群読授業のA面とB面と            07・8・16記



    
読解指導の中に群読を役立てた授業例
      「大造じいさんとガン」を例にして



              
はじめに


  群読といえば、詩の群読発表があります。また、学校行事の中での呼
びかけを利用した群読発表があります。
  しかし、国語授業の中で読み深め指導の一つの方法として群読が行われ
るということはあまり多くないように見受けられますが、どうなんでしょう
か。
  わたしは、表現よみ指導は、音声
表現が上手になることだけではない、声に出すことで文章内容の解釈を深め
るためにある、ということを主張しています。群読も声に出すことです。群
読も解釈深めの一つの手段・方法としてとても役立つのです。
  本稿では、物語文の読解指導に中で、群読をどのように利用し、役立て
たかについて書いていくことにします。
  ここでは、「大造じいさんとガン」(椋鳩十作)の国語授業の中で、群
読をどのように読解を深めるために役立てたか、その授業例について書いて
いくことにします。
  音読も朗読も群読も、文章内容をありありと音声にのせて表現すること
では同じです。文章内容を音声にのせようとすることで、描写されている事
件状況をまるごと身体に響かせて血肉化させ、感情ぐるみの理解で音声表現
していくことができるようになります。とても楽しい授業になります。



       
読解指導の中の群読授業例(1)


指導のねらい
   「ことばに即して読む」ために群読を役立てる

ことばに即して読む」とは
  読解指導の中で「ことばに即して読みとることが重要だ」とよく言われ
ます。これは当然のことですが、そのほんとうにそのことが読みの授業の中
で意識してあまり指導されていないように思われます。
  話を分りやすくするために、逆のことを考えてみましょう。「ことばに
即さないで読みとる」とはどんなことでしょうか。これは文章(文字)に書
かれていない事柄、ピント外れの事柄を読みとることです。文章内容とは違
った、誤った読み取りをすることです。筆者が書いてないことを読みとるこ
とです。
  つまり、「ことばに即して読みとる」とは、書かれている語句の辞書的
意味や文法法則にのっとり、語句の連なりが指示している内容連関(文脈)
をしっかり押さえて、書かれているとおりに読みとることです。
  一つ一つの語句に注目しないで、文脈の流れを見落としたり、いいかげ
んに読み流したり、自分の思い込みや決め付けで理解したりしてはいけない
ということです。これは「ことばに即して読みとってない」ということこと
になります。

  「大造じいさんとガン」の冒頭部分に次のような文章があります。

    残雪というのは、一羽のガンにつけられた名前です。左右の
   つばさに一か所ずつ、真っ白な交じり毛を持っていたので、か
   りゅうどたちからそうよばれていました。

  教師が「この文章部分で重要な言葉はどれですか」と、問いかけてみま
しょう。子ども達からは「残雪の名前の由来と、残雪は、これこれの外見で
ある。」という内容が重要という指摘が発表されるでしょう。残雪(春に
なっても消え残っている雪)という一般的な意味が、一羽の鳥につけられた
名前の由来になっています。この新情報(左右のつばさに真っ白な交じり毛
が一か所ずつある)からのメタファーから名前が由来していることが理解で
きます。
  教師が「残雪という名前がついた理由がハッキリと分かる音読のしかた
を考えよう」と問いかけます。
  子ども達からは「左右のつばさに一か所ずつ真っ白な交じり毛を持つ」
までの部分を強調して読む、強めの声立てで読む、際立てて音声表現するな
どの指摘が発表されることでしょう。
  教師がさらに「残雪という名前がついた理由がはっきり分かる群読形式
の台本を作って、みんなで群読表現して楽しんでみましょう。」と誘いかけ
ます。子ども達から出された意見をもとに教師の考えも出し合って群読台本
を作り上げていくようにします。
  下記は、はじめにもっていたわたしなりの原案です。


        
わたしの群読台本例(1)

ソロ  残雪というのは、
全員  残雪というのは、一羽のガンにつけられた名前です。
ソロ  左右のつばさに一か所ずつ、
全員  左右のつばさに一か所ずつ、
ソロ  真っ白な交じり毛を持っていたので
全員  真っ白な交じり毛を持っていたので
ソロ  かりゅうどたちから
全員  そう、よばれていました。

  上記のような教師の台本も子ども達に考えとして提示して、学級の共通
台本を作成して、実際に音声表現をして楽しみます。
こうした「ことばを押さえた、ことばに即した」学級全員による台本作りを
とおして、「ことばに即して読みとる」ということ、一つ一つの言葉・語句
のつらなりをきちんと押さえて読みとることの大切さを音声で分からせて指
導していきます。


      
読解指導の中の群読授業例(2)


指導のねらい
  戦闘場面を区分けして、各パートごとのイメージを鮮明化するために
  群読を役立てる

  この物語の後半に残雪とハヤブサとの戦闘場面があります。この戦闘場
面のイメージを鮮明化するため、各人物の行動場面ごとに区分けして分読
(群読)する作業を取り入れることにします。
  各人物が行動した大段落ごとに区分けしてパートに分けていきます。各
パートごとを読み手を変えて分読していくのです。ハヤブサはこうした、次
に大造じいさんはこうした、次に残雪はこうした………と、描写されている
順ぐりに読み手グループを変えて分読(群読)していくようにします。
  つまり、人物たちの行動のひとまとまりを群読形式していくのです。
  各人物が行動したひとまとまりの戦闘場面ごとに区分けした分担読み・
グループ読みで音声表現していくようにします。こうした音声表現をするこ
とで、各人物がどんな順番で、どんな行動をしたかが、読み手グループの分
担が違ってくるので、音声の区切りとなって場面が鮮明に理解できるように
なるわけです。

  次は、わたしのグループ分け例です。学級全員を4グループにします。
(群読範囲をどこまでにするかによってパートの数がちがってきます。グル
ープの数も違ってきます。)

  ナレーター班(場面を進行させて語っていくグループ)
  大造じいさん班(じんさんの行動を語っていくグループ)
  残雪班(残雪の行動を語っていくグループ)
  ハヤブサ班(ハヤブサの行動を語っていくグループ)

下記はわたしが作成した群読台本例です。使われている記号についてはじめ
に解説しておきます。
「ナ」……ナレーター班が受け持つ台詞
「大」……大造じいさん班が受け持つ台詞
「残」……残雪班が受け持つ台詞
「数字」…読み手の人数配分の数
「複」……三人、四人など複数人数を班内で適切に決めて配当する。人数は
     わたしのとおりでなくてよい。グループ内で話し合って決める。
「全」……班の全員が読む。


        
わたしの群読台本例(2)

ナ1  もう一けりと、
ナ複  もう一けりと、ハヤブサが攻撃のしせいをとったとき、
ナ全  さあっと、大きなかげが空を横切りました。(「さあっと」は、の
    ばして大げさに読む。少し間をあけてから次を読む。)
ナ全  残雪です。(「あの、残雪です」という気持ちを込めて言う)
大全  大造じいさんは、ぐっとじゅうをかたに当て、残雪をねらいまし
    た。(「ぐうーっと」とのばして強めて読む。「ねらいました」
    を、迫力をつけて高く速く読む。)
大1  が、なんと思ったのか、(間)再びじゅうを下ろしてしまいまし
    た。(全体を低く、ぽつりぽつりとゆっくりと読む。)
残複  残雪の目には、人間もハヤブサもありませんでした。ただ、救わね
    ばならぬ、
残全  救わねばならぬ、仲間のすがたがあるだけでした。
残全  いきなり、敵にぶつかっていきました(スピードをつけて強く読
    む)。そして、あの大きな羽で、力いっぱい相手をなぐりつけまし
    た。(「なぐりつけました」を力強く、速く読む)
ハ1  不意を打たれて、さすがのハヤブサも、空中でふらふらとよろめき
    ました。
ハ3  ハヤブサも、さるものです。(「さるものです」を、力強く読む)
ハ全  さっと体制を整えると、残雪のむな元に飛びこみました 。(「飛
    びこみました」を、力強く、速く読む)
ナ全  ぱっ、ぱっ、ぱっ。ぱぱぱっ。
ナ1  羽が白い花弁のように、すんだ空に飛び散りました。(「飛び散り
    ました」を、力強く、速く読む) 



       
読解指導の中の群読授業例(3)


指導のねらい
  残雪を見送る大造じいさんの気持ちと一体化するために群読を役立て
  る。

  この物語の最終場面で、大造じいさんが「おうい、ガンの英ゆうよ。」
と呼びかける場面があります。
  大造じいさんは、残雪の威厳に満ち、堂々とした姿に、そして、ガンの
頭領として仲間を守ろうとする厳然とした態度に、深く心を動かされて感動
します。
  次のことを、子ども達と語り合いましょう。何故にじいさんは深く感動
したのでしょうか。何故にじいさんは残雪への攻撃を止めてしまったので
しょうか。自己変革したじいさんの気持ちを話し合わせます。
  じいさんが自己変革した理由をしっかりと話し合わせることが重要で
す。全員で話し合っていくうちに、子ども達はじいさんの立派な行動(気持
ち)に感動して、しだいにじいさんの気持ちに感情同化していくことでしょ
う。
  じいさんの気持ちと一体化していくことはとても大切です。じいさんの
気持ちと一体化することが、この物語を「読んだ」「読めた」ということに
なるからです。この物語は最終場面では、大造じいさんの超越した感動の高
まりが焦点化されていますから、じいさんの気持ちに感情同化することは
とっても大切です。
  教室全面に残雪の絵を貼り付けるのもよいでしょう。児童全員が起立し
て、腰に手をあて、じいさんと同じ姿勢で、じいさんの気持ちになって、前
方の空を飛び去っていく残雪の(絵)に向かって呼びかけさせます。声を合
わせて、残雪に向かって呼びかけさせます。こうすると、全員の気持ちは一
つに溶け合い、じいさんに気持ちに深く入り込むことができるようになるで
しょう。


        
わたしの群読台本例(3)


先生  バシッ(羽音の擬音を工夫します。担任は音だし係になります)
ソロ  快い羽音いちばん、一直線に空へ飛び上がりました。
ソロ  らんまんとさいたスモモの花が、その羽にふれて、
ソロ  雪のように清らかに、はらはらと散りました。
全員  「おうい、ガンの英ゆうよ。おまえみたいなえらぶつを、おれは、
    ひきょうなやり方でやっつけたかあないぞ。なあ、おい。今年の冬
    も、仲間を連れてぬま地にやって来いよ。そうして、おれたちは、
    また堂々と戦おうじゃないか。」
ソロ  大造じいさんは、残雪が北へ北へと飛び去っていくのを、
ソロ  晴れ晴れとした顔つきで、見守っていました。
女全  いつまでも、
男全  いつまでも、
全員  見守っていました。

注記
(1)ソロはひとりの児童だけでなく、五人のソロの語り手・ナレーターを
   つくり、交互に交代読みをします。張った声で、場面の移り変わりを
   交互に語って説明していきます。
(2)「おうい、ガンの英ゆうよ。………」の中は全文が六文あります。
   ここは「全員」と台本にかいてありますが、六文全文を暗誦するのは
   たいへんです。全員を5グループに分け、グループごとの分担読みに
   します。
   「なあ、おい。」も一文ですが、短いですから、次の「今年の冬
    も、仲間を連れて………」にくっつけてしまいます。そうすると全
   体が五文になります。「全員」を五グループに分けて、一組が一文だ
   けを暗誦して、五グループで順ぐりに交代読みにします。こうすると
  「全員」が全文を暗誦しなくてもすむようになります。


           トップページへ戻る