音読授業を創る  そのA面とB面と        04・4・8記

  


 
「ふきのとう」の音読授業をデザインする




●「ふきのとう」(工藤直子)の掲載教科書………………光村2上



           
五つの場面に分ける


  二年生になって最初の国語教材です。(1)大きな声で、(2)すがす
がしい声で、(3)はぎれよい声で、読ませましょう。この三つが二年生に
なっての最初の音読指導の目標です。
  「ふきのとう」には、朝(夜明け)の場面、地面(地上)の場面、空
(お日さま)の場面、春風にゆれる場面、すっかり春の場面、全部で五つの
場面があります。
  グループごとに音読練習をさせましょう。一学級40人なら、学級全
員、一人一人に教師が音読指導をしていたら時間がたりません。五つの場面
に分けて、1グループは1場面を選択して受け持ち、グループごとに練習させ
ます。グループ内で、会話文を読む子、地の文を読む子と分けてもよいで
しょう。グループ内で共同助言をして、よりよい音読ができるようにがんば
らせます。
  各グループごと音読発表で、教師が評価目標を示し、それに合格した
ら、そのグループには別の場面の音読に挑戦させます。


        
朝(夜明け)の場面の音読指導


  あなたの学級児童には、へんな読み癖はありませんか。よくみられるの
は、文末や句末(文節末)がへんに長く伸ばす読み癖です。なければよいで
すが、ありましたら、これをなくす指導から始めましょう。
  たとえばこうです次のカタカナ文字個所を、力んでへんに長くのばして
跳ね上げる読み方です。
  「よがあけましター。」、「あさノー 光ヲー あびテー」、「竹の
はっぱガー」、「ささやいてイマース。」、「しんとしてイマース。」な
ど。まず、これをなす指導からはじめましょう。のばす必要は全くありませ
ん。短く、しまりよい納め方にします。へんな読み癖は、悪い読み癖です。
折り目正しい読み方を目標に音読させましょう。
  ここは夜明けの場面です。雪におおわれ、ところどころに土がのぞいて
います。冷えきった、とても静かな朝です。できれば、澄んだ声、透明な
声、はぎれよい声、すがすがしい声、そして「ゆっくり」と読ませたいです
ね。二年生児童は全員がこの声の持ち主なはずですから。
  区切りの間に注意させましょう。「(竹やぶの竹の)(はっぱが)」で
はありません。「(竹やぶの)(竹のはっぱが)」です。音読するとき、意
味内容の区切り方に気を使って読むようにさせます。文章の意味内容の区切
りで区切って音読する、これが完全にできたら、音読は八割方できていると
いってもよいぐらいです。
  二つの会話文は竹の葉っぱたちが、夕べは・昨晩は寒かったと、「ささ
やいています。」です。「ささやいて」ですから、二つの会話文は「ささや
き声」です。終助詞「ね」の音声表現の仕方(のばす、あげる、さげる、あ
げてさげる、短く止める)を種々に工夫して実際に試みさせます。教師もい
ろいろやってみせます。児童から発表された種々の音声表現の中からピッタ
リしたものを選択します。その児童の読み声をみんなでまねしたりもしま
す。夕べの寒さを相手に語り、同意を求めている「ね」です。
  このように会話文は文末個所を伸ばしたり上げたり下げたり種々にイン
トネ−ションを変化させると、よりぴったりした音調が得られることに気づ
かせます。会話は、相手に語りかけ、相手を意識して読み、話し手の気持ち
・思いをこめて読むと、よりぴったりした音調が得られることにも気づかせ
ます。
  「しんとしています。」の「しんと」は、「しーーんと」と低く伸ばし
て表現すると静かさの感じが音声に出ることに気づかせます。


        
地面(地上)の場面の音読指導


  ふきのとうが雪の下で頭をもたげ、「よいしょ、よいしょ。おもたい
な。」と「小さな声で」言っています。役割音読をするとしたら、ふきのと
う役児童はしゃがんで、頭に雪の代わりに白い画用紙一枚を頭上にのっけた
形で音声表現させたら、場面のイメージがわき、音声にも情感性が加わるの
ではないでしょうか。
  地の文の区切り方は「(雪の下にあたまをだして、)(雪をどけよう
と、)(ふんばっているようです。)」のようにし、区切り個所では間を
たっぷりとあけ、全体にゆっくりめの読みます。
  「小さなこえ」の「小さな」は、小さく、囁くみたいな声にして「ちー
さな」と読むと感じがでるでしょう。
  「どけようと」、「ふんばって」は、やや語気を強めて強調して読むと
感じがでるでしょう。
  「外が見たいな。」は外が見たいという思い・気持ちをこめて語るよう
にします。「なー」と願望の気持ちをこめて伸ばす音声表現にすると感じが
でるでしょう。
  「ごめんね。」からあとの雪の会話文は、ふきのとうへの「すまない
ね。ごめんね。ゆるしてね。」という思い・気持ちをこめて語るようにしま
す。白い画用紙の、その頭上から、雪が下を向いた謝罪の気持ちで語った
ら、場面の位置関係がよりはっきりして音声にもメリハリが加わるのではな
いでしょうか。「ね」の音声のおき方(イントネ−ション)に工夫させてみ
ましょう。


        
空(お日さま)の場面の音読指導


  この場面を、役割音読するとします。お日さま役の児童は、椅子の上に
立った姿勢で会話文を語ったらどうでしょう。どんな読み調子で語ったらよ
いか、児童達に話し合わせます。大声で、太い声で、ゆっくりと、のんびり
と、おおらかに、強そうに、いばって、元気よく、叫んでなど、児童発表が
あるのではないでしょうか。それぞれを試みさせてみましょう。いちばんよ
いものを選択して、みんなで模倣します。
  春風の「大きなあくび」は、「オーキナ、ア・ク・ビ」のような音調で
表現するのも一つの方法でしょう。「大きなあくび」のあと、地の文の読み
手児童に、大きなあくびの口真似、大きく・のんびりと、一回だけ、両手を
挙げて背伸びさせるのもよいでしょう。動作化はくどすぎないように一回だ
けやらせます。こうした動作化をすと、場面の様子(人物の行動の様子、状
況)が鮮明に浮かび上がり音声に真実味がでます。
  「春風はむねいっぱいにいきをすい、ふうっといきをはきました。」
は、「いきをすい、はく」という動作化すると、くどくなります。イメージ
をいっぱにして音声表現させるのがよいでしょう。「いっぱい」と「ふ
うーーっ」を大げさに音声で表現して、春風の行動の様子読み声で浮かばせ
るようにするとよいでしょう。


           
ゆれる場面の音読指導


  春風に吹かれて、ゆれます、踊ります、とけます、ふんばります。動作
主(動作動詞の主体)は誰でしょう。どんな順序を経過して、ふきのとうは
顔を出したのでしょう。これらのことを、最初に指導しておきます。
  竹やぶが、ゆれる。竹やぶが、おどる。⇒雪が、とける。雪が、水にな
る。⇒ふきのとうが、ふんばる。ふきのとうの背が、伸びる。
  もう一度、まとめて。春風にふかれて⇒竹やぶがゆれて⇒雪がとけて⇒
ふきのとうがふんばって⇒こうした結果、ふきのとうが、もっこりと動く、
背伸びをする。
 
  ここの場面の文章は、「ゆれる ゆれる」のようにリピートを用いるこ
とで、野球場の観客のウエーヴみたいな動きを作る効果を発揮しています。
ここの場面を音声表現するときは、「ゆれる。おどる。とける。」の動きを
音声で作れたらいいですね。うねり・動きを作るためには、音声表現するプ
ロセスで次々と追いかけ、追い込み、たたみかけ、走ってていく読み調子・
リズムで、波の動きを作るとよいでしょう。輪唱のようにずらして次々に読
み進んでいく音読手法も考えられます。
  それと、「ふんばる。せがのびる」は、この語句の読み個所で、力みを
入れ、力をこめて読みます。のびようとがんばっている気持ちをこめて読み
ます。「もっこり」は、ゆっくりと、「もおうっこり」と大げさに、ふん
ばって音声表現するとよいでしょう。
  場面の様子をはっきりさせる指導方法として、途中の経過指導として、
以下のような指導方法もあります。ここの場面の文章の途中に言葉を挿入し
て音読させる方法です。挿入する言葉は、学級児童に考えさせます。

  次は、一つの例です。挿入した文章全体を音読させると、場面の様子が
よりありありと浮かぶはずです。下記を参考に、皆さんの学級の独自の案を
作成して音読させてみてください。挿入文と原文とを比較して、どこがどう
違ってくるかを話し合い、言語感覚をそだてる指導もできます。

 春風に 竹やぶが ヒュ−ッと ふかれて、
 竹やぶが 右に 左に ゆらゆら、 ゆれる、 ゆれる、 おどる 、お
  どる。
 すると、雪が チョロ チョロ とける、 とける、水になる、水にな
  る。
 まってましたと、ふきのとうが ウンーッと ふんばる、ググウーッと 
  せが
 のびる。
 春風に ふうーーっと ふかれて、
 竹やぶが 大きく ゆれて、
 雪が シュル シュル とけて、
 ふきのとうが ウンーッと ふんばって、ググーッと せのびして、
 ふきのとうが もっこり もっこり あたまを出す。

  教師が群読台本を作成して、ここの場面を音声表現させると、「動き」
が音声で表現できるようになります。下記の群読台本は、一例です。みなさ
んの学級児童の声の出方、響きの大きさ、たたみかけ方、音調のあり方など
によって、人数を自由に変更して指導してみましょう。かっこ内は数字は、
読み手児童の人数です。

   春風に(1)、ふかれて(3)、
   竹やぶが(1)、ゆれる(2)、ゆれる(4)、おどる(6)。
   雪が(1)、とける(2)、とける(4)、水になる(6)。
   ふきのとうが(1)、ふんばる(5)、せがのびる(6)。
   ふかれて(1)
   ゆれて(2)、
   とけて(4)、
   ふんばって(6)、
   もっこり(全)。


         
すっかり春の場面の音読指導


  ここの場面も群読にして、喜びを学級全員の声で音声表現してみましょ
う。
二つの群読台本を作成してみました。これも、みなさんの学級の実態に合わ
せて自由に変更を加えて実践してみてください。

    《その1》
      ふきのとうが、かおをだしました。(5)
      「こんにちは。」(学級女子半分)
      「こんにちは。」(学級男子半分)
      「こんにちは。」(残り女子半分)
      「こんにちは。」(残り男子半分)
      もう、すっかり春です。(学級女子全員)
      もう、すっかり春です。(学級男子全員)

   《その2》
     ふきのとうが、かおをだしました。(3)
     (ふきのとう1) 「こんにちは。」(1)
     (ふきのとう2) 「こんにちは。」(1)
     (ふきのとう3) 「こんにちは。」(1)
     (ふきのとう4) 「こんにちは。」(1)
     (ふきのとう5) 「こんにちは。」(1)
     (ふきのとう6) 「こんにちは。」(1)
     もう、すっかり春です。(学級女子全員)
     もう、すっかり春です。(学級男子全員)
     もう、すっかり春です。(学級全員)
(注記)「こんにちは。」は、時間差で、あちこちからバラバラに一回だ
    け言う。一部分、重なりがあってもかまわない。



            
参考資料(1)


「ふきのとう」の作者、工藤直子さんは、次のように書いています。

  小学校二年生の教科書の最初に「ふきのとう」という話がのっている。
かつて箱根の麓の山村にすんでいたころ、実際に見かけた小さなフキノトウ
のことを書いたものだ。
  当時私は、農家の空き地を借りて住んでいた。冬から春に移り変わろう
かというある日、季節はずれのドカ雪が降った。かなり積もったが、春も間
近なので消えるのも早い。しかし竹やぶの中は日陰なので、ところどころま
だらに、雪が溶け残り、夜の冷気と日中に暖気で凍ったり、わずかに溶けた
りを繰り返し、ザラメをまぶした煎餅のようになっていた。
  ある朝、家を出る用があって竹やぶの小道を通り過ぎた。通り過ぎなが
ら、煎餅のようになった残雪のはしっこが持ち上がっているような気がした
ので、なにげなくかがみ込んで雪の下をのぞきこんだ。(おや、こんなとこ
ろにフキノトウが………)
  雪が、そりかえって持ち上がっているのは、この小さなフキノトウのせ
いではないのだが、(まるで外に出たくてヨイショ、ヨイショと雪を持ち上
げているみたいな)と微笑ましかった。
  そんな記憶があったので、春の話を書こうとしたとき(そうだ、あのフ
キノトウをモデルにしよう)と思ったのだ。

  教科書に載ると、担任の先生方や生徒さんたちから、絵入りの感想文な
どが送られてくる。散文詩のような短い話だが、二年生になったばかりの子
どもたちは朗読して、ついでに暗記してしまうらしい。(書いた本人は、暗
記できないのにな)と、小さい子どものスポンジのような吸収力に感服し
た。

  ちょうど夏休み期間だった。講演をする機会があった。講演が終わった
後、質問の時間があった。大人の方が何人か質問された後、「はいっ」と威
勢良く手をあげた男の子がいる。
「はい、なんでしょう?」
「あのう、「ふきのとう」を朗読してくださいっ」
  うーむ。私は困った。手元にその話の載った教科書はない。私は全然暗
記できてない!
  困りながらリクエストにこたえようと、記憶をたどりつつ話はじめた。
「夜が明けました。朝の光をあびて、竹やぶの……」(いかん、もうつかえ
てしまった)
  立ち往生していると、その男の子が壇の下から小さい声で、応援するよ
うにその続きを囁いてくれる。(おや、彼は覚えているのだろうか。四月に
習って今は八月。だいぶ日にちが経っているが。)私は彼に聞いてみた。
「ね。ふきのとう、覚えてる?」
「うん」彼はこっくりとうなずく。
「全部話せる?」彼は又もやうなずいて元気に「うん」
  そこで、男の子に壇上にあがってもらい、私は彼の言うとおりに、あと
について朗読した。
  小さな男の子は、壇上で「きをつけ」をして胸を張り、朗々と声を張り
上げる。よどみがない。彼の声につれて、夏の盛りの会場に、春の情景が現
れる感じである。
  そう。教科書がご縁で、小学生たちと交流する機会が多く、よく朗読を
聞くが、大人の朗読とは違う不思議な味があって、目がうるむことが、よく
ある。彼の朗読もそうだった。聞いているうちに胸がつまった。
  最後の行を彼が終わり、あとについて私がなぞり……朗読は終わった。
男の子の頬は上気して赤らみ、満足そうであった。一瞬の間があり、いきな
り万雷の拍手がわき起こった。なかなかなりやまない。
  恥ずかしそうに壇を下りる男の子を見送りながら、私は(ああ、教科書
に載ったお陰で、こんな交流ができて嬉しいなあ)と、しみじみ思った。
          『日本児童文学』2002、1・2月号より引用


            
参考資料(2)


 わたし(荒木)は、かつて「ふきのとう」の授業実践記録を月刊教育雑誌
『子どもと教育』あゆみ出版、1986年7月号)に書いたことがあり
ます。その一部分を下記に引用します。

発音・語彙的意味の言語感覚を育てる

 《文章個所》
「すまない」と、竹やぶがいいました。(から)「でも、春風がまだこな
い。春風がこないと、おどれない。」と、ざんねんそうです。(まで)、で
言えば。

 《指導事項》
子ども達の音読実態を調べてみると、次のような指導すべき内容がみられ
た。

(1)ラ行の発音が不明瞭な児童がみられる。
  『ゆれて』の『れ』を、「ラに近いレ」で発音する。「おどれば」の
「れ」を、「エに近いレ」で発音する。「おどりたい」の「り」を、「レに
近いリ」で発音する。このような発音をする児童の不明瞭さを指摘し、舌の
位置や動きに留意して発音するように指導した。

(2)鼻濁音が発音できない子がいる。
  「日があたる」の「が」、「春風がこない」の「が」、「見上げます」
の「げ」、これらは息が鼻に抜ける鼻濁音で発音する音です。はれつさせて
だす濁音で発音しはいけない。鼻濁音が正確にでない児童には「ンーガ」
「ンーゲ」と発音させ、のばす音を次第につめていき、しまいに「ンとガ」
「ンとゲ」を一音節にして同時に発音さるようにします。こうすると、鼻か
ら息が出る鼻濁音「が」「げ」になります。

(3)二重母音の発音がよくない子がいる。
  「上を見上げます」の「うえ」が「えを見上げます」みたいな発音にな
る。O母音が脱落して一音化のように曖昧な発音になってしまうのだ。
  また「うえーを見上げます」とか「上をみやーげます」のようによけい
な音が入り込んで、誤って発音して(読んで)しまう児童もいる。
  「春風がこないと」が「春風がこね−と」のように二重母音を長音化し
て、誤って発音して(読んで)しまう児童もいる。正しい発音、誤った発
音、両方を実際の音で示し、その違いを子どもの耳に覚えこませます。両方
を意識して発音させたりして、その正誤を理解させ、実際に練習します。

(4)アクセントに誤りがみられる子がいる。
  「雪に日があたる」を、「雪に火が当たる」のようなアクセントにして
音読する児童がいた。つまり、平板に発音すべき「日」を、高めて発音す
る。教師が両方のアントを発音してみせ、どこが違うか、意味がどう違って
くるかを理解させる。

(5)引用の格助詞「と」を跳ね上げて発音する子が多い。
  会話文に続く「と」を、子ども達はへんに高く跳ね上げて「トオーー」
のように読む悪い癖の児童がいる。《「すまない。」トオーー、竹やぶがい
いました。》のようにである。「と」は、軽く、低く、重要度ゼロにして音
読するぐらいでよい。子どもの「と」の跳ね上げ読み、教師の「と」の落と
し読み、教師が両方を比較して読み聞かせ、どちらがよいかを子供に選択さ
せる。
  「と」は、会話の引用を示す単なるしるしであり、「と」が消えても、
つまり「ト」がなくても、意味が通じる。高く、跳ね上げて、強調しなくて
もよいことを理解させる。


構文意識の言語感覚を育てる

 《文章個所》……… 最後の「ゆれる文章場面」

 《指導事項》
ここの文内構造はこうだ。
春風は(主語、なには)+むねいっぱいに(用言修飾、どのように)+いき
を(補語、なにを)+すい(述語、どうする)、(「春風は」の主語省略)
+ふうっと(用言飾、どのように)+いきを(補語、なにを)+はきました
(述語、どうする)。
  この文は時間的列序の重文で、ここで重要な働きをしている語句は、用
言修飾(むねいっぱい、ふうっと)である。「春風は何をしましたか」「ど
のようにして、何をしましたか」と発問し、二つの述語、二つの修飾語、そ
の係り受けをはっきりさせて板書した。
  次に教師が「この文で、どんな様子が目に浮かんできますか」と発問し
た。「むねいっぱいに+いきをすう」「ふうっと+いきをはく」の係り受け
に注目させ、それを動作化させたり、春風の様子を想像させたりして話し
合った。
  次の場面は、春風が到来し、いっきょに喜びに満ちあふれて竹やぶはゆ
れる、ゆれる。雪はとける、とける。ふきのとうは次々に芽を出す。次の二
つの文を板書し、比較させて話し合わせた。

(1)竹やぶが、ゆれるゆれる、おどる。
(2)竹やぶが、ゆれる。おどる。

(1)雪が、とけるとける、水になる。
(2)雪が、とける。水になる。

  (1)と(2)を比較して話し合わせ、ダイナミックな動きの効果的な
ことば運用のしかたに気づく指導をした。
  教科書本文で考えてみよう。
  同一動詞二個の連続したフレーズ個所は、とけるありさまにスピード感
が出ており、連続した心地よいリズムを作っている。それに連続する同一動
詞の重なりは擬態語化した動作の繰り返し効果を発揮しており、雪と竹やぶ
が一気に喜悦して行動を開始した様子が、効果的に表現されている。一連の
動作の流れゆくさま、ダイナミックな波のウエーヴ、大きく揺れている竹の
様子が目に浮かぶように表現されるようになっている。歓喜している竹やぶ
の顔がドライヴしている走馬灯のような連鎖となって現前化させる効果を発
揮している。
  
  「ふかれて、ゆれて、とけて、−−もっこり」は、主語や補語の省略文
です。省略されている語句(主語、補語、修飾語)をあぶりだす指導によっ
て意味内容が明確になり、イメージが生き生きと浮かぶようになる。
  「(春風に)ふかれて、(竹やぶが)ゆれて、(雪が)とけて、(ふき
のとうが)ふんばって、」ここまでは簡単に児童から発表が出た。「−−
もっこり。」に、次のような発表が出た。
(1)ふきのとうがもっこりかおをだした。
(2)めがもっこりかおをだした。
(3)ふきのとうがもっこりせをのばした。
(4)ふきのとうがもっこり、ぐんとせのびをした。
  これら発表はすべて是認できるでしょう。省略されることで、その分だ
け記述されている語句のコノテーションとしての概念領域が広くなるわけ
だ。    
  日本語の文章表現は、場面や状況によりかかっており、既知の情報は省
略されて書かれないことが一般的だ。それは書き言葉にくらべて、話し言葉
(会話文)に省略多く、話し言葉(会話文)が場面や状況へのよりかかりが
多いことで推察できる。
  日本語には、ある語句が省略されると、省略されない記述部分の語句の
表現効果(訴えかける感化性)が高まるという効果がある。省略文とあぶり
だし文(省略語句を挿入した文)とを児童に比較対照させて、省略表現のレ
トリック効果(特立した感化性、コノテーション性)について指導した。こ
れは、詩的表現のレトリック効果とも通底している。つまり、ここらの文章
個所は散文詩的表現ともいえる。


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