父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・5・13記





    
 上手なほめ方、叱り方




       
「叱る」と「怒る」の違い

 「叱る」と「怒る」の意味の違いについて、金田一春彦(言語学者)さん
が次のように簡明に述べています。

 叱るとオコルは元来はっきり区別すべき言葉で、叱るは相手の悪い点を直
す目的で言うこと、オコルは単なる感情の爆発のはずである。したがって、
ヤサシク叱ルということはありうるが、ヤサシクオコルということはありえ
ない。オコルことは容易であるが、叱ることは難しい。が、子どもたちはこ
のちがいを無視し、先生に叱ラレタというべきを、先生にオコラレタと言う。
        
金田一春彦『日本語への希望』(大修館書店、1976)

 この使用上の混同は子どもたちだけでなく、教師や父母にもみられます。
この他、「怒鳴る」という言葉もあります。「怒鳴る」とは、「怒る」より
も、もっと激しく感情を高ぶらせて、声高に、相手の言い分に耳をかす余裕
もなく、一時的な感情を相手に爆発させる怒り方という意味になります。
 このように「叱る」とは、相手によい行動をとらせようとたっぷりした愛
情でもって教え諭す行為です。相手を善導しようとする愛情いっぱいな気持
ちで教え諭す行為です。「まあ、ほんとうにしょうがない子だね。もっとし
っかりしてもらわなくては困りますよ。こうしましょうね。」という、おだ
やかな気持ちで、相手を許す気持ちで教える行為です。
 とかく教師も父母もそうですが、すぐカッとなって、頭に血をのぼせて怒
ったり、怒鳴ったりしがちです。教師や父母は、こう言うかもしれません。
一時的な感情を子どもにぶつけているのではありません。「子どもの悪い行
為を直す目的で、子どもを善導しようという気持ちから怒ったり、怒鳴った
りしているのです」と。
 このような場合、金田一春彦さんの定義にしたがえば、「激しく叱る」と
か「激怒して叱る」とかいう表現になるでしょう。このような叱り方は、一
時的に感情を爆発させるので、教師や父母は気持ちがスカアッとするかもし
れませんが、子どもには反感を持たれることが多くあります。子どもは快く
受け入れてくれません。子どもには子どもなりの言い分や言い訳があるのか
もしれません。深く反省し、二度とやるまいと固く決意しているのかもしれ
ません。あたまからガミガミと言われたのでは「なんだ、この赤オニ、顔を
真っ赤にして、ツノを三本も出してサ、それにキバまで出してサ、そんなに
ガミガミと言わなくても分かってるよ。そんなにバカじゃありません。叱り
方、言い方というものがあるでしょうに。」と、子どもは心の中で思ってい
る子もいます。ガミガミと怒った教師も父母も、あとで「おとなげない叱り
方をした」と反省することにもなります。
 わたしは「怒鳴って叱る」という叱り方、その教育的効果のすべてを否定
するつもりはありませんが、すぐカアッと一本気に怒鳴り散らす叱り方は、
よい行動をとらせようとする熱意から出たものではあっても、それが逆に子
どもの反感をまねき、悪い結果をまねく場合が多いことを知るべきでしょう。
 小学校低学年では、「おお、怖い」と恐れおののいて、直ちに「やめよう。
やめます」と素直に受け入れてくれることが多いかもしれません。しかし、
小学校高学年から中学生・高校生へと年齢が上がるにつれて、この「怒鳴っ
て叱る」方法は、子どもの反発や反感をまねくだけである、素直に受け入れ
てくれないことを心しておくべきです。叱り方はすべて、愛情のこもった温
かい、声を低くして教え諭す叱り方を原則にすべきです。


     
わが子を褒めることを気恥ずかしく思うな


 わが子がよい行為をしたら、親は知らんふりしないことです。わが子を褒
めるのが恥ずかしい、照れくさい、くすぐったいと思う親が多いようですが、
親のなにげない褒めコトバが子どもに自信を与え、よい行動をする原動力と
なっていることを知るべきです。ちょっとでもよいことを見つけてたら、親
はその場で直ちに、憶せずに、わが子を褒めるようにしましょう。
 わが子がよい行為をしても、それが当然だ、当たり前のことをしただけだ、
褒めるなんてとんでもない、と考える親が多いようです。わが子のよさに気
づかない親、わが子の悪いところだけが目について、よいところが見えてこ
ない親、こんな親が多いようです。とかく親は、わが子のアラ探しをしては
小言を言いがちです。わが子のよさを発見して褒めてやることをしない親が
殆どです。小言のタネを見つけるよりも、よい点を見つけて、気軽に、笑顔
で、褒めコトバをかけてやるようにしましょう。褒めコトバをかけて、次ぎ
から、よい行為をやらせる方が、ガミガミと叱りつける方法よりもずっとず
っと効果が上がります。
 褒められることは励みになります。頑張ろうという意欲が出てきます。子
どもがよい行為をしたら、親はすかさず「美香ちゃん、えらいね。お母さん
から言われる前に、自分から進んでやったのね。いつも、こうしているの。
美香ちゃんが、よい行為を進んでやる子になって、お母さん、うれしいわ。
これからも、続けてね」と、褒めてやります。褒められたことが自信となり、
自尊心となり、進んでよい行為をするようになるでしょう。
 小さなことでも、ささいなことでも、当然の常識行為でも、褒めてやりま
しょう。当たり前だからと何も言わないのではなく、親はそれを目にしたら、
すかさずそれを指摘して、褒めてやりましょう。人間だれしも褒められてい
やな気がしません。まして、子どもは褒められるとうれしがり、素直に表情
に表わします。「わあい、ほめられたあ」と言うか、言わないかは別にして、
笑みを浮かべ、うれしい表情をうかべるでしょう。
 子どもは、褒められることを好みます。褒められると、もう一度やってみ
たくなります。親は、わが子を褒めることを気恥ずかしい、照れくさいと思
わないことです。褒めコトバを堂々とかけてやりましょう。小さなこと、当
たり前なことでも、わざと、大げさに褒めて、うれしがらせましょう。これ
が、褒め上手、やらせ上手のコツです。
 早起きしたら、褒めてやりましょう。布団の片づけをしたら、褒めてやり
ましょう。歯磨きをしたら、褒めてやりましょう。洋服をきちんと畳んだら、
褒めてやりましょう。「ありがとう」と言ったら、ほめてやりましょう。
「ごめんなさい」と言ったら、褒めてやりましょう。部屋の片づけや掃除を
したら、褒めてやりましょう。仕上がりの出来、不出来は不問にします。や
ったことに対して、うんと褒めてやりましょう。自尊心がくすぐられ、自信
が与えられ、次も続けてやろうという意欲がわきあがるでしょう。褒められ
ることで、向上心があおりたてられます。


            
参考資料

  茂木 健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所、2007)の中に、次
のような文章がありました。

 脳の働きの本質は「自発性」です。脳に何かを強制することは、とても難
しいのです。脳はポジティブな期待やほめられた体験を、とてもよいものと
して受け止めます。だからこそ、
「教育過程においては基本的に、ほめることが大切」
といわれているわけです。

 もともと人間のモチベーション(やる気)というのは、その人の好きなこ
とや、人からほめられた体験、人から認められるといったポジティブなもの
からしか絶対に生まれません。
 もし叱るなら、そのやる気を軌道修正する時だけにしてください。行動自
体を否定する叱り方は、やる気を削いでしまうからです。これは、子どもだ
けでなく、社会人にも同じことがいえるでしょう。

 なぜなら、脳が喜びを感じるためには、「強制されたものではない」こと
が大事だからです。何をするにしても「自分が選んでいる」という感覚こそ
が、 強化学習にかかせません。
部下や子どもの主体性を引き出すためには、どんな小さな事でもいいから
自発的にやったことで、「成功体験」を持たせることが大切。成功体験なし
には、脳は変わってくれないのです。「喜び」がないと強化回線は回らない
のです。



       
 毎度の小言は効果なし


 母親は、とかくすると、わが子に、ねちねちした小言のシャワーをいいが
ちです。のべつ幕なしに子どもを叱りつけている母親もおります。わが子の
顔を見るにつけ、挨拶コトバのように小言をいう母親がおります。このよう
な小言には、子どもは慣れてしまって、ああ、また、いつもの同じことが始
まった、うるさいなあ、と馬耳東風に聞き流してしまい、母親の子守歌のよ
うにしか受け取られなくなってしまいます。
 母親は小言を言って、教え育てているつもりになっています。この方法は
効果がないことは母親自身も経験上からよくご存知です。叱るよりは、褒め
て育てろ、これがしつけ上手な母親のとる方法であることも知っています。
 子どもを叱る時、感情的に叱る母親がいます。小言のシャワーをなんとな
しに言っているうちに、いつのまにか母親自身の感情が高ぶってきて、しだ
いに激情的になる母親がおります。
 「鉄道模型で遊んだ後は、後片づけをしなさい。五年生なんだから、後片
づけぐらいしなさい。。ほんとに赤ん坊なんだから。机の上はゴミ箱みたい
に散らかしっぱなしだし、トイレから出ればドアは開けっぱなしだし、テレ
ビはつけっぱなしで遊びに行ってしまうし、全くだらしがないんだから。食
べ物の好き嫌いはあるし、学校の忘れ物は多いし、宿題は忘れるし、授業参
観で教室に貼ってある点検表の、あなたの欄をみたら、マルがなくて、バツ
が多いじゃないの。点検表を見ながら、どうしてこうなんだろうと、お母さ
ん、情けなくなって涙が出そうになったわ。昨日は妹をいじめて泣かせたし、
あなたはお兄さんなんでしょ。何度、同じことを注意されるのよ。どうして
お母さんの言うことが守れないのよ。あなたは、ぐずで、のろ、頭がわるく
て、だらしなくて、ボケーッとしていて、何もかもダメな人なんだから」
 この母親は、子どもの悪口を、思いつくままに、次々と連鎖的に持ち出し
て叱っています。子どもにとっては、焦点のぼけた叱られ方で、何について
叱られたのかわかりません。母親は「この前も言ったでしょ。何度、同じ注
意されたら分かるの」前の小言を繰り返して、同じ注意をねちねちと、くど
くどと持ち出します。毎度の母親の長ったらしい小言、子どもは気にかけな
くなり、何とも感じなくなり、あれもこれもと言われるので、何が何だか分
からなくなり、ただ叱られたという記憶しか残りません。


  
叱る要点をしぼり、納得したら握手する


 叱る場合は、ポイントを一つに絞って、手短に叱るようにしましょう。以
前に叱った事柄を持ち出して、思い出すまま、ああだこうだとぐちらずに、
早めに切り上げましょう。独り言みたいに小言を言うだけ、子どもの耳に届
こうが届くまいがかまわずに、感情を放出するだけ、という叱り方は一番下
手な叱り方です。わが子は、声かけ人形のおもちゃではありません。
 子どもの前で小言を言わないで、子どものいないところでくどくどと小言
を言う母親もいます。これでは、何のために言っているのかが分かりません。
母親の権威で独り言をいって自己満足し、自分一人で納得するためにぐちっ
ているのでしょうか。
 わが子に小言をいうことで、子育てを楽しんでいると思われる母親もおり
ます。わが子の小言を自慢のタネにしてしゃべっているだけの母親もおりま
す。母親が小言をいって、わが子にじゃれついているのでしょうか。小言で、
わが子と語り合っているのでしょうか。小言で、わが子との交流を場をつく
っているのでしょうか。小言で、わが子にじゃれついて、話し相手を求めて
いるのでしょうか。子どもはうるさがって逃げだそうと立ち上がります。逃
げる子どもの背中に、母親の小言が追いかけます。慢性化・惰性化した小言
は当然に効き目はなくなり、母親の自己満足で終ってしまいます。
 とかく女性の小言はこうなりがちです。くどくどしめっぽい調子で感情的
な小言をいい続け、独白みたいな口癖みたいな小言になりがちです。
 叱る時は、叱る内容を、一つに絞って、あれもこれも言わないで、一つだ
け、「これはダメ。こうするのがいい」と教え諭す、しかも断固たる態度で
言いましょう。非情で、冷徹な態度を見せて、甘くないぞ、厳しいぞ、今後
は絶対に許さないぞ、という態度を見せて教え諭しましょう。
 「お母さんと約束できるね。約束を、もし破ったら、どうする? 」と問
いかけて、子どもと話し合って決めましょう。取り決めの確約ができたら、
二人で握手をするといいですね。
 「お母さんは、あなたが憎くて、嫌いで、叱ってるのではないのよ。あな
たは大好きよ。あなたがやった悪い行動だけを叱ってるのです」と言います。
どうすれば守れるか、その具体的方法を一緒に考え合うのもよいでしょう。
また、約束を破ったら、どんな掟があるか、それもしっかり確約しましょう。


           
参考資料(1)

 下記は、読売新聞(2014・8・7)の投書欄「気流」に掲載されていた投稿
記事です。

     教員は生徒の誤りをはっきりと叱って
            無職 森下富士夫 66 (石川県白山市)

 いじめなど学校現場の問題に関するニュースに触れるたびに、頭をよぎる
場面がある。
 養護学校(現在の特別支援学校)の教員を退職し、中学校で相談員を務め
ていたときのことだ。廊下で数人の女子生徒が一人の女子生徒を取り囲み、
罵声を浴びせていた。私は大声を出していた生徒たちをきつく叱った。叱ら
れた生徒の中には泣き出す人もいた。
 後で校長に事情を説明すると、「叱ってもらって良かったと思います」と
言われた。
 私は生徒たちになるべく優しく接したいと思っていた。だが、生徒たちが
誤った行動をしたら、いけないことだとはっきり伝えることも大事ではない
か。それを避けていたら教育者としては失格だと思う。
 今は保護者や生徒たちの評判を気にし過ぎる教員が多いような気がする。
必要なときは、物事の善し悪しを自信を持って伝えることが大事だと信じて
いる。


           
参考資料(2)

 下記は、朝日新聞(2013・12・4)の投書欄「声」に掲載されていた投稿記
事です。

     あなたの体罰 私は忘れない
             翻訳業 河原啓明 (岐阜県 42)

 先生、あなたが中学の同窓会に出席されると聞いたとき、出席を躊躇しま
した。授業中に受けた体罰が忘れられないからです。1年生のとき、私は、
問題を早く解いた友人に「すごいね」と言いました。あなたは「何を話し
た」と怒鳴り、戸惑う私に、「言わないなら、言わせてやる」と、全員の前
で口の中が切れるほど殴りました。
 同窓会で思い切って当時のことを尋ねたら、あなたは「覚えていない」。
「もし後悔されているなら若い先生たちに語って」というと、「3月で定年
退職したから」と笑って答えました。
 あなたは忘れても、私は忘れません。あの恐怖、恥ずかしさ、悔しさ、痛
みを思い出すたびに、今も腹痛に悩まされます。あなたが言わないなら、私
が言います。教師を目指す若い皆さん、決して体罰をしないでください。


    
今回の悪い行為だけに絞って叱る


 悪い行為には、いろいろあります。危険な行為、乱暴な行為、意地悪な行
為、イジメの行為、人格を否定するコトバかけなどがあります。今、目にし
ている悪い行為は、あとででなく、その場で、叱りましょう。何がいけない
か、目にしている事実だけにポイントを絞って、「いけません」と断固、厳
しく言い聞かせます。
 ただし、叱るにも、TPOがあります。大勢のいる公衆の面前では、小さな
声で言い聞かせるとか、大勢がいる場所から離れた場所まで連れて行って、
叱るとか、子どもには子どもの面子・感情もあります。公衆の面前で叱るの
でなく、叱る場所をわきまえて、臨機な方法で対応しましょう。
 叱る内容は、子どもの悪い行為です。子どもの人格すべて、人間性すべて
を非難するような叱り方、コトバかけはしないようにします。子どもには、
よく伸びようとする力が本来的に備わっているのですから、子どものよく伸
びようとする力に信頼をおいて指導していくようにします。子どものとった
今回の悪い行為についてだけ叱るようにします。過去のことを持ちだすのは
絶対にやめましょう。叱るポイントを一つに絞って叱ります。
 罪を憎んで人を憎まず、という格言があります。子どもの人格全体を否定
するコトバかけはいけません。人格に触れる叱り方をしたとしても、次のよ
うな褒めコトバにすればよいでしょう。「あなたは、このことをしたのが悪
い。しかし、あなたにはこれこれのすばらしいところがある。こんなすばら
しいところがあるあなたが、どうしてこんなことをしたのか、お母さんは信
じられません。あなたは、こんな悪いことをする人間ではないでしょう」と、
子どもの自尊心を認めてやる方が、よい効果を生み、よい叱り方になります。
 子どもの中には、自分の過ちを認めず、屁理屈を言って、合理化して文句
を言い出す子がいます。自分がした行為の非を認める以前に、「だって」と
言って、直ぐに謝らない子どももいます。自分がやった過ちを棚に上げて、
「あの子もやってる。ぼくだけじゃない。」と、責任が自分にないかのよう
に言い、責任を他人に転化したりする子どももいます。
 このような言辞に対しては、いいかげんな解決でけりをつけるのでなく、
時間をかけて、じっくりと話し合って、「あなたは間違っている」ことを理
詰めで分からせることが重要です。他人の行為とを区分けして、「今話して
いるのは今回のあなたの行為です、他人のことは、あなたのことが終わった
ら話し合いましょう」と、きちんと仕分けをして、一つずつ始末をつけてい
きます。双方が納得するまで時間をかけて話し合いましょう。
 子どもが納得したら、「よく分かりました」と心から納得させて、気持ち
よく、いさぎよく、握手をしたらどうでしょう。「今後は、もうしません」
という意味で、約束のゲンマをしたらどうでしょう。


         
 参考資料(1)

 下記は、朝日新聞(2014・7・8)の投書欄「声」に掲載されていた投稿記
事です。

       子供を叱ったら虐待ですか
              主婦 磯貝麗那 (神奈川県 27)

 先日、インターネット上に、駅構内で母親が子どもを叱って蹴る動画がア
ップされた。虐待の動画だそうだ。
 私も4歳、3歳、1歳と3人の子どもがいる。少しでも立派に育ってほし
いから、一生懸命になりすぎて、つい手をあげてしまうこともある。先日も、
家族で外食に行った際、注意しても、機嫌をとっても落着かないので、店の
外に連れて行って手をあげてしまった。もちろん、そっと。すると、そこに
男女2人がやってきた。「先程の行為は虐待ですよ」と言われた。
 その瞬間だけ見れば、そう受け取られるかもしれない。でも、私は「理由
も知りもしないで」と不快だった。公共の場でこそ、しつけは大事だと思う。
親が子どもを公共の場で叱りづらくなれば、ますます子育てがしにくい環境
になってしまう。

          
参考資料(2)

 下記は、上の記事を受けて、朝日新聞(2014・8・6)の投書欄「声」に掲
載されていた投稿記事です。

     しつけと虐待は全く異なる行為
               精神科医 定塚甫 (愛知県 67)

 「子どもを叱ったら虐待ですか」(7月8日)のお母さんに、心からエール
をおくります。投書は、4歳、3歳、1歳のお子さんと外食に行き、落着か
ないので店の外に連れて行って手をあげたら、男女2人に「虐待ですよ」と
言われたとの内容でした。
 虐待としつけは、全く異なった「親心」で行われる行為です。児童精神科
医から言えば、お母さんの行為は深い愛のあるお子さんへのしつけと理解す
る以外にありません。
 4歳、3歳のお子さんは、お母さんへの反抗期の真っ最中と判断できるの
が、本当のお母さんでしょう。将来、お子さんが、道を外さないように徹底
したしつけが必要です。また、1歳のお子さんは、好奇心が最も旺盛な時期
にさしかかっています。危ないものを口に入れたり、縁側から落ちたりと、
危ないことこの上ない時期です。
 お店の外でお子さんに手をあがた行為は「母親のかがみ」だと思います。
お子さんのプライドを傷つけず、周りの方々にもご迷惑をかけず、お母さん
としてのしつけをされたのです。お子さんに対する今の気持ちをいつまでも
大事に持ち続け、これからも、自信を持ってお子さんを育ててください。



    
褒め殺せ、褒め倒せ、嬉しがらせろ


 何度も書くようですが、叱るよりは褒めて伸ばせ、が鉄則です。叱るより、
褒める方がうんと効果があるからです。カメラマンが女性モデルの写真を撮
る時はうんと褒めるそうです。笑顔がいいぞ、目線がいいぞ、横顔が素敵だ
よ、背中の線がいいぞ、アゴをやや上向きにして、右手を髪に軽く触れて、
その感じ、その感じ、いいぞ、いいぞ、と褒めちぎるそうです。そうすると、
女性モデルは外面の堅さがなくなり、内面からの美しさが外に現れ出てくる
そうです。カメラマンは、気楽な雰囲気の中で、褒めて、褒めまくることに
よって自分のペースにまきこみ、思い通りの女性モデルの美しさを引き出し
て写真を撮るのだそうです。
 子育ての方法もカメラマンと同じです。子育て上手は、褒め上手な母親だ
と言えます。褒め上手な母親は、おだて上手な母親です。おだて上手な母親
は、やらせ上手な母親です。褒めて、おだてて、嬉しがらせて、子どもの隠
れた才能を上手に引き出し、伸ばしていく育て方をします。母親が子どもに、
あなたには才能がある、あなたには伸びる力がある、努力すれば必ずできる、
というコトバをかけて、褒めちぎって、褒め殺して、褒め倒して、そのよう
に子どもに育ててしまいます。
 子どもは褒められると、うれしくなり、また褒められようと頑張るでしょ
う。ほんの少しでも以前と比べて変化した個所があれば、そこをすかさず、
認めて、褒めてやりましょう。ほんの少しでもできたら、ここまでできた、
前と比べたらずっとよくなった、えらいぞ、すごいぞ、とおだてあげて、励
ましてやります。
 褒めるとは、その児童の良い点を認めて、自信を持たせて、良い点を拡大
して他の点までをも良いと言外に認めあげて、有頂天にさせ、得意にさせて、
励ましてやることです。
 人間だれでも自尊心を持っています。子どもも、もちろん自尊心を持って
います。褒められて、認められれば、うれしくない人はいません。褒め殺し
て、褒め倒して、子どもの心に誇りとプライドを持たせ、積極的によい行動
をするようにけしかけてやりましょう。
 親心というものは、欲がありますから、わが子の悪いところだけに目がい
き、小言だけを言いたくなるものです。その気持ちは分かりますが、その小
言が子どもの心を傷つけ、自信をなくさせ、劣等感を植え付けて、どうせダ
メな人間だあきらめさせてしまっているのです。
 どんな子どもにも、どこかに取り得があるはずです。長所、持ち味がある
はずです。親にはそれが案外に見えていません、気づいていません。親であ
ることの才能の第一は、わが子の持ち味・長所・取り得を見い出す能力です。
それを発見する能力です。気づいてはいても、それを口に出して言わないの
は、最もよくありません。臆せず、遠慮せず、堂々と、たくさん、繰り返し
て、褒めコトバを言いましょう。それが子育て上手な母親です。褒めて、う
れしがらせて、自信を持たせて、行動させましょう。


        
悪いコトバかけの例


 @次は悪いコトバかけの例です。

 子どもが学校で図工の時間に描いた絵を持ち帰りました。母親はその絵を
見て、こう言いました。

「この絵の男の子、男じゃなくて、女の子みたいね。何をしている絵なの。
 男の子が突っ立っているだけじゃないの。何を表現してる絵か分からない
わ。 もう少し、男の子らしく、していることが分かるように上手に描かな
くちゃだめじゃないの」

「この顔、へんな顔ね。目はこんなに大きく描いちゃだめでしょ。耳もなけ
 れば、まゆ毛もないのね。顔と肩がくっついて、首がないのね。あなたっ
 て絵が下手ね。誰に似てるのかしら。お母さんは、絵は上手だったわよ。
お父さんに似ているのね」

 これでは、ますます絵を描くことに自信をなくしてしまうでしょう。どう
せ、ぼくは絵が下手なんだ。だから、絵は嫌いだ。子どもは自分をそのよう
な人間だと信じてしまって、そう思い込んでしまって、絵を描くことが大嫌
いな子になってしまうでしょう。
 けなしコトバを絶対にかけないようにしましょう。褒めて、おだてて、う
れしがらせて、あなたは絵がすごく上手だ、もっと上手に描けるはずよ、と
自信を与え、隠れている才能を引き出し、伸ばしていくようにします。
 子どもの才能を傷つけるコトバかけ、他人と比較するコトバかけは絶対に
止めましょう。
「妹はちゃんとできるでしょ、なぜ、兄であるあなたができないの。お隣の
 義夫君はちゃんとできるそうよ。」
「あなたは、ぐずで、おっちょこちょいで、ほんとに困ってしまう。」「死
ななきゃなおらない。」「うちの子じゃない。」「人様に笑われますよ」
 悪いことをすると、「お巡りさんに叱ってもらいますよ」など。お巡りさ
んは、怖い人ではありません。お巡りさんとは顔見知りになって仲良しの友
だちであるべき人です。
 また、母親が台所仕事をしながら叱る、父親がビールを飲みながら、テレ
ビを見ながら叱る、こういう叱り方もやってはいけません。叱るときは、子
どもを親の前に置いて、子どもの目線と同じ高さで、ひざを折って、子供の
両手を母親の両手で包んで、子どもの目を見て、通常とは違う雰囲気の場面
を作って、はっきりと「これはいけません」と叱りましょう。


      
 良いコトバかけの例


 A次は良いコトバかけの例です。

「この絵の男の子、おもしろく描けているわ。女の子みたいに可愛いね。頭
 の髪の形、男の子みたいにしたかったら、帽子をかぶせるといいんじゃな
 い? あなた、どう思う? 運動場でサッカー遊びをしている絵なのね。
 楽しそうに遊んでいる様子が出ているわ。この男の子、一生懸命にボール
 を追いかけている感じが出ているわ。手の振り方、足の上げ方、頭が前の
 めりになっていて、力強く走っている感じがよく出ているね。とっても上
 手に描けているね。」

「この顔、おもしろい顔ね。目がぱっちりして、とってもかわいい目に描け
 てるね。はだいろの塗り方も濃かったり薄かったりして、光の当たり具合
 も上手に描けているわ。人物のかげの描き方も上手だね。鼻の形も上手ね。
 お父さんの鼻に似ているみたい。お父さんの鼻をモデルにして描いたんじ
 ゃないの」

 子どもは、そういう絵を描いていなくても、子どものこういう風に描きた
かったんだろうな、と推量して、その先の描き方の指導をするつもりで、現
実つにはそうは描いていなくても、そのように見えると高評価のコトバをか
けてやりましょう。
 子どもが学校から絵、作文、テスト、工作などを持ち帰り、それを親に見
せたら、子どもがいい気分になり、次にいい気持ちで頑張るぞ、努力するぞ、
という思いが持てるような励ましのコトバをかけてやりましょう。
 親の中には、無言で受け取るだけで、何も言わない、反応がない親がおり
ます。子どもは、親から褒められることを期待して親に手渡しているのです。
反応がないのは、子どもは期待を裏切られてしまいます。物足りなく感じる
だけで、次にがんばろうという気持ちが湧いてきません。


            
参考資料

  藤山 勇司 『自分をホメればすべてがうまくいく 』(実業之日本社、
2006)の中に、次のような文章がありました。

 日本語は面白いもので、話し方一つで印象が変わります。言いたい内容は
同じでも、言葉の順序が前後するだけで、相手の受け取り方に大きな違いが
出てくるのです。
傷つく言葉が最後に来ると、聞き手側にはマイナスイメージがあとまで残
るのです。
 ですから、耳の痛いことを言いたければ、最初にアピールすることです。
 たとえば、部下への注意の仕方でも、
「君は誠実で面白い人だけど、仕事の段取りが悪いね」
と言うより、
「君は段取りが悪い。だけど誠実で面白い人間だ」
と言うほうが印象が柔らかくなって、聞き手の心に残りやすいのです。


 藤山 勇司さんは、初めに叱るべき内容を言い、その後に褒めコトバを言
うとよい、というご意見です。参考にしてみましょう。


     
第三者の褒めコトバを与えよ


 夕食時、父親が息子の和彦にこう言いました。

「和彦、今日はお父さんが褒められて、とてもうれしかったよ。先週の日曜
 日にわが家にお客さんが来ただろう。お父さんと同じ会社の山田さんが来
 たこと知っているね。山田さんがね、今日、会社でこう言ったんだよ。君
 の息子の和彦君はいい子だね。おじさん、こんにちは、きちんと二本指を
 ついて、丁寧に頭を下げてお辞儀をしてね、とっても感じのいい子だね。
 私の質問にも、はきはきと明るい声で答えてね、さすが、君の息子だけあ
 って、しつけがよくできているね。こんど、息子さんも連れて、一緒に海
 釣りへ行こうよ、って言ってたよ。お父さん、和彦のことを褒められて、
 うれしかったよ。こんど、山田さんと一緒に海釣りに行くことにしたから、
 楽しみにしていてね。また、褒められるようにがんばってね。」

  父親の話しを聞いて、和彦君はうれしくなり、こう言いました。
「だって、お客さんでしょう。お客さんには、きちんと挨拶をして、しっか
 りした話し方で答えなければならないことぐらい、ぼくは知っているよ。
 恥ずかしがって、逃げたり、小さな声で言ったりしないで、元気よい声で
 返事した方がよいことぐらいは知ってるよ。いつ、釣りに行く約束をした
 の。ほんとに連れて行ってくれるの。どこの海へ行くの。車で行くの。」
  こうして、父親と息子の話しは、いつになくはずみました。山田のおじ
さんが和彦のことを褒めていたという父親のコトバは、和彦君に大きな自信
と誇りを与えました。和彦君は、第三者が自分のことを褒めていた、よい噂
をしていた、を聞いて、うれしくなり、海釣りに行った時も褒められるよう
に頑張ろうという思いを強くしました。

 次のような母親の褒めコトバも大いに効果があります。
「隣の佐藤さんの奥さんが、あなたをこう言って褒めてたわよ。お宅の和彦
 君と、先日、バスの中で偶然一緒になったら、あたしの顔を見て、にっこ
りと笑って、こんに ちわ、と和彦君から先に元気よく挨拶をしたのよ。佐
藤さん、佐藤さんの 持っている荷物、重そうね。家まで持っていってあげ
る、と言ったのよ。 それで、わたし、和彦君に家まで持ってきてもらった
の。お礼を言ってた と、和彦君に言って下さい。大きく、立派に成長した
わねって、あなたを 褒めていたわよ。」

「担任の先生が、あなたを褒めていたわよ。体育の時間に、跳び箱の閉脚と
 び越しがとても上手にとべたって。先生からほめられたなんてすごいじゃ
 ない。和彦は、跳び箱だけでなく、鉄棒もとても上手だって、先生が言っ
 てたわよ。和彦が先生から褒められると、お母さん、うれしくなるわ」

「ピアノの先生がね、あなたを、こう言って褒めてたわよ。和彦君は上達が
 速い。物覚えがいいね。努力家だね。普通の子が三カ月かかっておぼえる
 練習曲を、和彦君は二ヵ月で覚えてしまった。将来は、ピアニストにな 
れるぞって。和彦はピアノが得意なんでしょ。これからの頑張って練習し 
ようね。」

 このように、第三者があなたのことをこう褒めていたわよ、という褒め方
は、子供を嬉しがらせ、自信を持たせ、よい効果を与えます。第三者が、自
分を、そんな噂をして、褒めていたのか、うれしいなあ、第三者の期待を裏
切らないように今後も頑張ろう、という気持ちがしぜんに湧いてきます。さ
らに、ほかの第三者も褒めていたとなると、一層の努力を続けていくように
なるでしょう。嘘も方便といいます。たまに嘘でもいいから、この方法を利
用して、褒めてみましょう。


    
気持ちよく受け入れる叱り方をする


 幼児から小学校三学年ぐらいまでは、スキンシップで教え諭すだけで効果
があります。この年齢の子どもは、素直に受け入れてくれます。母親が子ど
もの頭や肩に手をおいてやさしく言い聞かせるだけでも効果があります。母
親が子どもの肩を抱きながら、子どもの両手を包み込みながら、言い聞かせ
るのもよいでしょう。母親の身体が子どもに接触していると、子どもは安心
して(無防備で)叱られることができ、母親の情愛のこもった気持ちが素直
に子どもに伝わります。母親の愛情と熱意のこもった真剣さが、手のぬくも
り、温かさを通して子どもの心に伝わります。この情緒的接触(マザーリン
グ)が子どもの皮膚から頭脳に伝わり、心理的に安定した状態で、母親の言
いつけをしぜんい受け入れるようになります。
 とかくすると、母親の権威をふりまわす強迫や強制による取り締まりの叱
り方になりがちです。。時には子どもの悪事をあばきたてて、声を荒げてあ
げつらうことも必要でしょうが、母親は検事や警察官ではありません。母親
は、愛情で教え導いて育てる教育者です。幼児から小学校三学年ぐらいまで
は、スキンシップで教え諭すだけの叱り方がでも効果が上がります。
 母親は高所から権威的に叱るのでなく、子どもの目の高さにまで姿勢を落
として、子どもの目を見て、やさしく教え諭すようにして叱りましょう。台
所仕事をしながら、子どもの顔を見ないでブツブツと小言で叱っている母親
がいますが、これは母親の自己満足だけで少しも効き目がありません。これ
は最もダメな方法です。
 母親は子どもの目をしっかりと見て、手をとって、真剣な顔をして、なぜ
いけないかを丁寧に、声を低くして話して聞かせます。こうしたほうが、母
親の真情が伝わり、効き目があります。子どもの手を握って、子どもの目を
じっと見て教えさとしましょう。子どもの前で、悲しい顔をしたり、怖い顔
をしたり、歓喜の顔をしたり、ちょっとした演技を入れて、感化性に訴えた
叱り方、褒め方をするのも効果があるでしょう。
 母親の真情が子どもに伝わるようにすれば、子どもは母親の真情を素直に
受け入れてくれるでしょう。子どもの善導には人間としての母親の真情を見
せることが重要です。一時的な感情を爆発させてカッカッと怒るよりは、静
かに、それでいて厳しい態度で、ダメなことはダメとはっきりと言い、なお
かつ情愛のこもった叱り方をすると、子どもはホロリと涙を落とすことにな
り、神妙に受け入れて、深く反省するようになります。
 一方的に非難するだけの叱り方、あたまごなしの叱り方、子どもを窮地に
陥れる叱り方は、母親が恐怖の対象になったり、あるいは反感を持たれたり
することもあります。お母さんは怖い、また感情的な反発を持たれては、逆
効果です。
 叱る母親にも、叱られる子にも、両方に感情的に受け入れる態勢ができて
いることが重要です。感情とは理屈の壁を通り越した向こう側にあるもので
す。理詰めに叱って分からせるだけでは快く受け入れてくれない場合が多く
あります。気分よく受け入れて深く反省を起こすような叱り方にすべきです。
子どもが「お母さん、ごめん。わるかった。ほんとうにすみません。これか
らは絶対にやめます」と、心底から受容するような叱り方にしましょう。


           
参考資料

 平木 典子 『心を癒す「ほめ言葉」の本 』(大和出版、1998)の中に、
次のような文章がありました。

 日本人は欧米人に比べると、ほめるのが苦手なようです。ある人がアメリ
カ人を家に招待し、ひととおり家の中を案内したとき
「この絵はなんてステキなんでしょう」
「このカーテンの色はいいわね」
「ステキな照明だこと!」
「壁紙の色が明るくていいわ」
などと、いちいちほめられて照れてしまうほどだった、という話しを聞きま
した。
照れる思いを横に置いてそれらのほめ言葉を味わってみると、一つひとつ
の言葉に決してウソがないこと、
「私はそれが好き」というその人の気持ちをストレートに表現する言葉で
あることがわかってきました。
「こういう言葉の使い方はぜひ見習いたいなぁ」
と、その人は思ったそうです。
「私はそれが好き」という気持ちを、押さえることなく、素直に表に出して
みましょう。出し惜しみをしたら、もったいないですよ。



      
叱る理由をはっきり告げる


 なぜ叱るか、その理由をはっきりと言い聞かせて、叱るようにしましょう。
子どもは、なぜ叱られたのかが分からなくて、叱られている場合があります。
幼児や小学校低学年は、やっていいこと、悪いことの区別がつかない場合が
あります。「きまり」をよく知っていない場合があります。この時期の子ど
もには、やって良いこと、悪いことの区別を教えることが先決です。この区
別を教えないで、頭ごなしに一方的にガミガミ叱っても、子どもはきょとん
としてしまいます。
 幼少の時期は、悪い行動をした直後に・すぐ後に叱るようにしましょう。
時間が経ってしまうと、自分のした行為を忘れてしまっています。時間が経
ってから「あなた、さっき、こんな悪いことをしただろう」と言われても、
子どもが自分のした行為を忘れてしまっている場合もあり、自分が何で叱ら
れているのか分からない場合もあります。
 小学校高学年や中学生になると、もちろん善悪の判断は分かっているが、
叱られないように、へんな屁理屈(抜け道)を自分勝手に作って、悪いこと
でもよいことに合理化して行動している場合もあります。
 歯を磨かないのは寝坊をしたからだ、昨晩遅くまで宿題をしたから仕方が
ないだろう。人ごみの中で自転車でスピードを出して乗ったのは、友だちと
約束した時間に遅れるからだ、しかたなかったんだ。小学校高学年や中学生
になると、このように言い訳、言い逃れ、へんな屁理屈を言うようになりま
す。
 叱るという行為は、子どもにとって一番言われたくない欠点、短所をあば
きだすされることですから、自尊心の強い子は、それなりのエネルギーで歯
向かってきます。子どもの屁理屈に対して、親は、まず、頭ごなしの一方的
な叱り方をやめて、子どもの言い分に耳を傾けましょう。子どもの言い分を
時間いっぱいかけて言わせ、それにじっと耳を傾けましょう。
 「もう、あなたが言いたいこと、十分に言いましね。次にわたし(親)の
考えを聞いてちょうだい」と言います。初めは、子どもの立場を一応認めて
やります。次に、親の立場からの意見をこんこんと時間をたっぷりとかけて、
声を低くして、子どもの考えの誤りを指摘していきます。愛情のあるコトバ
で、ていねいに言い聞かせます。どちらが正しいかを判断させます。
 子どもは素直に誤りを認めることが多いでしょう。しかし、屁理屈をこね
て、誤りを認めない子がいるかもしれません。その場合は、その場で是非の
決着をつけるのはやめます。宙づりにしておき、その場は「意見が違ってし
まったわね。時間をおいて考えましょうよ」と終わりにします。子どもは自
分が悪いと思っていても、我を張ることもあります。
 時間が経過したその後の結果(成果)は、子どもは母親の意見に従う行動
をとるようになるでしょう。子どもは反省した行動をとるようになるでしょ
う。母親側にも反省事項があれば、母親も行動を微修正していくようにしま
す。こうして結果は万事うまくいくようになるでしょう。もし、同じ行為が
何度も繰り返されるなら、これは親子関係の崩壊が起こっている時ですから、
その対応は別途の対策を講じなければなりません。


       
親は謝り方の見本を示す


 @子ども「言い逃れ、屁理屈」の言い分への対応のしかた

 子どもの言い分(主張)には、親は、まず度量を大きくして、「なるほど、
あなたの意見は理解できる」と相手の言い分を一応認めてやりましょう。次
に、「しかし、お母さんはこう考えるよ」と親の考えを述べていくようにし
ましょう。順序を立てて説明し、論理をつくして、声を低く、ゆっくりと語
って聞かせます。まず「イエス」と時間をかけて聞き入れて認め、次に「バ
ット」へと話を進めていきます。
 前記した藤山勇司著『自分をホメればすべてがうまくいく 』からの引用
文の中で、藤山さんは、初めに叱るべき内容を言い、その後に褒めコトバを
言うとよい、書いてありました。
 「君は誠実で面白い人だけど、仕事の段取りが悪いね」と言うより、
「君は段取りが悪い。だけど誠実で面白い人間だ」
と言うほうが印象が柔らかくなって、聞き手の心に残りやすい、と書いてあ
りました。
 これを、初めに「イエス」と言い、その後で「バット」という言い方に当
てはめると、逆にことを言っているように思われますが、そうではありませ
ん。
 ます。子どもの言い逃れ、言い訳、屁理屈に対しては、はじめに「なるほ
ど、あなたの意見は理解できた」と一応認めてやります、次に「バット」と
言って、親の考えを語って聞かせていきます。あなたの言い分には、こうし
た言い逃れ、言い訳、屁理屈の誤り個所があります。それををきちんと指摘
して教え諭します。そして「あなたは××が悪い。これはよくありませ
ん。」「しかし、だけど」「あなたには○○や○○という良い点がたくさん
ある子どもです。あなたには褒めるところがたくさんあります。あなたは良
い子です。ほんとは、あなたは××のようなことをする子ではないとお母さ
んは思っています。何かのはずみでやってしまったんでしょう。あなたには
褒めるところがいっぱいある子です。」
 このように「バット」で叱るだけのコトバで終わりにしないで、最後には
褒めコトバで終わるとよい効果が得られるということです。

 
A子どもの「正当な」言い分への対応のしかた

 子どもの抗議が正当な場合もあります。言い逃れ、言い訳、屁理屈でない
自己主張であるものも当然にあります。
 その場合は、「この点に関しては、あなたの考えが正しい」「お母さんの
考えは間違っていました。お母さん、あなたに謝ります」と、親は素直に謝
りましょう。双方とも、負けず劣らず、言い逃れ、言い訳、ごまかし、弁解
の言い合いをしないようにしましょう。親は、自分が過っている、勘違いで
理解していた、状況を正しく把握していなかった、などの場合は率先して訂
正・修正・謝罪しましょう。親が、素直に謝る手本・見本を示してやりまし
ょう。へんな言い訳をいわず、即座に謝ります。謝罪はこうするものだ、と
いう手本・見本を示してやりましょう。謝り方の見本を、子どもにしっかり
と見せてやりましょう。謝り方はこうするのよ、これが見本よ、といって語
って見せてやるのもよいでしょう。
 反対に、子どもが悪い場合には、その見本を見習わせて、「ここの点は、
あなたが悪いのよ」と、素直に、感じよく謝るようにさせましょう。意見が
対立したままの場合は、その場で決着をつけないで、ひとまず、時間をおい
て、そのまま宙吊り状態にしておきます。今日はここまでで終りにしましょ
う、続きは時間をおいて話し合いましょう、と語って、双方で時間をおいて
ようすをみることにします。(「宙吊り状態にしておく」については、前述
「叱る理由をはっきり告げる」箇所でも同じことを書いています)
 子どもが反感をもったり、親に不信感を持ったりするのは、叱られる理由
がはっきりしないで叱られた時とか、不本意な叱られ方をした時とか、納得
できない叱られ方をした時です。
 親がその時の気分で叱ったり、怒ったり、褒めたりするのも止めましょう。
ある朝は「布団をかたづけなさい。きちんと畳みなさい。それから、早くパ
ジャマを着替えて、早く朝食を食べなさい」と言い、ある朝は「布団なんか
片付けなくていいから、早くパジャマを着替えて、早く朝食を食べなさい」
と言ったり、一貫性がないのが最もよくありません。親の思いつきや気分次
第で叱ったり、叱らなかったり、これはいけません。
 親はわが子を人形のような私有物と考えて、親の勝手気ままに自由自在に
動かそうとしてはいけません。子どもは親の付属物ではありません。人形で
はありません。わが子は、親とは別個の一人の尊厳ある人格者ですから、対
等な立場の人格者として対応していくようにしましょう。

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