表現よみ授業の指導法 2012・01・08記 表現よみ授業の指導方法(その7) 本章の目次 ≪小さい声でしか読めない子への指導方法≫ (A)発声器官の器質的損傷 (B)心理的要因 (C)共鳴がついてない(共鳴が弱い)要因 (D)そのほかの要因と指導方法 (1)のどに息をしっかり当てる (2)のどをしめつけて読まない、話さない (3)腹式呼吸で声を出す (4)声を前に出して読む、話す (5)やや張り気味に声を出す (6)しまりのない、だらっとした声で読まない。 (7)起立して読ませる、話させる 質問 小さい声でしか読めない子、小さい声でしか話さない子がいます。この ような子へどんな指導をすればよいのでしょうか。 担任教師としては、できれば大きな声で、はぎれよく、リンリンと響く、 透明で透き通った、天に突き刺すような、子どもらしい声、天使のような声 で読ませたいものです。 答え 戦前戦中時代のことですが、家の軒下を通ると、家中から子どものリン リンと響く読本読みの声が聞こえてきたものだとよく言われます。当時の学 童たちが教師から指名を受けて教室で読む読本の読みの声は、大声を張り上 げて朗々と読み上げる読み方が上手と言われ、普通だったようです。 敗戦後になって学習指導要領は黙読重視となりました。音読は軽視され てしまいました。指導されなくなりました。敗戦後の朗読・音読・黙読の歴 史については本HPの「名文の暗誦教育についてのエッセイ」欄に詳細が書 いてあります。 ご質問者がおっしゃるように、現在の子ども達は、教室内で教科書を読 む声も、発表する語り声も、低く小さく、元気がなく、ボソボソした声が多 く、はつらつとした元気よい声が少ないと言われています。この現象は今に 始まったことではなく、平成に年号が変わった頃にはすでに日本の教育界で 言われていたことでした。 声の大きい子は活力があります。生きる力強さがあります。自信をもっ て物事に取り組みます。自己主張にも気合があります。勉強・スポーツにも 積極的です。声の大きい人に悪人はいない(少ない?)と言われています。 声の大きい人は何事にも明るく、アクチィブに行動します。 では、どう指導していったらよいでしょうか。小さい声の原因としては 次のようなことが考えられます。 (A)発声器官の器質的損傷 (B)心理的要因 (C)共鳴がついてない(共鳴が弱い)要因 (D)そのほかの要因と指導方法 次に、これらについての解説と指導方法を書きましょう。 (A)発声器官の器質的損傷 これについては学校教師による指導の埒外にあります。専門医による診 断と医学的な治療にたよるほかありません。 (B)心理的要因 引込み思案な子、恥ずかしがりな子、小心な子、気が小さく臆病な子な どに声が小さい傾向がみられます。また、性格的におとなしい子、恥ずかし がりな子、からだの閉じている子、音読でいえば文章が読み慣れてなく自信 がない子、読みまちがえるといや、というような子にも声が小さい傾向がみ られます。このような子は、友だちも少なく、行動力もありません。 声の小さい子に「大きな声で、元気よく」を強要しても、教師が望むよう には簡単にはなりません。大きな声を強制するよりも本人の自然な発声を守 りつつ、少しずつ声量を上げていくよう指導していきます。 まずその子自身の声の大きさを守って、進んで話しだす対策を見出して いかなければなりません。友だちを紹介したり、その子と友だちになるよう に誘いかけたり、友だちと屈託なく遊び交わる環境を設定してやることが必 要です。友だちに遊びの誘いかけを多くするように頼みます。教師が「一緒 に遊んであげてね」と頼みます。教師もその子に積極的に話しかけることも 大切です。教師が冗談を話しかけて笑わせたり、教師から遊びに誘うことで す。気がおけなく友だちと遊んだり、気安く笑顔で語り合う場を作ってやり たいものです。 声の小さな子は、小心というような性格的要因ばかりでなく、家庭環境 や成育歴要因があったりします。友人関係によるストレスなどの要因があっ たりもします。これらの要因を取り除く対処も必要です。が、これら障碍を 取り除くことは教師一人には困難でしょう。教師の参入できない領域が多く あります。さしあたって教師としては、子どもの気持ちの緊張、身体の緊張、 心理的な緊張を解放してやることはできます。 このような子は緊張感が強いですから、心理的な開放を奨励する指導が 必要です。なぜ話さないか、なぜ緊張しているか、その原因を探ることです。 家庭環境や成育歴を調べ、その分析と対策(指導)も必要です。ほめる、自 信を与えるなどでみちがえるようによくなる子もおります。一人ひとりの実 態に応じて教師ができる指導方法を考え出していきましょう。 授業の開始前、あるいは授業の途中で、身体の緊張をほどいて屈託なく 自由に声が出せる(話せる、意見が言える)ような雰囲気を作ることも大切 です。身体が緩み、ほおが緩み、のどが緩み、気持ちが緩むような身体動 作・レッスンをやると、自由に意見が言い易い雰囲気になります。 首を回したり頤を上下前後に動かして力を抜いてやる身体動作、からだ を前屈させてぶらぶらとゆする身体動作、全身の跳躍とか、隣の子と手つな ぎで同一動作をするとか、離れて立っている友たちにボールを投げる動作を しながら「オーーイ」とか「投げるぞーー」とか「ナイスキャッチ」とか言 って声を届けるとか。いろいろ工夫はあるでしょう。 声は身体の働きの一部ですから、身体の開放で相手に心が気安く開いて いくことが大切です。声は身体のありようを語っている身体の一部だからで す。「ことばを発するのではなく、ことばの中に人が生きているのだ」(竹 内敏晴)からです。 (C)共鳴がついてない(共鳴が弱い)要因 発声には、「共鳴のついた声」がとても重要です。はじめに「共鳴」に ついてのアウトラインを書きます。 大きい声とは、ばかでかい声ということではありません。ばかでかい声 で本を読んだり話したりする子を教師は「元気がいい子」として称賛しがち ですが、これは誤りです。声を大きくしたり、蛮声をはりあげたりしなくて も、共鳴がついていれば十分によく通る声になります。よく通る声とは、よ く共鳴してる声のことです。共鳴がついていれば小さく出しても隅々までよ く通る声、伸びる声になります。やたらに大きな声を出すと声帯を痛めてし まいます。声帯に圧力を加えないで共鳴を上手に出すことです。 声帯で振動した声を咽頭や口腔や鼻腔、つまり口部や鼻部にある空間 (穴部)に共鳴させることです。そこの個所の空気の振動、骨の振動をさせ ることです。共鳴は、頭部共鳴(口腔共鳴、咽頭共鳴、鼻腔共鳴)だけでは ありません。頭部共鳴と同時にボディー共鳴(胸筋、腹筋、腰筋、背筋脚筋 などの共鳴)も行われています。ギターやコントラバスのボディー共鳴と同 じ働きです。腹部や腰部や脚部などをケガしたとき大きな声を出すとケガし た個所に声が響いて「痛い」と感ずることがありますが、これは、声がボデ ィー共鳴している証拠だと言えましょう。 要するによく共鳴がきいてる声とは、自分の身体全体を楽器にして共鳴 していることです。 自分の声を、頭腔に響かせ、胸に響かせ、のどに響かせ、 唇に響かせ、腹部や腰部や脚部にも響かせて出すことです。特に前頭部への 響きを大切にして、声を前へだすことが重要です。 オペラ歌手の声の出し方は、声帯によって作られた声をどう共鳴させ、 拡大させるかに向けられています。イタリヤのベルカント唱法は、主として 鼻腔共鳴を使った発声法、ドイツ発声は、主として口腔共鳴を使った発声法 だと言われています。 小中学校では学校(学級・学年)行事として音楽発表会や音楽学習発表会 が実施されています。各学校合同の音楽発表会もあります。地区代表校によ る合唱コンクールなども実施されています。 合唱指導では、次のような児童生徒への唱法の指導が行われています。 これら技術的な指導は、いかにして共鳴を効果的に発揮させて、よい声で歌 わせるかにあります。 ・目と眉間を吊り上げる感じにして歌おう。 ・声はホラ貝を吹く(大声)でなく、リコーダーを吹くように軽く出そう。 ・両頬を上部へ引き上げるようにして歌おう。 ・口の中に卵が一個、入ってるようにのどを広げて歌おう。 ・両目のあいだ、または額のあたりから歌声が出るようにして歌おう。 ・音程の下がり気味を防ぐため、上の前歯が見えるように唇をあげて歌おう。 ・口の形をやや横に開くようにして歌おう。多少扁平になるが、暗い声が明 るくなるから。 ・のどを開いて、ピーンと眉間の中央一点に声を集め、ス−ッと顔の外に抜 けるようにして歌おう。 これら唱法指導は、一つ一つの言葉の言い方は違っているが、要するに 全身共鳴(特に頭部共鳴)をいかに有効に働かせて発声するか、メガホン化 させるか、共鳴拡大させて、よい声で歌わせるかの指導であると言えます。 文章の音読指導では、こうした唱法指導のような指導は通常では必要と しませんが、共鳴がついた声と、共鳴がない声を比較して理解させたり、蚊 の鳴くような小さな声しか出ない子、共鳴が弱い小さい声の子への個別指導 には大いに利用できます。 声の響き・共鳴を実感させる法 次のような方法で、自分の声が共鳴していることを実感させることがで きます。 (その1)「んーアー、んーイー」と伸ばして発音 「んーアー、んーイー、んーウー、んーエー、……」と伸ばして発音 させます。これで声が頭部共鳴(口腔共鳴、咽頭共鳴、鼻腔共鳴)し ていることを分からせます。頭部に声が響いていることを分からせま す。 (その2)「ナーニーヌーネーノー」と伸ばして発音 「ナーニーヌーネーノー」と伸ばして発音させます。これで声が頭部 共鳴(口腔共鳴、咽頭共鳴、鼻腔共鳴)していることを分からせます。 頭部に声が響いていることを分からせます。 (その3)声が鼻からも出てる感じ 声が口からだけでなく、鼻からも出ているかを確かめさせます。鼻か ら声が出ているとは、頭部共鳴してということです。 短い文章を、鼻からも声が出ているようにして音読させます。または、 目と目のあいだ、または額(ひたい)のあいだの当たりに声を当てて、 そこに声を響かせて、そこから声を出すようにして音読させます。声が 頭部に響いて出ていることを実感させます。 (その4)目は正面を向く あごを下におろすと、共鳴が抑えられて、くぐもった声、暗い声になり ます。目は正面を向いて、声を頭腔(頭部共鳴)させて出します。 こうして、鼻の中を開けて、そこへ声をぶつけて、そこに反響させて声 を出すとよく響いた、よく通る、よい声になること、その響き声を実感させ ます。 これは鼻腔からだけ声を出すということではありません。口と鼻の両方 から声が出ているのですが、同時に鼻からも出ている感じをつかませます。 (ほんとうは声を出す空気は口から出ているのです。が、こうした指導で鼻 の中の空気に声の振動が伝わらせると、共鳴がついたよい声になること、こ の感覚をつかませたいから、こうした実感指導をしているわけです。) この共鳴している感じをつかんで、それで自分の近くにある短い文章を 音読させてみましょう。こうして声が鼻に響いた頭部共鳴(口腔共鳴、咽頭 共鳴、鼻腔共鳴)していることを実感させます。 (D)そのほかの要因と指導方法 そのほか、小さい声のなる要因と、声を共鳴させ、よく通る声を出させ る指導方法について、次に書き加えていきます。 (1)のどに息をしっかり当てる のど(声帯)に息が弱くしか当たってないと、小さく、か細い声になっ てしまいます。自分の掌を口の前に置いて、「ハハヒヒフフヘヘホホ」とか 「タタチチツツテテトト」とか言わせてみましょう。自分の掌に息(声)が 当たる感覚を分からせます。これはのど(声帯)にも息が当たって声が出て いることになります。のど(声帯)に当たって息の勢いの強い、弱いの感じ が声の強弱になっていることをつかませます。 細長く切った薄い紙片を、自分の口の前に置き、「アー、イー、ウー、 エー、オー、カー、キー、クー……」と言わせます。口先個所の紙片に指を 軽く触れると、声を出している時は紙片が振動していることを分からせます。 声を出してないときは振動してないことも分からせます。声帯に当てる息の 強弱で紙片の振動の強弱が照応していること、これが声量の強弱とも照応し ていることを分からせます。 こうしてのど(声帯)に息をしっかりと当てることの大切さを分からせ ます。 のどに息をしっかり当てる練習 (その1)ローソクを吹き消す動作レッスンをする。 弱い息ではローソクの炎は消えない。「ハヒフヘホ」などでのど(声帯) に息を当てて吹き消す試みをさせます。発音の音の違いで息の強弱があるこ とを分からせます。ローソクを十本ほどハッハッハッと連続して吹き消す動 作レッスンをするのもおもしろいです。 (その2)息を自分の掌にハッ、ハッと強く当てる練習をする。 自分の掌にじかに息を当てる、または細長く切った紙片を唇の前に置き、 息をフッ、フッ、ホッ、ホッと言いながら息をのど(声帯)に強く当てて、 紙片を向こうへ押し出す練習をする。 (その3)声を出さない、出して言う、の違いをつかませる。 声を出さないで、息だけを声帯に当てて「さくらがさいた」と、一音一音 を声帯に当ててしっかりと言う。そのあと、声に出して「さくらがさいた」 と、一音一音を声帯に当ててしっかりと言う。 このレッスンで留意することは、息だけで言うとき、のど(声帯)に息を しっかりと当てることを意識して言う、発音するときも、息をしっかりと声 帯に当てて言う、この対比の感じをつかんで、両方とも声帯に息が当たって いる感じをつかませて、息だけで言う、声を出して言うの違いを分からせま す。 同じように息だけと声にだしての「さくらがきれいにさいた」を言う。お なじように息と声だけで「こうえんのさくらがきれいにさいた」を言う。 (2)のどを締めつけて読まない、話さない。 のどを締めつける(力を入れる)と、苦しい声になります。声をすぼめ ない、内にこもらないことです。のどをたっぷりと開くことが大切です。の ど(声帯)の緊張をゆるめることです。肩や首の上下運動、肩や首を回す。 ゆったりした、やわらかな身体で読むようにします。やわらかな身体でない と、音声表情(読み声の情感性)を自由にコントロールできません。固まっ た身体をほぐす運動をする、その場で足踏みをする、軽くジャンプする、左 右にゆする、手足をぶらぶらする、前後に屈伸して身体をぶらさげる、左右 にゆする、などもよいでしょう。 また、腹から声を出す横隔膜呼吸を意識して読ませます。横隔膜呼吸の 上げ下げに意識を向けると、のど(声帯)への意識が外されます。声を外へ 遠くへ投げ出すぐらいにして読むとよいでしょう。 西野皓三『身体知の誕生七つの法則』(小学館、1997)に次のような文 章がありました。 オペラの場合、ベルカント唱法もそうですが、身体が緩み、ほおが緩み、 のどが緩んでいないといい声が出ません。身体が緩み、ほおが緩み、のどが 緩み、そして、横隔膜をフルに使った深い呼吸によって、あの、人の魂を奪 うような、強烈でエネルギーのある声が出せるのです。 逆に、気持ちが緊張し、身体が緊張したときには、声は声は全く思うよ うには出せません。それどころか悪くすると、よくいわれるように、ニワト リが首を絞められたようなひどい声になってしまうのです。 (3)腹式呼吸で声を出す 呼吸練習、発声練習、発音練習、声量練習(声のものさし)については 拙著『すぐ使える音読練習プリント』(ひまわり社、2007)で詳述してい ます。本稿でまたも重複して書くことはしません。これらには、大きい声 で読む例文、小さい声で読む例文、早口で読む例文、ゆっくりと読む例文、 声の大小をコントロールする練習法、呼吸を深くする練習法などの教材がつ いています。これら拙著は、低中高の三分冊となっており、学年段階に応じ た指導内容の一枚プリントとなっています。 本稿では、これら拙著三分冊で書いてないことを付け加えることにしま す。 (その1)肩式(胸式)呼吸をしない。 肩を上げて呼吸すると胸式呼吸になってしまう。肩を上げないで腹式呼 吸を身につけさせるようにします。胸で呼吸すると、胸と横隔膜の呼吸に 限定されてしまい、横隔膜の下降が行われず、腹腔が広がらない狭い呼吸 になってしまいます。深い呼吸にはなりません。 (その2)丹田(横隔膜)呼吸をする。 大きな声を出そうと意識すると、どうしても注意がのどにいってしまい、 のどが緊張し、のどの筋肉が固くなってしまいます。丹田(ヘソした十セ ンチぐらい)に向かって息を吸う(ためる)ように意識させます。丹田呼 吸とは腹式呼吸のことであり、前記「のどをしめつけない」個所でも書い たが、丹田に向かって息を吸うと、のど(声帯)への意識が外され、のど の緊張がなくなります。 (その3)腹式で呼吸をすると、深い呼吸となる。 息には、吐く息と吸う息とがある。どちらの息で声を出しているか確か める。 (1)息をはきながら「アーー」と言ってみる。 (2)息を吸いながら「アーー」と言ってみる。 息をはきながら声を出していることが分かる。息をはきながら読んでい ることがわかる。 (3)息をたくさん吸って本を読む、少なく吸って本を読む。息の吸い方が 弱いと、しっかりした声にならない。弱弱しい声になってしまう。これで、 息を十分に吸うことの重要さを教える。 正しい腹式呼吸練習(上記拙著参照)をすると、横隔膜や腹壁がしっか りと息を固定でき、その力で息を押し上げるようになる、しっかりした 声の支えができる。。腹式呼吸をすると、横隔膜が上下し、横隔膜の支 えがしっかりしてきて、肺の通気量が増加し、酸素が増加し、血液の循 環も増加する。胃や腸や腎臓などの臓器がマッサージを受けて丈夫になる。 (その4)腹式呼吸をすると、気持ちが落ち着く。 腹式呼吸が習慣化すると、脳内のセロトニンの発生が増加し、精神を鎮 静化させる。また、脳内がアルファー波となり、交感神経と副交感神経と のバランスがよくなり、自律神経が調整される。そして、感情の興奮が抑 制され、気持ちが落ち着くようになる。呼吸が浅いと、怒りやいらいたや 倦怠感などが起こりやすくなる。 授業の開始前に腹式呼吸を行うと、児童のざわついた気持ちや浮ついた感 情の高まりがなくなり、授業に集中できるようになります。 (4)声を前に出して読む、話す よく通る声とは、声が前へ出ている声です。拡散する声でなく、口唇前 方の方向に束になって流れ出している声です。話したり読んだりする時は、 声を前方へ向けてつきだすような感じで読むと、声が前へ出て、よく通る声 になろます。 喉を広げることは重要ですが、広げた場所に声が留まってしまってはい けません。声が口の中で停留するようではいけません。声を前方へつきだす ようなようなつもりで話したり読んだりさせましょう。 唇の前に自分の掌を置き、息が掌に当たるようにして、その当たる感覚 を感じとりながら、話したり読んだりさせてみます。唇の前に置いた掌に息 が当たることを意識して声を掌に向けて前方へ出すようにして読んだり話し たりさせます。 声が前へ出ない子には、教師が教室前面にある黒板(スピーカーでもよ い。掲示物でもよい、少し耳が遠い人がいると仮定してその人に向かって、 でもよい)に声を当てる・かけるつもりで話してみよう、読んでみようと誘 いかけます。それらにぶち当てるつもりで、突きさすつもりで読んでみよう、 話してみようと誘いかけます。 そのほか、 ・上唇に向かって声を出そう。 ・直ぐ近くでなく、遠くへ向かって声を出そう。 ・おでこにひびかせながら、声を前へ突き出して話そう、読もう。 ・声を前方へ集めて、口先へむけて話したり、読んだりしよう。 ・声を口の前の方へ出せ。舌の先へ声を集めて話せ、読め。 などの指導法もあります。 拙著『すぐ使える音読練習プリント』(ひまわり社。低中高三分冊)に は、声を前へ出す練習文・声のものさし・発声練習文・発音練習文・呼吸練 習の仕方の一枚プリントが掲載されています。 (5)やや張り気味に声を出す。 声の小さい子には、やや張り気味にして声を出させてみましょう。声の 調子を少しばかり高く張って読んだり話したりさせます。ちょっとばかり張 り気味に高くして声を出させます。 「やや張り気味の声」が、その子にとって自然な声であるということも よくあります。内気な子、小心な子の場合はそうしたことがよく当てはまり ます。やや張り気味にして声を出すと、声に勢いと張りが出てきて、澄んだ 声になり、その子にとって楽に声が出せる、よく通る、つまり通常の声であ る、そうすべき声であるということがよくあります。 ここで留意すべきことがあります。わたしは声を「やや張り気味」の出 す、と書いています。「やや」に注目しましょう。これは「少し、ちょっと、 むりでない程度に」という意味で、「やや」と書いています。むりに強制し た張り声はいけません。むりにのどに力を入れたり、力んだり、怒鳴ったり の張り声はいけません。自然な声になるような張り気味に声を出すというこ とです。ほんのちょっと張り気味にして声を出してみよう、ということです。 声をほんのちょっと張り気味にして出すと、緊張感が生まれ、緊張をもって 読んだり話したりすることにもなります。 (6)しまりのない、だらっとした声で読まない。 ピシッと骨や芯のある声で読む。もぐもぐ発音はダメ。のんべんだらり の読み声はダメです。こう読もう・こう表現しようという思い・意図が欠落 しています、緊張感や心の張りが欠落してることからきています。 このような読み声の子には、口の開きが小さいということがあります。母 音が伸びる読み方である、ということもあります。下あごを下方へグウッと 下げることを意識して読ませる。母音を伸ばさないで読む。また、声を前方 へつきだすつもりで読ませるなどの指導をします。タッタッタッタッと、や や早口でスタッカートに短く切って読むという指導もあるでしょう。その子 どもに合った効果的な方法を探しだしましょう。 本稿冒頭個所の「問い」に「担任教師としては、できれば大きな声で、 はぎれよく、リンリンと響く、透明で透き通った、天に突き刺すような、子 どもらしい、天使のような声で読ませたいものです。」という意見がありま した。全くその通りです。はぎれよい発音で、リンリンと響く、天使のよう な声で読ませたいものです。 (7)起立して読ませる、話させる。 座って読むより立って読んだ方が緊張感が全く違います。座ったより立 ったほうが呼吸がずっと深くなります。横隔膜がぐうっと下がって息がたっ ぷりと入るようになります。 座るより立ったほうが、文章内容への意識が集中するようになります。 意気込みが違ってきて、読み声の音声表情も豊かになってきます。つまり立 ったほうが上手な表現よみができるようになります。座って読んだり話した りするよりも、立ったほうが緊張したはりつめた心構えが生まれ出てきます。 モードチェンジが真剣集中にスイッチします。物事への集中力が出て、対象 へ立ち向かう意気込みが違ってきます。集中力や真剣さが要求されるように なり、ぼうっとしたいいかげんさが排除されます。 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