音読授業を創る そのA面とB面と        07・9・12記




「けんかした山」の音読授業をデザインする


                

●「けんかした山」(あんどうみきお)の掲載教科書……………教出1上



            
作者について


  安藤美紀夫(あんどうみきお) 京都市生まれ。昭和15〜平成2。児
童文学作家。イタリア児童文学研究家。本名・安藤一郎。京都大学文学部イ
タリア文学科卒。在学中に「夏子のスケッチブック」が毎日新聞児童小説コ
ンクールに入選する。
  北海道での英語の高校教師を18年間勤務したのち、東京に居を移し、
日本女子大学家政学部児童学科の教授を勤める。はじめ、イタリア児童文学
研究家として論文、翻訳を発表していたが、北海道の自然を描いた創作「白
いりす」により創作活動を開始する。創作のみでなく、児童文学の評論、イ
タリア児童文学の翻訳などでも幅広く活躍する。
  サンケイ児童出版文化賞、高山賞、国際アンデルセン賞国内賞、野間児
童文芸賞など受賞。
  評論に「児童文学とは何か」「児童文学の散歩道」「児童文学マニュア
ル」「北欧東欧の文学」「日本児童文学の特色」
  物語に「いじめっこやめた」「ジャングルジムがしずんだ」「でんでん
むしの競馬」「とらねこトララ」「ローダリのゆかいなお話」など。



             
教材分析


題名よみ

  題名は「けんかした山」です。山がけんかした? どんなけんかなんだ
ろう? と、児童たちは、この物語への興味や関心を示すことでしょう。
  けんかにも、いろいろあります。つかみ合いのけんか、言い合いのけん
か、おふざけのけんか、おしゃべりを楽しむだけのけんかなど。
  題名から予想して、この物語はどんな内容か、数名の児童を指名して予
想を語らせましょう。
  予想にあまり深入りをして長くならないようにしよう。おもしろそうだ
ね、だれの予想が当たっているだろう、先を読みたいね、では読んでいきま
しょうか、と物語への興味関心を持たせて、本文に入ります。


第一場面
  第一場面には、だれとだれがけんかをしているか、なぜけんかをいてい
るか、けんかの原因が書いてあります。
  「せいくらべ」の「せい」とは身長のことです。「せいが高い」とか
「せいが低い」とか、子ども達は日常的に使っています。多くの子どもが
子ども同士で実際に「せいくらべ」をした経験があることでしょう。この物
語は「せいくらべ」の語句が分からないことには始まりません。「せいくら
べ」体験の話や、教室で実際に「せいくらべ」をしてみたらどうでしょう。
  人間の場合は身長が高い、低いで人間的優劣がどうこう言われることは
ありません。しかし、山は高い、低いで優劣があるのでしょう。低いより高
い山の方が人目につきやすく、話題としても取上げられることが多くありま
す。低い山より高い山の方が「おれは偉い」と自慢できるのでしょう、誇れ
るのでしょう。
  この物語では、二つの山は高さが似たりよったりで、同じほどで、毎日
毎日、せいくらべばっかりしていると書いてあります。せいくらべをして
は、「今日はAのほう高い」「今日はBの方が高い」と高さを競い合ってい
るようです。高さを競い合っては自慢したり、がっかりしたりしているよう
です。多分、日にちによって高さが違っていたのでしょう。それほどに高さ
が接近していたというか、高さが鼻先の違いしかなかったようです。
  毎日がせいくらべの競い合いの繰り返しなもので、日によって高さが逆
転していたので、二つの山は相手に負けたくないものだから、しだいしだい
に感情的な対立に発展していき、やがて憎悪や敵意にまで発展していったよ
うです。
  二つの山は、毎日、どんな言葉を投げかけ合っていたのでしょうか。児
童に想像させて、語らせてみよう。
  お日さまは、二つの山に「けんかをやめろ。」と言っています。ほかに
どんな言葉を投げかけたのでしょう。児童に想像させて、語らせてみよう。
表現的な語り口・言いぶりで言わせてみましょう。


第二場面
  お日様の男性的な言葉かけの物言いに比べてお月様の物言いは女性的で
すね。どこから男性的とか女性的とか言えるか、表現をおさえて語り合って
みましょう。
  もし、御月様の言い方を男性の言い方・言いぶりにするならばどんな
しゃべり方になるのでしょうか。御月様の女性的な言い方・言いぶりを更に
ていねいな物言い・言いぶりにするとどんな言い方になるのでしょうか。こ
れらも語り合って実際にやらせてみましょう。
  「どうぶつたち」とは、個物名で挙げると、どんな名前が挙がるでしょ
うか。ここで上位概念(まとめることば)と下位概念(ひとつひとつのこと
ば)についての指導もできますね。
  動物達が「あんしんしてねていられない」という状況は、どんな事態を
いうのでしょうか。話し合ってみましょう。「うるさい声、すごい騒音、や
かましい怒鳴り声、大地が揺れる、地響きがする」などで寝てはいられない
などと予想ができますね。
  「ねぐらで、安心して寝ていられる状態」や「ぐっすり寝ていられる
状態」とはどんな状態か、そんなことも同時に話し合ってみましょう。
  動物達は、けんかしてる山にどんなことを言った(お願い・要求)で
しょうか。それに対して山は何と答えたでしょうか。そんなことも語り合っ
てみましょう。表現的な語り口・言いぶりで言わせてみましょう。


第三場面 
  子ども達は、テレビなどで火山が噴火している映像や山火事の映像を見
たことがあるでしょう。見たことがあれば、本文場面のありありした表象化
は容易にできることでしょう。
  火口からは、大小の溶岩が高く、真っ赤になってはねあがり、同時に
真っ赤な溶岩流がすごい勢いで噴き出しています。真っ赤な溶岩流が太い幾
筋もの流れとなって麓へと煙を出しながら流れだしていきます。
  「りょうほうの山がまけずに」と書いてあります。相手に負けまいとし
ている噴火の競争です。そのすさまじさは想像を絶することでしょう。
  溶岩流で緑の木々はひとのみにされ、または燃え出し、山の動物達はあ
わてて、あっちへこっちへ逃げまどっていたことでしょう。あっちも、こっ
ちも火の海です。どちらへ逃げたらよいか迷っています。火炎に巻き込まれ
ている動物達もいることでしょう。
  空を飛ぶ鳥達は、地上の動物達と比べて比較的安全な場所にいます。鳥
達は地上の様子を見て、地上の様子を口ぐちに言い合っていることでしょ
う。鳥達はどんなことを語り合っているのでしょうか。発表させてみましょ
う。表現的な語り口・言いぶりで言わせてみましょう。


第四場面
  「お日さまは、くもをよびました。」と書いてあります。どんな言葉で
呼びかけたのでしょうか。お日さまの呼びかけ言葉を考えさせ、表現的な語
り口・言いぶりで言わせてみましょう。
  「くろくもが、わっさ、わっさとあつまって、どんどんあめをふらせま
した」と書いてあります。「わっさ、わっさ」とは、どんな様子なのでしょ
うか。黒雲たちがあっちから、こっちから、大きな黒雲や小さな黒雲や、い
ろいろな形をした黒雲たちが寄り集まってきたことでしょう。それら様子を
イメージさせましょう。
  黒雲たちは寄り集まるとき、どんどん雨を降らせているとき、どんなこ
とを思ったり、言い合ったりしていたことでしょうか。どんな言葉(会話
文)を発していたでしょうか。学級全員で語り合ってみましょう。それら言
葉を表現的な物言いで、リアルな音調で呼びかけたり、ひとり言させたりし
てみましょう。
  火の消えたあとの二つの山は、しょんぼりしています。人間がしょんぼ
りしている動作化をさせてみて、「しょんぼり」の語彙的な意味を理解させ
ましょう。「しょんぼり」の気持ちを身体動作で表現させてみましょう。火
の消えてしまったあと、二つの山の様子はどんなしょんぼりした姿を現した
か、二つの山の姿を想像し、語り合ってみましょう。
  山の動物たちは、二つの山に向かってどんなことを言ったのでしょう
か。二つの山への非難の言葉がいっぱいでしょう。学級全員でそれを出し合
う語り合いでは、非難だけでなく、今後の激励の言葉かけも言わせたいもの
ですね。
  一年生の子ども達は、これら出来事に対してどんな感想意見を持ったで
しょうか。二つの山に、動物たちに、どんな言葉を言ってあげたいのでしょ
うか。語らせてみましょう。書かせてもいいですね。


第五場面
  「なんねんも、なんねんも、たちました。」と書いてあります。1年、
二年、三年、四年、五年、六年………十年、二十年、三十年、四十年………
ということでしょう。現一年生は、若者となり、父母となり、祖父母となる
長い年月の経過で、時間の長さ・経過について表象させることが必要です
ね。
  「山はすっかりみどりにつつまれました。」と書いてあります。二つの
山のけんかはどうなったのでしょう。すっかり仲直りしたのでしょう。山の
動物達の暮らしはどう変化したのでしょうか。「すっかりみどりにつつまれ
た」という文からすべては想像でき、解答が出てきますね。くわしい話し合
いをして、イメージ豊かに想像させてみましょう。



            
音声表現のしかた


   本教材は一年生教科書で9月に配当となっています。この頃の一年生児
童は一字一字の拾い読みやたどり読みは卒業している時期でしょう。9月で
すので、大多数の一年生児童はこれらを卒業しているはずです。まだの児童
でも個別指導や励ましですらすら読みができるまでにそう時間はかからない
でしょう。
  この時期の一年生の音読指導は、次の三つに重点をおくようにします。
(1)りんりんと響く、大きな声で読める。
(2)拾い読みでなく、語や文節や意味の切れ目で区切って読める。
(3)地の文と会話文とを区別して読める。

  もう少し欲張って言えば、次のようなことも指導してみましょう。
  子ども達は、上手な音読とはつっかえないで、早口で、すらすら読める
ことだと考えているようです。つっかえたり、読み間違えたりしないこと
は、大切です。しかし、わけもなくすらすらと早口競争読みをしたり、意味
内容を考えないで表面をずらずら読み流すだけではいけません。学級全員に
届く声の大きさで、響く・よい声で、意味内容を考えつつたっぷりとゆっく
りと音声表現することが重要です。
  一文ごとに句点(まる)までは、イメージを頭の中に浮かべて、ゆっく
りと読むようにします。「たかい山がならんでたっていました。」の文なら
ば、二つの高い山をイメージして、ならんで位置する二つの山の様子を頭の
中に浮かべつつ音声表現するようにさせます。イメージを浮かべれば、そし
て、浮かんだイメージを声にのせようと意識すれば、早口競争のすらすら読
みにはならないはずです。
  一年生の後半ともなれば、会話文と地の文との違いがあることも指導し
ましょう。
  会話文はおしゃべりしているように、話し手の気持ちを押し出して音声
表現するように指導します。  
  地の文は、淡々と冷たく音声表現します。事柄を説明し、解説している
ように、思い入れや感情を抑えて、折り目正しい音調で、音声表現します。
  入門期の音読指導の詳細については、荒木HPのトップから「表現よみ
の授業入門」の中の一章「一年生・入門期の音読指導」をお読みください。


第一場面
  「けんかをやめろ」の会話文、誰が誰に向かって語った言葉でしょう。
こうしたことは基本的なことですので、当たり前のことだからと確かめ抜き
にしないで、ちゃんと押さえてから実際の会話文の音声表現をするようにし
ます。
  どれぐらいの声の大きさで語ったのでしょう。強い命令の言いぶりで
す。ただし、どんな言いぶりですか、と理詰めで子ども達に問いかけていく
よりも、まず実際に音声表現させてみて、何人かに読ませて、その中から
ぴったりした音声表現を選択させます。結果的に全員でぴったりだと選択し
た読み声がいちばんぴったりした読み声「強い命令の言いぶり」だったとい
うような指導がよいでしょう。理詰めで「どんな読み声で読みますか」と問
いかけるよりは、まず声に出させてみることです。そして、よりぴったりし
た読み声を身体で分かって・判断して、選択していくようにします。いちば
んぴったりした読み声を学級全員でまねさせます。こうして上手な読み声を
身体に響かせて身につけていくようにします。


第二場面
  お月さまの会話文がここでの音声表現指導の重点となります。お日さま
の男言葉の言いぶり、お月さまの女言葉の言いぶり、二つを対比しながら、
お月さまの会話文を実際に声に出して、役割音読にして練習していくように
します。


第三場面
  「どっと」は「火をふきました」にかかる用言修飾です。「どっと」は
「火をふきました」の最下部までつながっていく意識で音声表現します。
  「どっと」の「ど」を高く強く読み、一斉にドカスカと噴火の火柱が高
く吹き上がっている様子を、音調として、声に出す工夫をするとよいでしょ
う。
  「あっというまに」は、通常はひとつながりで使われる慣用句です。
≪「あっ」というまに、「あっ」という言葉のあいだに≫ではありません。
「あ」が突出して高く発音する読み方でなく、全体に平ら、平板なアクセン
トです。この慣用句の成立の源は≪「あっ」というまに、「あっ」という言
葉のあいだに≫なのでしょうけれども、現在はひとつながりの慣用句として
使われており、全体が高低変化なく、平板なアクセントになっています。
  「ことりたちがくちぐちにいいました。」と書いてあります。子ども達
に「口々に言う」実演をさせると楽しく学習できるでしょう。また、場面が
分かりやすくイメージできる読解指導になるでしょう。
  数名の小鳥役、一名のお日さま役の配役を作って役割音読をさせます。
数名の小鳥達がお日さま役に向かって、わずかばかりに時間をずらして「お
日さま、はやくくもをよんで、あめをふらせてください。わたしたちもよび
にいきますから。」をバラバラに言わせます。そのほかの呼びかける場面を
作る音読方法があるでしょう。いずれにせよ、口々に、ばらばらに言えばい
いのです。


第四場面
  黒雲が、「それ一大事」とばかりに、あっちから、こっちから、二つの
山をめがけて集まってきます。一斉に集まってくる様子が声に出るように
「わっさ、わっさ」をもう一、二回繰り返して、この地の文の中に付け加え
て音声表現すると、そのイメージが増幅するのではと思います。
  同じように「どんどん」をもう一、二回繰り返して、この地の文の中に
付け加えて読むと、そのイメージが音調で増幅するのではと思います。繰り
返しを入れた一斉音読をさせると子ども達は大変に喜びます。ただし、むや
みやたらにリピートを入れることはよくありません。
  「火のきえた山は、しょんぼりとかおをみあわせました。」は、山が
がっかりして、しょんぼり、落胆し、気持ちがめいっています。この文全体
を、小さい声で、声を落として、しょぼんとしている気持ちをこめて音声表
現させましょう。声を低めて、ゆっくりと、ぽつりぽつりと読み下していき
ます。
  「しょんぼり」の音調をどう音声表現するとよいか、その工夫をさせて
みましょう。首をたれて「しょんぼり」した動作をしながら音読するのも
一つの方法でしょう。


第五場面
  「1ねん、二ねん、三ねんたちました。なんねんも、なんねんもたちま
した。」の文章部分を、

(1)早口で一気に読む。
(2)「一ねん(間) 二ねん(間) 三ねん(間)たちました。(間)な
    んねんも(間) なんねんも(間) た・ち・ま・し・た・」

のように二通りに読む。
  (1)と(2)との読み方を先生がやってみせます。どちらの読み方が
よいか、みんなで話し合います。(2)がよいこと、ゆっくりと時間が過ぎ
ていく様子が声に出ていることを分からせます。その読み方を子ども達に模
倣させて練習させます。
  「山はすっかりみどりにつつまれました。」は、晴れやかな、明るい、
元気よい声で音声表現するとよいでしょう。緑いっぱいの山、平和な山の世
界が来ました。喜びに満ちた、さわやかな、晴れ晴れした声で読むようにし
ましょう。

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