音読授業を創る  そのA面とB面と     06・3・3記




「どうぶつの赤ちゃん」音読授業をデザインする




●「どうぶつの赤ちゃん」(増井光子)の掲載教科書……………光村1下



             
筆者について


  筆者は、増井光子(ますいみつこ)さんです。
  昭和12年、大阪生まれ。麻布獣医大(現麻布大学獣医学部)卒業。獣
医学博士。昭和36年上野動物園に勤務。60年に日本で始めてパンダの人
工繁殖に成功。63年に井の頭自然文化園長。平成2年に多摩動物公園長。
4年に上野動物園長、日本動物園水族館協会長。8年に東京都を退職後、麻
布大学獣医学部教授を経て、現在、よこはま動物園ズーラシア園長、兵庫県
立コウノトリの郷公園長(非常勤)を勤める。
著書に「ちがいがわかる写真シリーズ」(金の星社)、「動物の親は子をど
う育てるか」(学習研究社)、「動物園へ行こうよ」(講談社)、「都会の
中の動物たち」(主婦の友社)、「動物園長、世界を駆ける」(紀伊国屋書
店)、「いきもの探検大図鑑」(小学館)など。


              
文章構成


  説明文は、その多くは、課題提示の文章部分と、それへの答えの文章部
分とがあります。子ども用語で、前者を「もんだいの文」「しつもんしてい
る文」、後者を「こたえの文」「しつもんにこたえている文」などと呼んで
教室では指導しているようです。
    前者の課題提示文は、ごく簡単な短い文章になるのがふつうです。
多くは、「これこれ、こうなっています。なぜ・どうして………なのでしょ
う(か)。」という文型が多くみられます。
  後者は、筆者の考え(意見、主張)を述べている文章部分です。筆者が
問題提示した事柄について、筆者の論理にしたがって、筆者の考え・主張を
文章化して説明し、開陳している文章部分です。
  答えの文章部分は筆者の意見・主張の解説・説明の文章部分ですから、
かなり長い文章部分になるのがふつうです。事実を「……です。」「……で
す。」と列挙していき、「……だからです。」「……なのです。」と筆者の
まとめ(考えと整理と結論づけ)を書いています。
  子どもたちは、こうした筆者の論運びに導かれながら、新しい知識を得
て、認識を深め、広げていくことになります。子どもたちは、なるほどと
か、よくわかったとか、わかりにくいなあとか、わたしの考えとちがうな
あ、とかの感想を持ちながら読み進めていくことになります。説明文を読む
ことを通して、物事に筋道をつけて見たり考えたりする「ものの見方、考え
方」の力を身につけていくことになります。


          
問題の文、答えの文(1)


  「どうぶつの赤ちゃん」の課題提示文の内容は、二つあります。
(1)どうぶつの赤ちゃんは、生まれたばかりのときは、どんなようすをし
ているのでしょう。
(2)そして、どのようにして大きくなっていくのでしょう。

  課題提示文に続く答えの文章部分は、(1)と(2)との課題提示の内
容に大きくコントロールされ、制御されながら論述していくことになりま
す。
  「どうぶつの赤ちゃん」の答えの文章部分は、
まず、(1)「生まれたばかりのときはどんなであるか、そのようす」が書
かれていくことになります。
次に、(2)「どのように大きくなっていくか、育っていくようす」が書か
れていくことになります。
  「どうぶつの赤ちゃん」の読解指導は、いつもこの二つの課題提示の内
容に立ち戻りつつ、ここにふり返ってきつつ、二つに導かれながら、それと
対応させながら答え文章部分を読み解いていくことになります。「どうぶつ
の赤ちゃん」の本文は、これら対応がはっきりと分る文章構成になっていま
す。課題提示の順序と答えの順序が一致している文章構成になっています。
  それにもう一つ。「どうぶつの赤ちゃん」の課題提示文には文章記述さ
れていませんが、「どうぶつの赤ちゃん」の説明文での読解指導で重要なこ
とがあります。それは、ライオンの赤ちゃんと、しまうまの赤ちゃんとの出
生時と成育の様子の違いを対比させた知識を得させることです。つまり、肉
食動物と草食動物との生態の違いです。晩生型と早生型との成長の違いを整
理してまとめることです。ライオン(肉食動物)としまうま(草食動物)と
の、生まれたばかりの様子の違い、成長していく経過の違い、なぜ二つに違
いができるのか、これら二つを対比させた知識を得させることです。


         
問題の文、答えの文(2)


  「どうぶつの赤ちゃん」は、ライオンとしまうまの赤ちゃんの成長過程
を、誕生から自立までを順序を追って記述し、説明しています。二つの問題
提示の内容に導かれて、文章記述の順序を追い、二つを対応させて読み解い
ていくことになります。また、「どうぶつの赤ちゃん」はそうした文章構成
になっていることがわかります。ここでは便宜上、ライオンの部をA,しま
うまの部をBとして、以下、書いていくことにします。

問題の文(その1)「うまれたばかりのようす?」
答えの文(その1)
 ◎大きさのようす
   A「子ねこぐらい」  
   B「やぎぐらい」
 ◎目や耳のようす
   A「目や耳はとじたまま」
   B「目はあいていて、耳はぴんと立っている」
 ◎親とくらべて
   A「よわよわしくて、母親とあまり似ていない」
   B「母親にそっくり」
 ◎歩き方のようす
   A「自分では歩けない。母親の口にくわえて運んでもらう」
   B「30分もたたないうちに自分で立ち上がる。次に日には走れる」

問題の文(その2)「どのようにして大きくなるか?」
答えの文(その2)
 ◎乳ばなれ
   A「2か月ぐらいは乳だけを飲む。それから母親のとった獲物を食べ
     始める」
   B「乳を飲むのは,たった7日ぐらい。」
 ◎ひとりだち
   A「1年ぐらいたつと、獲物のとり方を覚える、そして自分でつかま
     えて食べるようになる」
   B「7日すぎると、乳も飲むが、自分で草も食べるようになる」


            
まとめ・整理


  授業の終末にまとめ・整理として、次のことを子どもたちの考えさせま
しょう。
  上記のAとBとを対比させて子ども達に、ここから分ってきたことを話
し合わせたいものです。
  ライオンは「どうぶつの王さまといわれます」と書いてあります。動物
の王様とは、どういうことをさしているのでしょうか。動物の世界は弱肉強
食の世界です。ライオンのような強い動物は、母親がそばにいてわが子を
守ってくれています。ライオンの赤ちゃんは、母親がそばにいる限りいつで
も安全です。生まれたときは目が見えなくても、体が小さくても、歩けなく
ても、母親がわが子の安全をしっかりと保障してくれているわけです。
  逆に、しまうまの赤ちゃんは母親と一緒にいるからといって安全である
とはいえません。いつも敵の危険にさらされています。恐ろしい敵(強い肉
食動物)からいつも防御していなければなりません。しまうまのような草食
動物は、生まれたときは目も開いていて、耳もピンと立っていなければなら
ないし、生まれて直ぐに立って、走って逃げなければなりません。常時あた
りに気を配り、危険を察知したら直ちに逃げられる態勢、そういう身体状況
でなければならないわけです。
  つまり、ライオンは「強い動物に襲われる心配がない、だからそういう
生まれたばかりの進退になっている、体は小さく、目も見えず、自立までの
成長の期間がゆっく
りしている。モラトリアムの期間が長い」というわけです。
  しまうまは、「いつも強い動物に襲われる危険に曝されている。生まれ
たばかりの赤ちゃんは、直ちに敵から逃げられる身体状況・成長の経過に
なっている」ということだわけです。
  こうしたことを、この授業のまとめとして指導したいと思います。


         
「問題の文」の音声表現


  意味内容としては、「どうぶつの赤ちゃんは」の下に二つの問題提示の
文(1)と(2)とが接続している形になっています。
  「どうぶつの赤ちゃんは」を、はっきりと目立たせて音声表現します。
その下で間をあけ、「生まれたばかりのときは、どんなようすをしているの
でしょう。」「そして」「どのように大きくなっていくのでしょう。」とひ
とつながりになるように読みます。聞き手を想定して、問いかけ・聞き手に
質問している音調で音声表現していきます。二つの文末「……のでしょう」
個所は、昇調音調にして音声表現するとよいでしょう。
  「生まれたばかりのときは、どんなようすをしているのでしょう」の
「ばかり」を強めて強調して音声表現してもよいでしょう。「どのようにし
て大きくなっていくのでしょう」の「大きくなっていく」を強めて強調して
音声表現してもよいでしょう。


         
「ライオン部分」の音声表現


  第1段落は、次のような区切りで音声表現します。「ライオンの赤ちゃ
んは」「生まれたときは、(子ねこぐらいの大きさです。目や耳はとじたま
まです。)」という意味内容と区切りであることをはっきりと押し出して音
声表現します。
  「ライオンは、どうぶつの王さまといわれます。」の「王さま」を強調
して目立たせて読みます。「けれども」の「け」を強く高く読み出し、ソウ
デナイトコロモアルと逆接の意味内容につながっていくいくことを音声で示
します。「赤ちゃんは、よわよわしくて、おかあさんにあまりにていませ
ん。」の「にていません」を強めて音声表現して強調します。ここで間をあ
けてから、次の段落を読み出していきます。
  第2段落の出だし「ライオンの赤ちゃんは、じぶんではあるくことがで
きません。」の「できません」もはぎれよく強めに強調して音声表現しま
す。つづく文の「よそへいくときは、おかあさんに、口にくわえてはこんで
もらうのです。」の「おかあさんに……はこんでもらう」の語句の個所も目
立たせて、そのことが聞き手にはっきりと伝わるように強調して音声表現し
ていきます。
  第3段落は「おちちだけ」を強めに読んで強調し、「のんでいますが」
の下でたっぷりと間をあけます。「やがて」の「や」を強めに読んで読み出
し、「お母さんのとったえものをたべはじめます。」までひとつながりにな
るように読み進めます。読み終わったら、そこでたっぷりと間をあけます。
  あらためて「1年ぐらいたつと」を強めに読み出し、この段落の終わり
までひとつながりになるようにして読み進めていきます。
  第4段落は、時間の経過を表す語句に注目し、それらの語句を強調して
音声表現し、それら時間の経過がはっきり分るように間をあけ、区切りをつ
けて音声表現します。
   生まれて「二か月ぐらいは、ドウデス」
  「一年ぐらいたつと、ドウデス」
  「やがて、ドウデス」
三つの区切りが目立つように、区分けし、間をあけて、音声表現していきま
す。


        
「しまうま部分」の音声表現


  第1段落は、ライオン個所の第1段落で書いたことと似ています。
  「しまうまの赤ちゃんは」「生まれたときに、(もうやぎぐらいの大き
さがあります。目はあいていて、耳もぴんと立っています。しまのもようも
ついていて、おかあさんにそっくりです。)」という意味内容の区切りとつ
ながりがはっきりと分るように音声表現します。
  「もうやぎぐらいの大きさ」の「もう」を強めに読んで強調してもよい
でしょう。「目はあいていて、耳もぴんと立っています」の「「あいてい
て」「ぴん」、「しまのもようもついていて」の「もよう(も)」の(も)
(副助詞)なども粒立てて強調して読んでもよいでしょう。
  第2段落は、やはり時間の経過を表す語句を強めに読んで強調します。
時間の区切りに分け、そこで間をあけて、読み進めます。つまり、「三十ぷ
んもたたないうちに、ドウデス」「つぎの日には、ドウデス」「だから、ド
ウデス」のように、これら意味内容の三つの区切りが目立つように区切りで
間をあけて読み進めていきます。「だから」は、時間の経過でなく、文章の
論理・組み立てからの区切
りになっています。
  第3段落は、「おちちだけのんでいるのは、たった七日ぐらいのあい
だ」を強めに強調して音声表現します。その中でも「たった」をさらに強め
て音声表現するとさらによくなります。  
  「そのあとは、おちちものみますが、じぶんで草もたべるようになりま
す。」の「じぶんで草もたべるようになります。」の個所を粒立て強めに音
声表現するのもよいでしょう。


             
関連資料(1)


  本ホームページの第18章第1節「表現よみ講師による児童読み声への
助言」の「どうぶつの赤ちゃん」録音を聴取してみよう。

 

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