音読授業を創る そのA面とB面と 07・4・2記 「アレクサンダとぜんまいねずみ」 の音読授業をデザインする ●「アレクサンダとぜんまいねずみ」 (レオ=レオニ作。谷川俊太郎訳)の掲載教科書……………教出2下 教材分析 この物語は、ほんもののねずみ(アレクサンダ)とおもちゃのねずみ (ウイリー)との友情物語といってよいでしょう。この物語にファンタジッ クな色合いを添えているのがトカゲです。トカゲは、ほかの生き物に変身さ せる能力を持っています。この物語の最後に、おもちゃのねずみを生きたね ずみに変身させてくれます。 この物語の冒頭文章は、「たすけて! たすけて! ねずみよ!」で す。話し手は人間です。アニーなのでしょうか。誰なのかははっきりしませ ん。人間が生きたねずみ(アレクサンダ)を発見しました。捕まえようと大 きな声で叫んでいます。あわてています。辺りのおさら、スプーンをガシャ ン、ガラガラとはねとばし、「捕まえる手助けの人、誰かいないか、早く来 て、来て。」と叫んでいます。 すぐ続く文章は、こうです。「アレクサンダは、ちっちゃな足の出せ るかぎりのスピードで、あなにむかって走った。アレクサンダのほしかった のは、一つ二つのパンくずだけ。それなのに、人間は、かれを見つけるたび に、たすけてとひめいをあげたり、ほうきでおいかけたりする。」 この辺りの文章から、文章を読み進む子ども達は「ねずみさんが、かわ いそうだ」という感情を持つようになってくるでしょう。しだいに子ども達 はアレクサンダーの気持ちに感情移入していきだすことでしょう。子ども達 は、生きたねずみの感情に入り込んで読み進めるようになっていくでしょ う。 アレクサンダは、おもちゃのねずみ(ウイリー)に出会います。おもち ゃのねずみは人間達にたいへんに愛玩されていることを知ります。うらやま しく思い、いいなあ、おもちゃのねずみになりたいなあ、という気持ちを抱 きます。しかし、おもちゃは人間に飽きられると、ゴミとして捨てられる運 命にあることを知ります。 ここで、アレクサンダの考えは一変します。自分がおもちゃのねずみに 変身する考えは逆転します。今まさに捨てられようとしているおもちゃのね ずみを助けようとします。とかげに頼んで間一髪で自分と同じ生き物のねず みに変身させてもらいます。 この物語を読むことを通して子ども達はほんもののねずみ(アレクサン ダ)にも喜びや悲しみがあり、おもちゃのねずみ(ウイリー)にも喜びや悲 しみがあることを知るでしょう。そして、状況(条件)によって、幸せとか 不幸せとかは逆転するものだということをそれなりに知っていくことでしょ う。 この物語が読めたとは、次のような問いかけに子ども達がきちんと答え られることでしょう。 ○はじめのアレクサンダの悲しみは、何でしたか。 ○はじめのウイリーの喜びは、何でしたか。 ○トカゲは、どんな魔法をかけることができるのですか。 ○はじめ、アレクサンダは、おもちゃのねずみに変身したかった。なぜで しょうか。 ○のちに、アレクサンダは、自分はおもちゃのねずみに変身することを諦 めた。なぜでしょうか。 ○アレクサンダは自分をおもちゃのねずみに変身しないで、ウイリーを生 きたねずみに変身させた。なぜでしょうか。 音声表現のしかた ●二年生後期の音読目標 この物語は二年生の後期に配当されている教材です。二年生の後期とも なれば、拾い読み・つっかえ読み・とちり読みをする子はいなくなってきて います。 目声幅(めごえはば。声に出して読んでいる文章個所より、目で見てい る文章個所が先を見て、読んでいる)のとり方もスムーズになり、一字一字 の拾い読みをする子がいなってきています。子ども達は、つっかえないで、 先へ先へとすらすら読み進めることに慣れてきています。 この時期の音読指導は、次の三つのことに重点をおきます。 (1)走らず、急がず、ゆっくりと、意味の区切りで間をあけて読む。 (2)大きな声で、りんりんと響く声立てで読む。 (3)地の文と会話文とを区別して読む。 ●単元目標 この物語の単元目標として教科書(教出2下)には「場めんのうつりか わりをとらえて、アレクサンダとウイリーのこころのふれ合いを読もう」と 書いてあります。場面の推移と、二人の人物の心の触れ合い、この二つは、 この物語を読みとるカナメとなる重要な読みとり内容です。これを外した読 みとりはどんなに楽しい読み進め授業であったとしても、この物語を読んだ ことにはなりません。 場面の推移と、人物同士の心の触れ合いの二つを読みとる一つの方法が あります。この物語から会話文だけを抜き出して、それら会話文を人物の気 持ちになって、人物が話したであろう音調で音声表現することでありありと 読みとる方法です。 この物語の文章はおよそ半分は会話文で、半分は地の文で構成されてい ます。都合のよいことに、場面の推移につれて場面場面で人物同士の会話文 が配置されています。場面の推移と、人物同士の心の触れ合いは、場面場面 で人物同士の会話文を、その人物の気持ちに入り込んで、その人物の話しぶ り音調で音声表現することで達成できるでしょう。会話文を音読するには、 いまどんな場面であるか、どのように事件が推移してきて、どんな人物の気 持ちになっているかが分っていなければ上手な音声表現にはなりませんので すから。 ●会話文の話し手は誰か 子ども達に「この物語に出てくる登場人物を言いましょう」と問いかけ ます。物語作品においては、登場人物とは人間だけとは限りません。さる・ おおかみ・犬などの動物、ひまわり・もちもちの木・まめの木などの植物、 つくえ・パソコン・ロバの耳などの無生物など全てのものが登場人物となり ます。ここの物語には、ねずみ=アレクサンダ、おもちゃのねずみ=ウイリ ー、人間=アニー、トカゲ=氏名不詳らが登場します。 二年生の児童には、「登場人物」というより「でてくるひと」という言 葉で問いかけるほうがよいでしょう。「人物」とか「ひと」とかいうと、子 ども達は「人間」と考えるかもしれません。まず、このことを二年生児童に 教えましょう。物語では特別な言い方をします。 会話文が出てきたら、誰がその会話文の話し手であるかをはっきりさせ ることが大切です。話し手が誰であるかが分らなければ会話文を音声表現が できません。 会話文の上部に「ア」とか「アレ」、「ウ」とか「ウイ」とか鉛筆で書 き入れさせます。あるいは、色鉛筆で、アレクサンダは赤色とか、ウイリー は黄色とかの線をひかせたり、色をぬらせたりします。先生が描いた略画や 略図を切り取らせて会話文の上部に貼るのもよいでしょう。 会話文が連続している場合は、会話文の途中にある短い地の文を削除し て、会話文だけ連続の対話文として扱うことにします。地の文を省略して、 子ども一人ひとりに配役を決めて、役割音読をさせます。 教科書では、会話文が二文で離れて書き表しているところ(二文の途中に 短い地の文がはさみこまれているところ)を、ここでは途中の地の文を省略 して、会話文を連続させ、二文をくっつけて一文にした会話文として音読す るように書き換えている個所がいくつかあります。これについては、本ホー ムページのトップページから「学年別音読授業をデザインする」二年生の 「お手紙」(ローベル作、三木卓訳)の文章をお読みください。なぜそうし たのかが、その同じ理由が書いてあります。 ●会話文の話しぶり 次に、物語「アレクサンダとぜんまいねずみ」から会話文だけを抜き出 し、その会話文の話しぶり・音調について書いていきます。 まず、子ども達に音声表現をさせましょう。発表された音声表現につい て、現われでた読み声について学級全員で共同助言をしていきます。現れ出 た読み声を材料にして解釈深めをしていくのです。現れ出た読み声の上手下 手やあら探しにならないようにします。どんな場面での、どんな気持ち・表 現意図であるかから、実際の読み声はどうであったか、もうちょっと、こう ではないか、いやとってもよかった、について話し合って いきます。 以下、子ども達に音声表現させるときのポイントについて書いていきま す。 「たすけて! たすけて!ねずみよ!」 ≪どんな場面で、誰が話している言葉かを話し合います。この会話文は、話 し手ははっきりしませんが、アニーだとも考えられます。アニーの家族の誰 かであることは確かです。いずれにせよ、人間が家の中でねずみを発見し て、大騒ぎして、家の中にいる家族の誰かを大声で呼んでいる声です。 ねずみは恐ろしい動物ではありませんので「たすけて!」はおおげさです が、とっさに出た言葉でしょう。「だれか、はやく、来て! 来て!」とい う意味なのでしょう。遠くにいる人に聞こえるように大声で呼びかけましょ う。つづく地の文に「ひめいがあがった。」と書いてあります。悲鳴の叫び 声です。 「たすけて!」と「ねずみよ!」とは、ちょっと音調が違います。「たすけ て!」は悲鳴に近い叫び声(呼び声)でしょう。単なる感情の爆発の言葉、 とっさの言葉です。「ねずみよ!」は、「ここに、ねずみがいる。ここにね ずみがいるので、応援を頼む。誰か、早く、来て。捕まえるものがあったら 持って来て。」という告知の言葉です。告知の音調にして音声表現するとよ いでしょう。≫ 「きみ、だれ?」 「ぼく、ウイリー。ぜんまいねずみ。アニーのお気に入りのおもちゃさ。 ぜんまいをまくと、ぐるぐる走るんだ。みんなちやほやしてくれる。夜 になると、しろいまくらをして、人形とぬいぐるみのくまの間で、ぼく ねむるんだ。みんな、ぼくをかわいがってくれるよ。」 「ぼくは、あんまりだいじにされない。」 「台どころへ行って、パンくずをさがそうよ。」 「ぼく、だめなんだ。ねじをまいてもらった時しかうごけない。でも、い いさ。みんな、ぼくをかわいがってくれる。」 ≪話し手の順番は、アレクサンダ→ウイリー→アレクサンダ→アレクサンダ →ウイリーです。 「きみ、だれ?」は、問いかけて。不審に思って。聞いているように。不 思議そうに。です。 次の会話文は、ウイリーがぼくはこんな者だよ、と答えています。自己紹 介をしています。へんな者じゃないよ、と安心させて。友達みたいに。昨日 今日の仲でないように、親しげに。です。 句点(まる)の個所では、十分に間を開けて読むとよいでしょう。読点 (てん)の個所では軽く間を開けてもいいですが、ひとつながりに一気に読 み進めたほうが意味内容が相手によく伝わる伝え方になると思います。快の 感情で、軽い喜び・うれしさの気持ちを込めて語ってよいでしょう。 「ぼく、あんまりだいじにされない」の会話文は、つづく地の文に「かな しそうにいった」と書いてあります。声を低めて・落として、悲しそうに言 いましょう。 「台どころに行って…さがそうよ。」の会話文は、友だちが見つかって喜 んでいます。うれしそうに、喜んで、声高に、誘いかけて言いましょう。 「ぼく、だめなんだ。ねじをまいてもらった時しかうごけない。」までの 会話文は、今度は逆にウイリーががっかりしています。声を低めて・落とし て、悲しそうに言います。「でも、いいさ。みんな、ぼくをかわいがってく れる。」の会話文は、気をとり直して、気分を変えて、明るい声で、うれし そうな声で、声高くして答えて言いましょう。≫ 「ああ! ぼくも、ウイリーみたいなぜんまいねずみになって、みんなに ちやほやかわいがられてみたいなあ。」 ある日、ウイリーはふしぎな話をした。 「なんでも、にわの小石のこみちのはじの、きいちごのしげみの近くに、 生きものをほかの生きものにかえることのできる、まほうのとかげがす んでいるそうだよ。」 「つまり、ぼくを、きみみたいなぜんまいねずみにかえられるっていうの ?」 ≪「ああ!」は、つづく地の文に「ためいきをついた」とありますから、た め息にして読みましょう。つづく「ぼくも、ウイリーみたいなぜんまいねず みに…かわいがられてみたいなあ。」は、ぜんまいねずみになりたいなあ、 うらやましい気持ちになって、憧れの気持ちになって音声表現しましょう。 次の会話文につなげるため、「ある日、ウイリーはふしぎな話をし た。」の地の文を入れ、ナレーターを置いて読ませます。つづけて会話文の 役割音読をしていきます。 次のウイリーの会話文は、「ひみつめかしてささやいた」と書いてありま すから、そっと、小さな声で、ささやいて言わなければなりません。ひそや かに、自分の唇を相手の耳に近づけて、ひそひそと語るようにして読まなけ ればなりません。 「つまり」からあとは、アレクサンダはウイリーからその話を聞いて、喜 んだことでしょう。うれしそうに、小さな声ではあるが、力が入った、心が ときめいた、心をはずませた音調にして、問いかけた言い方にして音声表現 にします。≫ 「とかげよ、とかげ、ぼくを、ぜんまいねずみにかえられるって、ほんと ?」 「月がまん丸の時、むらさきの小石をもっておいで。」 ≪居場所がどこか分らないとかげに向かって呼びかけています。かなり大き な声で呼びかけていることでしょう。遠くまで声を届けるように、声を響か せて呼びかけなければ届きません。 ウイリーの答えをどう読むかは問題です。いろいろな読み方があるでしょ う。荒木ならば、アレクサンダのばかでかい声とは対照的に、とかげの声は 遠くから小さく聞こえるように、遠くの場所から答えているように小さな密 やかな声にして、しかもはっきりと、命令口調にして、威厳のある音調で音 声表現します。≫ 「どうしたの。」 ウイリーは、かなしい話をした。アニーのたん生日に、パーティーが あって、みんながプレゼントをもってきた。 「明くる日、古いおもちゃが、たくさんこの箱にすてられたんだ。ぼくら は、みんなごみばこ行きさ。」 「かわいそうに、かわいそうなウイリー!」 するとその時、何かが、とつぜん目に入った。 「ゆめじゃないかな……? いや、ほんとうだ! むらさきの小石だ。」 ≪「びっくりして、アレクサンダは言った。」とあります。なぜびっくりし たのか、びっくりした時の話しぶりはどんなかを子ども達に話し合わせま す。びっくりして、問いかけ音調にして言いましょう。 次のウイリーの語りは、「なかんばかり」と書いてあります。がっがりし て、沈み込んで、がっくり気落ちして、めいって、絶望しています。声に力 がなく、気落ちした泣き声にして音声表現します。かなり難しいですね。学 級にだれか一人ぐらいは上手な子がいるでしょう。その子の読み声をみんな でまねさせてみましょう。 アレクサンダ「かわいそうに」の会話文は、つづく地の文に「かれは思っ た。」とあります。しかし、小さなひとり言音調では前とのつながりが調和 がとれないようですので、ここでは演劇の台詞の対話音調と同じに考えて、 ウイリーをなぐさめて、心から頑張ってと元気づけている気持ちを込めて、 やや声を大きめにして音声表現してよいでしょう。 つづく地の文を一部を、会話文に書き換えしています。この個所の地の文 は、アレクサンダのひとり言に限りなく近い文体になっていますので、ひと り言の会話文に書き換えました。そっと、ささやき声で、ひそやかに、驚き の気持ちを込めて音声表現するとよいでしょう。 会話文のつながりをはっきりさせ、会話文をリードしていく地の文を入れ ています。ナレーターをおいて読ませましょう。≫ 「しげみの中のとかげよ。とかげ。月はみちた。小石は見つかった。」 「おまえは、だれに、それとも、何になりたいの?」 「ぼくは……。とかげよ、とかげ。ウイリーを、ぼくみたいなねずみにか えてくる?」 ≪とかげはどこにいるか分りません。遠くまで声を届けるように響く声で大 きな声で呼びかけましょう。 とかげが現れた時のアレクサンダの声は「月はみちた。小石は見つかっ た。」と、報告してる自信に満ちた声で、はっきりした声で音声表現しま す。 「ぼくは……」の「……」は、どう音声表現すればよいか、子ども達に話 し合わせてみよう。これは、音読の問題としてはとてもよい問題です。子ど もから全てを考えさせて答えを出させるのはちょっと難しいかもしれませ ん。教師が何種類かの音声表現をしてみせて、そこからいちばんよいのを選 択させる方法が二年生にはよいでしょう。 地の文に「アレクサンダは、言いかけてやめた。」とあります。「ぼく は」までを直ちに言ったのです。「……」は、言いよどんだ時間の間です。 どれぐらいの間でしょうか。何秒間などと機械的に決められるものではあり ませんが、あえて荒木だったら、4秒から5秒ぐらいの間をあけてから「と かげよ、とかげ。ウイリーを、」と読み出します。「……」の時間のまで、 アレクサンダはどんなひとり言をしたのでしょうか。思考の大転換がありま した。子ども達に小作文に書かせるのもいいですね。≫ 「おそかった。」 おもい心で、かれは、かべの下のあなへもどりかけた。何かおとがする! あなの中に、いっぴきのねずみがいた。 「きみ、だれ?」 「ぼく、ウイリーだよ。」 「ウイリー! とかげは……、とかげは、ほんとにやってくれた!」 かれはウイリーをだきしめ、二ひきはにわの小道へ走り出た。そしてそこ で、夜明けまでおどりつづけた。 ≪最後の場面ですので、一応のしまりをつけるため、ナレーターをたてて、 地の文まで読むことにします。ほかはアレクサンダとウイリーとの対話で す。 「おそかった。」は、「おそかったか。」というつもりで、がっがりし た、低い声で言います。 ナレーターの「何かおとがする。」は、ひとり言にして低い声で、つぶや いて、そっと読みます。「あなの中に、いっぴきのねずみがいた。」は、明 るい声で、高い声で、喜びの気持ちで読んでいきます。 「きみ、だれ?」は、不思議そうに、疑って、問いかけましょう。 「ぼく、ウイリーだよ。」は、単に「ぼくは、ウイリーです。」と教えて いるのでなく、大喜びの声で、ほんとにありがとう、大感謝の気持ちを声 で、大声で言いましょう。 次のアレクサンダの声は、うれしさ、大感激で、声をつまらせて、喜び いっぱいに大きな声で叫んでるように言うとよいでしょう。 最後の地の文の二文も、淡々と冷たく読むのではなく、ナレーターも 「よかったね。ばんざーい。」の大喜びの気持ちを声にあらわして音声表 現してよいでしょう。≫ トップページへ戻る |
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