第17章付録・紙芝居の見せ方  2016・11・01記




    
紙芝居の見せ方・演じ方




    
目次

      はじめに
        「読み聞かせ」と「紙芝居」とのちがい
      事前準備
        作品の選択
        下読みをして臨む
        下読みですること
        舞台の準備
        舞台の位置
        児童の座席
        教師の位置
      本番の開始
        はじめ方
        脚本の語り方・演じ方
        臨機に演じ方を変える
        教師は児童と一緒におもしろがる
        ぬき方
        終わり方



   
「読み聞かせ」と「紙芝居」とのちがい


 読み聞かせは「読む」です。「読んで聞かせる」です。「語って聞かせ
る」です。
 紙芝居は「演じる」です。「絵を見せて演じる」です。紙芝居は絵を見せ
て、裏書き(脚本)をずらずらと読んで聞かせるだけではありません。紙芝
居は「演じる」でなければいけません。
 「読み聞かせ」は読む人を「読み手」「語り手」といいますが、紙芝居は
「演者」といいます。演者は舞台の中の登場人物になって演じて行動したり、
舞台の外から登場人物の行動を紹介しながら演じたりします。
 紙芝居は、なぜ「演じる」であるのか。紙芝居は「紙(絵)の芝居」だか
らです。「芝居(演劇)」ですから、「舞台」があります、そして「演者」
と「観客」とがいます。紙芝居には木枠で作った「舞台」があります。紙芝
居には舞台があって当然なのです。「舞台」のない紙芝居はありえないので
す。紙芝居を見せるときは、必ず木枠で作った舞台を使います。
 紙芝居の「観客」は、子ども達です。多くは幼児から小中学生までの子ど
も達です。
 紙芝居の「演者」は、多くは教師や保育士や母親たちです。たまに警察官
による交通安全の紙芝居、歯科衛生士による歯磨き指導の紙芝居などもあり
ます。紙芝居の演者は、観客(子ども達)にドラマチックに人物の行動を紹
介したり、ドラマチックに登場人物になって行動したり、こうした演技を演
じながら子ども達が身をのりだして聞き入るように語りましょう。
 紙芝居の演者は、子ども達を喜こばせ、おもしろがらせようと気をつかい
ながら舞台に登場する人物たちをドラマチックに活躍させなければなりませ
ん。こうした気遣いを常に意識して演じて見せていくようにします。

 ですから、紙芝居は、落語や講談と似ているところがあります。落語や講
談の演者は、舞台の上で語りを語って聞かせるだけではありません。扇子や
手拭いなどの小道具を使い、顔の表情、顔の向き、身ぶり、手ぶり、つまり
全身動作を使って、語り場面をありありと再現しながら、登場人物になりき
って行動したり、人物たちの心理感情が目にみえるように身体表情を見せた
りします。
 また、紙芝居は人形劇や影絵劇とも似ているところがあります。人形劇や
影絵劇も、舞台・演者・観客の三者がおります。演者は舞台に登場する人物
たちを動かし、人物行動を分かりやすく突出させて演じて、場面がありあり
と目に見えるように演出します。紙芝居と違うところは、演者は常に舞台の
背面におり、観客の前に出てこないところです。
 紙芝居の演者は、子ども達が身をのりだして見ているか、聞いているか、
気持ちが離れていないか、つまらなそうな顔付で見ていないか、に気を配っ
て演じなければなりません。子ども達の反応に応じて、直ちに演じ方を大胆
に変更していかなければなりません。子ども達の興味関心のありように最大
の配慮をはらって演じていかなければなりません。
 紙芝居の演者は、子ども達におもしろがってもらおう、つまらなそうな顔
付をしていれば、ごきげんをとろうとわざと派手な演じ方をすることもあり
ます。子ども達の反応に応じて大胆に演じ方を変更していきましょう。その
場限りの即興的な一回限りのパフォーマンスを演じます。二度と同じ世界を
再現できない、一度きりの別世界を、演者と子ども達との双方向による合作
として演じていくようにします。こうして、紙芝居の演者は、子ども達を非
日常の別世界へとつれていきます。

 紙芝居は「演じる」だと書きました。それは紙芝居が出生したありかたに
関わっています。歴史的な経緯から言えることです。以下、簡単にまとめて
みます。
 1930年代,現在のような紙芝居形式(平絵)が出現しました。しだい
に街頭紙芝居として普及していきます。自転車の荷台に紙芝居の道具を設置
して町々、村々の路傍の広場で子ども達を集めて紙芝居を見せるようになり
ました。紙芝居はこうして広まっていきました。バナナのたたき売りやガマ
の油売りなど大道芸や曲芸などと同じに、街頭紙芝居として広まっていきま
した。紙芝居の行われる路傍の広場は、子ども達向けの大衆演芸という娯楽、
いっときの娯楽場となりました。
 拍子木を打ち鳴らして紙芝居が来たことを知らせて子ども達を集めました。
自転車の荷台に木枠の舞台を設置し、見料を徴収したり、あめやせんべいを
売って見料としたりしました。
 紙芝居の内容は、悪を倒し、善が栄える勧善懲悪物、奇想天外・荒唐無稽
な活劇物、憎たらしい悪者、恐ろしい化け物、妖しい女、欲にまみれた悪代
官、突如現れる正義の味方、派手な立ち回りの出し物などが多くありました。
子ども達をこうした別世界へつれていき、どきどきはらはら未知の世界に胸
をときめかさせる出し物が多くありました。
 紙芝居のストーリーは、大体の荒筋は決まっていましたが、実際の語りで
はけっこう大胆に変更が加えられました。集まってきた子ども達の顔ぶりを
見て、年齢や男女差や人数などに応じて臨機応変に語り方やストーリーや言
い振りを自在に変更し、アドリブを入れたり、オーバーにメリハリをつけた
り、手ぶり身ぶりを加えたりして、子ども達を楽しませ、おもしろがらせま
した。

 ですから、紙芝居には観客(子ども達)を楽しませる口演技術(話芸)が
求められます。細い裏声、太い表声を巧みに使い分けたり、登場人物になっ
て熱弁を振るったりもします。大げさな顔の表情と動作を入れて熱演をする
こともあります。手ぶり、身ぶりをまじえた迫力ある、派手な立ち回りの独
演会をする演者もいます。
 街頭紙芝居は第二次大戦後に最盛期を迎えました。終戦後の焼け跡のどさ
くさ、物資難、生活苦、道徳的にも退廃しており、いっときのにわか紙芝居
屋さんが多数あらわれ、下手なドギツイ絵とナンセンスなストーリーの紙芝
居を見せる者も多数出現したりしました。低劣で俗悪な紙芝居という批判が
おこり、教育紙芝居であるべきという主張がなされたり、そうした運動も起
こりました。
 昭和30年代に入って、テレビが普及しだしました。テレビマンガやテレ
ビアニメに子ども達の興味関心が移りました。急激に紙芝居は衰退していく
ことになります。
 平成の現在は、街頭紙芝居はなくなり、室内紙芝居へと移り、紙芝居の教
育的な質的内容も充実してきました。児童文学作家や人文自然科学の専門家
によって執筆される脚本紙芝居が多数を占めるようにもなりました。


            
参考資料


いろいろな紙芝居の演じ方例(1)
 https://www.youtube.com/watch?v=jmCEmb_Sly0 へのリンク
いろいろな紙芝居の演じ方例(2)
 https://www.youtube.com/watch?v=A2Ex_PrStTE へのリンク
いろいろな紙芝居の演じ方例(3)
 https://www.youtube.com/watch?v=mWx0AB7RPks へのリンク


 以下、わたしの考える「紙芝居の見せ方・演じ方」について書きます。



         
作品の選択



 紙芝居の種類には次のようなものがあります。

  (1)物語の紙芝居
  (2)民話の紙芝居
  (3)科学的知識の紙芝居
  (4)社会的知識の紙芝居
  (5)公衆道徳・安全・マナー・躾の紙芝居
  (6)なぞなぞの紙芝居

 最も多いのは、物語と民話です。その他、数は少ないですが、(3)〜
(6)のような紙芝居もあります。
 どんな作品の紙芝居を見せるかは、対象学年が、一年生か、二年生か、三
年生か……によって、また教師の指導のねらいによって違ってきます。
 一作品だけにするか、二、三作品にするかも、教師のねらい、時間の余裕
などによって違ってきます。
 見せたい作品が多く、どっちにするか、選択に迷うこともあります。そん
な時は、教師がほれこんだ作品、おもしろいと思った作品にするとよいでし
ょう。

 次に科学的知識の紙芝居を例示します。下記に表紙場面の裏書き(脚本)
(1)だけを引用します。裏書き(脚本9を読んでみましょう。

 
    イソギンチャクとウソギンチャク
                  作・画 浅沼とおる
                  制作 教育画劇
                  写真 東京動物園協会

   (1)
   みんな、イソギンチャク しってる?
   イソギンチャク、みた こと あるかな?
   これが イソギンチャクです。
   なまえは ウメボシイソギンチャクと いいます。
   どう して ウメボシって いう なまえ なのかな?
   それは、この かみしばいを みれば わかります。
   では、はじまり はじまり。
     (ぬ く)


 この場面をとりあげたわけは、紙芝居は物語だけでないこと、理科知識与
えの紙芝居もあるということ、です。自然科学に興味をもたせるにはこうし
た紙芝居もぜひ見せたいものです。
 また、紙芝居は教師から児童への一方的な「読み聞かせ」ではなく、児童
たちに問いかけ、対話をしながら、相互交流しながら、演じていく、そうい
う脚本の書かれ方の紙芝居も多い、ということを示したかったからです。

  
みんな、イソギンチャク しってる?
     観客(児童たち)に問いかけてる。返答を要求している。
  
イソギンチャク、みた こと あるかな?
     観客(児童たち)に問いかけてる。返答を要求している。
  
これが イソギンチャクです。
     観客(児童たち)に問いかけてる。指さし確認を要求している。



       
下読みをして臨む



 下読みとは、下調べのことです。ぶっつけ本番の紙芝居実演でなく、下読
みをして演出の仕方を調べてから本番に臨みましょう。どんな内容であるか、
どう演じると児童たちが興味を示すか、身をのりだして聞かせるにはどう演
じればよいか、を下調べしておきます。
 下調べなしの場合と、下調べをした場合では、本番での児童たちの反応の
しかた、喜ぶ顔の表情が全く違ってきます。下調べは三回はしてほしいです。
下読みを何回やったかで教師の演じ方の上手下手がちがってきます。紙芝居
に臨む教師自身の心構えが違ってきます。下読みを多くすれば、うきうきし
た気持ちで紙芝居実演に臨むことができます。

○下読みのしかた手順

 絵と脚本、二つを並べて見較べながら下読みをしていきます。
 机上に、たとえば(1)場面絵と、その裏書きの(1)脚本文を二つなら
べて置きます。(1)場面絵を右側に置きます。(1)裏書文を左側に置き
ます。(1)絵を見ながら、(1)脚本文を読んでいきます。どのように演
じていったら児童たちが興味を示すか、身をのりだして見るようになるか、
について下調べをします。

二つを見較べていくよい方法があります。その手順を紹介します。

○二つを見較べていく作業手順

 通常、紙芝居には左下または右上に小さく順番の番号が記してあります。
 12枚つづり、16枚つづり、18枚つづりなどいろいろありますが、こ
こでは(1)〜(12)の枚数の例で書いていくことにします。

はじめに≪順番を揃える≫
 まず、(1)〜(12)で、上からの順番に枚数がそろっているかを調べま
す。欠番や順序がばらばらになっていないかを調べます。順番がバラバラだ
ったり、枚数が欠けていたりしては、本番にそれが分かったら、本番がめち
ゃめちゃになってしまいます。あわてふためき、児童たちはざわめきだし、
「今日の紙芝居はとりやめます」という結果になり、座が白けてしまいます。
これではがっかりです。

 これで(1)〜(12)の枚数が順番に揃いました。

作業手順【1】≪順番を揃える≫
 (1)の表紙絵から順に(12)まで下に重ねていきます。(1)が最上部で、
(12)が最後部です。

作業手順【2】
 最後尾の(12)の一枚だけを抜き取り、その絵を上にして、(1)の表紙
絵の上にのせます。こうすると、絵の順番が上から「12、1,2,3,4,
5,6,7,8,9,10,11」 となります。

作業手順【3】
 (12)絵を裏返しにして脚本の文章部分を上にして、机上の左側に置きま
す。結果として、右側には(1)の表紙絵、左側には(1)脚本文章という配
置になります。これで(1)絵と、(1)脚本文章とが二つ並べられる配置に
なりました。
 右側の(1)表紙絵を見ながら、左側の(1)脚本文章を声に出して読み、
下調べをしていきます。

作業手順【4】
 脚本の文章の下読みは、必ず声に出して読みましょう。声に出して、児童
たちに分かりやすく伝わり、ストーリー場面の内容にあった語り方をどうす
るかを考えます。児童たちが喜ぶにはどんな語り方がよいかを考えます。ど
う演じていくと効果的に伝えられるか、児童たちが興味を示すか、を考えな
がら演じ方の下調べをします。

作業手順【5】 第2場面
 次は(2)場面です。
 左手で(1)表紙絵の左端を持ち、左方向へ並行にずらしながら、(1)表
紙絵を裏返しにします。すると(2)の脚本文章が出現します。それを(1)
の脚本文章の上に置きます。
 これで、右側の絵は(2)場面の絵となり、左側は(2)場面の脚本文章と
なりました。(2)場面の二つが並列して並べられました。
 右側の(2)絵を見ながら、左側の(2)脚本文章を声に出して読んでい
きます。児童たちに効果的に伝わる、児童たちが喜ぶ語りの仕方、演じ方を
考えます。

作業手順【6】 第3場面
 次は(3)場面です。
 (2)場面の下読みが終わったら、左手で(2)絵の左端を持ち、左方向へ
並行にずらしながら、(2)絵を裏返しにします。(3)脚本文章が出ますの
で、それを(2)脚本文章の上に置きます。
 これで、右側の絵は(3)場面の絵となり、左側は(3)場面の脚本文章とな
りました。(3)場面の二つが並列して並べられました。
 右側の(3)絵を見ながら、左側の(3)脚本文章を声に出して読みます。
児童たちに効果的に伝わる音声表現の仕方、語り方、演じ方を考えます。 

作業手順【7】 第4場面
 次は(4)場面です。
 右側の(3)絵を裏返しにして、それを左側の(3)脚本文章の上に置きます。
 これで右側の絵は(4)場面の絵となり、左側は(4)場面の脚本文章となり
ます。(4)場面の二つが並列して並べられました。
 右側の(4)絵を見ながら、左側の(4)脚本文章を声に出して読みます。
児童たちに効果的に伝わる音声表現の仕方、語り方、演じ方を考えます。

 以下、同様にして、(11)場面まで下読みしながら、どう音声表現したら
効果的に伝わるか、児童たちが喜ぶか、語り方、演じ方の下調べをしていき
ます。

作業手順【8】 第11場面から第12場面へ
 第11場面の下調べが終わったとします。次は最終場面(12)です。
 右側にある(11)場面の絵を裏返しにして左側の脚本文章の上に置きます。
それから左側の脚本文章の最下段にある(1)脚本文章だけを右手で右方向
へ抜き取ります。それを裏返しにすると(12)場面の絵となります。それを
右側に置きます。
 これで(12)の脚本文章が左側に、(12)の場面絵が右側の配置となり、
二つが並行して置かれました。
 右側の(12)絵を見ながら、左側(12)の脚本文章を声に出して読みます。
児童たちに効果的に伝わる音声表現の仕方、児童たちが喜ぶか語り方、演じ
方を考えます。

 最後の(12)絵を裏返しにして(1)の脚本文章を出し、それを左側の脚本
文章の一番上に置きます。
 これで(1)絵から(12)絵まで順序よく重ねることができました。

 【紙芝居は、表紙絵(1)のウラは、脚本文章(2)の番号となっておりま
す。表紙絵のウラが(2)で、最終絵ページのウラが(1)となっています。
つまり、ウラの脚本番号は一ずつずれて、ひとつ先の番号になっています。
 上記したここの作業手順は、わずらわしさからウラ番号を使わないで、す
べてオモテの絵番号を使って記述しています】



       
下読みですること



 どのように演じたら子ども達の心を揺り動かすか、喜ぶか、おもしろがら
せることができるかを考えて、下読み段階で予定を立てます。

 以下に、下調べですることを列記してみよう。

*脚本の下段にたいてい「演出ノート」が書いてあります。必ず従う必要は
 ありませんが、おおいに参考にしましょう。そ子に書いてあることに従え
 ば、大体はうまくいきます。

*紙芝居は、演じ方、しゃべり方、教師の顔の表情や動作が重要となります。
 どこで、どんな顔の表情、向き、動作、身ぶりをすればよいかを考えてお
 きます。

*脚本のメリハリのつけ方、どの個所で、どのようなメリハリにするかする
 か、を考えておきます。強調する語句は? どの個所で大きく間をあける
 か?どこの個所を早口で追い込んでたたみかけて読み進めるか? ゆっく
 りと声をひそめて読み進めるか? 強弱遅速の変化、画面のぬき方と期待
 の間のあけ方、などを考え、予定を立てておきます。児童が画面にすいつ
 くように見させるには、わくわくどきどきしながら見させるには、どこで、
 どうするか、その戦術と攻略を工夫しておきます。

*難語句、方言は、解説や言い換えを加えるとよい場合があります。どんな
 語句を何に言い換えるか、児童たちの年齢にあった言い換えを用意してお
 きます。

*場面によっては、小タイコ、シンバル、カスタネットなどを打ち鳴らすと
 よい個所もあります。必要な小道具を準備しておきます。教師が教卓の端
 を手でトントンと叩くなどの擬音効果を出すだけでよい場合もあります。

*紙芝居の「舞台」と「拍子木」は、学校備品として購入しておき、常時用
 意しておきます。前述したように舞台の木枠は必ず使用します。

*以下に、有名な物語紙芝居を例にして、わたしが考えた 種々の演出例を
 書いてみます。


       
◎物語「かさじぞう」の例で◎


≪台詞を児童に復唱させる≫

 教師が脚本原文を語ったあとに、地蔵たちの掛け声を二回、教師の後につ
いて繰り返して言わせます。
 リズムをつけて、調子よく、一斉に声をそろえて言わせます。教師が教卓
 を軽く叩く、カスタネットを打つ、などでリズムをつけるとよい。
      
じょいやさー
      じょいやさー
      じっさまの いえはー どっこだー
      ばっさまの いえはー どっこだー

≪台詞と地の文を復唱させる≫

 みなさんもじいさまになったつもりで大きな声で、元気よく、二回、一斉
に言いましょう。口にメガホンをつくって言いましょう。
    
 「かさやー かさやー かさこは いらんかなー」
     「かさやー かさやー かさこは いらんかなー」

  
 上の呼びかけ文の直後に脚本文にある地の文も、教師のあとについて一斉
に言わせるのもよいでしょう。直前の呼びかけ文とは違って、それとは対照
的に、がっかりした気落ちした気持ちをこめて、低い声で、小さく、語らせ
ます。教師のあとについて、教師の言い振りをまねさせるとよいでしょう。
      
だれひとり ふりむいても くれません。
      おじいさんは がっかりして 
      かえるしたくを はじめました。


≪ふざけている子がいたら≫

 ○○くーん、だれひとり、かさを買ってくれないんだって。かわいそうね。
○○くんはどう思う? と、呼びかけて、問いかける。または、教師の言い
振りを〇○くんにまねさせる。「だれひとり、買ってくれません。がっか
り」と言ってみよう、などと問いかける。

≪メリハリをつける読み方≫

  
 脚本原文
    いつの まにやら ほたら ほたら ゆきが ふりだした。
    「よう ふるのう。おや? あれは なんだべ。」
    なにやら 人かげらしい ものが
    ならんで ずうっと たっている。
    じいさまが ちかづいて みると、
    それは のなかの 六じぞうさまで あった。
    ふりしきる ゆきの 中に、だまあって たって いる。


   上の脚本原文のメリハリつけの例

   いつの まにやら ほたら ほたら ゆきが ふりだした。
 ゆっくりと静かに読み進める。「ほ・た・ら・ほ・た・ら」と区切って読
む。「雪が・ふ・り・だ・し・た」と区切り、しだいにゆっくりと沈めて読
み下していく。

   
「よう ふるのう。おや? あれは なんだべ。」
「よう、ふるのう」は、見事な降り方だと感心した気持ちをこめて読む。
「ふるのう」の下で三つ分の間をあける。
(おや?)(あれは)(なんだべ)と区切り、不思議そうな気持ちをこめて
小声でつぶやくように言う。

  
 なにやら 人かげらしい ものが
   ならんで ずうっと たっている。

(なにやら)(人かげらしいものが)(ならんで)(ずうっと)(たってい
る)と区切り、それぞれを目立たせて読む。(ずうっと)は(ずうーーっ
と)とのばす。

   
じいさまが ちかづいて みると、
そうっと静かに低く、のぞき込んで、確かめている気持ちをこめて読む。
(みると)の前で二つ分、すぐ後で、三つ分の間をあけ、何が出現するか、
次はどうなるか、期待させの間をあける。

   
それは のなかの 六じぞうさまで あった。
(それは)(のなかの)(六じぞうさまで)(あった)のように区切り、
「それはこれこれであった」と答えを出して語っている気持ちにして読んで
いく。

   ふりしきる ゆきの 中に、だまあって たって いる。
静かに、ゆっくりと読み下す。(だまあって)は、(だまーーって)とのば
し、強調して読む。


     
 ◎物語「ももたろう」の例で◎


≪周知事項を穴埋めゲームにして問いかける≫

 誰もが知っている有名な物語の一文章部分を、穴埋めゲームにして読み進
め、ほにゃらほにゃら個所に何が入るかと、問いかけます。
      
おじいさんは、まいにち ほにゃらほにゃらへ 
      しばかりに行きました。おばあさんは、ほにゃ
      らほにゃらへ せんたくに 行きました。

      あかんぼうは、ほにゃらほにゃらから 生まれたので
      「ももたろう」と なづけられました。

教師の発問
 「ほにゃらほにゃら」に何が入るでしょうか。有名な物語です。だれもが
知っている内容です。らくに答えられるでしょう。
 こうした質疑応答で楽しく遊びながら紙芝居を演じていきます。

≪教師が動作・所作をしながら語る≫
     
 ももたろうは、てつのぼうを ぐるりぐるりと
      ふりまわして おにたちに たちむかいました。

教師の動作・所作
 「ぐるりぐるり」の擬態語の個所を、「ぐるり ぐるり ぐるりん ぐる
 りん びゅーん びゅーん」と付け加えて、大げさな言い振りにして語り
ます。また、教師が鉄棒を手に持って 大きく円を描いて、空中を振り回し
ている動作をしながら語ります。「読み聞かせ」とはちょっと違うやりかた
にします。

≪メリハリをつける読み方≫

   
脚本原文
     おにたちは さかもりの まっさいちゅうです。
     「みんな、ぬかるな。それ、かかれ。」
     イヌは オニのおしりに かみつき、サルは オニの
     せかなを ひっかき、キジは くちばしで オニの 
     目を つつきました。
     ももたろうは てつの ぼうを ぐるりぐるりと
     ふりまわして オニたちに たちむかいました。


   メリハリつけの例

     おにたちは さかもりの まっさいちゅうです。
おにたちの様子をそのままに差し出すように、知らせる気持ちをこめて、歯
切れよく読みます。「この絵をご覧」と、酒盛りの真っ最中の絵に注目させ
ます。教師が片手で絵に注目させる指示をしめす。絵の描かれ方の解説をす
るのもよいでしょう。

     
「みんな、ぬかるな。それ、かかれ。」
大きな声で、号令をかけ、命令してるように読みます。「みんなー、ぬかる
なー。それー、かかれー。」とのばして強めて読む。

    
 イヌは オニのおしりに かみつき、サルは オニの
     せなかを ひっかき、キジは くちばしで オニの 
     目を つつきました。

(イヌはかみつき)(サルはひっかき)(きじは目をつついた)の三つの区
切りと、やった行動をはっきりと区切って伝えます。「だれが・何を・し
た」が分かるように三つに区切って読みます。

     ももたろうは てつの ぼうを ぐるりぐるりと
     ふりまわして オニたちに たちむかいました。

上の「教師が動作・所作をしながら語る」の項目で書いたことと同じです。


     
◎物語「はなさかじいさん」の例で◎


≪登場人物の台詞を児童たちに復唱させる≫

     かわいがっていた いぬが、
     うらの はたけで
     「ここ ほれ ワンワン
      ここ ほれ ワンワン」
     と、ほえました。


教師の発問
 みんなも 犬になった つもりで、「ここほれワンワン」を三回、繰り返
して言いましょう。教師が手を打ったり、教卓を軽く叩いたり、カスタを打
ったり、でリズムをつけ、児童たちに一斉に言わせます。

≪教師の動作・所作を入れながら語っていく≫
     
おじいさんは、くわを もってきて、
     はたけを ほりはじめました。

 上の地の文を読み終わったら、(読みの途中でもよい)教師が鍬を手にも
って畑の土を掘る動作をします。「よいしょ、よいしょ」と声をだしながら、
鍬を上下させて土を掘る動作をします。

≪脚本原文の一部を改作して語る≫

    きらきら ぴかぴかした おかねの
    おおばん こばんが たくさん でてきました。

 次のように一部改作して語ります。ここでは物の有様が具体的に具象的に
イメージに浮かぶように改作して語るとよい。たとえば下記のようにです。
    
きらきら ぴかぴか きらきら ぴかぴか ひかる
    おかねの おおばん こばんが 
    ざっく ざっく ざっく ざっくと 
    いーぱい いーぱい でてきました。


≪登場人物の台詞復唱≫と、
≪登場人物の当て振りを入れる≫


 舞踊用語で「当て振り」があります。踊りの文句に合わせて身振りや動作
をまねて表現することです。上ですでに教師や児童が登場人物の動作・所作
をまねながら演じていく方法について述べていますが、ここでは人物の台詞
と動作・行動を同時に行いながら場面を楽しんでいく方法です。

 教師が脚本にある台詞を一度読んだら、児童たちに教師の台詞を摸唱させ
ます。教師が台詞を読んだら、「さあ、みんなも、はなさかじいさんになっ
たつもりで、先生の後について言ってみましょう」と誘いかけます。

     「はなさかじじい はなさかじじい、
     かれ木に はなを さかせましょう。
     かれ木に はなを さかせましょう。」


「かれ木に はなを さかせましょう」の個所で、灰を撒く動作をしながら
言わせます。左手に灰の入った入れ物を持ち、右手でかごから灰をすくって、
右手を大きく上部へ振って灰を撒く動作をします。
 「はなを さかせましょう」のあとに「パアーッ パアーッ」という擬態
語を挿入して言わせるのもよいでしょう。

 殿様になったつもりで、みんなも、先生のあとをついて
 「これは、これは、みごとじゃ。ほうびをとらせよう」
 とまねして言ってみましょう、と誘いかけます。
 どんな殿様の身振り・動作にして言わせるかは、その場面の絵がどんな表
現になっているか、そこの絵をまねさせるとよいでしょう。

 このような登場人物の台詞の一部や、登場人物の所作・動作の当て振りの
利用は至るところで可能です。大いに取り入れてみましょう。

≪脚本原文の一部を改作して語る≫

  脚本原文
    よくばりじいさんが はたけを ほってみると
    いしころや こわれたかわらや ちゃわんのかけらが
    ざっく ざっくと でてきました。


上の脚本原文を、下記のように改作して、印象やイメージを強くして語りま
す。

    よくばりじいさんが はたけを ほってみると
    いしころや こわれたかわらや ちゃわんのかけらや
    うさぎのうんちや くさったどうぶつのしたいが
    ざっく ざっくと でてきました。



         
舞台の準備



 紙芝居は、「紙(絵)」の「芝居(演劇)」です。
 「芝居(演劇)」ですから、紙芝居は、人形劇や影絵劇や文楽や演劇など
と同じ性質のものです。すべて舞台の中で演じられます。舞台という異空間
で、非日常の空間と時間を作って実演されます。「芝居(演劇)」には観客
がいます。観客は舞台の中で演じられる人物行動を見て楽しみます。
 スポーツにおいては、サッカーはサッカー場で、相撲は土俵で、野球は野
球場で試合が行われ、観客(見物人)はそこで試合を見て楽しみます。「芝
居(演劇)」では、サッカー場や野球場や土俵に相当するものが舞台です。
 「紙芝居」は「紙(絵)」の「芝居(演劇)」ですから、舞台があって当
然です。「芝居」なのに舞台がないとは、へんですね。
 紙芝居を実施するときは、必ず舞台を準備しましょう。めんどうだからと、
舞台なしで、教師が両手で挟んで見せることのないようにしましょう。紙芝
居の紙芝居の製作者は絵も脚本も舞台の中で演じられるものとして作ってい
ます。
 紙芝居の舞台は、倒れにくい木枠のフレーム、袖のある三面開きの舞台が
よいでしょう。三面開きの舞台ですと、開始時、「紙芝居の、はじまり、は
じまり」と拍子木をカチンカチンと打ち、おもむろに、もったいぶって、ト
ビラを一枚ずつ開いていくことができます。児童たちは胸をときめかして見
入ることでしょう。「さあ、何が出てくるかな。早く見たいでしょう」と期
待をもたせのコトバをかけ、児童たちの心をじらし、これから始まる紙芝居
の内容に期待をふくらませるようにします。



          
舞台の位置



 舞台は、児童たちの視線より少し上部に置きます。児童たちの視線は、一
斉に舞台(絵)を見上げるようになります。児童たちがらくに見える位置に
置くようにします。
 「○○ちゃん、よく、見えるかな。どう?」などと問いかけます。舞台を
見上げる位置が高すぎたり、近すぎたりして、首が痛くなることがないよう
にします。
 舞台正面から日光がさしこみ、目がチカチカすることのない位置にします。
晴天の日などは教室のカーテンを閉め、通常とはちがう異空間をつくると雰
囲気がかわり、子ども達は喜びます。



         
児童の座席



 紙芝居が始まるぞ、期待をもたせるわくわくした気持ちにさせます。
 通常学習の座席配置でなく、児童机を教室後部へ移動し、椅子だけで舞台
を取り囲んで見るようにします。
 床に座る場合もあるでしょう。その時は、あぐら、立てひざ、体育すわり、
足をのばしたり、らくな姿勢で見るようにします。紙芝居は、姿勢を正し、
正座して、お行儀よく、静かに見るものではありません。らくな姿勢で見る
ようにします。あまりだらしない恰好はいけませんが、少々の姿勢崩しはよ
しとします。
 「少々の姿勢崩してもよし」と書きましたが、重要なことは、舞台にひき
こまされて、我を忘れて、紙芝居の別世界に見入ることです。あまりにもだ
らしない見苦しい恰好でなければ大目に見てよいでしょう。作品世界に引き
込まれてひとり言をつぶやいたり、ゲラゲラ笑ったりは大いにあってよい。
のびのびと自由な反応のコトバや表情を浮かべつつ楽しむようにします。



         
教師の位置



 教師は、舞台オモテの絵を見ながら、ウラの脚本を読まなければなりませ
ん。脚本はのぞきこむようにして読むことになります。これら二つが可能な
位置は、児童席から見て、横後ろということになります。そこを教師の主座
として、体を前後左右に移動しながら演じることになります。
 舞台の真後ろで、舞台に隠れて脚本を読むことはできるだけ避けたいです。
真後ろの場合も時にはありますが、教師の頭部が舞台の上部から突き出しっ
ぱなしはよくありません。舞台の真後ろに始終隠れっぱなしは止めましょう。
児童たちの表情を見ながら、反応コトバをすかさず拾い上げながら、画面の
流れについて対話しながら、教師のパフォーマンスを見せながら、演じてい
くようにします。児童たちの反応に即して、臨機応変に語り方・演じ方を変
化させて、おもしろく楽しい場面を作っていくようにします。まず、教師自
身が楽しむことです。教師自身が楽しみながら演じることが大切です。



     
本番の開始・はじめ方



*お手洗いに行かせます。

*受け持ちの学級児童でなく、初対面の児童たち、公民館や公立図書館での
紙芝居公演などだったら、次のようなことをして演者と観客とのラポート
 をとり、気やすい打ち解けた雰囲気を作りましょう。
  軽い手遊び。指遊び。歌。なぞなぞ遊びなど。演者と観客との気やすい
 意志疎通のある気軽な雰囲気,親和的共感関係をつくります。
    みなさん、お元気ですか。
    今朝、ごはんを食べてきた人?
    今朝、パンを食べてきた人?
    今朝、牛乳を飲んできた人?
    今朝、うんちをしてきた人?
    今朝、おしっこをしてきた人?
    今朝、おならをしてきた人?

*舞台にある木枠の三面開きは、初めは閉じておきます。おもむろに、もっ
 たいぶって、一枚ずつ、開けていきます。「さあ、どんな絵がでてくるか
 な? 早く見たいでしょう」とじらす、期待の間をとります。

*拍子木をカンカンカンと鳴らします。
 拍子木で紙芝居を開始する、昔からのならわしです。紙芝居と言えば、拍
 子木です。拍子木の音で紙芝居の世界にすうっと入る心構えを作ります。

*さあ、紙芝居のはじまり、はじまり。拍手。
   題は「   」です。
   作者(文を作った人は〇○です。)
   画 (絵をかいた人は〇○です。)

*みんなで題を一斉に読みましょう。、さん、はい。
 このお話、知っている人、いるかな?
 (いたら、話してもらう。この紙芝居は〇○ちゃんのお話と同じかな、違
 うかな)
 (はじめての場合)では、題から、どんなお話が書いてあると思う? 予
 想を出してみよう。
 はい、では、文章を読みますよ。はじまり、はじまり。



     
脚本の語り方・演じ方



 
一本調子な語り方をしない

 一本調子とは、ずらずらと平らに変化のない語り方のことをいいます。間
がない、早口な読み方も、一本調子な読みとなります。低い声で、ぼそぼそ、
もぞもぞした読み方も、一本調子な読みとなります。
 まず、相手に届く声であることです。声量のある、はぎれよい、メリハリ
のある語り方で演じましょう。

 
メリハリのある語り方にするには

@
児童席へ向けて、声を響かせて、紙芝居の世界を伝える気持ちをぐっと押
 し出して語っていきます。○○を伝える気持ちをぐっと押し出してしゃべ
 る、これ一番めに重要なことです。

A脚本の文章は、意味内容のまとまりで区切って読みましょう。これ最低限
 に必要な条件です。意味内容のまとまりで区切れば、相手に分かりやすく
 伝わります。

B明るい声で、声を響かせて、派手な語り方、演じ方を意識してやや大げさ
 にふるまってみよう。教師のパフォーマンスを目立たせて、紙芝居世界に
 引きつけさせることを意識して、そんな語り方にしてみよう。
  これ、なかなか難しい。直ちに出そうとして出せるものではありません。
 教師は、ドッカーンと、おもいっきり演技してみよう。遠慮した出ししぶ
 りはやめましょう。開き直って、思い切りからだごとで、広がりと膨らみ
 を出して演技してみましょう。教師自身、恥ずかしがらないで、そしらぬ
 顔して、自分をわざと目立たせて演技してみよう。オーバーすぎるかもし
 れませんが、これぐらいでちょうどいいのです。

C紙芝居の世界と離れた、教師のわざとらしい、うそっぱちな演技は、下品
 になり、座が白けてしまいます。作品世界と離れないことが重要です。
  教師の好ましいパフォーマンスは容易に出そうとして 出るものではあ
 りません。大胆に物語世界の場面をドッカーンと大きく出してしてみまし
 ょう。小さく、こじんまりと固まった演じ方はいけません。
 遠慮しないで、素知らぬ顔で、わざと大げさにやってみよう。それぐらい
 でちょうどいい物言い・当て振り・演じ方になります。

D「なにが、どうなった」をはっきり伝えましょう。
  紙芝居の裏書き(脚本)は、単純な分かりやすい文章で書かれています。
 「なにが、どのようにして、どうなった」が書かれています。
  まず、「なにが、どうなった」の部分をはっきり伝えることを意識しま
 す。
  例文で説明します。

 「うみにしずんだおに」(松谷みよ子作、二俣英五郎画)の一部分です。
 「なにが、どうなった」部分を、赤字にしています。

      すさまじい なみに 足を すくわれて、おには、
      どうっと、たおれた。たおれながら、おやおには、
      子おにを、おぼれさせまいと、かた手で、子おに
      を、ささえながら、しずんでいった。


 「おには、たおれた」「おやおには、しずんでいった」が最も重要な伝達
内容です。この二つの主語と述語との結びつきをはっきり意識して伝えなけ
ればなりません。この二つが結びつくように語らなければなりません。

 上の文の中で、語形変形文を通常の文型に直すと次のようになります。

      おには、すさまじい なみに 足を すくわれて、
      どうっと、たおれた。
      おやおには、たおれながら、子おにを、おぼれさ
      せまいと、かた手で、子おにを、ささえながら、
      しずんでいった。


 紙芝居の絵は、主語と述語とが明確に結びついた、それが分かるような絵
で描かれています。また、次場面には前場面とは違った新しく伝えなければ
ならない新情報が描かれており、その新情景がはっきりと描かれているはず
です。
 新情報は、脚本文章の修飾部分「どのようにして」個所に多くあります。
新しく伝える内容・新情報は「どのように」(修飾語)個所に多くあります。
ですから、新情報部分を目立たせたメリハリをつけて語るようにすればうま
くいきます。
 前に出ている旧情報はおさえて、新情報を目立たせて語るようにします。

E会話文は人物の気持ちを押し出して、語る(しゃべってる)ようにします。
  会話文は、人物が何を言いたいか、相手に伝えたい意図は何であるか、
 をつかんで、その気持ちをぐっと前面に押し出してしゃべるようにします。
  教師一人で全人物を演じるわけですから、それら人物にすばやく変身し
 て、入る・なりきる、のり移るで、相手に言いたいこと・伝えたい内容を
 前へ押し出して語るようにします。
  二人、三人の会話文が連続している対話個所は、「やりとり」の感じを
だして読みます。相手に話しかけている口調、それを受け取って答えている
口調、やりとりの口調を出して対話部分を読んでいくことが重要です。

F声色は必要ない。
  その教師の持ち前の声で、老人は老人らしく、子どもは子どもらしく、
 男性は男の言いぶりらしく、女性は女の言いぶりらしく、「それらしい 
 言いぶりにして」語ればいいのです。
  声色は原則、必要ありません。その教師の持ち前の声で、「それらし 
 く」表現すればよいのです。
  しかし、これも原則であって、声色でうまくいくのなら、声色を使っ 
 てしゃべってもよいでしょう。
  場面によっては、声色をつかわなければならない個所もあります。

 声色を使う例
「おおかみと七ひきの子やぎ」グリム、奈街三郎脚色、童心社。1ページ目

 ある日、おかあさんやぎがいいました。
 「おかあさんは おつかいに いって きますからね。るすの あいだに
  おおかみが きても、とを あけては いけませんよ」
 子やぎ
  「こわいなあ」
 おかあさんやぎ
  「だいじょうぶよ。おおかみは しゃがれごえで あけて くれ あけ
   て くれ。こんな こえを だすの。」


 お母さんがおおかみの声をまねしている声は、しゃがれごえの声色を使っ
て語らなければなりません。「おおかみは しゃがれごえで あけて くれ
 あけて くれ。こんな こえを だすの。」と脚本文に書いてあります。
 お母さんが子やぎたちに言う声は、やさしく教え諭している母親らしい言
い振りで言います。子やぎたちの声は、幼い子どもらしい、かわいらしい言
い振りで語らなければなりません。

Gメリハリのちょっとしたテクニック紹介
  ご参考までに、メリハリのちょっとした使い分けのテクニックを紹介し
  ます。

 男の声………下腹から、低めに、太い声で言う。
 女の声………頭上から、高めに、細い声で言う。

 若者の声………早口で、高めの声で言う。
 老人の声………ゆったりと、のんびりと、低めの声で言う。

 うれしい………明るい声、高い声。口を横に開くとよい。
 悲しい………暗い、沈んだ、弱々しい声にして言う。
 怒り………早口で、でかい、力強い、唇を尖らせて言う。
 秘密めいた………ひそひそ声、ささやき声。

 緊迫や危急の場面………追いこんで、たたみかけて、勢い込んで言う。
 静寂の場面………静かに、ゆっくりと、低めの声で、ひっそりと そうっ
         と のんびりと言う。
 一つの場面をのばして引きずっていく時………淡々と、あっさりと進めて
                      いく
 オノマトペ(擬音語、擬声語、擬態語)……やや目立たせて読むとよい。
   おばあさんが せんたくを していると 川上から
   ももが どんぶらこ ざんぶらこ と ながれてきました。
     (どんぶらこ ざんぶらこ)を、やや目立たせて読むとよい。

◎メリハリづけテクニックの練習問題
 ご参考までに、メリハリづけのちょっとした練習問題を紹介します。
 手遊び歌「おおきなたいこ」(小林純一作詞、中田喜直作曲)の歌詞を例
に。学習材として練習します。歌いながらでもいいし、メリハリをつけた音
読(表現よみ)だけでもいいです。

      おおきな たいこ
      ドーン ドーン

      ちいさな たいこ
      トントン トン

      おおきな たいこ
      ちいさな たいこ
      ドーンドーン
      トントン トン


練習の仕方
 「ドーンドーン」と「トントン トン」にわざと大げさに表情の差をつけ
て歌ってみましょう。わざと大げさに「ドーンドーン」を大声で太く重く、
「トントン トン」を小さく軽くそっと表情の差をつけて音声表現してみま
しょう。
 また、「おおきな たいこ」は声量大にして、「ちいさな たいこ」は声
量小にわざと大げさに表情の差をつけて歌ってみましょう。表現よみもして
みましょう。
 音声表情にも、いろいろあります。次のようなステップをふんで練習して
みましょう。

(1)音量の大小変化……例えば、「ドーン」大と「トン」小、の変化
(2)強弱変化………例えば、「ドーン」強いと「トン」弱いの変化
(3)軽重変化……例えば、「ドーン」重いと「トン」軽いの音色変化
(4)強調(際立て)変化………「おおきな」と「ちいさな」の際立て対比
  例えば(ず太い、でかい声の)「おーーきな」or「お・お・き・な」
  例えば(そっと、ひそやかに)「ちーーさな」or「ち・い・さ・な」
(5)緩急変化………「ドーーン」を重く、ゆっくりとのばす。
          「トントントン」を軽く、早口で。



      
臨機に演じ方を変える


 「紙芝居は静かに黙って見なさい」「うるさい、黙っていなさい」と指示
してはいけません。
 次のように指示しましょう。
 「ひとりごと反応を言いながら見ましょう」「つぶやきコトバを言いなが
ら見ましょう」と誘いかけます。
 ひとり言を言いながら見るように指示します。ひとりごと反応を大いに言
わせるようにします。ひとりごとは、思考のコトバです、考えコトバです。
その子が場面にうんと反応している・思考している証拠です。児童が思わず
もらしたひとりごと反応を大いに歓迎します、無視してはいけません。教師
はすかさずその反応コトバを拾いあげて、「そうだね」と応答しながら進行
していくようにします。うるさくならない程度にです。
 場面場面の出来事や人物の行動について話題にしながら進めていきましょ
う。児童たちの反応・思い・考えを拾い上げて、語り合いましょう。自分と
は違った考え方があることを知ります。話題が他人と共有できることで、反
応に多様性があることに気づきます。場面についてのイメージが豊かになり、
読み取りの力が深まります。発表力も身につきます。
 教師は、児童の反応に合わせて臨機応変に演じ方を変更していくようにし
ます。児童の反応(応答コトバ、顔の表情)に合わせて、自由に場面をふく
らましたり、ある場面では作り変えたりして、画面について多様に語り合い、
合作していきます。
 同一紙芝居でも、一度目、二度目、三度目と、毎回、見るたびに、児童た
ちが作り上げる世界は違ってくるはずです。児童たちが初めから知っている
お話しであっても、その都度、新たな世界を作り上げていくはずです。その
たびに違ったおもしろさを見出していくはずです。



  
教師は児童と一緒におもしろがる



 児童たちの反応を見ながら演じ方を臨機応変に変えていきましょう。
 教師は児童席をちらちらと見ながら、児童たちの顔付や表情や行動を見な
がら、児童が身をのりだして画面を見ているか、食い入るように見つめてい
るか、いまひとつのってきてないか、ストーリーから気持ちが離れていない
か、などを察知して、語りかけ方、演じ方をその都度変えていくようにしま
す。
 場面から気持ちが離れていれば、ちょっとしたアドリブの台詞を付け加え
たり(オットットト、これはいけねえ、ちょっと待った・待った、おっ・す
げえぞ、など)、擬声語・擬態語をアドリブで挿入して大げさに表現してみ
せたり(ガラガラドスーン、ドタンバチャーン。ひらーりひらーりひらーり、
など)、学級児童の誰かの氏名を使って登場人物に仕立て上げて活躍させて
みたり、教師の感動反応コトバを挿入したり、一児童に問いかけコトバを入
れて問答したり、教師のアドリブの身ぶり手ぶりを大げさに入れて注目させ
たり、臨機応変に変えて、紙芝居世界へ入り込ませる、楽しませるように努
力します。
 教師は児童たちと一緒になって紙芝居世界を楽しむこと、おもしろがるこ
とです。「おもしろいね」「たのしいね」とけしかける誘いかけ、演出をし
ていきます。児童たちと一緒になって驚いたり笑ったり悲しんだりの態度・
表情をします。教師は児童たちと一緒におもしろがる、そうした雰囲気・空
気を作ることに気を使います。
 次の紙芝居は、観客(児童たち)を紙芝居世界へ直接に引き入れる書かれ
方の脚本例です。参考になります。だらけてきたら、こんな教師のアドリブ
の誘いかけコトバを挿入するのもいいですね。

 題「はーい」(間所ひさこ脚本・山本裕司絵、童心社)

    みんなも「はーい」って、
    へんじしてね。
    「○○ちゃーん」
    「○○ちゃーん」
    (観客の子どもひとりひとりの名前を
     よび、へんじをしてもらう)

    にわとりさんがやってきたぞ。
    みんなも、よびかけてみよう。
    「に、わ、と、り、さーん」
    もっと大きい声でよびかけてみよう。
    「に、わ、と、り、さーん」
    (観客の子どもたちに、画面のにわと
     りさんによびかけさせる)


 観客(児童たち)が紙芝居世界の登場人物となって参加し、楽しむ脚本の
書かれ方です。観客(児童たち)を登場人物に仕立て上げています。観客
(児童たち)が登場人物に話しかけています。こういう紙芝居の楽しみ方も
いいですね。児童が画面にのってこない場合は、こうした登場人物への話し
かけ、呼びかけのアドリブを臨機に入れてみるのもおもしろいです。
 紙芝居は、テレビや映画のように一方通行のコミュニュケーションではあ
りません。教師と児童が対話しながら、交流しながら、紙芝居世界を一緒に
楽しむのです。インタラクテヴな相互交流、双方向の一体感で楽しむ劇空間
を作るようにします。紙芝居は、ここに特徴があります。教師は児童たちと
一体となって紙芝居世界を楽しむ、おもしろがる、そうした見せ方・演じ方
をしていくようにします。



        
 ぬき方



 紙芝居だけの独特な手動操作に「ぬき方」があります。
 ぬき方には、四つがあります。

   (1)さっとぬく
   (2)ゆっくりぬく
   (3)途中で止める
   (4)その他のぬき方

 どのぬき方にするかは、大体は前場面と次場面とのストーリー展開のしか
たによって決まります。
 脚本の本文中に、または脚本の下段にある「演出ノート」欄に、「さっと
ぬく」とか「ゆっくりぬく」とか「ここでとめる」とかが書いてあります。
その通りにしなければならないものではありませんが、大いに参考になりま
す。その指示のとおりにすれば間違いはないでしょう。


 
(1)さっとぬく

 「さっとぬく」「すばやくぬく」などは、緊急の場面、緊迫した場面、人
物の一瞬の連続行動の場面などに用いられます。さっとぬく、すぱっとぬく、
そのぬき方も、芸の一つ、紙芝居の演じ方、パフォーマンスの一つです。児
童の呼吸や期待に合わせるとよいでしょう。


 (2)ゆっくりぬく


 「ゆっくりぬく」は、次の場面はどうなるかな、何が起こるかな、観客を
わくわく、どきどきさせて、観客の気持ちをじらさせる、次の場面展開への
期待の間、思わせぶりにわざと時間をとる、などの時のぬき方です。
 次への期待の間は、ぬく時だけでなく、脚本を語っている途中でも、間を
たっぷりとって、観客の心をじらさせて、思わせぶりに間をあける、それか
ら次を語っていく、という演じ方、こにくらしい演じ方、こうした手法も上
手に使っていくとよいですね。
 また、「ゆっくりとぬく」前に「次はどうなるかな」と児童たちにいろい
ろと予想を出させる話し合いをすることも場合によってあってよいでしょう。
 この「ゆっくりぬく」ぬき方も、芸の一つ、紙芝居の演じ方、パフォーマ
ンスの一つです。
 次への期待の間をあける、次のような方法もたまにあってよいでしょう。
テレビ的な演出で、次の画面(場面)に入る直前にCMになります。これを
利用します。
   
教師「ここで、コマーシャル。
      痛くなったら、すぐセデス
      くしゃみ三回、ルル三錠
      ゴホンといえば龍角散」
   児童「先生、いじわるー」
     「ふざけるの、やめて」
     「はやく、次の場面を見せてー」


 
(3)途中で止める


 「途中で止める」は、引き抜く場面の絵と、次場面の絵と、ふたつの絵が
複合した新しい場面を形作るときに用いられます。
 紙芝居の絵は、児童席から見て左方向へ引き抜くようになっています。そ
のため紙芝居の絵は右から左へ動く流れで描かれています。時間の流れが右
から左方向へと描かれています。ですから左方向へ引き抜くようになります。
 紙芝居が出現した草創期は、舞台の木枠の上部へ引き抜くようになってい
たそうです。現在は観客席からみて左側に引き抜くようになっています。

 「途中で止める」場合は市販紙芝居には、大多数が太線の縦線で書き入れ
られています。太線が書かれてない場合は、、裏書きの脚本文章に、どの位
置まで引き抜いて止めるか、鉛筆で線を引いておきましょう。

 「途中でとめる」の例を、一つ挙げてみます。
 松谷みよ子作・まつやまふみお画「かさじぞう」(童心社)という紙芝居
の例です。じいさまが六地蔵のひとり一人にかさを順番にかぶせる有名な場
面です。

 場面いっぱいに六地蔵が雪空の中に立っている絵が描かれています。
 脚本には、次のような文章が書いてあります。

    じいさま
    「おじぞうさま、あしたはお正月というのに、もち一つ
    ねえで、さみしいおとしこしだの。おまけに、このゆき
    じゃ、さぞ、つめたかべ。」「ちょうどここにかさがある
    から、おあげすべ」
     ───── 一つ一つゆっくりぬきながら─────
    じいさまは、六じぞうさまに、一つ、二つ、三つ、四つ、
   五つ、かさをかぶせた。
    じいさま
   「ほ、一つたりないわ」


 脚本の下段の演出ノート欄に「地蔵を一つ、一つ、見せていく」と書いて
あります。抜きながら途中で止めて、地蔵の一つ一つに止めながら一つ一つ
順番に地蔵を出現させ、一つ一つの地蔵に順番にかさをかぶせていく、その
一つ一つの場面を見せていかなければなりません。
 地の文「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、かさをかぶせた。」の一つ一つ
で止まらなければなりません。六番目の地蔵様の個所で「ほ、一つたりない
わ」と言わなければなりません。
 そのためには、裏書きの脚本欄に@ABCDEの番号と、一つ一つ止める
位置に、それぞれの縦線を、鉛筆で書き入れておかければなりません。


 (4)その他のぬき方


 その他、「ゆらしながらぬく」など、いろいろな方法もあります。
 やべみつのり(作、画)「あれあれなあに?」という紙芝居があります。
この紙芝居には、いろいろなぬき方の指示が書いてあります。
 「あれあれなあに?」の脚本下段の「演出ノート」欄に、次のような「各
場面をぬくぬき方」の指示が書いてあります。以下引用します。

    「各場面をぬくぬき方」
    2場面は上下にゆらしながら、
    3場面はすべるようにすうっと、
    4場面は波がうねっているように、
    5場面は、ふわっともち上げて、
    6場面は、くるんとまわして、
  というように、それぞれの場面のかあさんねずみのしっぽ
  の動きにあわせたぬき方をしてみてはいかがでしょうか。
  また、ぬく時のみでなく、「これなにかな」「なにしてい
  るのかな」と問いかけながら動かしてあげてもよいでしょう。
  いろいろな演じ方を楽しんでください。


 紙芝居では、ぬき方も、パフォーマンスの一つ、演じ方の一つということ
が分かります。
 次の場面はどうなるだろう、というはらはら感、どきどき感、わくわく感
をもたせるぬき方、これも演じ方のコツのひとつです。次は何が起こるか、
どう展開していくか、という期待感を高める、そうした間の与え方、ぬき方
です。
 引き抜くたびに新しい世界が展開する意外性におもしろさがあります。期
待を大きくさせます。大きな転換に児童たちは喜びます。次の場面への期待
感をもたせる、期待をふくらませるために間をあける、あける速度でじらす、
予想を問いかける、教師の顔の表情やしぐさで期待感を高める、そうした空
気を作る、ぬき方・語り方のパフォーマンスが重要です。



           
終わり方
 


 紙芝居は、これこれの道徳心、公共心、協調心、勧善懲悪の心などを教え
るために見せるのではありません。「道徳教育」「しつけ教育」「説教教
育」のためではありません。
 ただ、おもしろいからです。子どもたちは、ただおもしろいから見るので
す。見ると喜ぶからです。楽しい別世界に連れていかれて、わくわく、どき
どき、びくっとしたりする喜びがあるからです。
 その結果として、経験の少ない児童たちが、知らないうちに人生を多方面
に考える、そうした素地が、ひとりでに身についていくことになります。い
つのまにか人間世界を広く深く体験することができるようになっていきます。
 
 脚本の最終場面の文章を読み終わったら、
 「はい、お、し、ま、い」パチパチパチ。
 で終わりにします。
 三面トビラを一枚ずつ閉めていきます。別世界を閉じて、現実世界へ戻し
ます。これですべて終わりです。すべて終わりとします。
 語り終わったあと、内容についての深入り詮索の問答はしないようにしま
す。

 内容によっては、ちょっと引きずって、語り合ってみるのもよいでしょう。
あっさりと、です。
     どう、おもしろかった?
     どこが、おもしろかった?
     どこが、こわかった?
     どこが、かわいそうだった?
     どこが、びっくりした?

 簡単に思ったこと・感想を言わせるだけにします。
 なぜ、そう思ったのか、その理由を言わせたり、事柄や事件の因果関係を
言わせたり、などの深入りの話し合いはやめましょう。紙芝居は、おもしろ
ければいいのです。勉強ではありません。こむずかしい読解指導、道徳授業、
しつけ指導をしないようにします。嫌いになってしまいます。「ああ、おも
しろかった」で終わりにします。


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