音読授業を創る そのA面とB面と         08・7・7記




「サラダでげんき」の音読授業をデザインする




●「サラダでげんき」(かどの えいこ)の掲載教科書…………東書1下

          
           
        
作者(かどの えいこ)について


  角野栄子(かどの えいこ)。本名:渡辺。1935年、東京都深川区
に生まれる。早稲田大学教育学部英文学科を卒業後、出版社に勤務。のち世
界各地を船旅して回る。、インテリアデザイナーの夫とともに移民としてブ
ラジルにわたり2年間滞在。帰国後、童話を書き始める。処女作はブラジル
の少年を描いた「ルイジンニョ少年」(ポプラ社、1970)でデビュー。山本
有三記念路傍の石賞、カネボウ・ミセス童話大賞、野間児童文学賞、小学館
文学賞、講談社絵本新人賞などを受賞。
 「アイとサムの街」「あたらしいおふとん」「大どろぼうブラブラ氏」
「おはいんなさい えりまきに」「ズボン船長さんの話」など。


             
教材分析


  一年生児童は、まだ母親との愛情関係が密着しています。「サラダでげ
んき」を読む一年生児童は、りっちゃんにわが身を寄せて、りっちゃんにな
った気持ちで読み進めていくことでしょう。りっちゃんのお母さんは病気で
寝ています。お母さんに何かいいことをしてあげたい、はやく病気が治って
元気になってほしいという気持ちは、りっちゃんと同じに一年生児童のだれ
もがいだく思いではないでしょうか。
  りっちゃんは「あっ、そうだわ。おいしいサラダをつくってあげよう。
げんきになるサラダをつくってあげよう。」と決めます。りっちゃんがサラ
ダを作り始めると、次々と動物達がやってきて「サラダにこんな食材を入れ
るとおいしいですよ」と教えてくれます。教えてくれる食材は、それぞれ
の動物達の好物であるところが読んでいてとってもおもしろいところです。
  動物達は、りっちゃんに「これこれの食材をいれるといいですよ」と教
えます。りっちゃんは「おしえてくれてありがとう」とお礼を言います。そ
して、りっちゃんは教えてくれた食材を次々と加えていきます。こうした
繰り返しの物語構成になっています。こうした繰り返しの物語構成は、児童
読み物の多くにみられる特徴といえます。子ども達はこうした単純な繰り返
しのある物語構成を喜びます。
  この物語の読解指導で大切なことは教科書本文の前(単元のめあて)に
小活字で書いてあるように「出てくる人やどうぶつのじゅんばんにきをつけ
てよみましょう」ということです。この物語は、誰が、どんな順番で出てく
るか。それぞれの動物はどんな食材を入れてサラダを作りましょうと誘いか
けているか。これを読みとることが第一に大切なことです。
  出てくる動物の順序と、進言した食材は、次のとおりです。
   (1)のらねこ(かつおぶし)
   (2)いぬ(ハム)
   (3)すずめ(とうもろこし)
   (4)あり(おさとう)
   (5)うま(にんじん)
   (6)白くま(こんぶ)
   (7)アフリカぞう(あぶら、しお、す)


          
音声表現のしかた


  どんな学習活動を選択して指導すればよいのでしょうか。先に書いたよ
うに、どんな動物が出てきて、どんなことをりっちゃんに進言したかの全体
構成をまとめる学習活動は欠かせません。教科書の単元個所にあるように読
後に「おはなしカード」を作成する学習もよいでしょう。りっちゃんやお母
さんへ読後に手紙を書くのもよいでしょう。それぞれの人物(絵)の吹きだ
しに気持ちを書き入れる学習もよいでしょう。りっちゃんが炊事している姿
をまねてトントントンなどの動作化をするのも楽しいですね。

役割音読をする

  わたしなら、役割音読をして、人物の会話文を、その人物の気持ちに
なって音声表現させます。「この人物の気持ちは、どんな気持ちですか」と
問いかけて話し合うより、場面ごとの二人の人物を指名して対面させ、その
人物の思い(心理感情、表現意図)を声に出して会話文を対話させたほう
が、その人物の気持ちに身体ごとの響き合いで触れ合うことができます。

会話文の二種類を教える

  「サラダでげんき」には、会話文が二種類があります。一年生も後期で
すから、一年生児童に会話文には二種類があることを指導してもよいでしょ
う。この物語は、会話文に二種類があることを指導するによい教材文です。
  二種類とは「対話の会話文」と、「独話の会話」文、との二つです。児
童用語として「あいてと話してる会話文」「自分だけのひとりごとの会話
文」とでもするのもよいでしょう。みなさんの学級児童から発表された意見
の中から名付けるのが一番いいでしょう。

ひとり言の会話文

  この物語の冒頭個所にある二つのカギ付き会話文は、りっちゃんのひと
り言の会話文です。りっちゃんは、おかあさんが元気になる、何かい
いことないかなあと、あれこれと思いをめぐらせ、頭の中だけでコトバを操
作しているひとり言、考え言葉のひとり言です。内言語とか内言とか心内語
とか言われています。自分の頭の中だけで語っている言葉、思考している言
葉、自分に向かって語っている言葉です。
 次に「ひとり言の会話文」を抜き出してみよう。

「かたをたたいてあげようかな。なぞなぞごっこをしてあげようかな。くす
ぐって、わらわせてあげようかな。でも、もっともっといいことはないかし
ら。おかあさんが、たちまちげんきになってしまいようなこと。」

「あっ、そうだわ。おいしいサラダをつくってあげよう。げんきになるサラ
ダをつくってあげよう。」

  これらのひとり言は、ぶつぶつと口の中だけで語っているように、小さ
な声で、ひとり言しているように、ぽつぽつと低い声で、考えているよう
に、ひそやかに、そっと、ぼそぼそと語る(読む)ようにします。

対話の会話文

  次に動物達が、りっちゃんに、こんなサラダを作るとよいと進言してい
る場面の、対話の会話文の音声表現をします。
  次々に動物達がりっちゃんに「こんな食材をサラダに入れるとよいです
よ」と進言しに来ます。すると、りっちゃんは「ありがとう」とそれぞれの
動物に返答しています。これら場面はりっちゃんと動物達との対話場面で
す。ですから、二人が対面して語り合っているように、しゃべり合っている
ように読みます。りっちゃんと、動物とを指名して、二人を向かい合わせ
て、(教科書本文の会話文個所すべてを暗記できないでしょうから、教科書
を手に持たせて、会話文を見ながら)現実にしゃべり合っているような場面
構成にして対話させます。
  前述した「出てくる動物の順序」の(1)から(7)まで、それぞれの
七つの場面に区分けして、それぞれの場面ごとに役割音読をしていきます。
読み手二人を指名して、会話文だけを対話口調にして音声表現させます。上
手な二人組みがあったら、全員にそれを模倣させます。上手な子の読み声を
模倣することは、それによって一段と上手になります。下手なまま同士では、
いつまでたっても上手になりません。
  場面ごとの役割音読を利用していくと、場面のまとまりや、それぞれの
場面ごとの人物の登場や、出来事の流れ、物語り全体構成の流れをつかませ
る指導に役立つでしょう。りっちゃんや、それぞれの動物達のお面を作っ
て、それを顔に当ててしゃべらせるとよりリアルな現実味のある会話調が出
るのではないかと思います。
  上記した(1)から(7)まで、それぞれの場面ごとに会話文を読む児
童を指名して役を割り当てて、二人を対面させて、(対面させなくても、炊
事してる人、訪問者の舞台場面が作られてればよい)、お面をかぶらせて語
り合いをさせましょう。大きな声で、ゆっくりと、相手に知らせたいことは
何かをはっきりと押し出して言うようにします。
  七つの場面にある会話文は、冒頭にあるりっちゃんの二つの会話文と性
格が違うことを指導します。「ひとり言」と「相手との会話」とでは音声表
現のしかたがちがうことを実際の読み声で実感させて分からせます。
  その場面の二人の会話文の前後にある地の文は、学級全員がナレーター
役となって場面を解説・説明しているように一斉音読するとよいでしょう。
こうした身体活動をしながらの授業は、話し合い一辺倒の授業より子どもは
ずっと気楽に楽しく授業に参加できますし、一部の児童だけでなく、どんな
子でも気楽に楽しく授業参加できます。
  この物語には、擬音語・擬態語があちこちに出現しています。「トント
ン、ストンストン、チュッチュッ、チュピチュピ」など、これらは様子や音
をそれらしく、おもしろく、楽しんで、大胆に音声表現するぐらいでもよい
でしょう。りっちゃんも音を出して楽しいんですから、音声表現も音を楽し
く踊っているように楽しんで読みあげると楽しいですね。
  また、情態副詞「のっそり、さっそく、たちまち、ずらり、ちょっぴ
り、ちょっと、せかせか、くりんくりん」なども、ちょっとしたいたずら心
で、おもしろい楽しい音調で音声表現するのもよいでしょう。もともとこの
物語は、りっちゃんがルンルン気分で、楽しんでお料理していますので、
ちょっぴりおどけた音調を試みて音声表現するもの許されるのではないで
しょうか。
  そんな読み方で、「サラダでげんき」の授業が読書への興味関心を抱く
動機づけになったら「サラダでげんき」の学習は大成功と言えるでしょう。
ただし、へんに、こっけいすぎる、オーバーな音声表情のつけすぎは禁物で
す。

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