音読授業を創る そのA面とB面と 05・9・7 記 「ぶらんこ」の音読授業をデザインする ●「ぶらんこ」(おかむらたみ)の掲載教科書…………………自主教材。 ぶらんこ おかむら たみ かぜが、 ぶらんこに のって いたら、 花びらが、 「のせて。」って きたので、 いっしょに のりました。 花びらが、 「もう いいわ。」って おりて いったので、 かぜは、 ひとりで のって いました。 作者について 岡村民。1901(明治34)年、長野県生まれ。童謡詩人、童話作家。 日本大学国文科中退。プロレタリア詩人会に所属。東京上高田に「みの る幼稚園」を開設し、幼稚園経営のかたわら、「童話研究」「教育行童話研 究」に童謡を発表する。新日本文学会会員、日本童謡協会会員。 無心で率直な性格から生まれる作品は、平明で人間愛にあふれている。 83歳で亡くなるまで園長を勤め、童謡の創作を続けた。 指導の手順 初めに黙読を3〜5回ぐらいさせます。 次に指名音読をさせます。意味内容の固まりとして区切って読めている かどうかを調べます。聞いている人がどんな詩内容であるかが分かる読み方 でいいのです。ここではずらずら読み・平板読み・字面をおう読みでいいの です。情感豊かな表現よみでなくていいのです。 こうしてから解釈深めの話し合い学習に入ります。 どんな詩内容であるか、イメージとして浮かんできたことを発表させま す。「ぶらんこ」を読んで、分かってきたこと、浮かんできたこと、疑問に 思ったこと、分からないこと、場面の様子、人物の気持ちなどを発表させま す。書いてないことで(行間からイメージしたこと)が発表できたら賞賛し てやります。 ※教師が事前に予想する話し合いの内容 ◎風がブランコに乗っている、とはどんな様子のことですか。ぶらんこが風 に吹かれて揺れている、「まるで風がぶらんこに乗っているみたい」、こ れは直喩ですが、詩本文は隠喩の表現です。 風と花びらが人間たちの日常行為のように描かれています。擬人化されて います。これは擬人化描写であるなどとは、高学年ならともかく低学年で は必要ありません。 ◎花びらとは、何の花びらでしょう。花びらの名前は確定できませんが、 種々に言わせて具体的場面としてイメージさせることは必要です。 ◎誰と誰と一緒にブランコに乗っていたのでしょう。 ◎ここはどこの場所でしょう。確定はできませんが、ブランコのある場所で すから、公共の公園、大きなマンションの中にある遊び場、幼稚園、学校 などが想像できます。 解釈で変わる音声表現 この詩は、解釈の違いで、表現よみの仕方が変わってくることを指導す るのに適している教材です。 ◎ぶらんこは風がビューンビューンと吹いて大きく揺れていると思います か。大きく揺れているとイメージしたら、「かぜが」を強く読み、「の って」を「のうーって」のように大げさにふんばった音声表現で読むとい いでしょう。 風がそよそよと吹いて、ぶらんこが小さく揺れているとイメージしたら、 「かぜが、ぶらんこにのっていたら、」を小さい声で、そっと、淡々とした 音声表現で読むといいでしょう。 ◎何の花びらが遊びに来たと思いますか。つばき、ぼたんなどの大きな花な らば、太い声、どっしりとした声で「のせて」と言ったのかもね。 さくら、うめなどの小さな花ならば、小さく細い声で、かわいらしく「の せて」と言ったのかもね。「のせてー。」「のーせて。」「のーせー てー。」などいろいろやってみましょう。 ◎風と花びら、一緒にぶらんこに乗っています。二人は、今どんな気持ちで しょう。「いっしょにのりました。」の読み声は、暗くですか、明るくで すか。つまらなそうにですか、楽しそうにですか。沈んだ声ですか、笑顔 で嬉しそうな声ですか。つまらなそうな顔の表情で音声表現してみましょ う。笑顔で楽しそうな顔の表情で音声表現してみましょう。どちらがぴっ たりしていますか。 ◎花びらが「もういいわ。」と言ったときの気持ちはどうだったのでしょ う。「もう十分に乗った。すっかり飽きてしまった。もうつまらなくなっ たわ。」という気持ちだったら、「もういいわ。」の音声表現はどうなる でしょう。 「ぶらんこ、楽しいね。上にあがるときの気持ち、なんともいえないよい 気持ちだ。まだまだ、ずうっと風さんと一緒にのっていたい。けど、もう 終わりにしなくちゃ。用事があるので、このへんで我慢してさよならね。 残念だわ。」という気持ちだったら、「もういいわ。」の音声表現はどう なるでしょう。声に出して、両方を、やってみましょう。 ◎風が一人でブランコに乗っているとき、どんな気持ちで乗っていたので しょう。一人になってつまらない、さびしわ、と思っているのでしょう か。一人のほうが楽しい、おもしろいと思っているのでしょうか。 あなたは、どちらだと思いますか。「かぜはひとりでのっていました。」 の音声表現の仕方、前者でやってみましょう。後者でやってみましょう。 こうした指導により、児童たちは、文章の意味内容をどう解釈するか、 その解釈に仕方で種々の音声表現の仕方が変化することを体験することがで きます。文章の音声表現は、字面をずらずらと平板に読むのではないこと、 文章内容を理解し、理解した内容に即して音声として出すのだということ、 音声表現にはさまざまに自由があるということを学習できるといいですね。 ゆっくりと、間をとって この詩は、風と花びらがブランコに乗って遊ぶという題材の奇抜さの個 性的な感覚におもしろさがあります。こうした発想の奇抜さ、対象認識の奇 抜さに子どもたちは自由な世界にたゆたいつつ、音声表現することで、こと ば世界をゆったりとたゆたいつつ楽しむことができます。 この詩は、小さくまとめないで、自分の解釈を、どかーんと、のびのび とした振幅で音声表現するとよいでしょう。遠慮した声でなく、屈託のない 大きな声で、大胆に、大げさぐらいのメリハリで音声表現させましょう。大 げさ過ぎて変に聞こえるようだったら、抑えた音声表現にすればいいので す。抑えた音声表現に戻すことは簡単にできます。小さ過ぎて、大げさに音 声表現できないことがいちばん困ります。 思いをたっぷりとこめて音声表現させましょう。思いをたっぷりとこめ れば、しぜんと「ゆっくりと、間をとって」読むようになります。「間は魔 に通ず」とは芸事すべてに通ずる真理です。間をたっぷりとあけて読むよ うにしましょう。表象が浮かべば、間はひとりでに作られてきます。間をあ けたつもりでも、まだまだ足りないということが表現よみ実践者なら、誰で も、幾度も体験していることです。まさに間は魔物です。 次は間をあけたほうがよいと考えられる個所です。 かぜが(間)、ぶらんこにのっていたら(間)、 花びらが「のせて」って、きたので(間)、 いっしょにのりました。(間) 花びらが(間)、「もういいわ。」って、おりていったので(間)、 かぜは(間)、ひとりでのっていました。(間) 上の間のあけ方を読んで、読者のみなさんは当然のことと思うでしょ う。しかし、この当然(簡単)なことが、児童たちはなかなかできないので す。間のあけかただけでなく、発音がわるかったり、声が小さかったりもし ます。 「風が一人で乗っていた」「花びらが遊びに来た」「一緒に乗った」 「花びらが去っていった」「風が一人で乗っていた」の五つに場面の様子 (状況説明)の区分けを明確に輪郭づけて、それを声に表して読むことが まず大事です。音声表現の基礎基本は、そうした区切りの間だと言えます。 そこから先の間は、各児童によって違ってきます。各児童の個性的な読み 方・スタイルとなります。 まず、五つの場面のフレームを頭に置いて、それぞれの場面の雰囲気の 違いを音声にあらわし、場面のフレームが声に出るように音声表現すること が重要です。 わたしの実践記録の紹介 わたしが三年生を担任したとき「ぶらんこ」の音読授業をしました。そ のときの録音テープが、拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、CD 1枚つき)に収録されています。付録CDに、そのときの学級児童の読み声 録音が収録されています。 トップページへ戻る |
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