音読授業を創る  そのA面とB面と         03・9・18記



 
「くじらぐも」の音読授業をデザインする


                    
●「くじらぐも」(中川李枝子)の掲載教科書…………………光村1下




            
教材化の視点


  くじらぐも」は、小学校1年生の好奇心や冒険心をかきたて、想像力が
容易にふくらみ、楽しく読んでいける物語です。空に現れたくじらの形をし
た雲が運動場の子ども達と一緒になって体操をして遊ぶなんて、子ども達の
興味をにくらしいほど引きつけます。一年二組の子ども達はくじらぐもに
のって大空を散歩します。学級児童たちの空想は思い切りふくらみ、自由気
ままに楽しく想像世界に遊ぶことでしょう。

 「くじらぐも」は、三人称限定の視点で描かれています。読み手は三人称
のある人物の目や気持ちに寄りそって読んでいくことになります。語り手は
外から作品世界を客観的に描いていますが、ときにくじらぐもや子ども達の
目や気持ちに重なり、半ば入り込んだみたいになって物語っています。です
から、読み手は淡々と客観的に読んで作品世界を事実として読者(聞き手)
の前へポンと差し出している読み方と同時に、ときに半ばくじらぐもや子ど
も達の目や気持ちに入り込んだみたいな読み方にもなる。この二つがないま
ぜになった形で音声表現していくこととなります。

 例えば、「一ねん二くみの子どもたちがたいそうをしていると、そらに、
大きなくじらがあらわれました。「一、二、三、四。」部分を読むときは、
これら事実そのものの場面全体をそのまま前へポンと差し出す客観的な読み
方になると同時に、音読している学級児童はときに一年二組児童に半ば入り
込んでくじらぐもに視線を送り、一緒に自分も体操している気持ちになって
いるかもしれません。入り込み方の程度はいろいろありましょうが、そうし
たないまぜの目や気持ちになって音読していくのがふつうです。

 「みんながかけあしでうんどうじょうをまわると、くものくじらも、空を
まわりました。」部分では、学級児童たちは一年二組の「みんな」に半ば入
り込んで運動場を回っている楽しい気持ちで音読している子が多いのではな
いでしょうか。

 「せんせいがふえをふいて、とまれのあいずをすると、くじらもとまりま
した。」部分では、自分を先生に同化する児童は少ないでしょうから、この
場面では外から出来事(事実)を冷たくポンと差し出す気持ち(思い)で音
読していると思われます。または、自分達が運動場で体操をしている場面を
想像し、その中にいて、先生とくじらの行動を対象化して表象しているので
はないでしょうか。


         
一年生後期の音読指導重点


 「くじらぐも」は、光村本で10月配当の教材となっています。単元は
「こえにだしてよもう」です。音読重点指導の単元です。一年生は10月に
なると、ひらがなの読みにも慣れ、文章を声に出して読むことに興味を示す
時期です。すらすらつかえないで、早口に読むのがが上手な読み方だと考え
ている児童がいます。早口競争読みのゲームを、子供同士で楽しむ子もいま
す。早口読みは、文字列をすばやく目でつかみ、すばやく意味のまとまりを
声にして出すという読みの訓練には効果的な方法です。一字一字の拾い読み
を脱却させるにはよい方法です。

 早口読みができるようになったら、早口読みが上手な読み方だという考え
方は誤りであることを知らせなければなりません。早口読みは、どうしても
短時間で文末まで到達しようとして意味内容の区切りにかまわずに、区切ら
ずに素早く読むことになります。この読み方は、下手な音読であることを知
らせます。上手な音読とは、意味内容の区切りで切り、つなげるところはつ
なげ、意味内容がきちんと声になって外に出るように音読することだと知ら
せます。

 一年生後期の音読指導は、次の三つに重点をおきましょう。

(1)十分な声量
   現代の子ども達の声の衰弱が叫ばれています。蚊のなくような小さな
   声でしか読まないのです。どなるような、ばかでかい声もよくありま
   せん。教室内に十分にひびく、よく通る声、そして子どもらしい、天
   子のような澄んだ響きのある声で文章を読ませたいものです。張りの
   ある、ひびく声で、はぎれよい発音で読ませたいものです。ひびく声
   の出し方は、拙著『表現よみ指導のアイデア集』81ぺ〜90ぺ参
照。

(2)ゆっくりと
   つかえないで、すらすら読むのが上手とする、早口読みはいけませ
ん。早口読み・ゆっくり読みの二つを教師が実際にやってみせ、二つを比較
させます。ゆっくり読みがよいことを分からせます。ゆっくり読むとひとり
でに意味内容が音声にのるようになります。急いだ、あせった読み方では意
味内容が音声にのりません。早口読みをしないようにさせます。

(3)区切りの間
   意味内容のまとまりごとに区切り、つなげて読むべきところはつな
   て読み、切るべきところは切って読み、文の意味構造をおさえて読む
   ようにさせます。間を開けて読むことは、とても重要なことです。朗
   読プロ達の読みを聞いていて、すばらしさの程度を決定するのは、絶
   妙な間のあけ方、間のあけ方の微妙なタイミングにあります。間を開
   けることはとっても大切です。


             
区切りの間


 一年生後期の音読指導のポイントは、「十分な声量、ゆっくりと、区切り
の間」の指導、前述したようにこの三つです。区切りの間のとりかたの例示
をしてみよう。冒頭部分を括弧でくくって具体的に例示してみよう。以下
は、一つの例示であり、この通りでなければならないということではありま
せん。一つの例示、参考としてとして受けとってください。括弧の中でも小
さく間を開けてもよい個所がありますが、つながる感じだけは音声に出てい
る必要があります 。

 (四じかんめのことです。) (一ねん二くみのこどみたちが) (たい
そうをしていると、) (空に) (大きなくじらがあらわれました。) 
(まっしろいくものくじらです。)
 (「一、二、三、四。」)
 (くじらも、たいそうをはじめました。) (のびたりちぢんだりし
て、) (しんこきゅうもしました。)
 (みんながかけあしでうんどうじょうをまわると、) (くものくじら
も、空をまわりました。)
 (せんせいがふえをふいて、とまれのあいずをすると、) (くじらもと
まりました。)


          
地の文と会話文との区別


 物語は、地の文と会話文とからできています。地の文と会話文では音読に
違いがあることを教えます。一年生用語で「地の文」を「説明している
文」、「会話文」を「話している文」・「お話し文」・「かいわぶん」など
と名づけ(ほかの呼び名でもよい)て指導するとよいでしょう。

 会話文は「お話しているように読む」・「しゃべっているように読む」、
地の文は「説明しているように淡々と読む」などと、実際に音読を聞かせた
り、やらせたりしながら理解させます。重要なことは二つの音調の違いを理
屈で説明するだけでなく体験的に声に出して身体で理解させることです。

 体操をしているときの「一、二、三、四。」や「まわれ、右。」は先生の
号令です。先生が号令をかけている音調、大声で・力強く・リズミカルな号
令口調で読ませましょう。子ども達の中には、顔を真っ赤にしてどなり声で
読む子もいます。これはやりすぎです。担任が運動場で号令をかけていると
きを思い出して、それをまねさせます。

 地の文は、登場人物たちの行動、行動の意図や理由、心理感情、自然描写
などを記述している文章です。地の文の読み音調は淡々と説明しているよう
に、感情をおさえて読めばいいことを実際に音声表現をさせて分からせま
す。


          
集団読みと動作化を


文章範囲
   みんなは、手をつないで、まるいわになると、
  「天までとどけ、一、二、三。」
  と、ジャンプしました。でも、とんだのは、やっと三十センチぐらいで
  す。
  「もっとたかく、もっとたかく。」
  と、くじらがおうえんしました。
  「天までとどけ、一、二、三。」
  こんどは、五十センチぐらいとべました。
  「もっとたかく、もっとたかく。」
  と、くじらがおうえんしました。
  「天までとどけ、一、二、三。」

●指導のねらいと方法
 
ここの文章部分を、集団読みと動作化をとりいれた音読授業をしてみま
しょう。

 会話文があるときは、はじめに「この会話文はだれが話しているか」を
はっきりさせることが重要です。ここでは、子ども達とくじらとの大声での
応答であることをはっきりさせます。子ども達の会話文は学級児童全員で声
をそろえて読もう、と誘いかけます。地の文を読む児童、くじらの会話文を
読む児童、学級児童全員での役割音読をします。子ども達は喜びます。

 次に、学級全員がお互いに手をつなぎ、まるい輪を作ります。全員で「天
までとどけ、一、二、三。」と言ってから、ジャンプさせます。「三」と
言ったらジャンプすることにします。くじら役を1名または5,6名ぐらい
配当し、くじらの会話文を斉読させます。「くじらは、おうえんしまし
た。」ですからいっぱい応援している気持ちをこめて声に出させます。地の
文は1名または3、4名ぐらい配当し、地の文個所を読む人のナレーター役
を作ります。

 一回目は三十センチ、二回目は五十センチ、三回目は成功(雲に飛び乗れ
た)です。ですから、回を追うごとに、掛け声は力が入って、はずんだ大声
で、ジャンプはより高く、というのはむずかしいかな。そんな思い・気持ち
をこめて、集団読みと動作化をとりいれた楽しい国語授業をしてみましょ
う。

           
緩急変化をつけて


 文章の意味内容によってスピードをあげて読む文章部分、反対にスピード
を落として読む文章部分があります。
 はじめにスピードをあげて読む文章個所について書きます。

文章範囲
 「そのときです。いきなり、かぜが、みんなを空へ」から「手をつないだ
まま、くものくじらにのっていました。」まで。

指導のねらいと方法
 この場面は、現実から非現実の世界へと移行している文章個所です。子ど
も達はスローモーションで雲へ飛び乗ったのではありません。「いきなり、
かぜが、みんなを空へふきとばしました。」です。一瞬の出来事です。あっ
というまの出来事です。先生も子ども達も雲に飛び乗ったことに気づかな
かったほどでしょう。

 ですから、ここの文章部分はスピードをつけて素早く音声表現するとよい
でしょう。素早く読むことで、一瞬の出来事であるということを音声で表現
するのです。

 素早く読むとはいっても、区切りの間がなく、ずらずらと棒読みにして、
早口読み競争の音読になってはいけません。これでは場面の様子が音声にの
かってきません。区切るべきところは区切って読み、つづけて読むべきとこ
ろはつづけて「早口で」読むということです。

 つぎの括弧の中はつづけて読む個所ですから素早く読み、区切り個所では
きちんと間を開けて読むようにします。 素早く読むとはいっても程度があ
り、バカがつくほどスピードをあて、素早く、早口読み競争にする必要はあ
りません。

  (そのときです。)
  (いきなり、かぜが、)(みんなを空へふきとばしました。)(そし
て、あっというまに、せんせいと子どもたちは、)(手をつないだまま、く
ものくじらにのっていました。)

 次はスピードを落として、ゆっくり読む文章部分です。

文章範囲
 「さあ、およぐぞ。」くじらは、あおいあおい空のなかを、」から「空
は、どこまでもどこまでもつづきます。」まで。

指導のねらいと方法
 ここの文章場面は、ゆっくりとスピードを落として読むようにします。雲
に飛び乗ることができ、子ども達も先生も、くじらも、読者も、ほっとして
います。子ども達の興奮度も落ち着いてています。当初よりも、心が休んだ
気持ちになっています。大きなくじらの形をした雲が子ども達を乗せてゆっ
くりと空を進んでいます。ですから、ゆっくり進んでいる様子が音声に表現
されるようにします。

 ゆっくりと音声表現するには、こうするとよいでしょう。一字一字の間を
開けて、ゆっくりと読むのではありません。これでは間のびして聞くに堪え
ない音声表現になってしまいます。
 低学年の国語教科書は文節分かち書きになっています。分かち書きの区切
りの部分の一字あきのところで間を開けて読むようにします。文節内部はふ
つうの速さでつなげて読みす。文節と文節とのつながり個所で、くじらぐも
がゆっくりと進んでいる雰囲気が出るように、そこの文意に応じて、軽くま
たはたっぷり間をあけて読むようにします。文節とは、意味の通じる最小単
位で区切ったものことです。

 ここで気をつけることは、文節ごとのぶつぎり読み(断止する)になって
はいけません。文節と文節とのあいだで間をあけて読むとはいっても、主述
の照応や文と文との連接関係が分かるようでなければいけません。主語と述
語のひとまとまり、文と文との連接が順接か逆接か断止か、これらの気持ち
や思いが音声にのっかって聞こえるようでなければなりません。

   
             
関連資料

  
本ホームページの第19章第1節「その他の物語文、群読の読み声例」
の「読み声例3・くじらぐも」録音を聴取してみよう。


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