音読授業を創る そのA面とB面と 05・1・8記 「きいちゃん」の音読授業をデザインする ○「きいちゃん」(山本加津子作)の掲載教科書…………光村6下 素敵なはなむけの言葉 「きいちゃん」は、光村本で6年生最後の国語教材です。単元の解説に 『卒業するあなたたちに「きいちゃん」「生きる」「ことばの橋」をおくり ます。自分の力で学習しましょう。感じたことを話し合ったり、文章にまと めて発表したり、今までの学習を生かして取り組んでください。』と書いて あります。 「きいちゃん」は、身体障害者への差別感を払拭し、障害者とともに明 るく共生していくことの大切さをテーマにしている作品です。 「生きる」は、人間がさまざまに生きている生態、一つのスナップショ ットを活写し、人間世界には多様な、一人ひとりが輝いている人間群像があ ることを知らせている作品です。 「言葉の橋」は、人間の心と心を結ぶ架け橋が言葉であること、言葉で 伝えることには困難も伴うが、言葉で伝え合い・通じ合うことの重要さを知 らせ、通じ合いへの限りない信頼と確信を持つことの大切を教えている教材 です。 いずれも、いま小学校を卒業しようとしている子供たち、今すぐに中学 生になろうとして期待に胸をふくらませている子どもたちに送る素敵なはな むけの言葉になっています。 場面の変化をつかんで(1) 次の本文は「きいちゃん」の冒頭部分の文章です。 ーーーーーーーーーーーーー きいちゃんは、教室の中で、いつもさびしそうでした。たいてのとき、う つむいて、独りぼっちですわっていました。 だから、きいちゃんが職員室のわたしのところへ、「せんせい。」って、 大きな声で飛びこんで来てくれたときは、本当にびっくりしました。こんな にうれしそうなきいちゃんを、わたしは初めて見ました。 「どうしたの。」 そうたずねると、きいちゃんは、 「お姉さんが結婚するの。わたし、結婚式に出るのよ。」 って、にこにこしながら教えてくれました。 「わたし、何着て行こうかな。」 と、とびきりのえがおで話すきいちゃんに、わたしも、とてもうれしくなり ました。 それから一週間くらいたったころ、教室で、机に顔をおし付けるようにし て、一人で泣いているきいちゃんを見つけました。 なみだでぬれた顔を上げて、 「お母さんがわたしに、結婚式に出ないでほしいって言うの。お母さん は、わたしのことがはずかしいのよ。お姉さんのことばかり考えているの。 わたしなんて、生まれてこなければよかったのにーー。」 やっとのことでそう言うと、また、激しく泣きました。 でも、きいちゃんのお母さんは、いつもいつも、きいちゃんのことばかり 考えているような人でした。 ーーーーーーーーーーーーー 文学作品の場面には、それぞれに情緒的な雰囲気、かもし出している気 分があります。その雰囲気・気分をつかんで音声表現することがとても大切 です。 悲しい場面は、沈んだ声で、暗く、低い声で読むとよいでしょう。歓喜 の場面は、明るく、晴れやかな声で、声高に読むとよいでしょう。 上記引用の場面には、三つの雰囲気が変化している場面があります。暗 (悲)から明(喜)へ、明(喜)から暗(悲)への転換と、地の文における 語り手の語り方の文章部分、この三つです。 ●暗(悲)から明(喜)への転換場面 「きいちゃん」の冒頭段落には「きいちゃんはいつもさびしそう、独り ぼっち」と書いてあります。暗く沈んだ声、小さく、低い声で読むとよいで しょう。文章内容だけがそっと、小さく声に出るように読みます。これら雰 囲気の読み方が次の段落の「だから、きいちゃんが職員室のわたしのところ へ」までつづきます。ここまで、抑揚をつけず、淡々と読んでいきます。 「せんせい。」って、大きな声で飛びこんできたとき、」から後は、場 面が暗(悲)から明(喜)へと急転しています。ここから音声表情を明 (喜)に変えて読み出していきます。きいちゃんはお姉さんの結婚式に出ら れることになり大喜びしています。その喜ぶ姿にわたし(先生)はびっくり しています。いつものさびしそうな、独りぼっちのきいちゃんの姿はみられ ません。 「せんせい。」って、から「わたしも、とてもうれしくなりました。」 までは、わたし(先生)のびっくりした、驚きの気持ちをこめて、明るく、 晴れやかに、やや大げさな音声表情をつけて読むぐらいでよいでしょう。わ たしの大きな驚きの声が出るようにして読みます。「せんせい」は、きいち ゃんの喜びいっぱいの気持ちが出てるように大きめの声立てで明るく表現し ます。「本当にびっくりしました」「わたしは初めて見ました」は強めの声 立てで、粒立てて、驚いた気持ちをうんとこめて音声表現するとよいでしょ う。 「どうしたの。」は、わたしが驚いている、びっくりしている表情(顔 や身振りの表情)を作って、きいちゃんに問いかけている口調で読みます。 次のきいちゃんの会話文「お姉さんが結婚するの。……」は、きいちゃ んのうれしそうな、うきうきした気持ちをこめて、声高に、はずんで、一気 にしゃべろうとして逆に息切れしているみたいに、「お姉さんがー(のびて 上がる)、結婚するのー(のびて上がる)、わたしー(のびて上がる)、結 婚式にー(のびて上がる)、でるのよー(のびて上がる)」のような音声表 現の仕方も考えられます。こうでなくとも、きいちゃんが心ときめかして、 喜びに心がはずんでいる、うれしそうな気持ちの語りかけ口調が出ればよい のです。 「にこにこしながら教えてくれました」は、地の文ではありますが、前 のきいちゃんの会話文の雰囲気ををひきずって、語り手「わたし」のうれし い気持ちをうんとこめて音声表現するとよいでしょう。 「わたし、何着ていこうかな」は、きいちゃんが素敵な衣装を夢見て る、自分の着飾った衣装を楽しみに待っている、喜びと期待にあふれている 声立てにして音声表現するとよいでしょう。 「とびきりのえがお」を作りつつ音声表現するとうまくいくかもと思いま す。つづく地の文も語り手「わたし」の「とびきりのえがお」を作って、う れしい雰囲気が出るようにして音声表現します。 ●明(喜)から暗(悲)への転換 「それから一週間くらいたったころ」は場面変わりの段落ですから、ご く普通に一週間がすぎたことを告げるように読み出していきます。「一人で 泣いているきいちゃんを見つけました。」から場面の雰囲気が転換してい ます。暗転の場面に変わりました。小さい声で、低く、そっと、沈んだ声で 「何かが起こった」という雰囲気の音声表現にして読み出していきます。 次の結婚式に出ないでほしいという会話文は、きいちゃんの泣きながら の声です。きいちゃんは目を真っ赤にして、机に顔を伏せて泣いているので しょう。 きいちゃんのくやしい思い、喉の奥からしぼりだすような、やっと声に 出して先生に告げ知らせている声です。一気にしゃべってはいけません。切 れ切れに、喉の声を詰まらせつつ、うらみがましい声で、読み手の不憫がる 気持ちもこめて音声表現していきます。 きいちゃんの涙ながらの訴えです。くやしい心の叫びです。「お母さんが (ガを短くはね上げ)、わたしに(二を短くはね上げ)、結婚式に(二を短 くはね上げ)、出ないで(間)ほしいって(テを短くはね上げ)、言うの (ノをはね上げ。)」のような読み方も考えられます。 語り手の説明の論理を声にする(1) この作品全体が、語り手「わたし」の目に見えた様子、心に浮かんだ思 いをとおして書かれています。語り手「わたし」の目に見えたきいちゃんの 様子(行動、顔の表情や動作、会話)や結婚式の様子(花嫁さんの姿形、出 席者たちの行動、表情、会話)が、そのときどきの語り手「わたし」の気持 ち(思い、考え、)をとおして描かれています。 途中、結婚式の一場面としての描写個所がありますが、これも結婚式に 参列しているわたしの目に見えた、わたしの気持ちに浮かんだこと、わたし のフィルターをとおした情景として描かれています。 ですから、読者(読み手)は、語り手「わたし」の目や気持ちになって (とおして、なったつもりで、入り込んで、同化して)読み進める(音声表 現していく)ことになります。 上記に引用した文章の直後に「でも、きいちゃんのお母さんは、いつもい つも、きいちゃんのことばかり考えているような人でした。」と書いてあり ます。きいちゃんが泣きながらわたし(教師)に訴えた「母は姉さんのこと ばかり考えている」ということに対して、それは真実でないことを、わたし (教師)の視点から反証している解説の地の文です。この作品の最後尾の文 章まで、その反証の地の文がつづいて描かれています。 音声表現するときは、母はお姉ちゃんのことばかり考えているのでない ことを、語り手「わたし」の反証の論理(考えを説明していく言いぶり、説 明の論運びの言い進め方)がはっきりと音声に出るように読んでいくように します。そのためには、意味内容のひとつながりと区切りをはっきりと音声 表現します。聞き手にかんでふくめて、よく分かってもらうように伝える気 持ちをいっぱいにして音声表現していく必要があります。 次の( )のひとつながりではひとまとめに読み、区切りでは軽い間 をあけて読むとよいでしょう。 (お母さんは面会日のたびに)(まだ暗いうちに家を出て)(四時間もか けて、きいちゃんに会いに来られていたのです。) お母さんは(きいちゃんが結婚式に出ることで、お姉さんに肩身のせま い思いをさせるのではないか)(手や足が思うように動かない子供が生まれ るのではと、周りに人に誤解されるのではないか)と、心配なさっていたの かもしれません。 上記の文章の骨組みは、「お母さんは………と心配なさっていたのかも しれません。」です。………個所に二つの「………のではないか」が並んで 挿入されているのです。このはめこみ構文構造を頭に入れて音声表現してい くとうまくいきます。 (学校の休み時間も)(宿舎の学園へ帰ってからも)(きいちゃんは、 ずっとゆかたをぬっていました。体をこわしてしまうのではないかと思うく らい、一生けん命ぬい続けました。) 上記の文章の骨組みは「……の時間も、……帰ってからも、」+「ずっ とゆかたをぬっていた。一生けん命ぬい続けた。」です。この構文構造を頭 に入れて音声表現するとうまくいくでしょう。後ろのカッコ内は、一息読み をするということではなく、途中で区切りの間をあけて読んでもよいが、ひ とつながりの意識を失わないで音声表現していくということです。 本当を言うと、わたしは(きいちゃんがゆかたをぬうのは、難しいかも しれない)と思っていました。(きいちゃんは、手や足を、なかなか思った ところへもっていけないので)(ご飯を食べたり、字を書いたりするとき も、だれかほかの人といっしょにすることが多かった)のです。でも、(ミ シンもあるし、いっしょに針を持てばなんとかなる)と、わたしは考えてい ました。 上記の文章の骨組みは、(わたしは………と思っていた。)(………の で、………が多かったのです。)(でも、………と、わたしは考えてい た。)です。このはめこみ構文意識を頭に入れて音声表現するとうまくいく でしょう。 この作品の地の文は、語り手「わたし」の視点からの、わたし(教師) のフィルターをとおした、きいちゃんの境遇の説明と解説の文章です。 一行だけの短い会話文もあります。短い会話文は、わたしの視点からの 地の文と同じレベルと考えて、つまり処理して、会話文口調でなく読んでい ってもよいでしょう。 「生まれてこなければよかったのに。」 「絶対に一人でぬう。」 「お姉ちゃんの結婚のプレゼントなんだもの。」 「あの子が、どうしてもそうしたいと言うのです。出てやってくださ い。」 これらはしゃべり口調をださずに、淡々と前後の地の文の読み口調と同 じレベルで音声表現してよいと思います。これらは、反証理由の一つとして 例示されている説明のための会話文です。つまり、かぎかっこをとって地の 文の読み音調の中にはめ込んで読んでももよいぐらいの会話文扱いとして読 んでいってよいでしょう。 場面の変化をつかんで(2) 次の本文は結婚式の場面です。 ーーーーーーーーーーーーー 式が進むにつれて、結婚式に出ておられた何人かの方が、きいちゃんを 見て、何かひそひそ話しているのです。「きいちゃんは、どう思っているの かしら。やっぱり出ないほうがよかったのかしら。」と、そんなことを考え ていたときのことでした。花よめさんが、お色直しをして、とびらから出て きました。 お姉さんは、きいちゃんがぬったあのゆかたを着て、出てきたのです。 ゆかたは、お姉さんに、とてもよく似合っていました。きいちゃんもわたし もうれしくてたまらず、手をにぎり合って、きれいなお姉さんばかり見つめ ていました。 ーーーーーーーーーーーーー ここの場面は、この作品の見せ場です。結婚式参列者たちの障害者への 差別的偏見が見事に情景として描かれています。ここを音声表現するとき は、参列者たちが小声で密やかに、隠れて話しているような姿を想像しなが ら読むとよいでしょう。 「きいちゃんを見て、何かひそひそ話しているのです。」を、低い声で、ほ んとに小さく、ささやくように音声表現します。ひそひそ話している雰囲気 を読み声に出します。 語り手「わたし」は、やっぱり予想してたとおりだ、残念、悲嘆にくれ た、沈うつな、滅入る気持ちでいることでしょう。そんな気持ちで「きい ちゃんはどう思っているかしら。やっぱり出ないほうがよかったのかし ら。」を音声表現します。 そして次に突如として明るい場面が展開します。花嫁さんがお色直しを して扉から出てきたのです。明るく華やいだ気分(雰囲気)に一変します。 「花よめさんが、お色直しをして、とびらから出てきました。」からは、明 るく、晴れやかな、陽気な、やや高めの声にして、気分を一変させて音声表 現していきます。語り手「わたし」が目にした花嫁さんのゆかた姿の衣装の すばらしさ、きいちゃんと一緒に作って贈ったことが思い出され、感じ入っ た感激があふれてきます。「花よめさんが……」からは感激の驚きをこめ て、気分を一新させて明るく音声表現していきます。 お姉さんが「きいちゃんとわたしを呼んで、わたしたちをしょうかいし てくれました。」と書いてあります。お姉さんはどんな言葉できいちゃんと わたしを紹介したのでしょうか。児童にくわしい話かえで作文を書かせてみ るのもよいでしょう。コメント力・プレゼンテーション能力高めのよい学習 になるでしょう。 お姉さんのマイクに向かっての語りは、へんに涙ぐんだりはせず、参列 者に分かりやすく伝わる音調で、淡々と、礼儀正しい言葉遣いで、語りかけ ている口調で読むとよいでしょう。 語り手の説明の論理を声にする(2) 結婚式描写の終わりに次のような文章があります。 ーーーーーーーーーーーー 「これがわたしの大事な妹です。」 式場中が、大きな拍手でいっぱいになりました。 なんてすばらしい姉妹でしょう。わたしはなみだがあふれてきて、どうし ても止めることはできませんでした。 きいちゃんは、きいちゃんとして生まれ、きいちゃんとして生きてきまし た。そして、これからも、きいちゃんとして生きていくのです。もし、名前 をかくしたり、かくれたりしなければならなかったら、きいちゃんの生活 は、どんなにさびしいものになったでしょうか。 ーーーーーーーーーーーー ここには、語り手「わたし」がにょっきりと顔を出して自己主張いま す。 「なんてすばらしい姉妹でしょう。」からあとは、語り手「わたし」が自己 主張しているみたいに、強い自己主張しているみたいに音声表現してもよい でしょう。 さらに、語り手「わたし」の心理の裏側に、作家の顔も見えます。語り 手「わたし」の自己主張は、この作品の作者、山本加津子さんの自己主張で もあるように思われます。この作品の主題といってもよいでしょう。 ですから最終場面を音声表現するときは、語り手「わたし」の自己主張 のように、語り手「わたし」の気持ちに入り込んで、語り手の語り方の論理 (言いぶり、口ぶり、しゃべり口調)が出るような理屈めいた口調で音声 表現します。語勢を強めるところは強め、区切りの間をはっきりと入れて、 聞き手に分かりやすく伝わるように音声表現します。 トップページへ |
||