第17章 ・小学生への読み聞かせ技術   2015・7・13記




  
第2節 読み聞かせの事前準備




      目次(教師の学級児童への読み聞かせ方)
        下読みで語り方の演出を工夫する
        座席の配置を工夫する
        読み聞かせ数日前の指導事項
        読み聞かせ直前の指導事項




    
下読みで語り方の演出を工夫する


 下読みで、どう音声表現すれば感動を与える語り方になるか、その演出効
果を上げる工夫をします。
 下読みは、声に出して読みます。黙読でなく、声に出して読みます。声に
出して読むことで、黙読では気づかない微妙な音声表現のメリハリのつけ方
が分かってきます。文章内容に応じてどう効果的に音声表現していくとよい
かを、声に出して調べます。
 どこを、どう音声表現したらよいか、その演出メモを作ります。教師は多
忙ですから詳細な演出プランを作成することはできかねます。読み聞かせ本
のページのあちこちに鉛筆書きで、単語メモで書き込みを入れます。
 まず、ストーリーの大きな流れをつかみます。はじまり→展開→山場→結
末を大づかみにつかみます。全体の流れの中で、どこを、どう読み声を変化
させ、子どもに感動的に届けることができるかを調べます。こうメリハリを
つけて読みたいという個所を、文章のそばにメモで書きこみを入れます。メ
モ書きというよりは、記号といったほうがよいかもしれません。自分(読み
手)だけが分かる記号・しるしでかまわないわけです。

 次のような分析の観点が考えられます。参考にしてください。

(1)大きな声で読むところはどこか。

(2)小さな声で読むところはどこか。

(3)明るい声で読むところはどこか。

(4)暗く沈んだ声で読むところはどこか。

(5)早口で急いで読むところはどこか。

(6)ゆっくり、のんびりと読むところはどこか。

(7)会話文と地の文とを区別して、読み分けるところはどこか。

(8)会話文の中で、相手と話し合っている、やりとりの雰囲気で    
  読むところはどこか。

(9)会話文の中で、ひとり言にして読むところはどこか。

(10)間をたっぷりと開けて読むところはどこか。

(12)児童全員で楽しく唱和するとよい文章個所はないか。
   「ウントコショ、ドッコイショ」「おにろく」「ひらけごま」
   「王様は、はだかだ」など。

(13)物語のクライマックス場面の盛り上げ方をどうするか。

(14)物語の冒頭部分、読み出し方の調子をどうするか。

(15)物語の終末部分、読み終わり方の調子をどうするか。

(16)大段落(話し内容が大きく変化する個所)では間をあける。間をどれ
   ぐらいの開け方にするか。次の段落の読み出し方(明るく、暗く沈ん
   で、密やかに、急いで、ゆっくり、など)をどうするか。

 児童が学芸会の劇発表で丸暗記の台詞をすらすらと語ります。一向に観客
の心に触れてきません。機械的にオウムのように文字を声にしているだけで
す。聞き手の耳の中に台詞が入ってきません。もちろん、興味もわかないし、
感動も生まれません。
 下調べで、教師は物語世界を自分のものにしておきます。事前の下調べが
自分のものになっていれば、物語の流れにふさわしい語り口・音調で読み聞
かすことができます。文字を読むのでなく、情景を、人物の気持ちを、心の
中に描きながら音声にしていくようになります。



        
座席の配置を工夫する



教師の立つ位置


 教師の座席の位置は、教室の中央前面がよいでしょう。
 教師が立って読み聞かせする、椅子の座って読み聞かせする、教師が横座
りで絵を見せながら読み聞かせするなど、いろいろな場合があります。
 読み聞かせする本が、文章が中心か、絵が中心か、大型本か、小型本かに
よって、教師が立つか、座るか、その時々の判断で、どれにするかを決めて
いきましょう。
 重要なことは、児童から、教師の全身が見えること、せめて半身は見える
ようにすることです。
 読み聞かせは、教師のからだと児童のからだとの触れ合い、響き合い、共
振によって成立しています。読み聞かせは、語り手が消えているラジオでは
ありません。
 教師から、児童たちの顔の表情、からだの表情が見えことが大切です。逆
に、児童たちからは、教師の顔の表情、からだの表情が見えことです。教師
からは、児童の反応の様子、受け入れ方の様子が見えていることです。相互
に見えることによって、身体の触れ合いによる感動の伝達が増大します。
 読み聞かせは、教師と児童との、基本的には対話です、会話です。お互い
に相手が見えなくては対話・会話は成立しません。教師が文字ずらを「読ん
で聞かせる」ではなく、相手(児童)に「語りかける」です。読み聞かせは、
教師の全身から伝達されたお話し内容を、児童が全身で受け止めて、共振し
て理解する身体的な触れ合い行為です。


児童の座席の配置

 読み聞かせに用いられる本は、多くは物語です。物語は非現実の世界です。
児童たちを、現実世界とはちがう非現実世界に導きい入れるには、日常とは
違う教室環境にするとよいでしょう。通常授業の座席配置ではなく、座席替
えをして気分を変えるとよいでしょう。
 読み聞かせ会場(多くは教室)の配置は、教師が扇のカナメとなり、児童
を扇形にすわらせる形式がよいでしょう。教師を中心に車座になって聞く隊
形です。教室で読み聞かせをする場合は、児童机を後ろにさげ、いすだけで
教師を囲むようにします。または、いすを使わず、児童は床にすわります。
床にすわる場合は、教師が見えやすいようにうしろ一列か二列だけいすにす
わるのもよいでしょう。
 教師を中心に、教師の近くに寄るようにします。教師が読み聞かせしてい
る顔の表情や語りの息づかいに触れられるようにします。読み聞かせの原型
は、母親がわが子(幼児)を抱っこして語り聞かせしたことにあります。床
の座ったほうが児童同士のからだ(反応)の触れ合いができ、それによる心
理的な一体感の同調がおこります。それにつれ集中力も増してきます。
 児童全員から教師がむりなく見わたせる隊形を作ります。最前列の児童が
アゴを上げて見上げるむりな姿勢にならないように、教師は児童最前列から
少し位置を離れたところに座席を占めます。
 児童の座席は教師を取り囲む配置にします。児童が床にすわるときは、あ
ぐら、ひざをかかえる体育ずわりなどがよいでしょう。聞いているときの姿
勢は、くつろいだ、ゆったりした姿勢がよく、カチンカチンに姿勢を正しく
させる強制はよくありません。わたしは少し横になっても、もたれあっても、
寝転がっても、集中して聞いているならば気にしません。わざと奨励してい
るわけではありませんが、このへん、教師によって、そんなだらしない聞き
方はダメ、という方もおられるでしょう。



       
読み聞かせ数日前の指導事項



(1)「○○の本を読み聞かせします」と予告しておきます。本の実物を見
   せておくとよいでしょう。
(2)読み聞かせする本の書名・作者名・主な登場人物名など、板書または
   掲示しておくとよいでしょう。



        
読み聞かせ直前の指導事項



(1)トイレに行かせる。

(3)読み聞かせしている途中で、隣の子とむだ話をしたり、いたずらした
   り、動き回ったりしてはいけませんと告げる。

(4)おかしければ笑っていいです。ただし大声で笑ってはいけません。み
   んなのじゃまになりますから、そっと小さく遠慮しながら笑いましょ
   う。怖い話のところでは、からだを縮め、硬くしながら、ふるわせな
   がら聞いていてもいいです。

(5)お話を聞いている途中で心の中に浮かんだ反応のコトバ・ひとり言が
   ひとりでに出てくることがあるでしょう。その時は、言ってもいいで
   す。ただし、みんなのじゃまになりますから、小さい声で遠慮しなが
   らつぶやくようにしましょう。

(6)先生が読み聞かせしている時、下を向いて聞かないようにしましょう。
   読み聞かせしている先生の顔の表情、からだ全体の表情を見ながら聞
   くようにしましょう。 
  (その理由。教師は口で語っているのでなく、からだで語っているので
   す。児童は耳で聞いているのでなく、からだで聞いているのです。語
   っている教師の伝え意図・思いは全身の表情となって現れ出ていま 
    す。教師は全身で語り、児童は全身で受け取って、反応しているの
   です。教師と児童とのからだの共振・同調で読み聞かせは成立してい
   るのですから、児童は下を向いて聞かないように指導します。)

(7)怪談、お化けの話などを読み聞かせる場合は、教室のカーテンを閉め、
   室内灯を消すなどして雰囲気づくりをします。

(8)教師の読み声が、最後部の児童に届いているかどうかを確認します。
   教師の声がどれぐらいの声量で読み聞かせしたらよいかを調べます。
   小さすぎてないかを第一に調べます。

(9)絵本を読み聞かせする場合は、全児童に「絵本の絵が見えるか」を 
   問いかけます。絵が見えにくい児童がいないかを調べます。いたら座
   席位置を変えます。

(10)すべての作品ではないが、必要に応じて、読み聞かせ直前に、作品が
   生まれた時代の背景や事柄を簡単に知らせたほうがよい場合もありま
   す。
   たとえば『かわいそうなぞう』『そしてトンキーも死んだ』など。太
   平洋戦争の末期、東京の町は毎日のように空襲を受けていた。もし上
   野動物園が空襲で破壊され、猛獣が逃げ出して、あばれたら、たいへ
   んに危険だ。それで、ライオン、クマ、トラ、ヒョウ、大蛇などは、
   かわいそうに殺処分にされた。象をどうするか、象はどうだったか、
   これから読む本は、そのとき上野動物園で本当にあった象のお話がで
   す。では、はじまり。はじまり。
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