野田香苗(朗読家)さんからの寄稿文   2015・11・14記




     
自分の声からつながる

                    
 野田 香苗




 荒木茂様のホームページ「音読・朗読・表現よみの学校」の読者の皆さま
 はじめまして。わたしは、朗読家の野田香苗と申します。2000年より、東
京を中心に公演活動を始めておりますが、2015年夏に夫の転勤に伴い福岡県
に転居、今は東京と行き来しながら活動中です。

 わたしはこれまでに、既存の物語や童話や詩、そして随想などを朗読して
まいりました。そして、音楽が好きで、演奏家の方々とご一緒し、楽器の特
徴を生かした生の演奏と共に言葉を一緒にお届けしています。最初は小学校
での「朗読コンサート」から始まり、いつしか、屋内外、音楽ホールほか、
お寺や教会に至るまで様々な場所で公演し、お客様との出会いを楽しみに励
んでおります。

 さて、荒木様のこのページには、以前、金子みすずさんの詩を調べていた
時にたどり着いたと記憶しています。荒木様にもわたしの朗読を何度か聞い
ていただきました。
 その後、執筆のご依頼をいただきましたが、わたしはなかなか書くことが
できないでおりました。
 このページを訪れた方は、ご自分の声に出して読むことに関心を持ってお
られると思います。そこで、わたしは、これまでの経験を通して、朗読にお
いて心に留めていることや楽しさをお裾分けすることはできるかもしれない
と思い、書いてみました。
 ほんの一例ではございますが、ご参考までにお読みくだされば幸いです。

 子どもの頃のことですが、わたしは自分の声を好きではありませんでした。
録音したテープから聞いたその声は、思っていた以上に低く重たく感じられ、
正直驚いたのです。
しかし、周囲の人は、これを普段のわたしの声だと言います。また、わたし
は他人の声をうらやましく思ったこともありました。
 ある時、中学校の音楽の先生のお話だったと思いますが、
「声は指紋と同じで、唯一の声色。ですから、自分の声を嫌いにならないで、
大切にしてください。」と、教わりました。その時、「唯一の声色」という
言葉は、わたしの胸に響き、これはすごいことだと思いました。
 声の質や話し方によって、例えば、親族の誰かに似ている声だと感じるこ
とや、他人の声の真似ができることは実際にあるのですが、それでも、必ず、
生まれ持った自分自身の声があります。
これは神様がくださった贈りものです。そして、声はいつでも正直で、まる
で自分の心を映す鏡のようなものだと思います。

 今、もし、あなたが、誰かのために本を読んであげる時、誰かに何かを伝
えようと思った時、
心に浮かんだ気持ちが働いて、声を出したときにそれが自分の声に乗ります。
けれども、自分の気持ちや意図が相手にきちんと伝わったかどうか、その反
応も気になりますよね。この過程は、とても大切なことだとわたしは思いま
す。

 読み手は聞き手に「伝える」ことの責任があります。
 それでは、相手の耳に言葉をきちんと届けるためには、どのようなこと 
 が必要でしょうか?
 読み手はどのような準備をしておくべきでしょうか?
 それを、わたしは、調べる、考える、練習する、また調べる、考える、 
 練習する。実はその繰り返しだと感じています。

 この作業は、わたしも、面倒と感じることがありますが、その代わり、新
たな発見も生まれます。
言葉の響きやリズム、そして表現を、自分の体で感じることができます。そ
れは全て、自分の声を意識して耳で聞き、体で聞いて、自分だけが気付ける
喜びでもあります。
 このことが相手の心に届き、共感が得られたら、わたしはそれをとても嬉
しいと思いますし、実際に、それは楽しいことです。
 聞き手がいてこそ、朗読の場が成り立ちます。
 自分の声で読んで伝えること、そのチャンスがあなたに訪れたら、どうぞ
自信を持って、読むことを大いに楽しんでください。

 これは、数年前に、小学校で「朗読コンサート」をしていた頃のお話です。
その時の作品は、モンゴル民話『スーホの白い馬』で、このお話に由来する
民族楽器、馬頭琴と、そのほかに、二胡、フルート、ウィンドチャイムとい
う楽器が常に一緒で、子どもたちに作品を届けていました。
 子どもたちにとって、目の前で楽器演奏が繰り広げられることは、とても
刺激的です。そして、音楽とともに聞くお話にも注目して聞いてくれること
を、何度も経験しました。
 ある小学校の生徒さんが、「朗読コンサート」を聞いたあとに、このよう
な感想を寄せてくれたことがありました。
 「言葉と音楽はとても仲良しなんですね。」
これを読んだとき、わたしたちはこの言葉に感動しました。それまで「朗読
コンサート」について説明しようとしていたどんな言葉よりも分かりやすく
て、鮮明であると感じたからです。
 次第に、わたしは、ほかの様々な楽器ともご一緒して、朗読と音楽による
作品の世界を届けることができたら嬉しいと思うようになりました。
 これが、わたしの活動名「言葉と音楽を仲良しにする研究室和みの風」の
由来です。
 この時の気持ちをいつでも心に置いて、少しずつではありますが、これか
らも自分の声で届けられることを願っております。 いつかどこかで、聞い
ていただけますように。
                           2015年11月8日
                              野田香苗

野田香苗 KanaeNoda

東京都出身。共立女子大学文芸学部卒業。語り手・朗読家。
2000年より朗読家として活動を始め、童話、民話、随想、詩などを朗読し、
音楽の生演奏を組み合わせた作品を企画・公演する。小学校・施設などへ
「朗読コンサート」出張演奏ほか、近年では、朗読のアドバイスも行ってい
る。2009年より三鷹市山本有三記念館主催「朗読コンサート」に出演。横笛
やチェンバロ、ヘルマンハープ、チェロ、クラリネット、マリンバ、笙奏者
等と共演し、有三作品の世界を届けている。言葉と音楽を仲良しにする研究
室「和みの風」主宰。
出演作品:CD『木こりと馬頭琴』、DVD『Discovering The HomesitesOf Lau
ra Ingalls Wilder 』(日本語版) ブログ「和みの風のおはなし道しるべ」
http://wafuu.exblog.jp/




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