父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・5・13記




     
  やる気の育て方




 
「うちの子、やる気がなくて、困ってるの」


 やる気とは、意欲(モラール)のことですから、やる気を育てるとは、物
事に積極的に取り組む意欲を育てることことです。教育心理学では、内発性
動機づけとか内的目標性をもたせることと言われています。
 日本には、精神主義でやる気を育てる伝統的な方法がありました。つまり、
根性育ての教育です。しごきの教育です。修練道場の教育です。肉体的な苦
痛を与えて、精神のたるみを叩き直して意欲・根性を育てるという指導方法
です。
 昔はこの方法が盛んでしたが、現在はあまり採用されていません。スポー
ツの世界では今でも一部に採用されているようです。一部の会社では新入社
員の合宿研修で熱血特訓と称して厳しい根性を鍛える指導特訓が採用されて
もいるようです。
 スポーツの世界では科学的トレーニングの方法が確立しつつあり、精神主
義の方法は採用されなくなってきています。子どものしつけ指導でも、精神
主義の方法は、効果があっても一時的でしかなく、反感をもたれることが多
く、よい方法だとは言えません。肉体的な苦痛をエサに、精神的な苦痛に陥
れて、根性を叩き直す方法は、一時的に忍耐力を強くし、我慢強さを身につ
けることはできるでしょうが、現在の社会通念である民主・自主・独立・人
権の人間形成の観点からみて、物事に主体的に取り組ませるという意欲育て
とは別次元のことだろうと思います。現在の学校教育では、体罰が社会問題
として取り上げられてから、精神主義で根性を鍛える教育は完全に否定され、
採用されなくなっています。
 ただし、スポーツにおいては、試合に負けたくやしさから繰り返し繰り返
し同じことを練習する、鍛錬する、こんちくしょう、このやろう、次は優勝
してやるぞ、この根性がバネになり、内発性動機づけとなり、それが強力な
内的目標性をもつで、自から積極的に肉体をいじめ、技を磨き、鍛える、そ
うしたガンバル精神主義の根性は大いにあったしかるべきで、こうした根性
鍛えの教育方法はあっていいと思います。中・高・大で運動部に所属してガ
ンバル精神主義の根性を身につけた職業人は、社会の中に出て困難・苦難に
ぶち当たっても何クソ、マケルモンカと立ち向かう力を身につけていきます。
 では、小中学生の子ども自身が楽しんで積極的に物事をやりだすような意
欲、やる気を身につけるにはどう指導したらよいのだろうか。これが本稿の
ねらいです。勉強のやる気、お手伝いのやる気、日常の基本的な生活習慣の
やる気、歯磨きのやる気、手伝いのやる気、自学自習のやる気、これらのや
る気を育てるために、母親はどんな指導すればよいのだろうか。
 次に、それらについて幾つかの方法を書いてみようと思います。


(その1)やりたくなる気持ちに誘い込むには


 しつけは、口やかましく言いたてて習慣化させるよりも、親子の温かな心
の触れ合い、コトバの掛け合いの中で、子どもが素直に受け入れ、自分から
進んで実行するようにさせていくほうが効果が上がることはいうまでもあり
ません。温かな愛情関係、やさしいコトバかけで、子ども自身が進んでやろ
うとする雰囲気を作っていくようにします。子どもの心の中にやりたいなあ
という感情を持つように誘い込んでいくのがよいわけです。
 寺沢恒信(哲学者)さんは、意志とは感情の一種であると言っています。
やろうとする意志を持たせるには、やりたくなる感情を持たせればいいわけ
です。やる気の教育は、感情の教育なのです。寺沢さんは、感情は客観的実
在に対する主観的反映であり、快の感情が行動を起こさせると言っています。
子どもがひとりでやりたくなるように、どのように誘いのコトバをかけて、
快の感情を子どもの主観の中に用意してやるかが重要となります。
 子どもが喜んでテレビを見ている最中に「テレビを見てないで勉強しなさ
い」と言ったり、子どもが遊びに出掛けようとしているのに「行かないで、
勉強しなさい」と言ったり、楽しく遊んでいる最中に「遊びをやめて、おつ
かいに行って」などとと言ったり、これでは逆効果です。子どもの快の気持
ちやその場の気分を不快にするだけです。子どもはくさってしまい、何事に
もやる気をなくしてしまいます。


        
やりたくなるコトバかけの例


 親は、やりたくなるムード作りに気を配ることが重要です。やる気を起こ
す誘いかけのコトバが大切です。次のような話しかけ方にします。
「ケンちゃん、もう遊び終わったのね。遊びは楽しかったでしょう。そう、
ホームランを5本も打ったの。えらいわね。高校野球の選手になって、甲子
園に行けるかもね。今度は勉強の時間なんでしょ。がんばってやりましょう。
早くやっちゃいましょうよ。今日は何の勉強の予定でしたかな。漢字プリン
トを2枚やるのね。終ったら、ママに見せてね。」
のように誘い込んでいきます。
 やるのが嬉しい、楽しい、おもしろい、という快の感情を持たせるコトバ
かけが大切です。
「さあ、お母さんと一緒に歯磨きをしようね。どっちが白い歯になるか、競
争しようか。あとで二人の歯を鏡で比べてみようね。がんばって磨こうね」
「さあ、お母さんと一緒におもちゃで遊んだ後片づけをしようね。おもちゃ
遊び、楽しかった? ケンちゃん、このおもちゃはどこに片づけるのだっけ。
あら、よく覚えてるのね。このおもちゃはどこだっけ。そう、ケンちゃん、
よく覚えているのね、ひとりで片づけられるかな。あら、上手に片づけがで
きたね。えらい、えらい。」
「ケンちゃん、洗濯物がかわいたわよ。こんなにきれいになったわよ。たた
み方、知っているかな。お母さんのまねできるかな。あら、自分ひとりでで
きるの。じゃあ、やってごらん。上手ね。すごい、すごい。このワイシャツ
のたたみかたはしらないでしょう。お母さんのまねできるかなあら、これも
一人でできるの。今度から、ケンちゃんに頼もうかしら。やってくれるの。
ありがとう」
 子どもが手伝いが終わったら、小さなことも、当然なことでも、「……を、
がんばって、やっているね」「あら、上手にできてるね、すごい、すごい」
と褒めて、励まして、努力を認めて、うれしがらせます。褒めること、うれ
しがらせること、「ありがとう」のコトバを与え、感謝の気持ちを顔面に表
わして、感謝の気持ちを伝えること、これが大切です。
 子どもにだけやらせるのでなく、母と子が一緒に楽しみながら作業をして
いくようにします。子どもがやりたくなる楽しめるような感情に誘い込んで
いきます。母と子で「楽しいね。また、がんばろうね」とか「上手ね。今度
から頼もうかしら。一人で出来るの。えらいね」と、楽しい語り合い、楽し
い雰囲気を作りながら作業していくようにします。
 母親は子どもの遊び友だちとなって一緒に楽しんで、遊びと思ってやって
いくようにします。友だちになったつもりで、打ち解けた語らいの雰囲気の
中で、一緒に楽しみつつ作業をしていくようにします。わざと心から嬉しそ
うな、楽しそうな表情を作って誘い込んで一緒に仕事をしていきます。ガラ
ス拭き、トイレや風呂場の掃除、庭の草取り、運動靴洗い、ご飯の炊き方、
味噌汁の作り方、卵焼きの作り方、なども子どもと一緒に楽しみながら、仕
事がおもしろうね、という語り合いの雰囲気の中で覚え込ませていくように
します。


    
(その2)ほめて自信を持たせる


 親は、わが子の成長したところを見出したら、それを、臆せずに、遠慮ぜ
ずに、子どもに褒めてやりましょう。子どもは、褒められれば、自分が認め
られたことで、やる気が増すでしょう。わが子がやったことで、親から見て、
つまらないことでも、ささいなことでも、当たり前のことだと思うことでも、
それを取りあげられて褒められれば、自信を持ち、やる気が出てきます。人
間だれしも、褒められて嫌な気がしません。励みとなり、自信を持ちます。
やる気が出てきます。やる気を持てば、自分から進んで実行するようになり
ます。逆に、けなされると劣等感を持ち、自信・やる気をなくし、がんばろ
うとしなくなります。
 褒めて、おだてて、やる気を起こさせるようにしましょう。出来て当たり
前という顔をせず、演技でもいいから、小さなことでも、わざとオーバーに
喜びの表情で、褒めて、自信を持たせて、励ましてやるようにします。わざ
とオーバーにほめてやる・これが重要です。親バカになってほめてやりまし
ょう。親バカになる、これが重要です。親バカになれない親がいます。これ
は、しつけ下手な親です。人間には自尊心がありますから、褒められて、自
尊心をくすぐられると、自信を持ちます。自信は意欲を生み出します。意欲
は積極性や自主性や好奇心を生み出します。自信を持つことが、人生を積極
的に取り組み、さまざまな苦難や障害に打ち勝つエネルギーとなっていくこ
とでしょう。

          
褒めコトバの例


◎「よくできたね。上手にできたね。すごい、すごい」◎
 母親はこう言って、ニコニコ顔で、うれしそうに褒めコトバをかけてやり
ましょう。子どもは自信を持つでしょうし、次からもがんばるぞという意欲
が湧いてくるでしょう。それが生きる喜びにつながります。
◎「できた、できた。上手にできた。うれしいでしょう」◎
と褒めてやれば、子どもは次回からも進んでやろうとする意欲を持つでしょ
う。意欲は、子どもに初めからあるのではなくて、行動の後に、「できたぞ、
できたぞ。うれしい。次もできるぞ」と自分で心に思うことで、他人に褒め
られることで、勇気づけられて、こうした体験の結果として生まれ出ててく
るものです。
 母親が子どもの机の上がちょっとでも片付いているのに気づいたら、
◎「あら、机の上、上手に片付けているのね。えらいね、えらいね。鉛筆も
きちんと削ってあるし、教科書もそろえて並べてあるし、すごいじゃない。
いつから、こんなに整頓が上手になったのかしら。きちんと片付いていると
気持ちがいいでしょう。」◎
と褒めてやります。そんなに大げさに褒めるほど整頓がされてなくても、演
出としてオーバーにほめてやります。
◎「すてき、すてき」「すごい、すごい」◎
◎「できたじゃないの、すばらしいわ」◎
◎「片付け、上手、上手」◎
◎「おお、すごいじゃないの、成功したじゃないの、すごい、すごい」◎
など、子どもが嬉しくなる励ましコトバをかけてやります。反対に「ダメ」
「下手ね」「なんでできないの」などのネガティブなコトバかけは絶対にや
めましょう。その場合でも、良い点をむりに見出して、成功感、達成感、成
就感を持たせて、うれしがらせ、褒めてやります。
 子どもには、大人のように上手な整理整頓ができなくて当然です。親がや
ってしまったほうが早く、上手に整理ができるでしょう。親がやりたくなる
のを耐え忍んで、じっと我慢して、わが子が整理整頓が立派にできるように
するためには、、下手な仕上がりでも子どもが自主的に片付けをしたことを
褒めてやりましょう。
 ここで一つだけ注意することがあります。その時々で、親の気分や気まぐ
れや都合で褒めたり褒めなかったり、叱ったりしないことです。子どもは同
じことをしたのに、ある時は褒められ、ある時は無視され、ある時は叱られ
たりすると、やる気をなくしてしまいます。褒められることを期待してたの
に、褒められなかったりすると、やる気をなくしてしまいます。他人の顔色
をうかがって行動する子どもになってしまいます。


            
参考資料


  茂木 健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所、2007)の中に、次
のような文章がありました。

 脳の働きの本質は「自発性」です。脳に何かを強制することは、とても難
しいのです。脳はポジティブな期待やほめられた体験を、とてもよいものと
して受け止めます。だからこそ、
「教育過程においては基本的に、ほめることが大切」
といわれているわけです。

 もともと人間のモチベーション(やる気)というのは、その人の好きなこ
とや、人からほめられた体験、人から認められるといったポジティブなもの
からしか絶対に生まれません。
 もし叱るなら、そのやる気を軌道修正する時だけにしてください。行動自
体を否定する叱り方は、やる気を削いでしまうからです。これは、子どもだ
けでなく、社会人にも同じことがいえるでしょう。

 なぜなら、脳が喜びを感じるためには、「強制されたものではない」こと
が大事だからです。何をするにしても「自分が選んでいる」という感覚こそ
が、 強化学習にかかせません。
 部下や子どもの主体性を引き出すためには、どんな小さな事でもいいか
ら自発的にやったことで、「成功体験」を持たせることが大切。成功体験な
しには、脳は変わってくれないのです。「喜び」がないと強化回線は回らな
いのです。



   
(その3)好ましい自己像を与える


 しつけ上手な母親の話し方は、母親の温かな愛情がたっぷりと伝わるよう
に語りかけています。おだて、くすぐりながら語って聞かせていています。
子どもに誇りと自信を与えつつ育てていることに気づきます。
 野球の遊びから帰宅した子どもが、母親に「ぼく、ホームランを3本打っ
たよ」と、うれしそうに言ったとします。
 しつけ下手な母親はこう言うでしょう。
「ぼく、ホームランを3本打ったよ」
「遊んでばかりいないで勉強しなさい。あした、漢字の書き取りテストがあ
るんでしょう」
 子どもはホームランを打って、得意になって語り聞かせているのに、これ
では、子どもはしょげかえるだけです。勉強する意欲もなくしてしまいます。
 しつけ上手な母親はこう言うでしょう。
「ぼく、ホームランを3本打ったよ」
「そう、よかったわね。3本も打ったの。すごい、すごい。将来は野球の選
手になれるわね。野球は上手になったし、それに勉強もするようになったし、
いいところばっかりだね。あすの漢字の書き取りテストでも100点をとる
つもりなんでしょ。漢字テストのホームランを打ってよ。楽しみだわ。野球
も上手になったし、勉強もよくやるし、ほんとにいい子ね」
「ぼく、野球も勉強も好きだよ。両方とも好きだよ。これから、あしたの漢
字テストの勉強をするね。100点はとれないかも。でも、100点をとる
ようにがんばるよ」
 しつけ上手な母親は、わが子に、あなたにはこんなに好ましいところがあ
る人間だと自己暗示を与えて語りかけています。好ましい自己像を与えるコ
トバかけをしています。


           
自己像とは?


 「自己像」とは、あなたは、こんなすばらしい人間だと、自分自身をその
ように性格づけて認識させてやネガティヴでなく、ポジチィヴな自己像を与
えることがとっても重要です。自分をこんなすばらしい能力のある人間だと
思わせることです。これを「自己像」(self-concept)と呼びます。好まし
い自己像を与えることは、やる気を育てるのに、とても重要です。自分で、
自分自身をこのような人間だと信じ込ませるのです。
 しつけ上手な母親は、あなたはこんな好ましいところ、優れたところがあ
ると信じ込ませて、そう思い込ませて、そうした行動をとらせてしまうよう
にしつけてします。子どもに誇りと自信を与えて、そのように行動するよう
にしむけるのです。
 「自己像」は、「自己定義」「自己評価」「自己概念」「自己意識」「自
我同一性」などと呼ばれることもあります。「自己像」は、自分で自分を、
自分はこんな能力ある人間だと定義づけて、評価して、そのように信じ込む
ことによって形成されます。ぼくは理科と体育が得意だと信じ込んだり、周
囲の人々がぼくを理科と体育が得意だと言っている、認めてくれているとい
うことで、自分もそのつもりになって信じ込むことによって形成されます。
 父母は、わが子に、自己暗示をかけて、好ましい自己像、誇らしい自己定
義を与えるコトバかけを与えていくようにします。与えられた自己像に、誇
りを持って、さらにそれを一層向上させ、磨いていくように、挑戦していく
ように誘いをかけていきます。
 「自己像」とは、自分で、自分の能力をこうだと自己規定し、こうだと決
めつけてしまい、こうだと信じ込んでしまっている、自分の力量に対する自
己評価のことです。しつけ上手な親は、わが子に好ましい自己像を与えるこ
とが上手な親のことです。
 次のような好ましくない自己像を与えないようにしましょう。あなたは、
算数と社会が不得意だ。君は文字が下手で、ぐず人間だ。あなたは女の子の
くせに料理が嫌いで困ったものだ。
 このようなコトバを、親がわが子にかければ、親はがんばるように励まし
たつもりで言ったとしても、子どもは自分をそう定義してしまって、そう信
じ込んでしまって、あきらめて、居直った行動しか取らないようになるでし
ょう。どうせあたしは算数と社会は不得意だから努力してもだめなのよ。ど
うせぼくは書字が下手で、ぐずな人間だから努力してもだめなのよ。どうせ
わたしは料理嫌いな女の子なのよ。子どもはこのように自己暗示をかけて信
じ込んでしまい、自己卑下し、劣等感を持ち、無能力に陥り、そのような自
己定義に自分で満足してしまい、がんばろうと努力することを放棄してしま
うことになります。
 自己像は、まわりの人々が子どもに、君はそのような人間だと言ってやっ
たり、そのような行動を期待する態度をとることによって作り上げられます。
まわりの人々が、「あなたには、こんな良いところがある」とか「あなたは、
これが上手にできていいわね」とか、何回となくそれを繰り返します。そう
すると、子どもは自分自身をそのような人間だと信じ込んでしまいます。子
ども自身が、自分の意識の中にそれを作ってしまったら、しめたものです。
そのような行動をするように自らも積極的に努力していくようになるでしょ
う。

          
 参考資料

   
 金盛 浦子 『きっと、あなたは癒される 』(大和出版、1997)の中に、
次のような文章がありました。自分で自分を褒めることの効用についてです。

 自分の欠点やダメなところばかり数えて、それを悔やんだり、責めてばか
りいると、どんどん自分を嫌いになってしまいます。欠点やダメなところな
んて、いくら数えて確認したって、少しも解消できません。解消できないあ
げくに、大事な大事な、誰よりも大事な自分を嫌いにさせる効果しかありま
せん。
 大丈夫。
 欠点やダメなところが気になるときがあったとしても、まあいいや、それ
はそれ、って思えばいいんです。そんなこと放っておいたほうがいいんです。
放っておいて、どんな小さなことでもいいからほめてあげられる何かをみつ
けてあげましょう。そして、
「こんな素晴らしいところだってもっているじゃない」
といってあげましょう。
 人間って、とっても不思議な動物です。自分で自分をほめていると、少し
ずつかもしれないけど、自分の輝きが増してくるのがわかります。今まで気
づけなかった素晴らしい自分に、次から次へと気づき始めます。


     
(その4)否定的な自己像を与えない


 親は、わが子に、「あなたは、ぐずね」「落ちこぼれね」「算数は得意で
ないのね」のようなコトバを言わないようにしましょう。子ども自身が自分
をそのような人間だと信じ込んでしまいます。自分はそうした人間だと決め
つけてしまって努力しなくなってしまいます。
 「あなたは、理科がダメね。お母さんも、理科は苦手だったのよ。親がダ
メだったから、あなたもダメなのは仕方がないわね。」と言えば、母親もあ
たしも同じなのね、と同病相憐れむで、あきらめて、安心してしまい、ます
ます理科嫌いな子になってしまいます。
 母親が「こまったわね。こんな点数をとるようでは。あなたは、うすのろ
で、とろくて、何をやってもダメね」と、子どもの人格を否定するコトバを
かけてしまえば、子どもは、「どうせ、わたしは何をやってもダメな子だ。
うすのろで、とろくて、何をやってもダメな子だ」と信じ込み、すべてに努
力することを放棄してしまうでしょう。わが子へのネガティブな価値づけコ
トバを絶対にやめましょう。
 小さい時から「ダメ男、ダメ女」の烙印を押され、親からそう言われ続け
てきた子は、大人になってから、自信に満ち、はりきって仕事に打ち込める
人間になるでしょうか。一生涯、自信を喪失した、みじめな不憫な人生を送
るようになってしまうでしょう。どうせ、わたしの人生はダメだ、自分は能
力がないのだから、と否定的な思い込みの自己像を作りあげてしまい、哀れ
な、可哀想な人生を送ることになってしまうでしょう。
 好ましい自己像を作ってやるには、子どもにあきらめの気持ちを持たせな
いことです。ほめて、おだてて、自尊心をくすぐって、お前はできる人間だ、
すばらしい人間だ、とコトバをかけてやります。ポジティブな価値づけのコ
トバをかけて、子どもの意識の中に誇りや自信を与えます。あなたはやれば
できるはずよ、あれもできたでしょ、これも上手にできじゃないの、できる、
できる、できた、できた、あなたはやればできる能力がいっぱいそなわって
いる人間よ、と暗示コトバをかけて、自分はそのような人間なんだと信じ込
ませて、ほめて、あだてて、そのような人間にさせてしまうことです。


  
(その5)家庭勉強のやる気の育て方


 
@できた喜び・達成感を味わわせる


 やる気とか意欲というものは、物事に取り組もうとする意志や感情の向き
のことです。その向きを強くするためには、子どもの心の中に、やりたいと
いう強い欲求を起こさせることです。そのためには「問題が解けたぞ」「や
ったあ、全部できたぞ」「これで完成したぞ」「楽しい」「おもしろい」
「うれしい」「気持ちいい」「気分がいい」などの快適な感情を持たせるこ
とです。その快適な感情に火を灯してやるコトバをかけてあげることです。
 快適な感情は、日常的な行動としては「うまくできた」「やったあ」「わ
かったあ」「ほめられてうれしい」「できたぞ」という心からの喜び・達成
感を持ったときの起こります。心からの喜び・達成感を味わうことが後々の
やる気を起こすエネルギー源となります。達成感や成就感を味わうことが、
次のやる気のもととなり、興味・関心を次々に拡大させて、やる気を増幅さ
せていくことになります。
 褒めコトバの例
「そら、できたでしょ、簡単にできたじゃないの。あなたにはそういう能力
 が生まれつき、あるのよ」
「うまくできたじゃないの!!」
「やったね。立派、立派」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、もうちょっとでできるわよ」
「あなた、しっかりしてるわよ、すごいよ。完璧にできたじゃないの」」
「おまえはたいしたものだ。」
「よくがんばったぞ。あなたには、何が何でもやってやるぞ、という良い根
 性を持ってるね。」
「そこまでできたら、すばらしいよ」
「よかったじゃない!!」
「すごい、すごい、できたじゃないの」
 正答が出た、工作が満足に完成した、跳び箱の3段跳べた、鉄棒の逆上が
りができた、習字で三重丸をつけられた、ホームランを打ったなど、できた
ぞ、うれしい、やったあ、ほめられたあ、という成功の喜びが子どもに自信
を与え、やる気を呼び起こすことになります。子どもが成功したら、親も一
緒になって喜びましょう。大げさにうれしさを表情に表わして喜んであげま
しょう。親の大げさな喜びを、子どもに伝播させていきます。喜びを、子ど
もにうんと味わわせましょう。それにはレベルを高くしないことです。レベ
ルを下げて、これができたんだなら、次のこれもできると励ましていきます。
 子どもに高度すぎる問題であるならば、水準を下げた問題をあたえます。
計算問題など、学年を下げた問題から始めるのもよいでしょう。「あなたは、
4年生でしょう。4年生なら、4年生の教科書の問題が解けなくちゃだめで
しょう。お母さん、恥ずかしいわ、どうしてこんな簡単な問題が解けない
の。」などと小言を言ったら、子どもはやる気をなくしてしまいます。そう
言いたくなる母親の気持ちも分かりますが、その小言をじっと我慢するのが
賢明な母親です。じっとばまんできるか、できないか、これが賢明な母親か、
ダメな母親か、別れ道です。じっと我慢して、ニコニコした笑顔で、子ども
の能力水準を下げた問題の復習から始めて、できる、できる、と母親がうん
とほめてやり、一緒にできた喜び・達成感を表情に表わし、しだいに水準を
上げていくようにします。
 やればできるという小さな成功体験、達成感の喜びを積み重ねていくよう
にします。目標を小分けにして、やりやすいものから、やりたいものから着
手してていき、達成感や成就感を味わわせていくようにします。


 A好奇心を持たせる


 好奇心を持つと、やる気と集中心が出てきます。人間は、好きなことには
集中して取り組みます。集中してとは、落ち着いて、じっくりと、時間をか
けて、継続して、取り組むということです。好奇心を持つと、一つの事柄へ
の興味を持続するようになり、対象への探究が拡充していきます。好奇心が
深化すると、子どもはそれ相当に、それらに関する事柄を解説書を読んで調
べたり、道具・機器類を揃えたりするようになります。子どもの知識獲得が
深化拡大していきます。それが趣味や特技となり、将来の職業へも結びつく
ようになりこともあるでしょう。
 子どもの学業成績を伸ばそうとするならば、机にしばりつけておくだけで
はいけません。学業成績を決定するのは、机の前に座っている時間の長さで
はありません。日常の生活事象に対してどれだけ好奇心や探究心を働かせて
いるか、興味関心を持っているか、です。日常の手伝いや遊びやテレビや読
書や制作活動やスポーツなどの活動でどれだけ生きた多様な知識や運動技能
を獲得しているか、これら机の勉強から離れた体験知識が学業成績や集団生
活や運動能力の底力となって発揮されていくのです。
 子どもに好奇心の火を灯すためには、おもしろそうだね、なぜだろうね、
調べてみようか、それに関する道具・器具を買ってやってもいいわよ、など
と言いましょう。動物園や水族館や音楽会や展覧会や演劇会や博物館に連れ
ていくことも、興味関心を持たせるにはとてもよいことです。スポーツの見
学もよいです。ハイキングや旅行をした時は、めずらしいものに出会ったら、
あれはこれこれだと、親が解説を加えて聞かせることも大切です。さっさと
無言で歩くだけではいけません。新聞やテレビのニュースについて、親が感
想や解説を語って聞かせることもよいことです。何か分からないことに気づ
けば、あれは何でしょうね? とわが子に質問する癖、一緒に図鑑などで調
べる癖をつけることも大切です。料理、飼育、栽培、工作、絵本作りなど、
一緒に体験をとおした知識や技術を得ることもよいです。
 いずれにせよ、好奇心を持たせることがやる気を起こさせる原動力です。
大人がこんなつまらないことと思う事柄でも、子どもが興味関心を抱いたな
ら、親は書籍やビデオなどの情報やお金の支援をして、必要な物品を買い与
えるようにするのもよいでしょう。子どもの興味は、大人から見て完成した
もの、立派なものでなく、がらくた、半端物、出来そこないに興味を持つこ
ともあります。それはそれで、うんとその興味を伸ばしてやりるように支援
してやりましょう。


 B勉強ほど楽しいものはない


 学校で覚えてきたこと、新しい知識を母親に言って聞かせたら、褒めてや
りましょう。子どもを先生に仕立てて、母親が生徒になって教えてもらう遊
びをやるのも楽しいですね。母親は、子どもの水準よりも低くしたところで
子どもと応対します。母親が子ども先生に質問したりするのも楽しいですね。
「このヒガシという漢字、東京のトウとも読むわね。どんな書き順だったか、
お母さんに教えてよ」
と、問いかければ、子どもは
「お母さん、知らないの。忘れてしまったの。教えてあげる」
と得意になって伝授するでしょう。
「お母さんに教えてよ」
という問いかけで遊んでみる、いいアイデアですね。皆さんも試みてみてく
ださい。
 勉強は苦痛なもの、いやなもの、つまらないもの、だけど、我慢してやら
なくちゃならないもの、という考えがあります。しかし、勉強とは、ほんと
は、こんなに楽しく、おもしろく、興味の尽きないものは外にない、という
性格のものです。次々と興味関心が湧いてきて、あれも知りたい、これも知
りたい、これを深めたい、勉強すればするほどおもしろく、探究心が湧いて
きて、こんなに楽しいものはないものなのです。
 勉強すればするほど、人間・社会・自然の仕組み・構造・連関が夜空に輝
く星のような美しい秩序の姿を現してくるし、人間世界につきることのない
興味関心を抱かせてくれるものなのです。勉強ほど楽しいものはないのです。
ぜひ、親子で一緒に楽しい雰囲気で語り合いながら、勉強とは楽しいものだ、
おもしろいものだ、ということをハダで感じ取らせて、親子ともども楽しん
でほしいものです。
 母親の中には、子どもの教科書やノートを開いたこともなく、まして子ど
もの勉強を見てやったり、子どもと一緒に楽しく勉強して語り合ったりした
ことがない、勉強嫌いな母親がおります。テストの点数の悪い結果だけを見
て小言をいい、テストのどこがどう間違っているのか、どう答えるべきなの
かを教えようとしない、ただ勉強しろ、勉強しろと小言だけをいい、塾へ行
って勉強しろと追いたてる、勉強嫌いな母親がいます。母親が勉強嫌いなら
ば、子どもも勉強嫌いになるのは当然です。


 C最終ゴールをイメージして努力させる


 教育心理学では、やる気を育てるとは、内発性動機づけと内的目標性を持
たせることだと言っています。内的目標性つまり最終ゴールではこうなって
いるのイメージ持たせることです。最終ゴールは、これだ、この状態になる
ことだ、を意識して、最終ゴールに向かって、それに向かって自分から進ん
で努力していく気力・血気・気迫を持たせることが重要だとなります。
 やる気とは、何かについてやる気があるのであり、やる気一般があるので
はありません。フッサール(哲学者)は、一切の意識は何かについての意識
である、と語っています。やる気とか意欲とかは「意識」の一種ですから、
やる気や意欲は、意識の一般的特性「あるものについての意識。○○につい
ての意識」という性質を持っています。人間(子ども)自身が何かについて
「これは有意義だ」とその価値を見い出したり、「これはおもしろそうだ」
と興味関心を抱いたときに「調べてみよう。作ってみよう。書いてみよう。
試してみよう」というやる気(意欲)が起こります。本人自身が、何かにつ
いて、ある目的(目標)を持って、それを達成しようと志した時にやる気
(意欲)が起こるのです。やる気(意欲)には志向性や方向性や目的性や強
さや弱さがあります。初めにやる気一般、つまり、ぼんやりした目的のない
やる気はないのです。つまり、ある事柄「について」の最終ゴールをイメー
ジした、目標をめざした努力があるのです。
 本章の冒頭で書いた精神主義で根性を鍛えようとする方法は、やる気の志
向性や方向性を無視した形而上学的な方法ですから、誤りだと言えます。こ
のようなスパルタ教育の方法には賛成できません。やる気一般があるから何
事にも取り組むのではありません。何かについて、その価値を見出したり、
興味関心を抱いたり、ノルマだからやらなくちゃという目的(目標)を持っ
たりしたときに、それ「について」自らの意志で積極的に取り組むものがや
る気なのです。
 対象や目標を明確に把握することで、やる気が引き出されてくるのです。
ただ単に「やる気がない、やる気がない」「無気力で困る。困る」「頑張れ、
頑張れ」とお題目だけを唱えてばかりではダメなのです。何について頑張れ
ばいいのか、何についてやる気がないのか、何についてやることがどんな意
味や価値があるのか、どんなに大切で必要なことであるのか、こうしたこと
を明確の把握させることで、辛いこと、嫌なことでも頑張ろうとやる気が起
こってくるのです。対象や目標を切り捨てたところの、精神主義の根性の美
学を強調しても、これは時代錯誤な指導になってしまいます。


 D最終ゴールを決めると、張り合いが出る


 堅苦しい話になったので、具体例に戻そう。家庭で勉強させる場合は、時
間を区切って勉強させるのでなく、量で区切るようにします。今日の勉強は
「午後4時から5時半まで」ということではなく、「算数問題集の23ペー
ジだけ終わらせればよい」というようにします。午後5時半より早く終えれ
ば、マンガを読んでも、テレビを見ても、遊びに出てもよいことにします。
午後5時半になっても終らなければ、時間無制限ですから、終るまで、とい
うことになります。
 勉強は、机の前に座っている時間が長ければよいということではありませ
ん。ぼんやりと何となく机の前に座っていることだったあります。今日の勉
強はこの内容だ、という目標をはっきりと持たせることが大切です。本日の
達成目標(学習内容)をはっきりと意識して勉強を開始させることです。
「算数の文章題を8問で終わりだ」「源頼朝について調べ、ノートにまとめ
たら終わりだ」「文学作品の難しい語句を辞書で調べたら終わりだ」などと
達成目標を持って開始すれば、最終ゴールがはっきりしているので、張り合
いがでるし、集中して取り組めるようになります。
 ぼくは将来、医者になるのだ。わたしは将来、コンピューターの技術者に
なるのだ。調理師になるのだ。サッカー選手になるのだ。看護師になるのだ、
このように将来の職業を意識して努力させるのもよい励みになります。子ど
もの趣味・特技を生かしながら、この職業になるには、この関係の本を読ん
でおこう、などと目的意識を持って、それに向かって努力させるようにしま
す。途中で変更もあるでしょうが、それは大いに結構なことです。いずれに
せよ、最終到達目標を見定めて、それに向かって、それを意識して努力させ
ていくことはとても大切です。

            
参考資料

AERA ・アエラ(朝日新聞出版) 2014年 1/20号 は、特集が「本田圭佑が語
る進化」とある。本田圭佑(サッカー選手、2014年にACミランに移籍)が
小学校の卒業文集に書いた「将来の夢」という文章が掲載されている。次の
文章はその一部です。

 ぼくは大人になったら、世界一のサッカー選手になりたいと言うよりなる。
 世界一になるには、世界一練習しないとダメだ。だから、今、ぼくはガン
 バっている。今はヘタだけれどガンバって、必ず世界一になる。
 そして、世界一になったら、大金持ちになって親孝行する。
 Wカップで有名になって、ぼくは外国から呼ばれて、ヨーロッパのセリエ
 Aに入団します。そしてレギュラーになって、10番で活躍します。
                             (以下略)

 アエラ本号に、本田圭佑氏金子達仁(スポーツライター)との対談も
掲載されています。ほんの一部、小学校に関係する個所と、自分にプレッシ
ャーをかける個所の文章部分だけ、以下に引用します。本田圭佑氏は、最終
ゴールの「夢」に向かって強気で突き進むことが自分の目標であると語って
います。

───たいがいの人が小学生の時の夢を中学、高校、社会人と進むにつ
れてあきらめる。夢をあきらめそうになった時期はなかったんでしょう
か。

 なかったですね。失敗はむしろ人並み以上にしてきたとおもってるんです
けど、心が完全に折れたことは一度もなかった。折れそうになったことがあ
るかと聞かれたら、たぶんあったと思うんですよ。じゃあ、なんで折れなか
ったかというと、夢がたぶん支えてくれたかなと思います。傷ついても修正
できたのは夢のおかげかなと。折れる必要がないですよね、夢にたどりつき
たいと考えている以上は。

───それは教育のおかげ? それとも環境によるものですか。

 夢を実現する人としない人の差は才能と言われたりもしますが、僕は環境
や教育で、いくらでも、どんな子でも才能を超えるだけの力を身につけてい
けると思っているんで。僕はその一人だったと思うし、ちょっとずつですけ
ど今も才能ある選手を追い越して、さらにこれから、もっとすごいと言われ
ている選手を追い越していきます。それを証明することが自分のモチベーシ
ョンになってることは間違いない。

───ACミランでの背番号は(エースナンバーの)10番です。

 ガリアーニ(ACミラン副会長)もコメントしてましたけど、自分から要
求させてもらいました。それをつけることのプレッシャーは、これから僕が
身を持って味わうことになるでしょう。そことの闘いに負ければつぶれるし、
勝てれば、この本田圭佑はどこまでいくんだっていう力を身につけることも
可能じゃないかと思っています。

───10番はジャンプするためのエネルギー?

 そうですね。このスタイルでやってきたんで。できるだけプレッシャーを
かける環境をつくる。その一つが、10番を要求したことだったんですけど。


 
E他の子どもと比較しない


 学校から帰った子どもが、母親に算数のテストを見せました。母親が次の
ように言いました。
「55点なんかとってきてダメじゃないの。山田さんとこの豊樹君は何点だ
 ったの。そう、85点だったの。それに較べて、あなたはダメね。落着き
 ないからよ。学校で先生の話しを聞いていないからでしょう。家では勉強
 しないし、困った子どもね。豊樹君はいい子ね。お行儀だっていいし、コ
 トバづかいもはきはきしているし、かしこそうな顔をしているもんね。あ
 なたとは、全然ちがうわ」
けなされた本人にだって、自尊心はあります。本人は、「豊樹君よりぼく
は、野球も、サッカーも、お絵描きも上手だし、理科のテストは100点を
とってるし、漢字テストも豊樹君よりいい点をとってるし、お母さんはぼく
のよさを、ちっとも認めてくれてない」と思っているでしょう。
 子どもには、それぞれに性格が違い、長所もあれば、短所もあります。他
の子と比較して、けなされるだけでは、くさるだけで、自信をなくし、努力
しなくなるし、学業成績は下がるだけになります。
 あなた方お母さんも、他のお母さんと比較されたら、けなされたら、どう
いう気持ちがしますか。あなたのスタイルの悪さを、タレントの相田翔子さ
ん、安めぐみさん、藤原紀香さんと比較されて、けなされたら、どう思いま
すか。若いA君のお母さんと比較されてけなされたら、どういう気持ちがし
ますか。女性の色気を坂東玉三郎さんの女形と比較されてけなされたら、ど
ういう気持ちがしますか。いい気持ちがしないでしょう。わたしにだって、
いいところがいっぱいあるわよ、あなた、目わるいんじゃない? と言うで
しょう。そうです。いいところがいっぱいあるのにです。
 他の子どもと比較されて、けなされると、向上心が湧いてきませんし、母
と子の人間関係が悪くなるだけです。「よし、次から頑張ろう」という励み
にはなりません。悪い点数なら、どこが、どう、間違っていたかを二人で検
討し、共に語り合って、やり直しをしてみましょう。


 F子どもの質問にはまじめに答える


 こどもの質問には、まじめに答えましょう。子どもは、全く変な質問をす
ることがあります。
「トマトは、どうして色が赤いの」
「どうして、地球は、丸いの」
「どうして、男と女は結婚するの」
「どうして、カニは横に歩くの」
「どうして、山頂は太陽に近いのに、寒いの」
「どうして、ドライアイスは、触ると、熱いの」
 親は、ごまかさないで答えるようにします。科学的な専門知識で答えるの
でなくていいのです。専門家でもズバリと答えられない問題もあるでしょう。
普通人が常識で知っている内容を子どもの知識レベルに下げて、答えればい
いのです。「トマトは熟すと赤くなるの」「地球は太陽や月の仲間だから丸
いんです」でいいんです。子どもが疑問を持つことは、物事に興味関心を抱
き、旺盛な好奇心を持っている証拠ですから、大いに喜ぶべきことです。子
どもの知識を増やし、考える力を伸ばすのにいいチャンスです。質問、疑問
を抱くようにしむけることは大切です。
 子どもの、「どうして………なの?」の質問に対して、
「そんなことは、どうだっていいでしょう。うるさいわね」
「そんなこと、知らなくても、いいことなの。変なこと言わないでよ」
などと片付けてしまわないようにします。
 質問の内容によっては、説明に困ることもあります。そんな時は、親のメ
ンツにかけても解明しなければなどと、思わないで、こう言いましょう。
「お母さんも分からないわ、一緒に本で調べましょうよ。どんな本に書いて
あるかしら。あなた、そのことについて書いてある本、知らない? お父さ
んに聞いてみると分かるかもよ」
 と、母と子で一緒に図鑑や事典、それについて書いてある書物を調べるよ
うにします。調べ方を分からせることは、答えを出すことよりも、ずっとず
っとよい勉強になります。従来の教育は知識を獲得し、それを暗記すること
に重点がありました。これからの教育は、調べ方を知ること、資料を集めて
実際に調べる体験を増やすこと、こうした勉強がとっても重要なことだと言
われています。現在では新知識でも、そんな知識は直ぐに古くなってしまい
まう時代です。
 疑問を抱いたことについて調べる資料は、書物だけとは限りません。父親
に質問する、学校の先生に質問する、図書館員に質問する、魚屋さんに質問
する、八百屋さんに質問する、動物園や博物館や水族館の人に質問する、手
紙で質問する、関係する場所で働いている人に出向いて取材する、など、い
ろいろな調べ方があります。
 「それは難しい問題だね。よく気づいたね。まだ、はっきりと分かってな
いことなんだよ。あなたが答えを出すと、ノーベル賞をいただけるかもよ」
などの答えを受けることもあるでしょう。


 G予習より復習に重点をおく


 家庭の勉強は、予習より、復習に重点をいおて勉強しましょう。これから
学習しようとしている箇所の予習よりも、学校で学習し終った個所、または
現在学習している個所の復習を勉強する方が、よく理解できるし、できる喜
びや達成感や満足感が味わえます。
 「できた、できた。みんなマルだ。やったあ。うれしい」という喜びや成
功感が自信につながり、やる気を起こすことは前述しました。予習で我流で
覚えるよりも、学校で既に学習し終えた個所のほうが、できる喜びや達成感
や成就感が味わえます。達成感や成就感を味わうことはやる気育てにとって
も重要です。
 時間が経過すれば、一度学習したことでも忘れやすいし、復習をしっかり
しておけば、学校でいま勉強していることもよく理解できます。復習こそが
予習(の基礎)だと言えます。
 その他、学校の勉強とは直接に関連しない事柄でも、自分の好きな趣味や
特技について、本を読んで調べたり、実地で調査したり、飼育・栽培・観察
したり、こうした自由研究も大変にいい勉強です。一つのことに集中し、継
続する力が身につき、また、やりがい感・達成感・やる気育てにつながりま
す。

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