音読授業を創る そのA面とB面と 03・12・24記 「ゆきの日のゆうびんやさん」の音読授業をデザインする ●「ゆきの日のゆうびんやさん」(こいでたん)の掲載教科書…東書1下 題名よみの話し合い この物語には、三つのキーワードがあります。雪(吹雪)、ゆうびん、こ づづみ、の三つです。この物語の背景を構成しているのが「雪(吹雪)」 で、事件を構成しているのが「ゆうびん、こづづみ」です。先ず、題名につ いて話し合いをしましょう。この物語はどんな話内容だろうかと予想見通し を語り合います。「おや、なんだ反射」の興味関心を初めに作って、先の授 業へと楽しんで読み進めていく心構えを作ります。 「題名読み」はこうします。この物語の中味の学習に入る前に「ゆきの日 のゆうびんやさん」という題名について全員で話し合います。この物語の読 み深めには、三つのキーワードを理解させておくことが重要です。三つの単 語について具体化(概念くだき)の話し合いをします。 初めに「ゆきの日」について話し合います。雪降り・吹雪について実体験 したことを語らせたり、映画・テレビで見たことを思い出させたりして話し 合います。 次に「ゆうびんやさん」について話し合います。郵便配達夫について児童 の体験を語らせます。郵便局やその仕事(はがき、手紙、小包み、貯金)に ついても子ども達は語るでしょう。「ゆうびんやさん」から「こづつみ」を とりだして話し合います。一年生児童は「物品を配達している人」というこ とから、宅急便・宅配便について語る児童がいるかもしれません。学級活動 のお手伝い配達係を「ゆうびんやさん」と呼んで、それを発表する児童がい るかもしれません。ここは生活科の時間ではありませんし、一年生の学習内 容ではありませんので、これらの区分けはそのままにして、別の機会にゆず ります。 「こづつみ」と「こずつみ」 「こづつみ」は、なぜ「こずつみ」の表記でないのでしょう。「小さい」 +「つつみ(包み)」だからです。この物語には、うさぎ、ねずみ、りす、 たぬき、あなぐま、きつねの動物たちが登場します。これら動物に「小さ い」という意味の「こ」を語頭につけ加えてみましょう。「あなぐま」以外 はすべて「こ」がつきます。穴熊はもともと身体が大きいですから、「こ」 がつきません。つく場合は「子どもの、赤ちゃんの」という修飾語がつく意 味の言葉になることに気づかせます。 「こ」がつくのは、小動物だけでなく、「こさじ、こえだ、こなす、こお に、こなみ、こみち、こゆび」などたくさんあり、「こ」がつくと濁音に変 化する「こざかな、こべや、こばな、こぶね、こじわ、こぢんまり、こづつ み」などの語群もあります。「こ」は文法的には接頭語と呼んでよいので しょうが、「こぢんまり」「こづつみ」のように複合語の構成要素としての 区別がつきにくい単語もあります。 子ども達に「こ」のつく言葉を出させると「こんぶ、こころ、こじき、こ め」などたくさん出ます。これらは、「小さい」という意味の「こ」でな く、一単語の構成要素としての「こ」であることを指導します。 こうした言語事項に関する指導も、学習指導要領に位置づけられているよ うに国語の授業ではとても重要なことです。 会話文の読み方 この作品は温かな、愛情たっぷりの物語内容です。相手への心遣い、情愛 に満ちた動物たちの行動が描かれています。ストーリーの展開は、必要な事 柄のみが簡潔な描写で表現されています。三匹のねずみ達(主人公)の前向 きで、はつらつとした生き方、積極的な行動に、一年生の子ども達は共感 し、自分自身をねずみ達の行動に重ね合わせて読み進んでいくことでしょ う。 会話文は各場面に適度におりこめられており、各場面の様子がありありと 表象化することができます。各人物の話し意図や気持ちがリアルに会話文の 言いぶりに表現されており、容易に音声表現ができる会話文になっていま す。 ゆうびんやさんは風邪をひいています。寒さにふるえ、ひどいせきをして います。せきは、わざと大げさに表現するぐらいでよいでしょう。 りす、たぬき、きつねの会話文は、三匹のねずみ達への情愛に満ちた感謝 ・厚礼のお返しの言葉です。「こんな吹雪の中、大変でしたでしょう。あり がとうね。ほんとにごくろうさま」という深い感謝の気持ちをこめて音声表 現するようにします。語尾を上げたり、一部分の語句に気持ちを強め浮き立 たせて表現したり、感謝・感激の気持ちを大げさに表現するぐらいがよいで しょう。「大げさ」ということは、わざとらしくオーバーにということでは ありません。子ども達の音声表現は気持ちをこめて読もうとしてもなかなか 平板にしか表出してきません。そういう意味からわざと大げさにやってみ る、試してみる、そうすると案外ぴったりした音声表現がでるようになる、 ということからです。 三匹のネズミ達の会話文は、場面によって三文と一文とがあります。三文 は、ゆうびんやさんの場面です。一文は、りすさんの場面、たぬきさんの場 面です。きつねさんの場面は、三文と一文があります。あなぐまさんの場面 は、るすですから会話文はありません。 会話文の音読練習は、配役を決めた役割音読で練習し、それから自分一人 で三人分の会話を口調を変えて読むようにするとうまくいくでしょう。役割 音読は、三文はできますが、一文はできません。一文の役割音読は、三人同 時に声をそろえて読むようにします。 地の文の読み方(1) 一年生後期の音読指導の重点は、次の三つです。 (1)十分な声量 (2)ゆっくりと (3)区切りの間 三つについての詳細は、同じ一年生後期教材「くじらぐも」のところです でに書いています。詳しくは「くじらぐもの音読授業をデザインする」の個 所を見てください。連載(32)、03年9月号ですでに送信済みです。 ここでは、この物語「ゆきの日のゆうびんやさん」で場面の様子が音声 に表れるようにするにはどうするか、幾つかの文章部分を取り上げて、その 音声化技術の留意事項について書くことにします。 地の文の読み方(2) 「三びきのねずみは、ながい、きゅうなさかみちをぐんぐんのぼっていき ました。」の個所。 この物語は、前述しているようにストーリーの展開のみを簡潔に、簡単に しか記述していません。ですから、文字の上っつらだけを急いで、ずらずら と流して読んでしまっては、印象が残らない読み方になってしまいます。 三びきのねずみ達は、荷物を積んだ郵便橇を引いて、「長い、急な坂道を ぐんぐん上っていきました。」です。これらの言葉を大切におさえて読んで いきたいものす。この文を粒立てて表現するには、声を強めたり高めたりす るのではなく、間をおいて、文節と文節とのあいだをあけて読むことで粒立 てるようにします。「(三びきのねずみは、)(ながい、)(きゅうな) (さかみちを)(ぐんぐん)(のぼっていきました。)」のようにです。 「ぐんぐん」の擬態語は、その様子が声に出るように力を入れて強調しても よいでしょう。 「三びきのねずみは、ゆうびんうけの中に、やっとのことで、はがきとこ づつみを入れました。」の個所。「やっとのことで」の「やっ」をのばして 読んで強調します。 「きつねのおばあさんのいえは、見えているのになかなかちかづけませ ん。」の個所。「見えているのに」の前後の間をあけて、浮き立たせて強調 します。「なかなか」は、一字ごと間をあけて「な、か、な、か、」のよう に強調します。 「そのとき、どっと、ものすごいかぜがふいてきて、三びきのねずみは、 ゆきの中にふきとばされてしまいました。」の個所。「どっと」の擬態語 は、「ど」を強て、その様子を大げさに表現します。「ものすごい」は、 「すごい」を強めて読んで強調します。「ふきとばされて」は、速く読んで 強調します。 「きつねのおばあさんは、ゆきだらけの三びきのねずみやえりまきでくる んだりんごを見つけました。」の個所。 「ゆきだらけの」は、ねずみとりんごです。修飾語の係り受けをはっきり させて音声化します。「(きつねのおばあさんは、)(ゆきだらけの)(三 びきのねずみやえりまきでくるんだりんごを)(見つけました。)」のよう に区切ります。 「三びきのねずみは、ゆうびんそりにのって、いっきにいえまですべり 下りていきました。」の個所。 こで初めて郵便配達夫は郵便橇を引いていることが書かれています。この 教科書(東書版1下)には物語の初めの方の挿絵に「そり」の絵が描かれて いるから、そりで運んでいることが分かりますが、物語文では終末近くに なって「そり」の言葉が出てきます。文章だけでイメージを浮かべて読んで いきますと、カバンや背負い籠だとばかり理解して、わたしは読み進めてい ました。何かはぐらされた感じです。この物語の初めに「ゆうびんそり」の 言葉が出現してほしいと思いました。 帰路は坂道をかけ下りるだけです。そりにのってかけ下りる、三びきのね ずみ達は楽しそうですね。「いっきにいえまですべり下りていきました」 は、ややスピードを上げて、一気に読むとイメージが音声にのっかって表現 されるでしょう。 「そとは、まだ、ゆきでした。」は、思いがあとに残るように、余韻や残 響を残すように次第にゆっくりと、ぽつり、ぽつりと、読みます。これは一 年生児童には難しいかもね。わけが分からんでしょう。物語の終末にはこう いう場面がよくあります。先生がやってみせて、理由はどうでも、先生のま ねをさせてみましょう。上学年になるにつれて、次第に感覚的に分かってき ます。音声表現は、分析的解釈でなく、総合的・直感的解釈なので、理屈 (言葉)以上のプラスアルファ−、身体に響かせて分かっていく事柄もけっ こうあいります。 参考資料 前述したことですが、「ゆうびんやさん」の概念の具体化の個所で児童達 から宅急便・宅配便のことが出るかもしれないと書きました。 二つについての参考事項を書きます。「宅配便」は、一般家庭を対象に小 口貨物をトラックで配達する運送業のことをいいます。「宅急便」は、ヤマ ト運輸(クロネコヤマト)という一企業の商標名です。ですから、一般的に は小口荷物の運送(配送)は「宅配便」を使うのが正しいです。「ペリカン 便」などは「宅配便」といい、「宅急便」とは言いません。クロネコヤマト だけを「宅急便」と言うのです。 「魔女の宅急便」というアニメ映画は、ヤマト運輸がスポンサーについて いたため商標名がそのまま使われてしまったのです。 同じようなことが「セロテープ」と「セロハンテープ」にも言えます。 「セロテープ」は「(株)ニチバン」という一企業の商標名です。「(株) ニチバン」の商品だけを「セロテープ」と言います。 一般的には、あのようなぺタッと貼るものを「セロハンテープ」(略 称)とか「セロハン粘着テープ」(正式名称)と言います。「セロテープ」 は「セロハンテープ」の中に入りますが、「セロハンテープ」は「セロテー プ」の中には入りません。 トップページへ戻る |
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