物語には、こうした繰り返しのある内容構成になっている物
語が多くあります。繰り返し構成は、児童の物語たらしめている特徴(装
置、しかけ)の一つと言えましょう。

  次に、ごく簡単な動作化や役割音読を取り入れた授業例を書いてみるこ
とにします。みなさんの学級では以下を参考に、いろいろなヴァリエーショ
ンを考案して楽しい劇化活動の授業をしてみてください。準備として、赤い
帽子が2個あるといいですね。各場面に登場する人物を数名を決め、児童に
配役をします。他の多くの児童は、ナ
レーター役となります。(ナレーター役は、1名でもいいです。)役を次々
と変えて、できるだけ多くの児童に体験させるとよいでしょう。

第一場面では、教室前面に、えっちゃん役1名、おかあさん役1名を登場さ
せます。


      
第一場面「おかあさんが出てくる場面」

 
  準備として、赤い帽子が2個あるといいですね。各場面に登場する人物
を2名(「えっちゃん」「おかあさん」)を決めます。他の児童は、ナレー
ター役となります。(ナレーター役は、1名でもいいです。)教室前面に、
えっちゃん役1名、おかあさん役1名を登場させます。役を次々と変えて、
多くの児童に体験させるとよいでしょう。
  以下には、「ナレーター」を「ナレ」と、「えっちゃん」を「えっ」
と、「おかあさん役」を「おか」と、略記することにします。

「ナレ」 えっちゃんは、お母さんに赤いすてきなぼうしをもらいました。
    (母からえっちゃんへ赤い帽子を渡す。二人とも、にこにこ顔)
「おか」 うらを見てごらん。
    (えっちゃんは喜びに溢れた顔で帽子を両手で受け取り、帽子の裏
     側をさがして、名前個所を見つけ、名前の文字を一字一字、確か
     めるように、とぎれとぎれに、はっきりした声で読む)
「えっ」 う、め、だ、え、つ、こ。 
「えっ」 うふっ。ありがとう。  (母の顔を見つめて言う)
   (帽子をぎゅっとかぶる。それから母の方を向いて「遊びに行って来
     まーす。」とか「遊びに行ってくるねー。」とかと言って、ス
     キップしながら教室の外・廊下へ出る)


       
第二場面「きつねが出てくる場面」


「ナレ」
 さて、えっちゃんが門を出たとき、強い風がピューピューピュー
     とふいてきて、いきなりぼうしをさらっていきました。

     (「ピューピューピュー」を挿入する)
「えっ」 こらーー、ぼうしーー、まてーー。
     (大声で追いかける。風に吹かれ飛んでいる帽子に目線を当てて
      教室内を少し駆ける。両手(片手)を前方へ差し出していても
      よい)
「ナレ」 えっちゃんは走りだしました。ぼうしは、リボンをひらひらさせ
     ながら、野原の方へとんでいきます。えっちゃんがその野原に走
     っていくと、赤いぼうしをちょこんとかぶったきつねが一ぴき、
     白いすすきをもって、プープーふいていました。

    (きつね、すすきの絵を描いた細長い画用紙を持って、唇をとん
     がらせてプープーと吹いている)
「えっ」 それ、あたしのぼうしよ。
    (「それ」と大声で呼びかけて、帽子を指さしながら言う。「そ
     の帽子、わたしのよ」という気持ちで、強い調子で呼びかけ
     て言う。)
     (えっちゃんの呼びかけが終わると、きつねはすすきを吹くのを
      止め、えっちゃんを振り向く)
「きつ」 ぼくのだよ。
     (すました顔で。ゆっくりと、淡々と、平然と、言う。平気な顔
      して「ぼ、く、の、だ、よ」でもよい)
「えっ」 あたしの名前が書いてあるわ。名前を見てちょうだい。
     (えっちゃん、感情をむき出しにして、きつねをなじってるよう
      に、問い詰めているように、かっかとして、大声で言う)
     (きつねは、帽子をゆっくりとぬぐ。帽子の裏側の名前をさが
      す。名前の個所をえっちゃんに見せながら、落ち着き払って何
      事もないように、ゆっくりと、一字一字を拾って読む。)
      (名前個所を、えっちゃんに見せつけて、言う)
「きつ」 ほうーーら、ぼくの名前だよー。の、は、ら、こ、ん、き、ち。
「えっ」 へんねーーー。 
 (不思議そうに語尾を伸ばして言う)


        
第三場面「牛が出てくる場面」


「ナレ」 えっちゃんがもういちど名前をたしかめようとしたとき、強い風
     が吹いてきて、いきなりぼうしをさらっていきました。

    (分かりやすくするため「ぼうしを」を入れたナレーションする)
「二人」 こらー、まてーー。 (二人とは、えっちゃんときつね)
     (二人が大声で追いかける。風に吹かれている帽子に目線を当て
      て教室内を少し駆ける。両手(片手)を差し出していてもよ
      い。いったん廊下へ駆け出て、「まてーー」と言いながらまた
      教室内へ戻る。すると、二人は、赤い帽子をちょこんとかぶっ
      た牛が、のんびりと空を見上げている姿を目にする)
「えっ」 それ、あたしのよ。  (帽子を指さして言う)
「きつ」 ぼくのだよ。  (帽子を指さして言う)
    (牛、二人の方をを振り向いて、平然と何事もなかったように言
     う)
「うし」 わ、た、し、の、で、す、よ。(ゆっくりと、のんびりと言う)
「二人」  名前を見てちょうだい。
    (二人は、声をそろえて大声で、自信たっぷりに、強い調子で、呼
     びかけて、言う)
     (牛は、余り気がむかなそうな素振りで、帽子をぬいで、帽子の
      裏にある名前を探し、二人に名前個所を示しつつ、一字一字を
      拾って、ゆっくりと、たしかめつつ、読みあげる)
「うし」 ほーら、わたしの名前だよ。は、た、な、か、も、う、こ。
「二人」 へんねーー。
(二人、顔を見合わせてから、声をそろ
                 えて、不思議そうに言う)


        
第四場面「大男が出てくる場面」


「ナレ」 えっちゃんときつねが顔を見合わせたとき、強い風がピュー
     ピューピューとふいてきて、またまた、ぼうしをさらっていきま
     した。
「三人」 こらーー、ぼうしーー、まてーー。

     (「三人」とは、えっちゃん、きつね、牛のこと。三人の声は、
      ばらばらでもよい。大声で追いかける。三人の目線は帽子が飛
      んでいる同じ方向にする。前もって帽子の飛んでいく方向を話
      し合って決めておくとよい。三人が帽子を追いかけながらいっ
      たん廊下へでる。つづいて「まてーー」と言いながら再度教室
      に入る。と、三人は大男が赤い帽子を手に持って不思議そうに
      帽子をながめている姿を目にする。)
「えっ」 それ、あたしのよ。
「きつ」 ぼくのだよ。
「うし」 わたしのですよ。
(三人とも、自信たっぷりに大声で言う)
「三人」  (同時に言う) 名前を見てちょうだい。
「ナレ」 すると、大男は、えっちゃんたちをじろりと見下ろしました。そ
     れから、あっという間にぱくん。ぼうしを口の中に入れました。
     そして、すましてこたえました。
「大男」 たべちゃったよーー。だから、なまえも、たべちゃったーー。

    (大男は、平然とした顔付きで、何事もなかったようにすました顔
     付きで言う。言い終わってから、三人をじろりじろりとにらみ
     つけて、口を大きく開けて舌を前に出し、舌を左右にゆっくりと
     唇の上を大きく3回ほど移動させる)
「大男」 もっとーー、なにかーー、たべたいなーーー。
    (大男が怖そうな顔をして、三人をみつめながら言う。「ーー」の
     個所は長く伸ばして、だんだん声を上げていき、怖そうに言う)
「うし」 早く帰らなくちゃ。いそがしくて、いそがしくて。
     (牛さん、少しずつ後へ後退りしながら、小声で・小さな声で言
     う。言い終わると、くるりと後ろ向きになって走って廊下へ走り
     出る。)
「きつ」 早く帰らなくちゃね。いそがしくて、いそがしくて。
     (きつねさん、少しずつ後へ後退りしながら、小声で・小さな声
      で言う。言い終わると、くるりと後ろ向きになって走って廊下
      へ出る。)

【第四場面を、ここの個所で前半と後半とに分割して指導した方がよいと思
 われる。内容量が多すぎるので、2パートに分けた劇化にすると演技しや
 すいでしょう。】

     (えっちゃんは、ひるみません。大男の前へ堂々と進み出て、大
      男の顔を見上げて、大声で、気おくれせずに、はむかって、か
      っかしながら、堂々と、大声で言う) 
「えっ」 あたしは、帰らないわ。だって、あたしのぼうしだもん。
「ナレ」 すると、えっちゃんの体から湯気がもうもうと出てきました。そ
     して、ぐわあんと大きくなりました。
「えっ」 食べるなら、食べなさーーい。あたし、おこっているから、あつ
     いわよーー。
「ナレ」 湯気を立てたえっちゃんの体が、またまた、ぐわーーん、ぐ
     わーーんと大きくなりました。そうして大男とおなじ大きさにな
     ってしまいました。えっちゃんは、たたみのようなてのひらをま
     っすぐにのばして言いました。
学級全員 あたしのぼうしを、かえしなさーーい。

     (えっちゃんの会話文は、なぜ太字にしているかを話し合わせ
      て、どのように音声表現すればよいかを語り合います。ここ
      は、いろいろな音声表現の仕方が出来ます。たとえばの例。
「ナレ」 せーーの、みんなの声をそろえて、えっちゃんの、大きな大きな
     声にして言いましょう・それっ!!。     
学級全員 あたしの、ぼうしを、かえしなさーーい。

    など。また、大男の背の高さ、えっちゃんの背が2段階に高くなる
    などは、児童机二つ並べて、その上の椅子を置いてのるとか、大男
    が急にすぼんで姿が消える場面は、大男役の児童がバタンと倒れて
    すぐに身を隠す場所を作っておくとか、学級・学校の準備用具のあ
    るなしで工夫が必要でしょう)
    (大男が隠れたあとに、赤い帽子だけがぽつんと残っている。それ
     をえっちゃんの視線が目にする。えっちゃんが、指さしをしてか
     ら、言う)
「えっ」 あっ、あたしの、ぼうし。   (驚いた声で、言う)
    (えっちゃん、帽子を拾い上げ、帽子を裏返して、名前を探す動作
     をする。名前を見つけて、読み、自分のものであることを確認す
     る、ちょっと間をおいてから)
「えっ」 う、め、だ、え、つ、こ。
     (胸に手をあて、ほっとして、胸をなでおろす動作をする)
「えっ」 ああーー、よかたーー。
「ナレ」 ぼうしを頭にのせると、あらら、えっちゃんは、元の大きさに
     なっていました。それから、えっちゃんは、あっこちゃんのうち
     にあそびに行きました。



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