音読授業を創る そのA面とB面と 08・5・16記 はじめは「や!」の音読授業をデザインする ●「はじめは「や」」(こうやまよしこ)の掲載教科書…………学図1下 作者(こうやまよしこ)について 香山美子(こうやま よしこ)。1928年、東京に生まれる。金城女 子専門学校国文科を卒業。旧姓:石井。児童文学作家の香山登一と結婚、香 山姓となる。58年からNHKラジオ・テレビの幼児番組の台本を手がけ、 幼児の遊び歌の世界に新風をふきこむ。ユニークな発想とリズミカルな文体 による作品が多い。詩、童謡、絵本、児童文学など多方面に活躍。日本児童 文学者協会、日本童謡協会、詩と音楽の会の会員。 放送・レコードのヒット童謡に「いとまきのうた」「おきゃくさま」 「ピュットさん」「おはなしゆびさん」「おべんとうばこのうた」「げんこ つやまのたぬきさん」「山のワルツ」などがある。 「五つのおくりもの」「いたずらこびと」「おはなしゆびさん」「事件 のはじめはネコ三びき」「かっぱのおさら」など。 教材分析 ☆登場人物は、「くまさん」と「きつねさん」の二人です。 ☆二人は、どこで、何回、会っているでしょうか。 一年生には、「ストーリーの流れをはっきりつかませる」ことが先ず重要で す。この物語の場合はそれとともに「どこで、何回会ったか」をつかませる ことも重要です。 第一回目の出会い……お手紙を出しに行く途中で 第二回目の出会い……ポストに手紙を入れた後の大通りで 第三回目の出会い……信号のある道路を横断してるとき 第4回目の出会い……みどりの公園のベンチで 第五回目の出会い……次の日、散歩している途中で ☆二人が言葉を交わさなかった場所は、どこだったでしょうか。 第一回、第二回、第三回までは、二人は言葉を交わしていません。しかし、 二人はお互いに相手を意識してはいます。「意識してる」とはいっても、強 いものではなく、相手の存在に気づいている、初対面からお互いに相手をそ れとなく見ていて知っているという程度です。 第一回 「くまさんは、きつねさんを見ました。きつねんも、くまさんを見 ました。でも、ともだちじゃないから」言葉を交わさなかった、と 書いてあります。 第二回 「(あ、さっきの きつねさんだ。)くまさんは おもいました。 (あ、さっきの くまさんだ。)きつねさんも おもいました。」 と書いてあります。 第三回 「でも、くまさんと きつねさんは、ともだちじゃないから 気が つきません。」と書いてあります。第三回目は、お互いに視覚に 入らなかったとも読みとれます。くまさんだけは気づいていた、と も読みとれます。二人とも気づいていた、とも読みとれます。 ☆二人が始めて言葉を交わした場所は、どこだったでしょうか。 くまさんが公園のベンチに座っていると、向こうからきつねさんが荷物を いっぱい抱えてこっちにやってきます。くまさんはベンチに置いていた帽子 をどけて、ここへどうぞ、という気持ちで席を空けて待っています。きつね さんが隣の席に坐りました。しかし、暫時、二人は黙っていました。が、く まさんはコンタクトを持ちたいという気持ちがあった。 それで、へんな顔付きや、にやけた顔付きでなく、真面目にすました顔つき にして、気持ちよい顔付きにして、きつねさんに嫌われない顔付きにして、 「や。」と言います。対面して、明るい声で、軽く言ったのでしょう。これ が「すこし すまして」と書いてあるわけなのだと思います。 きつねさんの会話文は、「……や。」と書いてあります。前部の「……」 は、初めて言葉をかけられたので、きつねさんは、とまどいや、ためらいの 気持ちがあったのでしょう。返事しようか、どうしようかなあ、なにか応答 しなければなあ、という思いが心をよぎったのでしょう。初めて話しかけら れたので、軽い驚きや、とまどいと同時にうれしい気持ちもあったのでしょ う。そうした思いが心に浮かんだ暫時の間を置いて「や。」と返答したほう がよいでしょう。 ☆二人は言葉を交わすようになって、どうなったでしょうか。 第五回の出会いでは、「おもわず」と書いてあります。これは出会いと同時 に自分から積極的に笑顔で「やあ やあ やあ。」と思わず言っているので しょう。音読するときは、この場合の会話文は二人が同時に、一斉に「やあ やあ やあ。」と挨拶させてもよいでしょう。実際場面はそうだったので しょうが、本の活字は線条的にしか書けませんので、活字ではずれた時間経 過でしかかけませんので、二つの「やあ やあ やあ。」は、音声表現する ときは時間の間隔を置いて別々に音声表現するほかありません。 二人は言葉を交わすようになった結果、「とっても とっても うれしく なって、いちばんの ともだちに なりました」です。 この物語は、結果として、挨拶することの重要さを知らせています。この物 語のテーマは、ひとことで言えばこういうことでしょう。が、文学として は、そこへいきつくまでの経過のおもしろさを十分に楽しむことにありま す。 音声表現のしかた ☆第一回目の出会いの場面☆ 会話文は、すべて誰が語っているのか、話し手をはっきりっせることが先ず はじめに必要です。かぎかっこの上部に、話し手の名前を鉛筆で書かせるの もよいでしょう。 「いい お天気で、いい 気もち。」は、話し手は、くまさんです。どんな 気もちで言っているでしょうか。話し合ってみましょう。 「きょうは、いーーい天気で、すかーーとした気持ちで、いーー気持ち」と いうような気持ちでしょう。うれしそうに、楽しそうに、明るい声で、調子 をつけて、高めの声で、はずんだ声で、うきうきした感じの声で、語ってみ るとよいでしょう。 きつねさんの歩行の調子は、「スタタ スタタ スタタ」です。子ども達に どんな調子で読めばよいか、問いかけてみよう。身軽な感じですね。三拍子 でリズミカルな調子の繰り返しですね。弾んでいる調子で、軽く、リズミカ ルに、調子よく読んでよいでしょう。 「くまさんは、きつねさんを 見ました。」と「きつねさんも くまさんを 見ました。」とは、並列し、対比しています。二つの区切りをはっきりと 読み、二つのまとまりが、並ぶように音声表現しましょう。 「でも、ふたりは 」の「で」の前で、転調します。やや高めの声立てにし て「でも」の「で」を読み出します。こうして意味内容がすんなりとつなが らないこと、つまり逆に(反対に)つながっていることを音声で知らせてい きます。 二つの「………。」が、並んで書いてあります。くまときつねが語った文の かぎかっこであることを知らせます。かぎかっこの中は、普通はしゃべった 言葉が入るのだが、しゃべり言葉がなかった、二人は何も話さなかった、だ から、かぎかっこの中は点点になっていることを分からせます。 二つの「………。」の音読についてだが、意味内容では、二人は黙ってい た、ということです。次に「だまって とおりすぎました。」」と書いてあ るので、ほんとうは二つの「………。」は記述する必要はなかったのです が、つまり、書かなくてもよかったのですが、書くことのよって視覚的によ り分かりやすくなるので、作者としては話さなかったことを視覚的にも分か らせて明確にするために、二つの「………。」を記述しているのだと思いま す。 ですから、二つの「………。」の音読のしかたは、「………。」の一つずつ に2個分の間をあけて、つまり計4個分の間をあけて、そして「だまって とおりすぎました。」と読み進めていく方法があります。 または、「だまって とおりすぎました。」と書いてあるので、その前の二 つの「………。」は間を開けないで、続けて「でも、ふたりは ともだち じゃないから、だまって とおりすぎました。」と直ぐつなげて読み進めて いく方法もあります。 ☆第二回目の出会いの場面☆ 「ポトリ」は、擬音語でしょうか、擬態語でしょうか。どっちちかずが多い ですから、オノマトペと呼ぶこともあります。手紙が落ちた音や様子が分か るように、軽く、音声表現するとよいでしょう。区切りは、(くまさんは 手がみを ポトリ ポストに 入れると、)(すぐに かどを まがって、 町へ さんぽに いきました。)のように、ひとつながり個所、間をあける 個所をはっきりとって読むようにします。 「きれいだね。」は、驚いて、感動して、ちょっとオーバー気味に音声表現 してみるとよいでしょう。 (あ、さっきの きつねさんだ。) (あ、さっきの くまさんだ。) の二つは、ひとりごとです。多分、声として口から出ていないでしょう。二 つとも「おもいました」と書いてありますね。頭の中だけの言葉操作です。 ですから、口の中でひとりごとしている口ぶり・言いぶりにして、ぼそぼそ と読むようにします。元気よく、そうだ、分かった、というように大きな声 にして読ませてはいけません。 (あ、さっきの きつねさんだ。)くまさんは おもいました。 (あ、さっきの くまさんだ。)きつねさんも おもいました。 上段はひとつながりにして音声表現していきます。下段もひとつながりにし て音声表現していきます。上段と下段とのあいだでは、意味内容が切れてい ますので、区切りの間をしっかりと開けて読むようにします。 会話文には、二種類があることを知らせましょう。「対話の会話文」と「ひ とりごと」の会話文です。 かぎかっこの会話文には、相手と話している対話の会話文と、自分との心内 対話や、声に出てない考えごとことばや、頭の中に思い浮かんだ、または思 い出しの独り言などがあります。実際に目前の誰かと対話している会話文と 区別して音声表現するようにさせます。この二種類を読み分ける指導が大切 です。 対話の会話文は「 」の中に書き、独り言の会話文は( )の中に書く ことが多いです。必ずしもそうとは限りませんが、そうした書き分けが多い です。本教材文も、そうした書き分けをしています。児童に、そうした書き 分けをしていることに気づかせましょう。 「でも、ふたりは」の「でも」は、第一回で書いたことと同じ音声表現の仕 方です。転調した読み出し方にするとよいでしょう。 第二回目の二つの「………。」は、第一回目と比べたら、「あ、さっき 会った 誰々だ」とか「よく出会うなあ」とか、いろんな思いが心に浮かべ たかもしれません。それで第一回目のときよりは二人の心内語が多かったと も予想されます。それで、ここは、やや間を開けて読んだ方がいいと考えら れます。 ☆第三回目の出会いの場面☆ (くまさんは、しんごうが 青に なったら、)(むこうの 本やさんに いくつもりです。)(ちょうど その とき、)(みちの むこうがわで、 きつねさんも まって いました。) (あっちと)( こっちから、)(おうだんほどうを あるきはじめまし た。) のようなひとつながりと、区切りの間のあけかたで読むとよいでしょう。 「ソ・ソ・ソ・ソ・ソ・ソ」は、小走りで、速足みたいな感じの歩き方の表 情に感じ取れます。「ドタドタ」とか「ドシン ドシン」のような歩き方で はありませんね。軽く、急いでいるみたいな感じの足音にして音声表現する とよいでしょう。 ここの「でも」の音声表現は、前と同じです。転調の音声表現にします。 ここの二つの「……。」も、第二回の出会い場面とおなじような、間あけ、 間なしの音声表現にしてよいでしょう。わたし・荒木なら、二つの 「……。」個所は、「しらーーんぷり」と頭の中でひとり言して、その文を 読む時間の間だけをあけて、そして次の文「だまって とおりすぎまし た。」と読み進めていくようにします。 ☆第4回目の出会いの場面☆ 「すると、むこうから」の「すると」の「す」を、調子を変えて、転調して 読み出します。「本屋へ行って、公園へ来て、ベンチに座った」というひと まとまりの話を閉じます。次に、あらたに場面を開いて、違う意味内容に なったよ、ほら、あの、きつねさんが、また、こっちへやって来たんだよ、 という気持ちを込めて、読み調子を変化させて、「すると」の「す」を高め に強めにして読み出していくようにします。 「きつねさんは、にもつを いっぱい もって います。」の中の「いっぱ い」を強めに強調して読むとよいでしょう。「いーーぱい」のように伸ばし ても強調になります。多量に荷物を抱えている状態が声で強調して分からせ るようにします。 (きつねさん、ちょっと 休んで いくと いいのに。)は、くまさんの独 り言です。頭の中だけの言葉・考え言葉です。ぶつぶつと、ぼそぼそと、口 の中で言っている音調にして読みます。 ここの二つの「……。」は、かなりの二人の沈黙の時間が流れたと想像でき ます。ちょっと長めの間をあけてよいでしょう。注意すべきは、長すぎて間 のびした間あけにしないことが大切です。 次の「や。」「……や。」は、教材分析のところに書きました。くま 「や。」は、明るく、軽く、笑顔で、ひとなつこそうな顔付きで、対面して 嫌われないような表情にして話しかけたのだろうと想像します。きつねさん の「……や。」は、前述したように「……」個所では、ちょっと間をあけて から「や。」と返事したように音声表現するとよいでしょう。 「はんぶん もちましょう。」 「や、ありがとう。どうも どうも。」 は、学級児童に、二人に、役割を決めて、対話している音声表現をさてみる と子ども達は喜ぶでしょう。 ☆第五回目の出会いの場面☆ くまさんの「……や?」は、どう音声表現するとよいでしょうか。 それができるには、その時のくまさんの気持ちをハッキリさせることです。 「ありゃあ、きのうのきつねさんだ。」「おや、また、きのうのきつねさん に会った。不思議!。」「あれ、まあ、偶然なことがあるものだ。おもって もなかったこと、また会いましたね。また、あっちゃったよ」このことは予 期せぬことだったので、くまさんは驚いていることでしょう。 「?」のマークが付いているが、これは、疑問符というよりは、偶然の出来 事に感動や驚きの意味の「ハテナ」であろうと思われます。 「……」個所は、くまさんがそうした心に浮かんだ事柄、考え言葉、独り言 をしている時間経過の間をあけて、そして「や。」と音声表現するとよいで しょう。 二つの「やあ やあ やあ。」は、はじめは「くまさん」で、つぎが「きつ ねさん」だと書かれています。学級児童を二人選出して、実際の対話をさせ てみるとよいでしょう。動作をつけると更によくなり、それらしい音調にな るでしょう。教科書の挿絵にある二人の表情も参考になります。笑顔で、握 手するつもりで互いに手を差し出しながら、または、握手しつつ「やあ や あ やあ。」を言い合うなども、よいでしょう。 (とたんに ふたりは)(とっても とっても うれしく なって)(その 日から なかよし)(いちばんの ともだちに なりました。)のように 区切って読むとよいでしょう。「いちばんの」を、強めの音調で強調して読 むとよいでしょう。すがすがしい、晴れ晴れした気持ちで、明るい声で、楽 しい気持ちになって元気よく読むようにします。 トップページへ戻る |
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