第17章・小学生への読み聞かせ技術    2015・8・26記




  
第7節
  
「立ち止まり読み聞かせ」の実践(小学校)




 目次
   小学校の「立ち止まり読み聞かせ」の実践紹介
  「おかあさんのたいじょう日」の実践報告(小一)
   読み聞かせ授業の記録
   立ち止まり個所をどこにするか
   参考資料(1)関可明『脳が元気になる読み聞かせ』
   参考資料(2)山本麻子『ことばを鍛えるイギリスの学校』




  
小学校の
     
「立ち止まり読み聞かせ」の実践紹介



 本節では小学校の「立ち止まり読み聞かせ」の実践について書きます。小
学校における「立ち止まりありの読み聞かせ」の実践報告です。
 実践者は、後藤知恵子先生(横浜市立富岡小学校)で、後藤先生が横浜児
童言語研究会で1985年に発表した授業例報告です。
 児童言語研究会は、一読総合法という読解指導法を提唱している民間教育
研究団体です。一読総合法とは、三読法のように通読→精読→味読という三
段階の指導過程をふんで読解授業をするのでなく、日常の読みに姿、つまり
冒頭から精読一本で読みすすめ、途中で立ち止まって考えをめぐらしたりし
つつ最終まで読み進め、そこで読了となる、という日常の読みの姿にそった
授業方法です。
 この一読総合法の読解方法を参考にして読み聞かせに利用したらどうなる
か、こういうねらいで後藤知恵子先生が発表しました。後藤先生が研究会場
で配布した発表プリントは、わら半紙30枚という大部なものでした。目次
だけをあげると、はじめに、教師の読み、表現の特徴、教材化の視点、指導
目標、指導計画、授業の話し合いの経過報告(上段に絵本の各ページのコ
ピー、下段に教師の発言と児童の発言のならべ)、入り込み法の児童への配
布プリント、入り込みの児童書き込み例一覧表、おわりに、とあります。
 本稿では、後藤学級の教師の発言と児童の発言ならべが書いてある個所だ
けを再録しています。
 なお、読み聞かせした絵本は、『おかあさんだいすき』(岩波書店、193
2)です。この絵本には、2編の物語が含まれています。「おかあさんのた
んじょう日」と「おかあさんのあんでくれたぼうし」です。後藤先生は「お
かあさんのたんじょう日」の読み聞かせ授業の発表をしました。
 下記の「読み聞かせ授業の記録」をお読みになるときは、絵本『おかあさ
んのたんじょう日』をあなたの傍において、二つを見比べながら読んでいた
だくと、実際の読み聞かせの様子が十分にご理解いただけると思います。



  
『おかあさんのたんじょう日』
          の実践報告(小一)



○指導者 横浜市立富岡小学校  後藤知恵子先生

○読み聞かせした絵本
   絵本『おかあさんだいすき』(岩波書店、1932)の中から
   「おかあさんの たんじょう日」
      文と絵 まーじょりー・ふらっく  訳・光吉夏弥

○指導学年  一年生

○実施時期  一年生一学期(1985,7,6)夏休み直前

○児童座席 教師を前面に扇形に囲んで児童は床にすわる。



    
 ○読み聞かせ授業の記録○



○読み聞かせへの導入○


教師 きょうは、とってもおもしろい本を読んであげます。先生のお話を聞
   いたり、絵を見たりして、思ったことは何でも言っていいんですよ。
   いつものようにね。頭の中で思ったひとりごとを言っていいのよ。い
   い?
Y男 はーい。
N男 手をあげて言うんでしょ。
S男 じゅんばんこに言うんでしょ。
教師 そうよ。
K男 先生、その前に、どんな話か題を……


○「おかあさんのたんじょう日」個所の表紙を見せる○
  <題名よみ、予想出し>


教師 きょうのお話は、『おかあさんのたんじょう日』という題です。どん
   なお話かな? 予想を言って下さい。
S男 プレゼントの代わりにお金をあげる話だと思います。
Y男 ………
教師 考えてから、手をあげるんだよ。
K男 たんじょう日に歌をうたう話だと思います。
T子 お友だちとかが、おかあさんのたんじょう日にいっぱいプレゼントを
   あげる話だと思います。
K子 わたしは、おかあさんのたんじょう会をやるお話だと思います。
教師 みんな、同じ意見だったら「同じです」って言うんだよ。
児童 はーい。(何人か)同じでーす。


○第1場面・1−2pの見開きを見せる○

K男 (絵に素早く反応して)この子、女の子なの? 
児童 男だよ(2,3人)
教師 女の子かな、男の子かな、じゃ、文章を読みます。

 
あるところに、だにーという おとこの子が いました。

M男 ほら、男の子だよ。
教師 本文の読み聞かせをつづける。

 
きょうは、おかあさんの たんじょう日です。
 そこで、だにーは かんがえました。
 「おかあさんの たんじょう日の
 おいわいに、なにを あげたら いいかしら」


教師 「……かしら」なんていうから、女の子みたいね。
Y男 絵を見ればわかるよ。
教師 みんなだったら、おかあさんのたんじょう日に何をあげる?
M男 肩たたきとか
U男 したじきとか
O男 ぼく、絵!
R男 言ってもいいですか。(いいですよ)わたしがおかあさんにあげるも
   のは、したじきとかえんぴつをあげます。
教師 じゃ、U男さんと同じね。
H男 ぼくは、おかあさんがおしごとのときに使う、シャーペンがいいと思
   います。
教師 K男くん
K男 同じでーす。
教師 何にもあげない人、いますか。
E男 ぼくは、おかあさんのたんじょう日に、何にもあげないです。
O男 ぼくは、おかあさんに絵を描いてあげます。
K子 わたしは、折り紙とかでバックやいろんなものを作ってあげます。
M男 ぼくは、かたたたき券をあげます。
H子 わたしのおねえちゃんは、ミシンで作ったエプロンをあげました。
U子 したじきとか鉛筆をあげるほかに、お手伝いをします。
教師 Y子さん、どうですか。B男君に先に聞こうかな。B男君、何をあげ
   ます? わかんなくなちゃった?
B男 フェルトペンをあげます。
教師 そう、フェルトペンをあげるの。Y子さんは何をあげますか?
Y子 おてつだい。
教師 おてつだいをするという人? (半分ほど挙手)
教師 何かをあげるという人?  (半分ほど挙手)
教師 さて、だにーは、おかあさんに何をあげるのかな。
   次を読みますよ。


○第2場面・めんどりに出会う場面の見開きを見せる○

教師 では、読みます。

 
だにーは、おかあさんに あげるものを みつけに でかけました。
すると、めんどりに あいました。
「おはよう、めんどりさん」と、だにーは いいました。
「おかあさんの たんじょう日に、なにか あげるもの ないかしら」
「こっ こっ、こっ」とめんどりは いいました。


教師 めんどりは、「こっ こっ、こっ」といったけど、何をあげると言っ
   たでしょうか。
N男 たまご
大勢 たまご たまご(口ぐちに)
K子 金のたまご 
大勢 金のたまご 金のたまご(口ぐちに)
教師 何だろうね、次を読むよ。

「それじゃ、わたしが うみたての たまごを ひとつ あげましょう」
「どうも ありがとう」と、だにーは いいました。
「でも。たまごなら、もう あるの」
「それじゃ、いっしょに なにか さがしに いきましょう」と、めんどり
は いいました。


教師 ここで立ち止まって話し合いをしないで、次ページ(第3場面)を開
   いて見せる。第3場面(めんどりとの対話個所の見開き)の文章を連
   続して読み続ける。

 
そこで、だにーと めんどりは、ぴょん ぴょん、かけて いきました。
すると───

教師 すると───、すると─── どうなるのかな? 誰かに会うのか 
   な?
児童 だれかに会うと思う。
児童 あひる
児童 あひる


○第4場面(がちょうと出会う場面)を開いて見せ、本文を読む○

 がちょうに あいました。
「おはよう、がちょうさん」と、だにーは いいました。
「おかあさんの たんじょう日に、なにか あげるもの ないかしら」
「があ、があ、があ」と、がちょうは いいました。
「はねの まくらが できるように、わたしの はねを あげましょう」
「どうも ありがとう」と、だにーは いいました。
「でも、まくらなら もう あるの」
「それじゃ、いっしょに なにか さがしに いきましょう」と、がちょう
 は いいました。


S男 がちょうか? がちょう? が・がちょう(口まね)。
教師 予想とちがって、「あひる」でなくて「がちょう」でしたね。
B男 「まくら」ってなあに?
N男 おふとんでねるときの「まくら」だよ。
B男 そうか。
C子 はねのまくらなんて、がちょうさん、とってもやさしい。
M子 はねのまくらは、ふわふわして、やわらかいから、きもちいい。
教師 次は、どうなるかな?
F男 がちようさんが「いっしょに なにか さがしに いきましょう」と
   いってるから、また、さがしに行くと思います。
児童 同じです。


○第5場面(9−10p)を見せる。本文を読み聞かせる○

 そこで、だにーと めんどりと がちょうは、ぴょこ ぴょこ、かけて 
いきました。
 すると───


教師 すると───、すると─── どうなるのかな? 誰かに会うのか 
   な?
児童 さる。へび。うさぎ。あひる。うま。(など口ぐちに言う)
児童 犬
児童 犬 犬 犬(口ぐちに言う)
教師 どうして分かるの?
児童 だって、裏の絵が写ってるもん。
教師 そうか、次のページの絵がこのページに写って見えてるね。


○第6場面(やぎと出会う場面)を開いて、絵を見せる○

教師 残念でした。犬ではありませんでした。何でしょう?
児童 やぎ やぎ やぎ(一斉に)
A男 うらがえしの絵では、犬にみえたんだもの。
D男 牛乳、あげるんだよ。
児童 牛乳 牛乳 牛乳(一斉に)
教師 牛乳あげるの? やぎが?
F男 牛乳は牛のちちでしょ。やぎのちちは、牛乳と言わないよ。
D男 そうか、では、やぎのちちをあげるの。

教師 では、文章を読みますよ。やぎさんは、やぎのちちをあげるのかな。

 やぎに あいました。
「おはよう、やぎさん」と、だにーは いいました。
「おかあさんの たんじょう日に、なにか あげるもの ないかしら」
「めえ、めえ、めえ」と、やぎは いいました。
「おいしい ちーずが できるよううに、わたしの ちちを あげましょ 
 う」
「どうも ありがとう」と、だにーは いいました。
「でも、ちーずなら、もう あるの」
「それじゃ、いっしょに なにか さがしに いきましょう」と、やぎは 
いいました。


K男 やぎのちちでなく、ちーずをあげると言ったことが分かります。
B子 ちーずはいらない、とだにーに言われたの。
A子 「ちーずならあるの」とだにーにいわれた。
N子 前とおんなじに、ことわった。
D男 さっきと同じことがつづいた。
教師 前と同じにだにーは、またことわったんだね。
   だにーがことわったことば、くりかえしたことばを先生が読みますか
   ら、先生の後に続いて、みんなでまねて言いましょう。「どうもあり
   がとう。でも、ちーずなら、もうあるの」。はい、どうぞ。
児童 (一斉に)「どうもありがとう。でも、ちーずなら、もうあるの」
教師 次に、また、みんなで探しにいくんでしょう。今度は誰に会うのか 
   な。


○ひつじと出会う第7・8・9場面の途中記録省略○

 やぎ→ひつじ→牝牛の順番で登場します。「ひつじ」場面を省略します。
     めんどりは こっこっこっ 生みたての卵
     がちょうは がぁがぁがぁ 枕に使うはね
     やぎは   めえめえめえ ちーず
     ひつじは  べえべえべえ もうふにする毛
 ひつじの次に みんな(だにー、めんどり、がちよう、やぎ、ひつじ)で
探しに行きます。牝牛に出会います。だにーは、牝牛にあげるものが何がい
いか、質問します。


○第10場面(牝牛が登場する場面)を開いて、絵を見せる○

教師 開けますよ。
K男 牛だあ。
K男 めうし?
児童 ぎゅうにゅう!
児童 牛乳くれるんだあ。
児童 牛乳 牛乳(一斉に)
教師 では、読みます。第10場面(牝牛登場場面)の本文を読み聞かせる。

 めうしに あいました。
「おはよう、めうしさん」と、だにーは いいました。
「おかあさんの たんじょう日に、なにか あげるもの ないかしら」
「もう、もう、もう」と、めうしは いいました。


児童 もう、もう(口まねする) もう、もう。(数名、口まねする)

「それなら、わたしの ちちを あげましょう」
「どうも ありがとう」と、だにーは いいました。
「でも、ぎゅうにゅうなら、もう あるの」
「それじゃ、なにが いいか、むこうの やまの もりに すんでいる く
 まさんに きいてみたら」と、めうしは いいました。
 

S男 やっぱりね、同じことがつづくんだよ。
T男 また、みんなで揃って、ぞろぞろとくまさんとこへ行くんだよ。
教師 次の予想は、どうなると思う?
T男 みんなでくまさんをさがしにいきましょう、となる。
S子 みんなでくまさんに会いに行く。
N子 また、だにーは、くまさんと出会って「どうもありがとう。でも、も
   う、あるの」って、言うと思います。


○第11場面(牝牛のつづき場面)を開いて見せる。本文を読む○

教師 前と同じことを繰り返すかどうか、文章を読みましょう。

「じゃ、そうしよう。みんなで ききに いこうよ」と、だにーは いいま
 した。
 けれども、めんどりは いいました。
「わたしは、ごめん!」
 がちょうも いいました。
「わたしも ごめん!」
 ひつじも いいました。
「わたしも、ごめん!」
 めうしも いいました。
「わたしもごめん!」


教師 みんな、ごめんって、くまさんへ会いに行くことを、ことわったの。
   どうしてだろうね?
S男 つかれちゃうから。
K子 つぎつぎと長く歩いてきたから。
M子 歩くの、もう、疲れちゃったから。
教師 どうですか、M男くん。
M男 疲れたから、「ごめん」とことわったのか。
T男 さあ、どうかな? そんなこと、ないと思うよ。
D男 そんなこと、ないよ。だってさ、さっきまでずっと歩いてきたんだか
   ら、みんなで、いっしょにきたんだから。
O男 こわいからだよ。
F男 くまさんが、みんな、こわいし、食べられちゃうと思ったから。
児童 同じです。(数名)
教師 くまさんに食べられちゃうからか。こわい。だから、行くの嫌といっ
   たの。
児童 だから、だから、くまさんとこへは行かない。(口ぐちに)
教師 家で飼ってる動物と、山に住んでいる動物の違いじゃないかと、先生
   は思うんだけど、どうかな。めんどりも、がちょうも、やぎも、ひつ
   じも、牝牛も、みんな人間が家で飼ってる動物でしょう。くまは山の
   中に住んでいる動物でしょう。くまは、人間を襲うでしょう。だから、
   くまさんはこわいと思ってるんじゃないかなと、先生は思う。


○第12場面(ひとりくまに会いに歩いていく場面)を開いて見せ、本文
 を読み聞かせる○


 そこで、だにーは ひとりで くまを さがしに でかけました。とっと
こ、とっとこ、やままで かけて いって、
 それから───

教師 「それから───」どうなると思う?
S子 だにー、だいじょうぶかしら。
D男 だにー、勇気がある。ひとりで行くんだから。
教師 だにーに、言ってあげたいことは? K男君
K男 (無言)
教師 言いたいこと、ない?
K男 一人で行っても、だいじょうぶだと思う。人間だから。
S男 だいじょうぶだよ。人間ってこわいから。
O男 だにーは頭がいいから、くまさんと仲良しになると思う。
教師 だいじょうぶかどうか、では、次を読みますよ。


○実践記録が長くなるので、第13・第14場面を省略する○
  (だにーは、くまと出会います。おかあさんのたんじょう日に何をあげ
   たら いいか、くまに質問します。次は、くまがだにーの質問に答え
   る場面です。)


○第15場面(くまがだにーの質問に答える場面)○

教師 第15場面(だにーの何がよいかの質問にくまが答える場面)を開いて
   見せる。本文を読み聞かせる。

 おおきな くまは、だにーを だきしめて、そっと ないしょで おしえ
てくれました。
「うん、それが いいや」と、だいーは いいました。
「どうも ありがとう、くまさん」


教師 くまさんは、だにーをだきしめたんですって。だきしめたのよ。みん
   なの予想、どうだった?
児童 はずれた。はずれた。(口ぐちに)
S男 予想がはずれた。
P子 くまさんは、こわくなかった。
H子 くまさんは、やさしかった。
教師 そうだね。やさしかった、こわくなかったんだね。次を読みます。

 だにーは、やまから もりを かけおりて、ぴょん ぴょん、
 とびながら うちへ かえりました。


教師 だにーは、ぴょん ぴょん、とびながらうちへ 帰ったんですって。
   とっても、うれしそうだね、くまさんは、だにーに、 ないしょのは
   なしをしました。で、何て言ったんだろうね? 考えてみましょう。

児童 知らなーい。わかんない。(ばらばらに言う)
児童 うーん。(無言)
C男 先生も知らないんでしょ。
教師 先生は知っていますよ。先生は先を読んでいるので、知っています。
   では、先に進みましょう。


○第16場面(だにーと母親との対話場面)を開いて見せる。本文を読み 
 聞かせる○


 
だにーは、おかあさんに いいました。
「おかあさんの おたんじょう日に なにを あげるか、あてて ごらんな
 さい」
「そうね」と、おかあさんは いいました。
「たまごかしら?」
「いいえ」
「まくらかしら?」
「いいえ」
「じゃ、ちーず?」
「いいえ」
「それじゃ、もうふ?」
「いいえ」
「じゃ、ぎゅうにゅう?」
「いいえ」
 おかあさんには、どうしても わかりませんでした。
そこで───


教師 だにーは、お母さんに何をあげるか早く言えばいいのに、なかなか 
   言いませんね。お母さんの知りたい気持ちをじらしていますね。
   さて、どんなものをあげるか、次を読むと書いてあるかな。読んでい
   きましょう。
  (ここで立ち止まりの話し合いをしないで、次ページに進む。次ページ
   の見開きをあけて見せる。)


○第17場面(最終場面)を開き、絵を見せる。本文を読み聞かせる○

児童 キスだあ。キス、キス。
   キス、キス。
  (教師がページを開いて挿絵を見せると、直ちに児童たちからばらばら
   に声があがる。騒ぎがおさまったところで本文を読みだす。)

 だにーは、おかあさんの くびに、ぎゅっと だきつきました。
そうやって ほおずりして あげるのが、いちばん いい おくりものだよ
と、くまさんが おしえて くれたからでした。


教師 くまさんは、どんなプレゼントをするといいよ、と言ったんですか。
児童 おかあさんに、だきつくように(ばらばらに言う)。
児童 だきついて、キスをするように(ばらばらに言う)
児童 だきついて、ほおずりする(ばらばらに言う)。
教師 そうね。だきついてほおずりするプレゼントですね。ほおずりって、
   どんなこと?
児童 ほっぺと、ほっぺを、くっつけること(ばらばらに言う。隣の子にだ
   きついて動作化をする子もいる。)
教師 そうね、くまさんは、ほおずりのプレゼントをして、と教えたんだね。
   「ほおずり」と「キス」と同じ?
児童 ちがう。ちがう。(ばらばらに言う)
教師 そう、ちがうよね。だきついて、ほうずりしてるとき、だにーはつい
   でにキスもしたかもしれませんね。
教師 あのね、この挿絵、ダニーの顔はよく見えるが、お母さんの顔が後ろ
   向きで、よく見えないでしょう。おかあさん、どんな顔をしていると
   思いますか。
児童 (無言)
教師 M子さん。
M子 わらってると思います。
教師 わらってると思う人?
児童 約半数が挙手する。
教師 わらってるだけ?  A子さんは、どう思う?
A子 わたしは、うれしなみだをしていると思います。
児童 同じでーす。(多数)
教師 じゃあね。おかあさんがどんな気持ちでいるか、せんせい、みんなの
   気持ちを知りたいから、どんな気持ちでいるか、書いてもらいます。

教師 (だにーは、おかあさんの首にギュッと抱きつき、ほおずりしている
    挿絵を絵本からコピーして抜き出し、おかあさんの口から吹き出し
    を大きく描いたプリントを児童たちにわたす。事前に準備していた
    プリントを配布する。)
    この大きな吹き出しの中に、ほおずりされているおかあさんの気持
    ちを、想像して、お母さんが思っている気持ちをコトバにして書き
    入れてください。おかあさんになって、おかあさんの気持ちを、お
    かあさんのコトバにして、書き入れてください。
   (10分間ほど書き入れる時間をとる。児童が書き入れてるあいだ、
    教師は、机間巡視で個別指導をする。)

教師 発表してください。書いたことを表現よみしてください。
Y男 読みます。「だにーが、だきついてくれて、とてもうれしいわ。ねる
   まえにも、だきついて、だにー」
B男 読みます。「ところでそんなこと、どこできいてきたの」「あのね、
   もりにいって、くまさんにきいてきたんだよ」
M子 読みます。うれしそうに「だにー、これがぷれぜんとなの。ありがと
   う」といいました。
C子 読みます。おかあさんは、うれしいきもち。なきそうなくらいうれし
   いきもち。うれしくてたまんないきもち。
N子 読みます。おかあさんは、うれしくて、うれしくて、なみだがでまし
   た。「ありがとう、だにー。とってもうれしいよ。はやくおしえてく
   れればよかったのに」
G子 読みます。おかあさんはうれしくて、なみだがでているとおもいます。
T男 読みます。おかあさんは、うれしくてなきそうです。それでだにーは、
   おかあさんいいいました。「これがいちばんいいおくりものだ。」
S子 だにー、だきついてくれて、うれしいわ。ねるまえにもだきついて、
   だにー。
K子 おかあさんはうれしくてたまりません。「ところでそんなこと、どこ
   できいたきたの」「あのね、もりへいってくまさんいきいてきたんだ
   よ」
G男 「だにー、これがぷれぜんとなの。ありがとう。だにー」と、うれし
   そうにこういいました。
P子 だにー、ありがとう。とてもうれしいわ。さてと、けーきをかいにい
   ってちょうだい。
Y子 それとにて。ありがとう、だにー。おいしいけーきをたべましょう。
R男 それとにたこと。「だにい、ありがとう。けーきをかってあるよ。」
   「わあい、わあい」だにいはいいました。
   (以下、省略)

教師 みんなは、おかあさんのたんじょう日に、こんど、どんなプレゼント
   をしたいですか。
児童 だきつく。だきつく。(口ぐちに言う)
児童 だにーと同じに、だきつく。(口ぐちに言う)
児童 キスする
児童 いやだあ。きみわるー。(口ぐちに言う)
教師 こんど、おかあさんのたんじょう日に、「おかあさん、たんじょう日、
   おめでとう。これがプレゼントです」と言って、だにーのようにだき
   ついて、ほおずりしたい人? できる人?
児童 できる、できる。したい。したい。はずかしい。(口ぐちに言う)
教師 できる人?
児童 はーい(約7割が挙手する)

 以上で「おかあさんのたんじょう日」の実践報告を終わります。指導者の
後藤先生の自評によると、最後の吹き出しへの書き入れは、1年生の夏休み
直前実施で、まだ、かな文字の書字指導が終わり、文を作る指導が始まった
ばかりという時期で、文を書くのにとまどっている児童が数名いた、という
ことです。
 上掲の記録を読むと、後藤学級の児童たちが、積極的に話し合いに参加し、
喜び楽しんでいる様子が伝わってきます。児童たちの心の内面に湧き上がる
つぶやきを教師が上手に拾い出して話し合っています。読解指導のように深
入りすることなく、ストーリーの流れを喜び楽しんで語り合っている様子が
伝わってきます。「立ち止まりなし」の読み聞かせでは、読みっぱなしで終
わり、児童たちはとかく受動的になってしまいます。それとは違って、上の
「立ち止まりありの読み聞かせ」では、児童たちの生き生きした活動の様子
を見ることができます。



     
立ち止まり個所をどこにするか



 「立ち止まりあり」の読み聞かせでは、どこの文章個所で立ち止まるか,
どこで児童と話し合いをするか、が重要となります。
 どこで立ち止まって話し合うか、いろいろな場合があります。幾つかを書
き出してみましょう。


  
【見開きの最終文章を読み終えたら、立ち止まって話し合う】

 上掲の「おかあさんおたんじょう日」の実践記録では、見開きの文章の終
末まで読み聞かせたあと、そこで立ち止まって話し合っている個所が、最も
多くあります。第1、4、5、6、10、11、15場面がそうです。

 絵本では、見開きページの最終の文章個所を読み終えたら、そこで立ち止
まり、児童と話し合う場合が多くなります。見開きを開いて、絵を見せ、最
終の文章個所を読み終えたら、そこで教師と児童とで話し合う場合が多くな
ります。
 なぜなら、絵本は、見開きページごとに大体はひとまとまりの話内容にな
っているからです。絵本は、現ページと次ページとのあいだにひとまずス
トーリーの区切りがあるように構成されています。これは、わたしが絵本を
読み聞かせしてきた体験から言えることです。
 次ページへとストーリーが連続していても、現ページでは小さなひとまと
まりとなって、ひとまず終わります。もちろん、次ページへとストーリーは
つながっているわけですが、現ページと次ページとのあいだには、「さて、
次はどうなっていくか、早く知りたい。次を早く読みたい」という気持ちを
抱かせる作り方になっています。
 絵本は、現ページと次ページのあいだに「次を早く読みたい。次はどうな
るか知りたい」という次ページ内容への期待もたせの作為的な装置が巧妙に
仕掛けられている場合が多くあります。現ページの文章の終末個所で「次は
どうなるか。早くページをめくってほしい」という期待もたせの、児童が先
を知りたい心理をわざと延滞させて、じらして、一時的に中断する、そうし
た仕掛けが多くあります。こういうわけで、「立ち止まりあり」の読み聞か
せでは、ひとまとまりの見開きページの文章を読み終えたあとで、教師と児
童が話し合うことが多くなります。

その他、立ち止まって話し合う個所は、いろいろあります。ストーリーの
流れのありようや人物の感情の起伏などによっていろいろと違ってきます。
 上掲した「おかあさんおたんじょう日」の実践報告で立ち止まり個所がど
こにあるかを調べてみましょう。


  
【見開きの文章を終末まで読み聞かせたあと、話し合いをし
   ないで、すぐに次ページを開き、次ページの文章を最終ま
   で読みつづけ、読み終わってから立ち止まって話し合う】


 次の場面がその例です。
 第2場面〜第3場面を続けて読んでいます。だにーはめんどりと出会い、
「たまごならあるの」と言って断ります(第2場面)。だにーとめんどりと
で一緒に探しに行きます(第3場面)。ここは、だにーとめんどりとの行動
が連続しているので、立ち止まっていません。第3場面の最終の文「すると
───」を読み終えたあと、立ち止まって話し合っています。ここで立ち止
まって「すると、どうなるでしょうか」という問い(期待もたせ)に、いろ
いろと予想を出させて話し合っています。
 このように事件が、人物行動が、ひとまとまりに連続している場合は、立
ち止まらないで読み続けます。次はどうなるか? の個所で、立ち止まって
話し合い、先きをいろいろと予想させる話し合いをします。ここで予想させ
ると、次の話内容への興味関心が倍加します。

教師 ここで立ち止まって話し合いをしないで、次ページ(第3場面)を開
   いて見せる。第3場面(めんどりとの対話個所の見開き)の文章を連
   続して読み続ける。

 そこで、だにーと めんどりは、ぴょん ぴょん、かけて いきました。
すると───

教師 すると───、すると─── どうなるのかな? 誰かに会うのか 
   な?
児童 だれかに会うと思う。
児童 あひる
児童 あひる



   
【前ページの終末でいろいろと予想を出させ、次ペー
    ジの冒頭で立ち止まって、予想の確かめを話し合う】


 次の場面がその例です。 
 第5場面の終末「すると───」どうなるか、そこで立ち止まって、いろ
いろと予想を出します。第6場面をひらいて、絵を見せます。絵には誰と出
会うかの答えが描かれているので、直ちに予想の確かめを話し合うことがで
きます。絵を見て直ちに予想が当たったかどうか、確認をすることができま
す。
 絵を見て直ちに予想が当たったかどうかを決定できない場合もありますが、
この絵本の場合では、次ページの第6場面を開くと答えが描かれているので、
そこで立ち止まって、すぐ話し合いに入ることができます。
 第6場面の絵を見せて、直ちに話し合っています。

教師 残念でした。犬ではありませんでした。何でしょう?
児童 やぎ やぎ やぎ(一斉に)
A男 うらがえしの絵では、犬にみえたんだもの。
D男 牛乳、あげるんだよ。
児童 牛乳 牛乳 牛乳(一斉に)
教師 牛乳あげるの? やぎが?
F男 牛乳は牛のちちでしょ。やぎのちちは、牛乳と言わないよ。
D男 そうか、では、やぎのちちをあげるの。



   
【見開きページの全文章の途中で立ち止まり話し合う】

 次の場面がその例です。
 第2場面でその例があります。だにーがおかあさんの誕生日にあげるもの
をめんどりに質問します。めんどりは、こっこっこっと言います。めんどり
は「うみたてのたまご」と返事をしますが、その返事をする前に、立ち止ま
って、めんどりは何と返事をしたか、予想を言わせます。
 次は、その第2場面の途中の立ち止まりの話し合いです。

教師 めんどりは、「こっ こっ、こっ」といったけど、何をあげると言っ
   たでしょうか。
N男 たまご
大勢 たまご たまご(口ぐちに)
K子 金のたまご 
大勢 金のたまご 金のたまご(口ぐちに)
教師 何だろうね、次を読むよ。



   
 【特に注目させたい事柄、語句があるとき、そ
     れを取り上げて話し合うために立ち止まる】


 次の第15場面がその例です。
 第15場面の途中にある本文「くまはだにーをだきしめて」という事柄に
注目させるために立ち止まっています。前ページの「くまは怖い」という児
童たちの予想を逆転させ、くまは怖くなかったという結果をはっきりさせる
ために立ち止まって話し合っています。ここでは見開きページの途中で立ち
止まって話し合っています。

教師 くまさんは、だにーをだきしめたんですって。だきしめたのよ。みん
   なの予想、どうだった?
児童 はずれた。はずれた。(口ぐちに)
S男 予想がはずれた。
P子 くまさんは、こわくなかった。
H子 くまさんは、やさしかった。
教師 そうだね。やさしかった、こわくなかったんだね。次を読みます。


      
【このほか、立ち止まって話し合う例】

 このほか、ページの途中で立ち止まる場合として、事件の流れや人物の心
理感情が複雑にもつれている場合など、それをときほぐすために立ち止まっ
て話し合うことがあります。また、ある人物のちょっとした行動、あるいは、
ことば使い(言いぶり)に注目させるために立ち止まって話し合うこともあ
ります。また、なじみのない語句や難語句に注釈を加えたりする場合にも、
本文途中で立ち止まって話し合うことがあります。

 文章形式からいえば、
(1)ページを開いて、文章を読む前に、冒頭で立ち止まって話し合う。
(2)文章を読み聞かせている途中で、立ち止まって話し合う。
(3)文章を読み聞かせたあとで立ち止まって話し合う。
の三種類があることが分かります。



          
参考資料(1)



 関可明『脳が元気になる読み聞かせ』(一光社、2002)という本があり
ます。
 関可明先生(都内公立小教諭)は、この本で「立ち止まりあり」の読み聞
かせ法で指導した実践報告を書いています。
・絵本を読み聞かせるとき、立ち止まって、児童に考える間を作る。
・絵本の世界に入りこませ、登場人物に児童が共感する話し合いをもつ。
・立ち止まって、予想したり、推理したりする楽しい話し合いをもつ。
・立ち止まって、物語の内容や感想ををめぐって、教師と児童とで語り合う。
・教師の思いが強く出すぎて、押しつけがましくならないように配慮する。

 関可明先生は、こうした読み聞かせ方を「読み聞かせ総合法」と呼んでい
ます。次のように書いています。(名付けについては、本章第5節「名称に
ついて」の項を参照)


 「読み聞かせ総合法」とは、物語などを聞いて、イメージしたり、ストー
リーの展開を予想したりすること、部分、部分で、内容を分析したり総合し
たりして、聞きとる読み聞かせの方法です。私が所属する児童言語研究会で
は、全体をさっと読む通読をしないで、読みの過程で、立ち止まり、内容を
分析したり総合したりして読みます。この読みの方法を一読総合法と名づけ
ました。
 本書での読み聞かせの方法は、読み聞かせの過程で、部分で立ち止まり、
内容を分析したり総合したりするので、この名前に因んで「読み聞かせ総合
法」と仮に名づけてみました。これは私の勝手な造語です。名づけはともか
く、聞き手が分析・総合しながら聞きとる方法は大事であろうと考えます。
 私の読み聞かせの実践はこの方法を応用した取り組みです。読み手の音声
ことばを聞き手がキャッチし、自分の考えや感想をすばやくまとめていくこ
とができるようになります。聞き手が読み聞かせを大いに楽しむとともに、
受け身でなく、主体的の参加するようになります。   前掲書 11p


 関可明著『脳が元気になる読み聞かせ』の中で、下段のようなテーマ(め
あて)をもって読み聞かせ指導したとあります。読み聞かせした絵本・物語
本のそれぞれの作品内容によって、読み聞かせの「めあて」、立ち止まりご
との話し合い内容・指導事項・テーマが違っています。関可明先生は、それ
ぞれの作品に下段のようなテーマで読み聞かせを指導したとあります。幾つ
かを拾って書き出してみましょう。

『11ぴきのねことへんなねこ』(馬場のぼる)
       同化したり対象化したりして楽しむ

『エルマーと十六匹のりゅう』(ガネット)
       想像力を高める読み聞かせ

『ともだちや』『ともだちくるかな』(内田麟太郎)
       友情、いじめ、生きるよろこびを考える

『にじいろのさかな』(マーカス・フィスター)
       いじめる人、いじめられる人の気持ちを考える

『アレクサンダーとぜんまいねずみ』(レオ・レオニ)
       今、共に生きるよろこび

『さっちゃんのまほうのて』(田畑精一)
       障害を考える

『かわいそうなぞう』(つちやゆきお)。『まちんと』(松谷みよ子)
       平和を考える心を育てる。

『おきなわ 島のこえ』(丸木俊、丸木位里)
       沖縄の戦争を考える

『おにたのぼうし』(あまんきみこ)。『島ひきおに』(山下明生)
       鬼への偏見を考える

『もうどうけん ドリーナ』(土田ヒロミ)
       福祉を考える

『かさぶたくん』(やぎゅう げんいちろう)
       体の仕組みを考える

『あしのうらのはなし』(やぎゅう げんいちろう)
       足型をとって成長を考える

『ことばあそびうた』(谷川俊太郎)
       声に出して読む、あそぶ。



          
参考資料(2)



        
イギリスの読み聞かせ授業


 わたしは、これまで日本の教育的土壌で育まれてきた「読み聞かせ」のあ
り方について書いてきました。以下は、イギリスの土壌での「読み聞かせ」
について書いてあります。学校教育での「読み聞かせ」の位置づけはかなり
違っているようです。

山本麻子著『ことばを鍛えるイギリスの学校 国語教育で何ができるか』
(岩波書店、2003)という本があります。
 著者の山本麻子さんは、この本の奥付によると、津田塾大学英文科卒、お
茶の水女子大学修士課程修了、79年に渡米し、81年ボストン大学教育学
部TESOLコース終了、86年から英国に居住する。現在レディング大学
研究官とあります。この本には、著者の二人のお子さんのナーサリー(保育
園、託児所)から大学までの教育経験を踏まえて、イギリスの国語教育につ
いて多方面から報告しています。
 下記の引用は、イギリスの初等学校の低学年の国語授業の様子について書
いている個所です。イギリスの小学校低学年の国語授業「ストーリー」の時
間は、「立ち止まり読み聞かせ」の方法で指導している、ということが書い
てあります。     


 
      内容を確認しながら読み聞かせせる

 初等学校の低学年の教室を訪ねると、よく、その片隅に教師用のしっかり
した椅子がおいてあるのに気付く。本の読み聞かせ、すなわち「ストー
リー」の時間になると、先生がそこにどっかと座り、子どもたちは先生を取
り囲むように床にすわって先生の読んでくれる話を聞くのである。ついでで
あるが、床にすわるときは男女共に日本で言えば「あぐらをかいて」座る。
こんな座り方に慣れない日本から来た女の子にはとても抵抗があるようだ。
 ところで、私が見学した公立学校の第一学年(5,6才児)のクラスでは、
二人の先生が一冊ずつ本を使い、話をしていた。一つはクリスマス近くだっ
たので、それにちなんでキリスト降誕の話、もう一つは、ドクター・スース
の「キャット・イン・ザ・ハット」であった。キリスト降誕の話では、知識
を確かめることと、使われている独特の用語を確認するという意味があった
ようだ。教師は挿絵の入った本を見せながら、要所要所で、「この人はだ
れ?」「ここはどこ?」「これはなんていうの?」などと質問していた。児
童が一斉に答えることもあるし、一人一人が手を上げる場合もある。
 「キャット・イン・ザ・ハット」の話でも、先生は子どもたちに挿絵を見
せながら読んでいた。そして、会話の部分と地の文を区別しながら感じをこ
めて読んでいる。私はつい、子ども時代の「紙芝居のおじさん」を思い出し
てしまった。ただ、「紙芝居」と異なるのは、先生が読む合間にも内容を確
かめるために子どもたちに質問をすることである。それだけでなく、たとえ
ば「このあと、何が起こるかしら?」とか「あなたたち、どう思う?」など
と問いかけ、内容だけでなく、子どもの意見や物語の発展を考えさせる。子
どもたちは無邪気に、しかも活発にしゃべる。テキストには繰り返しの部分
が多く、聞いていれば予測できるので、子どもたちは最後には、そうした部
分だけは、先生の言うのと同時に声を出して言っていた。 前掲書85ぺ


 ここには、イギリスの低学年の読み聞かせの授業風景が書いてあります。
日本の読み聞かせ風景と同じなところ、違うところ、いろいろです。日本の
教室での座り方は、男も女も体育すわりが最も多く、あぐらや横すわりもみ
られます。全児童が椅子に座って聞くことも多いです。
 「キリスト降誕の話」の先生は、こんな指導をしています。「知識の確か
め」(過去の知識の整理、物語理解の勘所の確認)。「独特な用語の確認」
(難語句・語彙)。要所要所で、「この人はだれ?」「ここはどこ?」「こ
れはなんていうの?」(物語理解の勘所の確認)などと質問(教師の発問)
する。
 児童は、「一斉に答えることもあるし、一人一人が手を上げる場合もあ
る」(積極的な参加態度)。
 「キャット・イン・ザ・ハット」の先生は、こんな指導をしています。
「感じをこめて朗読する」(音声表現)。「内容を確かめるために子どもた
ちに質問する」(物語理解の勘所の確認、教師の発問)。「何が起こるかし
ら?」(出来事の予想)とか「あなたたち、どう思う?」(感想意見批判)
などと問いかける(教師の発問)。「子どもの意見や物語の発展を考えさせ
る」(感想意見批判。展開の予想、続き話作り)。
 児童は、「無邪気に、しかも活発にしゃべる」(積極的な参加態度)。

 教師たちのこうした指導方法は、イギリスの初期学習段階のカリキュラム
に指導項目とあるのだそうです。次のような指導項目にしたがって読み聞か
せも指導しているということです。

 ナショナルカリキュラムでは、物語や詩を理解し、それに応答するために、
子どもたちは次のような機会を与えられる必要がある。     
 ○登場人物、出来事、および使用されていることばづかいを語る機会
 ○物語の中で次に何が起こるかを言ってみる機会
 ○物語を自分の言葉で語りなおす機会
 ○テキストの一部、または全体を説明する機会   
前掲書 87ぺ

 それぞれの指導項目を読み聞かせで指導するとしたら、どんな学習活動が
行われるか。わたしが推察した主な学習活動を、それぞれの指導項目の下段
(  )の中に書き入れてみました。読み聞かせにおける学習活動を( 
 )にして挿入すると分かりやすくなるだろうと思ったからです。

 ○登場人物、出来事、および使用されていることばづかいを語る機会
 (人物の行動意図・心理感情、出来事の流れ・因果関係、語句の註解)

 ○物語の中で次に何が起こるかを言ってみる機会
 (物語展開の予想・推測、続き話作り)

 ○物語を自分の言葉で語りなおす機会
 (くわしい話かえ、短い話かえ、入り込み法、表象形成、副題づけ)

 ○テキストの一部、または全体を説明する機会
 (段落構成や全体構造の解明、小見出し、要旨、大意、主題、感想意見)
  
 こうしてみると、イギリスの読み聞かせ指導では、読み聞かせの途中で何
を目的に立ち止まり、何を話し合い、何を指導しようとしているかがはっき
りします。これらで見ると、イギリスの読み聞かせ指導では、読解指導が中
心であり、鑑賞指導は副次的であることが分かります。わたしの主張である
「読み聞かせの時間では鑑賞を中心に、国語の時間では読解を中心に」(本
章第6節「読解でなく鑑賞を」参照)とは違っていることが分かります。
 この著書の他のページの文章を読むと、低学年の読み聞かせ指導と中高学
年の読本講読(リーダー)の時間とは指導事項が連続しており(上のナショ
ナルカリキュラムの指導事項をみても分かる)、すべて読解中心になってい
ると読みとれます。
 日本の場合は、「読み聞かせ」と国語の時間の「読み方の指導」との二つ
は、イギリスとは違って、その指導の目的や方法はかなり違っていて、区分
けして指導されているのが現実だと思います。前者は楽しみ読みで読書指導
への導きとして役割があり、後者は読み深めの読解指導中心という違いがあ
ります。
 日本の義務教育の学校では、読み聞かせをしながら徹底した読解指導をす
る教師もいるかもしれませんが、ごく少数でしょう。古文購読ではこうなり
ますが、現代文では少ないと思われます。後者のような授業方法も一つの指
導方法として大きな教育的意義があります。しかし、日本ではまだ常態化し
ているとはいえません。

 著者(山本麻子さん)が、イギリスの小学校で10歳のお子さん(3年
生?・4年生?)の国語授業を参観したときの様子を次のように書いていま
す。下記引用を読むと、1年生の読み聞かせ指導が中学年のリーダー(読本
講読)へと読解指導中心が連続していることが分かります。


 息子たちの一人が10歳になったばかりのころ、そのクラスの英語の時間
を参観したことがある。ペネロビ・ライブリー作のある物語を読んでいた。
全部で150ページばかりの本で、20人前後から成り立つクラス全員がそ
れぞれ手に持っていた。こうした本は学校でまとめて買ってある。一回の授
業で一章ずつ、だいたい、10ページから15ページぐらいずつ進む。教師
は児童のだれかを指名して、1,2ページを音読させたあと、全員にテキス
トの内容について細かい質問をし、理解したかどうかをチェックする。難解
な語が出てくると、音読中でもストップさせ、皆に意味を尋ねていた。
 教師が「君はどう思うか」と、個人の意見を言わせたり、物語の展開の予
測や、風景の推測をさせたりする。個人の意見を言わせたときには必ずその
理由を尋ねる。さらに、感じをこめて読むようにと、教師が何度も言い、お
手本を示していた。教師も次から次へと質問をするし、子どもたちも自分か
ら進んでよく発言する。            前掲書 89ぺより


 著者(山本麻子さん)が紹介しているイギリスの二つの国語授業風景を読
むと、教師の発問が中心の授業のように見受けられます。教師の発問があっ
て、それに児童たちが活発に応答し、話し合って、論点を深めていく授業に
なっているようです。1年生の読み聞かせ個所を読むと、児童たちが絵本の
文章や絵から感じとった反応を積極的に発表し、教師がそれら発言をとりあ
げて話し合いを組織していくという授業形態にはなっていません。教師の発
問があって、それに児童が応答しています。10歳のお子さんの授業でも、
教師が発問し、教師の発問に導かれて話し合いを深めていく授業のように見
受けられます。児童が語句や文や挿絵に積極的に反応し、そこで感じとり読
みとったことを全員の前に提出し、そこから話し合いを深めていくという、
児童の自主的で主体的な言語能力を高める授業にはなっていないように思わ
れます。この点でも、前節の「おふろ」「スガンさんのやぎ」、本節の「お
かあさんのたんじょう日」の読み聞かせ方法とは違っています。


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