音読授業を創る  そのA面とB面と             04・7・6記



      
「おむすびころりん」の音読授業をデザインする


                        
●「おむすびころりん」(羽曽部忠)の掲載教科書…………光村1上



           
1年生1学期のまとめ


  この教材は1年生7月教材、夏休み直前に配当されています。1年生も
この時期となると、子ども達は学校生活にも慣れ、入学当時と比べるとみ
ちがえる
ように成長ています。入学当時はおつにすましてお行儀よかった子ども達
も、四か月が過ぎるとしだいに本性をあらわしてきます。一人一人が個性
を出してのびのびと振舞うようになってきます。学校の集団生活にも慣れ、
学習にも意欲的になり、一つ一つ知識を獲得することに喜びを見出し、楽
しく学校生活を送れるようになります。
  1年生前学期の国語科の学習内容は、五十音の読み書きが主要な内容と
なります。ひらがな練習帳を使って練習します。夏休みには簡単な文章、
つまり絵日記が書けるようになることが主な到達目標となります。音読指
導では、夏休み前には次の内容が身についている必要があります。
●文字の一字一字を目でたどって正しく発音できる(読める)。
●一字一字の拾い読みでなく、語句(単語)のまとまりとして、一目読み
  ができる。
 清音・濁音「り。ん。ご」一字一字読みでなく、一目で「りんご」と読
  める。
 長音「お。と。う。さ。ん」一字一字読みでなく、一目で「おとーさん」
  と読める。
 揆音「き。つ。て」の一字一字読みでなく、一目で「きって」と読める。
 幼長音「じ。や。ん。け。ん」でなく、一目で「じゃんけん」と読める。
 幼長音「き。ゆ。う。し。よ。く」でなく、一目で「きゅうしょく」と
  読める。
●はぎれよい、はっきりした発音で読める。
    一年生に入学すると最初に学習する内容は、五十音の一字一字の
  読みと、
 一字一字の字形を整え、筆順を正しく書字する練習です。同時に、口形
  に注意してはっきりと発音する、姿勢を正しく本を読む、という学習も
  あります。
●たっぷりした声量で読める。
    か細い声、か弱い声でないということです。蚊の鳴くような声で
  ないということです。
    教室のすみずみまで届く、よく聞こえる、よく通る、よく響く、
  共鳴のきいた、りんりんとした、子どもらしい声、天子のような声で読
  めるということです。


          
たっぷりした声量で読める


  1年生1学期末ともなると、一人一人の性格がはっきりと出てきます。
活発な子、おとなしい子、おしゃべりな子、無口な子、乱暴な子、いじわ
るな子、気弱な子、いじめられっ子、行動旺盛な子、付和雷同する子、ガ
キ大将の子、動きの少ない子、仲間に入れない子など、いろいろな児童が
います。
  気弱な子、動きが少ない子、いじめられっ子などは、どちらかという
と自分をプレゼテーションする力がありません。口数が少なく、自己主張
ができません。日常のしゃべり言葉にも迫力がなく、か細い声で自信なさ
そうに話します。
  こうした傾向を持つ児童は学級に2、3名はいるものです。このよう
な児童には教師はいろいろな配慮をします。自信の持てる係り活動をあた
える、仲間(友だち)を紹介する、その児童の長所を全員の前で紹介する
、グループ活動で活躍できる場を与える、やった仕事(学習内容)に対し
て賞賛し自信を持たせる、など児童に合った指導をします。心理的緊張を
ほぐし、心を開放し、屈託なく伸び伸びと行動できるその子独自の指導が
必要です。
  こうした児童には国語の授業でも上述した指導をしつつ、できるだけ
大きな声で本を読んだり、発表したりするような激励(指導)を与えます。
音読のばらばら練習で大声を出させたり、一斉音読で全員の声にまじって
大声で読ませたり、まわりが大声を出すどさくさにまぎれて、いつのまに
か大声が出せるようになってしまうという指導もあるでしょう。大きな声
の出させ方(読ませ方)についてはこれまでこのメールマガジンや著書で
も何度も書いてきましたので、ここに繰り返しません。


          
言葉のリズムを楽しんで


  この作品は、七五調のリズムが快い文章です。子ども達は、7・5・
7・5の繰り返しのリズムの快さにひかれて存分に楽しんで音読すること
でしょう。
  例えば「つつみを ひろげた そのとたん、 おむすび ひとつ こ
ろがって ころころ ころりん かけだした」を音読すれば、7・5・7
・5と繰り返すリズムがおむすびの転がる様子をありありとイメージしな
がら音声表現できます。「ころころころりん」とリズミカルに転がってい
く様子が豊かに表象しながら音声にリズムをつけて表現することができま
す。おむすびを「まて まて」と追いかけるおじいさんの行動もリズミカ
ルな音声がリズミカルな動きに連動していきます。音声リズムが、イメー
ジのリズム(動き)へと反転していきます。
  ねずみたちの歌声もリズミカルです。「おむすび ころりん すっと
んとん。ころころ ころりん すっとんとん。」も7・5・7・5のリズ
ムの繰り返しです。リズミカルに音声表現することで、ねずみたちがおじ
いさんを心から歓迎している様子が、読み手の身体にもリズムとして響い
てきて、ねずみの心情がまざまざと体感できます。
  おじいさんは、おむすびを、わざと、もう一つ、転がしてやります。
転がったおむすびを、残念がっていません、けちっていません。おじいさ
んは、楽しんで、おもしろがって転がしています。お腹がすいてることな
んか忘れてしまって、身振りよろしく踊りだします。子どもたちも、おじ
いさんになったような気持ちになって、愉快に、楽しんで音声表現してい
くことでしょう。
  この作品は黙読には適していません。黙って、目だけで読む文章では
ありません。大きな声を出して、リズムの快さにたゆたいながら、作品世
界を楽しみつつ読む文章です。リズムを口の中で転がしながら、明るい声
で、歯切れよい発音で、リズムの響きの快さを音声にいっぱいにのせて、
楽しく音声表現していく文章です。


          
くりかえしを楽しむ


  くりかえし言葉が使われています。「おむすび ころりん すっとん
とん。ころころ ころりん すっとんとん。」が四回も、繰り返されてい
ます。その他、「ころ
ころ ころりん かけだした。」と「すっとんとんと とびだした。」の
リズムの対応が音読していておもしろいところです。「おどった おどっ
た すっとんとん。こづちを ふりふり すっとんとん。」と「しろい 
おこめが ざあらざら。きんの こばんが ざっくざく。」の対応も音読
していておもしろいところです。「じぶんも
 あなへ すっとんとん」と「おじいさん ころりん すっとんとん。」
との対応も音読していておもしろいところです。
  この作品には、「すっとんとん」の言葉のくりかえしが12回もあり
ます。「ころころ ころりん」が、5回もあります。
  「おどった おどった」のような単語(語句)のくりかえしが、7個、
あります。ほかのくりかえし部分も書き出してみましょう。「むかし む
かし」、「まて まて まてと」、「これは これは」、「きこえる き
こえる」、「おどった おどった」、「あれ あれ あれ」、「ふり ふ
り」。こうした繰り返しがリズム調子よく、楽しんで音声表現ができるよ
うにしています。
  子ども達は、くりかえし言葉が好きです。子どもにとっては、くりか
えし言葉は一種の遊びです。ゲームで遊ぶようにくりかえし言葉を楽しみ
ます。くりかえし言葉
は物語の流れを単純にして、分かりやすくします。この単純さ、分かりや
すさが、子ども達に好まれるのです。
  「ころころ ころりん すっとんとん」は、この作品のイメージの主
調を形作っています。繰り返される回転する形象は反復による強調によっ
てイメージがふくらみ、おじいさんの行動、ねずみたちとの楽しい交歓の
世界をあざやかに浮かび上がらせます。子ども達はくりかえしことばを何
度も声にすることで、作品世界にひたりきって楽しむことができます。


         
字づら読みにならないために


  とかくすると言葉リズムの調子のよさにひきずられて上滑りの音読に
なりがちです。意味内容を考えない音声表現になりがちです。表面だけの
字づらを声にしている音読になりがちです。表面だけのすらすら読みにな
らないように指導しましょう。
  話の筋、人物の気持ち、場面の様子を声にしようと努力しつつ音声表
現するように指導することが重要です。夏期休暇前のまとめの音読ですか
ら、一字一字のひろい読みではいけません。つかえないことはいいことだ
と表面の字づらだけの早口読み、すらすら読みにしないようにします。人
物の気持ちや場面の様子が声にのっかるように努力して読むように指導し
ます。
  そのためには、1年生の指導事項としては音声化技術(イントネ−シ
ョン、間あけ、高低、大小、遅速、明暗、転調などのテクニック。記号づ
け指導)よりは、主述の照応に気をつけて音声表現させることです。主語
と述語とが整った文、主語と述語とのくっつきに気をつけ、主述のひとま
とまり・ひとつながりのある文意識をもって音声表現するように指導しま
す。
  例えば、次のような(   )のひとまとまりの気をつけて音声表現
させます。ことば調子のよさにふりまわされないようにします。

(むかし むかしの はなしだよ。) 誰かに語りかけて
(やまの はたけを たがやして、
 おなかが すいた おじいさん。「おじいさんはどうした」を意識して
そろそろ おむすび たべようか。)
(つつみを ひろげた そのとたん、 「とたん」早口で
 おむすび ひとつ ころがって、
 ころころ ころりん かけだした。) 「かけだした」早口で
(まて まて まてと おじいさん、) 「待ってくれ」の気持ちで 
                    まてー、まてー、まてー
(おいかけて いったら おむすびは「おむすびはどうした」を意識して
はたけの なかの あなの なか、
 すっとんとんと とびこんだ。)

(のぞいて みたが まっくらで、    動作化(後述)  
(みみを あてたら きこえたよ。)   動作化(後述)
(おむすび ころりん すっとんとん。 「すっとんとん」歌うように
 ころころ ころりん すっとんとん。「ころころ」早口。「ころりん」
                                                        早口。

(これは これは おもしろい。)    喜びの身体表情で
(ふたつめ ころんと ころがすと、  「ころんと」軽快に
 きこえる きこえる おなじ うた。)  動作化(後述)
(おむすび ころりん すっとんとん。  うたごえ(後述)
 ころころ ころりん すっとんとん。)
                            「ころころ」早口「ころりん」早口

  部分的にですが、動作を入れながら読むとよい文章個所があります。動
作を入れると、上滑りや字ずらだけのすらすら読みから離れさせることがで
きます。
 (のぞいて みたが まっくらで、)
 (みみを あてたら きこえたよ。)
 (きこえる 聞こえる おなじうた。)
 (ねずみの おどりを みてくだい。)
 (うたに あわせて おどりだす。)
 (おれいに こづちを あげましょう。)
など。動作化できる文章個所は他にもあります。
  「のぞいてみたが、まっくらで」個所では、片手を目の上に当てて、
のぞきこんでみる動作をします。「みみをあてたら、きこえるよ」と
「きこえる、きこえる、お
なじうた」個所では、片手を耳たぶの後ろに当てて、じっと耳をすます
動作をします。こうしながら音声表現をします。
  この作品には、他にもおじいさんの言葉として語ったほうがよい地
の文があちこちにあります。おじいさん、ねずみ、おばあさんの動作化
が入れられる文章個所もあ
ちこちにあります。が、必ず動作を入れなければならないということで
はありません。また、動作もリアルさを求めて丁寧に動作表現する必要
はありません。ことば表現に軽く身振りを添える程度の簡単な動作でよ
いでしょう。
 ねずみのうた「おむすび ころりん すっとんとん。ころころ ころ
りん すっとんとん。」はどう音声表現すればよいのでしょう。穴の中
から聞こえるねずみの歌声、その表情づけはいろいろあるでしょう。児
童一人一人に独自な読み方(音声表現の仕方)を考えさせます。読み手
児童に独自な歌声をつくらせ、児童にまかせてみましょう。遠くかすか
に聞こえるか細い歌声でもよいでしょう。すぐ近くから聞こえる元気な
歌声でもよいでしょう。メロディーのついた歌声でもよいでしょうし、
リズムがついただけの単なる読み言葉でもよいでしょう。児童一人一人
の自由な独創的な歌声表現にまかせましょう。
  いずれにせよ、この作品全体を、楽しく、笑顔で、表情をいれて、
声高に、元気よく、天子の声で、音声表現させましょう。

  

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