父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・5・13記




  
 しつけで学業成績を伸ばす




    
家庭のしつけと学業成績は大きく関係する

 家庭内で母親のしつけがよくできている子どもは、学校でもよい成績をと
っています。わたしの教職経験からいうと、母親のしつけがよくて、学校の
成績が悪いという子どもは殆どいませんでした。
こういうと、学校の成績が悪い子どもの母親はすべてしつけ下手な母親で
あると受け取られてしまうかもしれませんが、論理学で「逆は必ずしも真な
らず」という定理があるように、しつけ下手な母親の子どもには、よい成績
をとる子どももいれば、悪い成績をとる子どももいます。

  
        
しつけより勉強が大切?


 子どもの学業成績を上げるには、机に向かわせて、教科書や参考書を読ま
せたり、問題集をやらせたりすることだと考えてる母親が多くおります。学
習塾に行かせたり、家庭教師をつけて勉強を教えてもらったりすることだと
考えている母親が多くいます。
 子どもが学校から帰宅すると、直ちに机に向かわせて宿題や問題集の勉強
をするように命じたり、学習塾へ行くように命じたりすることが当然のよう
な教育風土があります。テレビや遊ぶひまがあったら勉強せよと言います。
お手伝いなんかしなくてもよい、部屋の掃除や後片付けはわたしがやるから、
あなたは熱心に勉強して、よい成績をとれ、遅くまで勉強して、朝、起きら
れなかったら、わたし(母親)が起こしてあげる、と言います。
 つまり、しつけをおろそかにして、勉強せよ、勉強せよ、と強制する母親
が多くおります。しつけをおろそかにしては、学業成績が向上するはずがな
いことを知ってほしいと思います。


        
明治時代もいた教育ママ


 このような教育ママは明治時代からいたようで、明治15年生まれの小川
未明(児童文学作家)さんの伝記を読むと、小川未明さんが六歳の時を、次
のように書いています。
  私は明治二十一年、小学校へ入りました。小学校へあがらぬうちから私
塾へ行って漢学とか数学の勉強をしたのですが、小学校へ行ってからは其の
帰りに剣術を習っていて、もう暗くなるのに、それから私塾によって論語と
日本外史を習って、夜おそく家へ帰ります。そうして夕飯を食べると炬燵に
入るのですが、もう眠くなってしまいます。それでも私がその日の学課の復
習をするまでは、母は決して寝せてくれません。その勉強も炬燵にあたって
するのはいけないので、起きて机に向かってやれというのです。疲れている
ものですから、つい居眠りするのですけども、よく母に叱られました。私が
勉強が終わるまで、母はランプのそばで仕事をしていたことを、今もうれし
く思います。
   『小川未明』(作家の自伝103、日本図書センター、2000)より

 小川未明さんの母親のような教育ママ、これは恐育ママですね。このよう
なやり方は、実は、学業成績を伸ばすためには決してよい効果を生んでいな
いことを知るべきです。
 現在の子どもに当てはめて考えてみましょう。お手伝いや遊びなんかどう
でもよい、後片づけや歯磨きや起床、就寝時刻の励行なんかどうでもよい、
勉強だけをしっかりやれ、という親の考え方です。これはは間違っています
ね。この間違いは誰でも知っているのですが、しつけを放任して、勉強だけ
を強制してしまう、これが多くみられる現状でしょう。
 これでは、わが子の成績は向上しないことをしかと知ってほしいと思いま
す。

       
しつけ良ければ成績は向上する


 小学校や中学校での学習内容の程度ならば、そんなに難しい内容ではなく、
通常の能力の子であれば、先生や友だちの話しをきちんと聞いて学習してい
れば、家庭で勉強、勉強と強制しなくても、通常程度の成績はとれるはずで
す。小学校や中学校の落ちこぼれの児童生徒は、頭のよしあしには余り関係
がありません。頭の悪い子が落ちこぼれるのではなく、親のしつけの教育が
きちんとなされていない子ども、しつけが放任されている子ども、日常の基
本的な行動がなってない、だらしない子どもに落ちこぼれが多いことを親は
知るべきです。
 家庭でのしつけは、子どもの日常生活の行動にけじめをつけ、しまりのあ
るものにします。しつけがよく出来ている子は、物事をきちんとけじめをつ
けて考えていく子になります。順序よく落着いて着実に考えていく子どもに
なります。しつけがよくできている子どもを見るのは気持ちがいいものです。
他人から好感を受ける行動をしています。筋道の通った、順序だった、論理
的にはっきりと考える力を持っています。家庭でのしつけがしっかりしてい
る子どもは、筋道だてて考える力が育っており、行動のしぐさも美しい振る
舞いになっています。家庭でのしつけがよければ、
子どもの家庭での生活態度はもちろんのこと、学校での学習態度もよくでき
ており、物事の考え方もきちんとして、学業成績も向上すること請け合いで
す。家庭でのしつけは、学業成績の向上と大いに関係があることを知ってほ
しいです。


      
整理整頓のしつけで学業成績を伸ばす


 一人ひとりの子どもには、そんなに頭の差などというものはありません。
あるのは家庭で親から受けるしつけの差です。ちょっと言いすぎかもしれま
せんが、それほどまでに家庭のしつけの差が学業成績に大きな影響を与えて
いるのです。
 わたしがこう言うと、親たちは次のように言うでしょう。「そればかりで
はない。学校の先生の教え方の上手、下手によって子どもの学業成績が違っ
てくる」と。確かに、それが子どもの成績向上を第
一に左右している原因でしょう。全くその通りです。そのことを否定しませ
ん。教師も指導力アップの研鑽を深め、指導力向上を身につけなければなり
ません。
 ここで、双方が責任のなすり合いをしていてもはじまりません。教師も素
直に反省し、父母も素直に反省するのがよいのです。
ここでは、教師の立場から、家庭での父母のしつけと学業成績との関連につ
いて申し上げているのです。ご参考になさり、反省すべきところがあれば素
直に反省して、皆様のお子様のしつけ指導に役立てていただきたく願います。
そうすれば、あなたのお子さんの成績はきっと向上するはずです。


        
学業成績の差はしつけでつく


 先に、一人ひとりの子どもにはそんなに頭の差はない、と書きました。で
は、どこで学業成績の差ができてくるのでしょう。
 テストで不注意なミスをする子どもがいます。解答欄に書くときに、写し
間違いをしたり、単位をつけ忘れたりしてバツをつけられる子がいます。ま
た、「0」か「6」か区別がつかない数字を書いたり、乱暴で粗雑な文字を
書いたり、思考が荒っぽかったり、落ち着きや着実さがなくて、早とちりで
思慮のない思考でバツをつけられる子がいます。文字が粗雑で、荒っぽく、
落ち着きがなく、生半可な考え方をする子どもがいます。丁寧さ、着実さ、
落ち着きのなさなどは、幼少時からの親のしつけ方、育て方が大きく影響し
ていることに気づいてほしいものです。
 こうした間違い解答をする子どもは、家庭でのしつけがきちんとなされて
いないことに原因の多くがあります。特に、整理整頓のしつけができてない
と、学校でこのような不注意なミスをする子になります。テレビを見たあと
のつけっぱなし、トイレのドアの開けっぱなし、パジャマの脱ぎっぱなし玄
関の靴の脱ぎっぱなし、遊んだ後のおもちゃの広げっぱなし、読んだ本の出
しっぱなし、このような「……ぱなし」の子どもは、学校でも後片づけがで
きないだけでなく、文字の書き方が荒っぽくて、ノートのとり方が乱暴で、
作業がめちゃめちゃで、しまりがなく、考えの進め方が粗雑で、落ち着いて
集中して着実・確実に思考を進めることができません。


      
後始末のしつけで学業成績が伸びる


 先生が「テストを書き終わったら、もう一度見直しをしなさい」と言って
も、いいかげんな見直しで、不注意なミスに気づきません。後片付けができ
ない子どもは、こうしたウッカリミスが多くなります。仕事した後の始末、
確かめしつけができてないないのです、そうした意識が空らっぽなのです。
 一つ一つの行動に、慎重に、けじめをつけて仕上げるしつけが身につかな
いうちは、母親がいくら「テストは見直しをしなさい。あなたは、おっちょ
こちょいで、落ち着きがなく、上の空で、慎重さがなく、うわっつらな行動
で、だらしがない子どもだから、もっとしっかり確かめて書きなさい。」と、
口やかましく注意したところで、不注意なミスはなくならないでしょう。
 このような母親の口やかましい説教を言う前に、テレビを見た後はテレビ
のスイッチを切ること、トイレのドアは開けっぱなしにしないこと、玄関の
靴は次にはきやすいようにかかとを手前にして揃えて置くこと、遊んだ後の
遊び道具はきちんと後片づけをすること、これら整理整頓のしつけ、落ちい
て丁寧に着実に行動し、後始末の整理をきちんとすること、こうしたしつけ
を身につけることが先決です。
 家庭での整理整頓の習慣ができない子は、学校でもだらしない行動が多く
みられます。机やロッカーの中はゴミ箱のようにごちゃごちゃと詰め込まれ
ています。学校からのプリントも1か月前のものが机の奥に丸められて入っ
ています。体育時の着替えで、自分の洋服をきちんとたたんで机の上に置く
ことができなく、脱ぎっぱなしで、体育が終了して、いざ洋服に着替えよう
とすると、自分の洋服がどこにあるか分からないということになります。運
動場の遊びから戻っても手洗いのしつけが身についてない子は、教科書や
ノートの汚れがひどいです。部屋に入ったら帽子を脱ぐしつけができてない
子は、教室で体操帽をかぶったまま授業を受けるということになります。
ノートの文字は乱雑で、なぐり書きです。机の下に鉛筆、消しゴムが落ちて
いても、それを拾おうとしません。散らかしぱなっしです。


      
節約のしつけで学業成績が伸びる


 ものを大切にするしつけができてないと学業成績が悪くなります。欲しが
るものを何でも買い与えていると、ものを大切にしなくなります。ケチケチ
に使うぐらいのしつけ方をすると、ものを大切に使うようになります。捨て
るには、もったいない、もう一週間(1か月、半年)、使うことにしよう、
それまで、大切に使っていこう、という意識をみにつけます。捨てるには、
もったいない、これは台所のフックにして使えるね。こうした言葉を、常時、
家庭内で言い合うようにします。そうすれば物を大切に使う習慣が身につく
ようになります。
 学校では、落し物が多くて困っています。自分の落とし物が、落し物箱に
入っていても探そうとしません。持ち物がなくなっていても平気です。親に
言えば、すぐに買って与えるからです。持ち物に名前が書いてありません。
 物を大切にしない子は整理整頓が下手です。出しっぱなし、置きっぱなし、
脱ぎっぱなし、「……ぱなし」が多いです。このような子どもは、ノートを
とばして書いたり、大きな文字で乱雑になぐり書きしたり、破いて紙飛行機
をつくって遊んだりします。整った文字で、ていねいな文字を書くことが身
についていません。漢字の書き取りでは、字形が整ってなく、トメ、オレ、
ハライなどがいいかげんです。字形にしまりがありません。算数の文章題で
は、文章の読み取りがいいかげんで、はやとちりして、とんちんかんな答を
出すことになります。位取りを間違えて計算したりもします。
 物を大切に使う、物の整理整頓をしっかりやる、落ち着いて、確実に、て
いねいに作業をする、というしつけができていれば、こうしたうわっつらだ
けの、そそっかしい、軽はずみな行動をすることになります。


      
物をなくしたら、直ぐに買い与えない


 物をなくしたら、なくしたで、そのままにしておきましょう。直ぐには買
い与えないようにしましょう。なくしたことで、自分にどんな不便があるか
を実感で知らせましょう。ものをなくしたら、困らせる状態にして置きまし
ょう。子どもは、どうしたらよいか、考え出すでしょう。さしあたって、ど
うすれば代わりのもので代用できるかを考え出すでしょう。当分の間、古い
もの、誰かが使い古して捨ててあったものそれらの代用品で間に合わせるよ
うに考え出させます。
 また、自分の小遣いから出して買うようにさせます。金額が足りない場合
は、何回かの小遣いをためて買うようにさせます。
 こうした経験を積ませることで、物を大切に使う、ケチケチに使う、丁重
に扱って使う、整理整頓もしっかりやるようになっていくでしょう。そそっ
かしい、乱暴な、粗雑な、荒っぽい行動もなくなっていくでしょう。落着い
て、じっくりと行動するようになっていくでしょう。学校で勉強するときも、
落ち着いて、着実に、ていねい、書く・計算する・考える、という行動がで
きるようになっていくでしょう。


       
聞き上手で学業成績が伸びる


 家庭環境が落ち着かないと、学校に来ても集中して授業を受けられない子
になります。家庭内で騒動が起こっているとか、母親があちこちとせわしな
く動きまわって忙しいとか、来客が絶えないとか、落ち着いて親子の対話が
できないとか、両親の外出が多く家の中にいる時間が少ないとか、家族全員
の食事がバラバラで、家族がバラバラな行動をしているとか、こういう家庭
の子どもは学校でも授業に集中することができません。親と子でくつろいで
対話する時間が少ない子は、学校に来ても先生や友達の話しをじっくりと聞
く態度ができていません。
 母親のせわしない話し方もよくありません。とかく母親は矢継ぎ早に「今
日は学校で何を勉強をしたの。給食は何を食べたの。おいしかった? おか
わりしたの。誰と遊んだの。算数はどんな勉強をしたの。工作は何を作った
の」と、質問ぜめにすsる母親がいます。子どもが返答にとまどっていると、
「早く言いなさい。ああ、じれったい。こうなの、ああなの。……と言いた
いんでしょ」と、子どもが話そうとしている腰を折って、自分勝手に話を先
取りして話し出してしまう母親がいます。あなたが言いたいことはこうでし
ょうと、母親が勝手に推測して、母親が一方的に決めつけて先取りして話し
だすようではいけなせん。これでは子ども話す力が身につきません。
 このような母親の子どもは他人の話しをじっくりと聞けない子になります。
他人が話している最中に目と耳があっちこっちと移り気な子になります。こ
のような落ち着きのない子は、学校でも授業に集中することができません。
 母親は聞き上手になることが大切です。母親が子どもの気持ち(年齢)ま
で下りて、友だちになったつもりで、語り合うようにします。母親は、聞き
役にまわりまりましょう。子どもに多く語らせるようにしましょう。子ども
が話し始めた内容に調子を合わせて、それに乗っかって、母親は上手に話し
を受けとめていくようにします。


  
母親は、聞き上手・語らせ役・引き出し役になる


 母親は、聞き上手になりましょう。母親は無口で、子どもは饒舌である、
これぐらいがちょうどいいのです。そのような方向に母親は話しの方向を
リードしていきましょう。子どもが話しに戸惑っていたら、じっと待ちまし
ょう。子どもが話し出すまでじっと待つ心の余裕が大切です。子どもが話し
につまっていれば、にこにこ顔して、子どもが話し出すのをじっと待ちまし
ょう。じっと待つ心の余裕があるか、ないか、ここが聞き上手な母親である
か、ないかの分かれ道です。
 母親は、子どもが話してることに、ん、ん、と相槌をうちましょう。ん、
ん、それで、誰さんはなんて言ったの、へー、そんなことをしたの、おもし
ろいわね、その時あなたはどんな気持ちがしたの、誰さんはどんなつもりで
そんなことを言ったのかな、楽しい話だね、母親は子どもの顔を覗き込んで
顔の表情をいろいろと作って、おもしろい話しだねと興味を示して、ゆった
りと語り合いを楽しみます。母親は、子どもの話しの聞き役、(語らせ役、
引き出し役)にまわって語り合うようにします。
 こうすれば、子どもの話す力は伸びますし、他人の話しにじっくりと耳を
傾ける子どもになります。学校でも、先生や友だちの話を集中して聞けるよ
うになります。頭の中でコトバが回転するということは、考えているという
ことです。頭の中で黙って言葉が回転する力が身につくと、考える力が伸び、
学業成績が向上するようになるのは当然です。


     
早寝、早起きのしつけで学業成績が伸びる


 授業に集中できない原因は、いろいろありますが、その一つに子どもの生
活リズムの乱れがあります。学習塾、習い事、テレビの見過ぎなどのため、
子どもたちの生活は昼型から夜型に変化しています。学習塾や習い事からの
帰宅が8時台、9時台になります。自宅からの距離が遠い場合は10時台に
なってしまいます。その時刻から風呂に入って、夜食を食べたりすれば、寝
るのが10時台、11時台になってしまいます。学習塾や習い事に行かない
場合でも、親と一緒にテレビを見ていたりすれば同じことです。
 こうしたことが翌朝の寝覚めを遅くします。日によって早寝をしたり、遅
寝をしたりすることもあるでしょう。これも生活リズムの乱れとなります。
生活リズムの乱れは、子どもの情緒的精神を不安定にし、いらいらさせたり、
集中力をなくさせたり、疲労が増したり、それによって抗病力を低下させた
りします。
 夜更かしをすれば、翌朝の寝覚めは遅くなります。目覚めても頭がボケー
ッとしていて、食欲もなく、朝食抜きで登校する、食べてもパン一切れ、
コーヒー一杯とかになります。
 登校したとしても、学校では、ボケーッとした頭で机に向かい、あくびを
したり、注意散漫になり、当然に授業に集中できません。脳の活動が活発に
なるのは起床してから2時間から2時間半かかると言われています。起床直
後に、あたふたと登校すれば、1,2校時は頭は寝覚めていません。3,4校
時になって、やっと脳の受け入れ体制ができてくるという状態になります。
 睡眠不足は、子どもの健康な成長を害することはいうまでもありません。
人間の睡眠は、深い眠りと、次にくる深い眠りの間に、成長に必要なホルモ
ンが作られると言われています。昔から「寝る子は育つ」といわれています。
十分な睡眠をとれば、それだけ成長に必要なホルモンが作られ、成長が促進
されます。つまり、「早寝、早起き」が、学業成績を向上させるのです。


       
趣味、特技で学業成績が伸びる


 集中力を育てるには、子どもに好きなことをやらせることです。いろいろ
な趣味や特技を持っているはずです。小動物の飼育が好き、野球が好き、剣
道に夢中、サッカーに夢中、アニメに夢中、カメラに夢中、バレエに夢中、
釣りに夢中、将棋に夢中、昆虫に夢中、鉄道模型に夢中など、夢中になって
いるものがあるはずです。趣味が高じて「……きちがい」「……博士」とい
う子どももいるでしょう。
 子どもが一つのことに興味関心を示したならば、親はその興味関心を育て
ていくように支援してやりましょう。金銭的な援助もしてあげましょう。趣
味や特技のない子どもには、何か一つでよいから、好きなもの、集中できる
もの、夢中になるものを持たせるようにしましょう。
 子どもが一つのことに没頭している間は、親はできるだけそっとしておい
て、その作業(運動)に集中できるように応援してやりましょう。子どもに
はぜいたくと思われるものでも、あるいは、親の考えではムダなことだと思
われるものでも、親は金銭的に多少の無理をしてでも支援してやりましょう。
それが、わが子の個性を育てることになり、集中力を身につけることになる
のです。
 何か一つ自慢できるものがあれば、人生に自信を持つし、それが生きがい
となって、人生を楽しく過ごすことができます。一つのことに集中できる能
力が、外のことをやる時にも応用となって働いていきます。趣味や特技に時
間を忘れて集中して取り組むようになると、それが学校の勉強にも集中して
取り組めるように広がっていくでしょう。
 生きがいのある人生を送らせるには、一人ひとりの子どもの個性を生かす
ことです。現在の小中学校の教育体制は中央集権化が強く、画一的な教育に
なっており、一人ひとりの個性を伸ばすような教育体制にはなっていません。
日本国中、どこへ行っても、同じ教科、同じ教育内容、同じ時間数、同じよ
うな教育方法で、同一知識を詰め込んでいるのが現状です。日本の小中学校
の教育体制がそうなっているから、ということにあります。
 子どもは本来、一人ひとりの能力は異質で多種多様なものを持っているは
ずです。各人の子どもの固有な能力を、開放された自由な環境の中でのびの
びと伸ばしてやる必要があります。それができるのは各家庭でのわが子の特
技、趣味を伸ばす指導ということになります。現在の画一的な教育体制、受
験学力のみがよしとする価値の一元化から解放されることが、さしあたって
必要なことです。学力の価値を相対化し、多様なものとして把握していくこ
とが求められています。「みんなちがって、みんないい」(金子みすず)の
です。家庭では、わが子の個性(趣味、特技、興味関心)を伸ばし、個性を
育てる教育をしていくようにします。


      
幼児からのしつけで学業成績が伸びる


 最近、小学校へ入学してくる1年生を見ていると、左利きが増えています。
昔の親たちは、赤ちゃんが左手に持って何かをやろうとすると必ず右手に持
ち替えさせるしつけをしたものです。おもちゃのガラガラを持たせるにして
も、親は意識的に赤ちゃんの右手の指を開いて握らせたものです。ハシを持
つにも、物を投げるにも、鉛筆を持つにも、ナイフを持つにも、親は意識的
に右手に持つように口やかましくしつけ指導をしたものです。

         
右利き、左利きの問題

 今の親たちは、右利き指導に熱心でないように見受けられます。右利きの
しつけに無頓着のようです。右利きにしようという強い意識がないようです。
 今の幼稚園でも、右利きのしつけは指導がされていないようです。幼稚園
の先生に右利きの問題で質問をすると、
「お絵描きの場合、クレヨンを右手に持つか、左手に持つかは子どもの自由
にさせています。どちらかに強制して持たせると、自由な空想力や想像力が
阻止されて、絵がのびのびと描けなくなるからです」
と答えました。
 最近、下記のような幼稚園職員からの新聞の投書記事もありました。読売
新聞(2014・12・4)の投書欄「気流」にあった投稿記事です。

    左利き気にしない 「個性」と捉えよう
         幼稚園職員 青鹿美恵子 71 (埼玉県幸手市)


 知人が「3歳の孫息子が左利きなの。幼稚園に入れば直るかしら」と困っ
たような様子で言った。左利きを気にする人が、今もいることに少し驚いた。
 実は私の長女も左利きで、長女が子どもの頃、私も夫もそれに悩んでいた。
ある時、左利きに関する本を読み、矯正する必要はないと夫婦で結論を出し
た。「誰にも迷惑をかけているわけでもない。長女の個性として尊重し、伸
び伸びと育てよう」と考えたのだ。「どっちの手を使っても叱らないよ」。
そう言うと、長女はバンザイをして喜んだ。
 知人に話すと、「今まで孫にかわいそうなことをした」と反省した様子だ
った。左利きを個性として受け入れるのも、一つの考えではないかと思って
いる。


      
幼稚園からでは遅い、赤ちゃんの時から

 わたしはこう考えます。幼稚園では、日常生活の基本的な行動様式を身に
つけるしつけ、みんなと集団行動ができるしつけ指導、この二つが重要な指
導内容だと思います。その上でお絵描きの場合は自由な発想でのびのびと描
かせる指導をしていく必要があると考えます。基本的な行動様式のしつけ指
導、つまり、クレヨンの道具の出し入れ・揃え方のしつけ、しまい方、クレ
ヨンを折らないために、どの位置で、どんな持ち方で、右手に持って、腕を
自由に伸ばせる姿勢で描くしつけ、反対側の手での画用紙の押さえ方、使っ
たクレヨンを放り投げておなない、箱に入れる指導などが大切なのではと考
えます。
 ただし、左利きから右利きにむりに変更させると心理的、技術的な負担が
大きくなり、自由に手が動かない、泣き出してしまう、という子どももおり
ます。幼稚園からでは遅すぎ、赤ちゃんの時に指導すべきしつけだと考えま
す。幼稚園からでは遅い、赤ちゃんの時から指導すべきしつけだと思います。
 鉛筆を左手に持とうが、右手に持とうが、かまわないという人がいます。
確かに左手に鉛筆を持って上手に文字を書き、日常生活に不便を感じない大
人や子どもがたくさんおります。「慣れ」で、どちらでもかまわない、とい
うことでしょう。上の投稿者の青鹿さんは「個性」だとおっしゃっています。
わたしは、こうした意見をむげに否定はしません。
 しかし、小学校の教室で指導してきた私の経験からいうと、わたしは右利
きにしつけたほうがいいと考えています。日本の文字を書くのに右利きに有
利にできていますし、日常の生活用品も右利きにできてるのが殆どです。日
本の文字の筆順方向は、左から右へ、上から下へと進みます。鉛筆を右手に
持てば、右手の左側空間の全面がゆったりと見渡せて、書いている文字の全
体構造がはっきりと視野に入り、余裕をもって書き進めることができます。
 鉛筆を左手に持てば、書き進んできた途中経過、文字が仕上がっていく一
筆一筆の様子が、全体構造が見渡しにくくなります。左手で文字を書いてい
る子どもを観察していると、手の位置(鉛筆の持ち方、手首の曲げ方)がぎ
こちなく、とても書きにくそうに見えます。左利きの子の書く文字は鏡文字
が多く、鏡文字が3年生ぐらいまで続く子もおります。それに左手で書いた
子どもの文字は筆圧も一定してなく、みみずがはったような曲がりくねった
線になりがちです。


  
落ち着いて、丁寧に、手堅く行動するしつけが重要


 幼児からのしつけ問題として左利きの例を出しました。幼児からのしつけ
が学業成績を伸ばす話に戻ります。子どもの成績向上は、家庭の幼児期から
のしつけ指導にあるという話でした。
 子どもが家庭内で、自分ひとりで○○ができる、○○を落ち着いて、丁寧
に、着実に、手堅く、行動できるしつけができている子どもは、学校でも、
丁寧に、着実に、手堅く、行動でき、授業での発表もしっかりした話し方の
受け答えになり、ノートの書き方も丁寧で、計算も着実に進めていく子にな
る、ということです。だから学業成績も向上するということになります。
 水泳指導の時間になりました。水着の着替えで、洋服は脱ぎっぱなしで、
机の上にきちんとたたんで置くことができてない子、男子ではパンツのひも
が結べない、結んだひもがほどけない、先生の手をかりる、女子では、洋服
の背中のファスナーが自分で開け閉めができなく、先生の手をかりる、とれ
た頭髪のリボンを結んでくれと頼みにくる、こうしたしつけ例は、家庭でし
っかりしつけてほしいものです。
 学校では給食時間に食事作法を指導しても、家庭で親が食事のしつけを放
任していてはぶちこわしです。手を洗わないで給食を食べようとします。口
の中にご飯を詰め込んだままペチャクチャと話す子がいます。食事中に立ち
歩いて話しかける子がいます。給食中にトイレに行ってよいかと教師に許可
を求めにきます。食器を手に持たず、食器に口を近づけて犬食いをする子も
います。箸の持ち方・スプーンの持ち方がぎこちない子がいます。嫌いなも
のにはハシをつけない子もいます。このように食事作法ができてない子に限
って、日常の生活行動にケジメがなく、だらしなく、授業の集中力がなく、
先生や友だちの話にしっかりと耳を傾けることができません。しつけは、日
常行動にオリメ、ケジメをつける指導です。オリメ、ケジメのない子に限っ
て学業成績が芳しくない子が多いということを知ってほしいです。


    
コトバのしつけで学業成績が伸びる


 母親のコトバのしつけが、子どもの学業成績を大きく左右することについ
て述べます。
 アメリカの言語社会学者、コーディルとホールデンが日本とアメリカの母
親の子育てにおける子どもへのコトバかけについて調査しました。その結果、
次のようなことが分かりました。


     
アメリカと日本の母親、コトバかけの違い


 アメリカの母親は、子どもによく話しかけます。子どもの方も母親によく
応答して、活発にしゃべります。アメリカの母親は、子どもを自分とは別の
自立的した存在とみなして、子どもの要求や願望をどしどし出させ、それを
コトバで表現させて、子どもが自立した行動ができるようにしつけています。
 日本の母親は、物静かであまりしゃべらない、おとなしい子どもを望んで
います。日本の母親は、子どもにあまり話しかけません。抱いたり、あやし
たりの身体接触が多く、子どもは母親自身の延長とみなしており、子どもの
ことは子どもがしゃべらなくても、自分が一番よく知っていると思っていま
す。
 アメリカの母親は、自己主張を活発に行う子、自立的な行動を進んでやる
子にしつけています。日本の母親は、子どもの自己主張を抑制し、やってあ
げの過干渉や過保護な対応で、自立的な行動を抑制するしつけ方をしていま
す。アメリカの母親は、コトバで教えたり、コトバで説明したり、コトバで
直接に命令したりの強制的な話しかけが多いが、日本の母親はコトバ数が少
なく、表情や身ぶりでの話しかけが多くみられ、暗示的で説得的な口調のコ
トバかけであり、強制的ではありません。


    
イギリスの母親、社会階級によるコトバかけの違い


 イギリスの言語社会学者、バーンステインはイギリス社会の中流階級と下
層階級の家庭で使われている話しコトバを調査しました。その結果、次のよ
うなことが分かりました。バーンステインは、中流階級のコトバを「精密
コード」(elaborated code)と呼び、下層階級のコトバを「制限コード」
(restricted code)と呼んでいます。


       
「精密コード」と「制限コード」

 中流階級の「精密コード」とは、あらたまった場で使われるコトバであり、
きちんと整った文型で、語りが豊かで、言い回しが精密で、身ぶりや顔の表
情の助けを借りなくてもはっきりと理解できるコトバ表現です。
 次の例がそうです。母親がバスの中で子どもに「吊革につかまってなさ
い」と言えば、子どもは「どうして?」と質問します。
 それに対して母親は「もし、つかまってなければ、バスの中は揺れるので、
前に投げ出されて、倒れて、転んで、ケガをするかもしれないでしょ。吊革
につかまっていれば、そのようなことはおこりませんでしょ。」と応答しま
す。
  このように語り合いを多くして、主述の整った文で、論理的に、筋道を
つけ、理屈で、順序をつけた話しかけ方をします。母親がこうした話し方を
すれば、子どもにもしぜんとそのような話し方が身につきます。論理的に、
筋道をつけて、順序をつけて、理屈でコトバ表現をしていく力を身につきま
す。
  学校の教室は、公の場ですから、筋道だった話し方をしなければなりま
せん。つまり、学校では「精密コード」のコトバが要求されるわけです。日
常生活の中で親子のこうした論理的で筋道だった会話をしていれば、学校で
も論理的で筋道だったコトバ応答ができるようになり、明晰な分析思考で学
習に励むことができます。こうして学業成績も向上することになります。
  これに対して、下層階級の「制限コード」とは、家族内や友人同士とい
ったくだけた場所で使われるコトバ表現であり、簡単な一語表現などの省略
された単純な文型で、使い古された文句が多く、お互いがある状況の中にい
れば、その場面から相手が何を言おうとしているかが容易に推測できるコト
バ表現です。

   
「精密コード」とは「知性言語」だ
          「制限コード」とは「行動密着言語」だ


 「精密コード」は知性言語ですが、「制限コード」は水準の低い、「行動
密着言語」です。(「行動密着言語」「知性言語」については、「本章付録
【11】コトバの力の伸ばし方」にくわしく書いてあります。そちらを参照し
ましょう。)
 「制限コード」の例は、こうです。母親がバスの中で子どもに「吊革につ
かまっていなさい」と言えば、子どもは「どうして?]と質問します。それに
対して母親は「お母さんが、そう言ってるのだから、つかまってなさい」と
命令をします。さらに子どもが「どうして?」と質問すると、「うるさい子
ね。黙りなさい」と母親の権威で黙らせて命令に従わせます。母親は、どう
して吊革につかまらなけらばならないかの理由を筋道をつけて説明していま
せん。そこで語られているのは権威と命令と服従だけの貧しい会話です。
  バーンステインは、中流階級と下層階級とで、知能程度が同程度の子ど
もの場合、彼らの学力差は二つの社会階級の環境の違い、言語環境の違いが
大きく関わってくると述べています。特に、親たちの子どもへのコトバかけ
の違いによって子どもの学力差に大きな影響を与えていると述べています。
  バーンステイン仮説の実証的検討を試みたヘスとシップスマンは「社会
階層が高くなるほど母親は精密コードの特徴をもった言語を使い、子どもの
行動の統制の仕方では権威的志向的な表現が少なく、また情報を組織立てて
子どもに説明する教授スタイルが多くみられる」と述べています。
 学校の教室で使うコトバは、あらたまった場所での「精密コード」のコト
バ表現です。つまり、文+文+文というように、整った文(主語+述語)を
連結させて、論理的に筋道をつけた内容のコトバ表現です。この「精密コー
ド」のコトバが、子どもの学業成績を向上させるコトバなのです。


       
「精密コード」のコトバ表現の例

 わが子の学業成績を伸ばすためには、親は家庭内で「精密コード」の話し
コトバを使うようにしなければなりません。つまり、知性言語で話すことで
す。「以心伝心」でなく、「空気を読みとる」でなく、整った文(主部+述
部)で、文章(文+文+文)で、論理的に筋道を立てた話し方をしなければ
なりません。
   それは、こうだ。   こうしたから、こうなった。
   だから、こうだ。   しかし、こうだ。
   そのわけは、こうだ。 こうしないから、こうなった。
   だから、こうなった。 しかし、こうだ。
   こうしなければ、そうならないはずだ。
   もし、こうしたら、こうなるはずだ。
   結論は、こうだ。それは、こういう理由からだ。
   まとめると三つ、第一は○○、第二は○○、第三は○○だ。

 親は、家庭内でもこのような理屈をならべた組織だった話し方をしましょ
う。親がこうした話し方をすれば、子どもも親の話し方を模倣して筋道だっ
た話し方をするようになります。


       
「制限コード」のコトバ表現の例

 子どもが遊びの中でしゃべっているコトバは、「制限コード」のコトバ表
現です。つまり、行動密着言語の話し方です。その場で、ひとりでに出てく
る単発的な思いつきの単語コトバです。マンガやアニメ映画によく出てくる
コトバ表現も多くが「制限コード」のコトバ表現です。

   エイ。   ヤー。   ソレ。  イクゾ。   ヤメロ。
   ハシレ。  トマレ。  ダメ。  ヤメテー、  ナゲロ。
   ツメテー。 スゲー。  イテー。 キタネー。  ヌルヌルダヨ。
   イコウ、イコウ。  ツカマエロ。  トッチャダメ。  イテエヨ。
   ヒャー・クション、   ヒュルヒュルピーン、  ボチャーン。

など、断片的なコトバ、反射的なコトバ、叫びのコトバ、カタコトのコトバ、
擬音コトバがそうです。これは低水準のコトバ表現です。
 このようなコトバ表現を使っているだけでは、学業成績が伸びるわけがあ
りません。「制限コード」のコトバ表現だけを使っていては学業成績が伸び
ません。

 
 親はわが子に「精密コード・知性言語」で話そう

 
 母親は、家庭内で、わが子がこのようなカタコトの反射コトバで話したな
らば、「そんな話し方では何を言ってるのか分かりません。きちんとした話
し方で言いましょうよ」と語り、整った文+文+文で話すようにしむけまし
ょう。筋道だてて、順序よく、理屈をならべて話すようにしむけましょう。
 子どもがポツリと言ったひと言を、母親が、その言外の意味を、その場・
状況から推定し理解してしまわないことです。子どものコトバの「1」を聞
いて「10」まで理解してしまうと、子どもの論理的で分析的な話し方、コ
トバの使い方、つまり、論理的に考える力が身につきません。「1」で話さ
せないで、「10」のコトバ表現で話させることが重要です。そうすると、
子どもの学業成績はぐんぐんと向上するようになります。
 親の権威的な命令コトバや指示コトバを少なくし、子どもの自立的な思考
力や分析的な判断力を育てる話し方にしましょう。歯磨きをしつけようとす
るなら、ただ「磨け、磨け」を繰り返すのでなく、磨かなかったらどうなる
か、その理由を話して聞かせましょう。虫歯になった状態の写真・絵を図鑑
で見せたり、その痛さの体験をほんとに痛そうにして語って聞かせましょう。
おいしいものが食べられなくなること、入れ歯や差し歯のこと、その金額の
高さのことなども理屈を並べた言い方で語って聞かせましょう。

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