父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・2・23記




       
子ども部屋の与え方




         
子ども部屋の普及率

 欧米人の親は、わが子を自分たちとは別個の独立した人格と認めて、わが
子の自立心を育てるために、自分たち夫婦生活を子どもたちの生活と区別す
るために、子ども部屋を与えています。それでも、子ども部屋の普及率はア
メリカにおいても50%前後だそうです。
 日本では、子ども部屋の普及率は、どのくらいでしょうか。1983年に「住
まい文化キャンペーン推進委員会」が小学4年生から中学3年生のいる東京、
大阪、仙台三都市の千八百世帯を対象に行った「住まい文化に関する基本調
査」によると、子ども部屋のある家庭は82%となっています。専用、共用
の別では、専用部屋が46%となっています。
 同じく1983年に深谷和子(東京学芸大)さんらが調査(東京、千葉、埼玉、
茨城の小学校4〜6年生、約千六百人)によると、子ども部屋の普及率は
85%となっています。専用は3割ほどで、多くは兄弟姉妹の共用となって
います。
 1982年に第百生命が行った「わが家の子ども部屋」の調査(中高生を持つ
首都圏の主婦五百人を対象にした)の結果によると、90%の家庭が子ども
部屋を持っているという統計が出ています。第百生命のパーセンテージが高
いのは、調査対象が小学生を除いた中高生であることからきていると考えら
れます。
 日本の家屋がウサギ小屋だと外国人から揶揄されたのは戦後ですすが、子
ども部屋の普及率は今や世界第一位となっています。日本の住宅事情から考
えれば、日本の親たちはかなりむりしてわが子に子ども部屋を与えているよ
うです。夫婦の寝室や、父親の書斎がないのに、子ども部屋があるという実
情がそれを物語っています。
 子ども部屋の広さは、「住まい文化キャンペーン推進委員会」の調査によ
りますと「六畳が53%、四畳半が26%、八畳が10%となっており、平
均が6、1畳となっています。子ども部屋を与えた時期は、小学校低学年から
が41%で多く、高学年からが28%、幼稚園からが16%、中学生からが
10%となっています。子ども部屋の掃除は、親と子どもの双方でするが
52%、親がする36%、子どもが自分でするが12%となっています。


            
参考資料


 「子ども部屋の是非論」がマスコミで論議されたことがありました。
 下記に昭和58年12月9日号『週刊朝日』に掲載された、子ども部屋論
議の一部分を引用しています。

 机、ベッド、ラジカセはむろんのこと、なかにはエアコン、テレビ、ステ
レオ、電話、パソコンまで部屋に備えた小中学生もいる。部屋の掃除だって
半数近くが親がやってくれる。
 これだけ居心地がよければ、学校から帰って「ただいま」の挨拶もそこそ
こに、自分の部屋に引きこもってしまう子どもがいても不思議ではない。
 東京都下に住むAさん(43)は、昨年9月、かねてからの念願だった増
改築をした。二階建てにし、子ども部屋を二部屋つくったのである。喜びも
ひとしお、と思いきや、「とんでもない」と肩を落とす。
 「玄関からそのまま二階に上がれるため、中学2年になる上の息子がいつ
学校から帰ってきたのか、さっぱり分からない、とワイフがこぼすんです。
しかも、下におりてくるのは、食事か、風呂に入るときだけ。部屋の中で何
をしてるか不安です。」
 不安にかられた母親は、たいていの場合、おやつを運んで様子を探りに行
く。が、そこは子どもの方が上手。
 その上、用事がある時しか下りてこない。これでは、カギでもかけられた
ら、アパートの一室と同じではないか。
 先の「住まいに関する基本調査」によると、平日、家族全員が一緒に過ご
す時間でみると、子ども部屋のない家庭が2時間20分なのに対し、子ども
部屋のある家庭は、1時間50分と、30分の開きがある。また、月のうち、
家族そろって夕食をとる回数は、子ども部屋のない家庭が17回なのに対し、
子ども部屋のある家庭は15回と少ない。家族の団らんが少なくなることは、
子どもにとっていいはずがない。



   
子ども部屋を与えると成績が上がる?


子ども部屋を与えると、家族にわずらわされずに、静かに、じっくりと勉強
できるだろう、勉強に身が入るだろう、自分から進んで勉強するようになる
だろう、というのは、親の安易な考え方です。
 先の「基本調査」によると、子ども部屋を与える親の理由は、「勉強に身
が入る」と「自立心が身につく」が多くありますが、子ども部屋の使わせ方
と、子ども部屋の管理のさせ方に問題があります。親は、子ども部屋で、わ
が子が何をしているか知っているでしょうか。放置していないでしょうか。
子どもというものは、学校の教師の管理下でも、勉強している時でも、あっ
ちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロとしていることが多くあります。
注意があっちこっちと移動しているのです。ひとっところにじっとしていま
せん。なかなか授業に集中できないのが通常です。これが子供というもので
す。小学校低学年は一つのことに集中できるのは正味7分前後と言われてい
ます。教師は子どもの興味をつなぐために学習内容や指導方法を次々と変化
させ、いろいろと工夫しながら授業しています。
 親は、子ども部屋を与え、机と椅子を設置してやれば、子どもは勉強する
だろうと考えるかもしれませんが、おっとどっこい、そうはいきません。子
ども部屋の中に、テレビ、ラジカセ、マンガ本、ベッドがあり、居心地のい
いエアコンがあったりしたら、ベッドに寝転んで、それらに夢中になるか、
うたた寝をしているか、どちらかでしょう。
 勉強する子は、子ども部屋がなくても勉強するし、子ども部屋をあてがわ
れた子どもでも、親が望むようには勉強しないものです。母親が家事をして
いるそばの居間や食堂のテーブルで勉強する方が短時間で集中して勉強でき
ます。子ども部屋を与えると、親とのコミュニケーションが疎遠になり、家
族を思いやる心が奪われ、自分勝手で協調性のない子どもに育つ、とも言わ
れています。
 子ども部屋でなく、居間や食堂の一角に設けた机(テーブル)で勉強させ
た方が、家族がその子に邪魔にならないように気配りしつつ、遠慮しつつ、
子どもの勉強を助けてやった方が、余程、家族間の温かな人間関係が生まれ、
協調性のある家族関係が保たれるようになることでしょう。勉強の能率もあ
がります。


   
子ども部屋を与えると自立心が育つ?


 子ども部屋を与えるわけは、子どもの自立心(独立心)を育てるためだ、
という考え方があります。必ずしも子どもの自立心や独立心を育てることに
ならないことを知るべきでしょう。子どもの自立心を育てるためには、自分
の部屋を掃除させ、学習道具や書物などを整理整頓させことが特に重要です。
子どもの机の上が物置になっているようでは自立心、独立心が育っていると
は言えません。
 深谷和子さんらの調査によると、子どもが常時、掃除しているのは、わず
か9%で、子どもが時々するを合わせても、三分の一強にすぎず、あとは母
親が掃除しているという統計が出ています。これでは自立心、独立心が育つ
はずがありません。
 自立心、独立心を育てるには、自分の部屋を自分で管理する習慣を身につ
けさせることが大切です。いつも決まった時刻、定期的に掃除する習慣を身
につけましょう。部屋がきれいになって、すっきりして、気持ちがいい、と
いう気分を持たせることも大切です。母親が口やかましく散らかすな、足の
踏み場もない、ゴミ部屋にするな、と言うだけでは、いつもいつもそのコト
バを繰り返すだけになってしまいます。整理がしやすい道具箱、整理だな、
引き出しの多くある整理戸棚などを置き、整理整頓が楽しくなるような場を
作ってやることも大切でしょう。


 
 小学校低学年は子ども部屋は必要なし


 わたしは、小学校低学年では、原則、子ども部屋は必要なし、と考えて
います。母親が台所の仕事、洗濯物のアイロンがけしているそばで、居間の
テーブルの上で、漢字練習や計算問題をやらせ、読書をさせる、母親が時々
出来具合を覗いてみる、質問に答えてやったりもする、やり方を教えてやっ
たりもする、一緒に考え合ったりもする、勉強の後の結果を親が点検して○
×をつけてやったりもします。小学校低中学年では、親と子が一緒に勉強す
る方が、勉強のやり方をおしえることができ、結果の点検もできて、成果が
上がると思います。集中して勉強ができて、短時間で仕上がり、効果が上が
ると思います。
 昔は、火のあるところが家族の団らんの場所でした。いろり、こたつが家
族の楽しい語り合いの場所でした。私の小さい頃は、子ども部屋はありませ
んでした。小さな、せせこましい部屋はなく、だだっぴろい部屋が二つ三つ
あるだけでした。居間にあるちゃぶ台で勉強したものでした。あるいは、い
ろりのそばで腹這いになって勉強したものでした。冬はコタツに足を突っ込
みながら、コタツの上で勉強しました。いろり、コタツというホットな場所
が勉強の場所であり、家族のホットなコミュニケーションの場所でありまし
た。
 子ども部屋を与えるとしたら、家族の人間的な触れ合い、語り合いを失わ
ないように配慮しましょう。親子のきずな、兄弟姉妹のきずなが薄れたり消
えたりしないように配慮していくことが大切です。子ども部屋を完全蟄居の
密室にしてしまい、子どもをそこに閉じ込めないように工夫や対策を講じる
ことがとても重要なことです。


    
子ども部屋にはテレビを置かない


 家族みんなが集まって語り合う機会を多く作るため、テレビを子ども部屋
に置かないことです。テレビを見たけらば、居間や応接間に来て、そこで家
族みんなと楽しむようにします。
 子どもが一人で自分の部屋でテレビを見ないために、子供部屋にテレビを
置かないことです。家族がみんなで集まり、みんなで語り合いながらテレビ
を見るようにします。お茶・コーヒー・菓子・果物などは、母親は子ども部
屋に持っていかないことにします。家族全員の集まる居間や応接間で、お
茶・コーヒー・菓子・果物を、家族全員が揃った場所でいただくようにしま
す。母親が子ども部屋に食事を持ち込むなんてとんでもありません。家族み
んながそろった場所で、食堂や居間で家族全員がワイワイと語り合いながら
食事をするようにします。
 当然に、テレビは食事中には消しましょう。テレビを見ながら黙って、
黙々と食べることのないようにしましょう。
 ただし、特別な場合もあります。大学受験や高校受験などの場合は、その
限りではありません。受験勉強に集中できるように家族全員が応援してやり
ましょう。エアコンを設置して、学習効率が上がる配慮もあると効率が上が
るでしょう。


    
子ども部屋には鍵を取り付けない


 子どもは、子ども部屋で勉強などしてるはずはない、という意見は暴論か
もしれません。しかし、個室という自由な空間、気楽な時間の中で、子ども
はそんなに勉強に集中しているわけではないことを知るべきです。
 親は、子ども部屋で、わが子が何をしているかを知っておく必要がありま
す。ベッドの上で横になって、マンガを読んでいるか、テレビを見ているか、
うたた寝をしているかが大部分でしょう。いつでも勉強の時間はとれるや、
という安易というか、逃げる考えになりがちです。母親が、勉強しろ、勉強
しろ、とうるさいものだから、それで子ども部屋に逃げ出して、ほっとして
いるのが現状でしょう。
 高校生ともなれば、親の目をかすめてタバコを吸ったり、ポルノを読んだ
り、友人を連れてきて長話しをしたりということも多くなります。子ども部
屋が親の目の届かない密室となり、怠け心や不純な行為の温床ともなったり
します。勉強のための子ども部屋が、非行のたまり場になったという例もた
くさんあります。子ども部屋に、カギをつけるなんて、とんでもありません。
非行温床のたまり場になってしまいます。反抗期にもなれば、あるいは不登
校児にもなれば、あるいは非行のたまり場にもなれば、カギをかけて部屋に
閉じこもってしまい、いろいろと困難な問題を発生させます。


     
子ども部屋の与え方のコツ


 子ども部屋の与え方について、天野彰(建築家)さんは、次のように書い
ています。傾聴に値するご見解です。ぜひ参考にしましょう。

 どんな与え方がよいかというと、子供に部屋の「所有権」を与えないこと
である。新築の時など絶対に子供部屋などと書かないことで、その代わり、
父親の「書斎」としたり、母親の「家事室」としておく。そして「これはお
父さんの書斎だが、おまえの勉強のためにしばらく貸してやる。よって、大
切に使いなさい」とやる。すると、どうだろう、子供は父親の書斎に大変な
愛着を持ち、大切に使う。
 しかも、この部屋には父親の書棚があったり、ゴルフバッグがあり、父親
は堂々と、しかも頻繁に出入りする。そのついでに勉強もみてやり、相談に
のったりもする。
 「カギ」どころではない。父親のにおいのする空間で、まさにスキンシッ
プの勉強部屋となる。



         
参考資料(1)

 下記は、東京新聞(2015・3・21)の「悩みの小部屋」欄にあった質問・
答え形式の新聞記事からの引用です。質問に答えている解答者は、辰巳渚
(フリーライター)さんです。

 
質問

 四人の子の母です。五年前に家を建てました。三階に子ども部屋をつくっ
たのですが、子どもたちは行きづらいのか、面倒なのか、あまり部屋へ行き
ません。一階のリビングにばかりいるので常に物があふれて散乱しています。
特に高校生の長男は、服まで着替えて脱ぎっぱなし、ギターの練習もします。
お客さんも呼べず、片付かないのが悩みです。良い方法はありますか。
                    (東京都・主婦・43)

 
答え

 こんにちは、ブラック辰巳です。
 リビングに子どもたちが集まってきて、片付かないとのこと。では、究極
の選択です。逆に、子どもたちは部屋に閉じこもりきりで、リビングはいつ
も理想的に片付いている。どっちがいいですか?
 答えがわかりきっている質問なんていいから、片づけ方を教えてください、
とおっしゃらないで、いま一度、考えてください。
 自分で建てた家のリビングに、四人もの子どもが集ってきて、息子はわざ
わざギターの練習までする。そんな家族であるのは、どれだけ得難い幸せか。
片付かない悩みなんて、小さい小さい! 今だけのこと! と、ご自身にお
説教してみてください。
 この幸せを幸せと感じられる感性なしに片付けの話は始まりません。物は
家族の営みを支えるためにあり、その物を取り扱うのが「片付け」です。片
付けが目標になると、家族がいないほうが楽、なんて極端な結論にだってな
りかねません。
 いまの幸せをかみしめたら……、将来、子どもたちも同じように家族を営
めるように、仕込みをはじめましょう。出した物は、自分で元に戻す。家族
が片付けていたら、自分も手伝う。お母さんがルールを作るだけでなく、家
族みんなでやっていけるルールを、みんなで考える。
 片づけを教えるとは、家族の営み方を教えることです。理想的な間取りの
家でも、家族が自分たちで片付けなければ、すぐに荒れ放題です。片付けを
あなたさま一人で抱え込まないで、「みんなでできる片付けのルール」を家
族みんなで考えてみてください。         (フリーライター)



         
参考資料(2)


下記は、諸富正弥(受験学習塾講師、建築家)さんの文章からの一部引用
です。 「エデゥ」(2014年1月号、小学館)より引用です。

 塾講師として小学生と接すると「食卓じゃないと勉強できない」という子
が少なくない。親御さんのほうも「私が見ていたら宿題をやるんですよ」な
んておっしゃる。それならば「むりやりに子ども部屋に閉じ込めないで、食
卓で勉強させておきましょう」とアドバイスしていたものの、積極的にすす
めてはいませんでした。それが一転して賛成派になったのは「できる子はリ
ビング学習をしている」という事実が、塾を続けているうちに明らかになっ
たからです。
 いま東大に通っているかつての、教え子がいます。彼は小学校から高校ま
でずっとリビングで勉強をしていました。彼だけでなく一流大学に進学した
教え子に会って話を聞くと「そうかキミもリビング学習だったのか」という
ケースがよくあります。子ども部屋はあるけれど、勉強は結局リビングでし
ている。そういう子を目の当たりにして、なぜだろうと真剣に考え、いろん
な文献を調べた結果「絶対的な自己肯定感を持っている子どもは集中力が高
い」ことが分かりました。
 つまり、親とのかかわりが密で愛情の欲求が満たされている子どもはひと
つの物事に没頭できる。逆にそれが欠けていると、不安になって集中力が途
切れる。リビング学習は子どもの生理的な欲求を満たすうえでとても役立っ
ていたんです。    「エデゥ」(2014年1月号、小学館)より引用


 積水ハウス総合住宅研究所の調査では、「小学生の約六割がリビングで勉
強している」とい結果が出ているそうです。
 リビング学習で困ることは、「リビングのあちこちに学用品がある」「片
付かないので、食事の準備に困る」などがあるようです。そこを工夫して解
決すれば、 
  ◎家事をしながら声かけできる。
  ◎子どもの宿題内容、習熟度を把握できる。
  ◎分からないところがあったら、すぐ教えられる。
  ◎子どもが安心して勉強に集中できる。
  ◎子どもが学校の出来事をよく話してくれる。
など、いいことづくめのリビング学習の効果があるということです。

積水ハウス総合住宅研究所の河崎由美子さんによると、「子どもの居所を
発達段階別に分析すると、三つに分類ができるということです。

●第一ステージ・就学前までの幼児期
   赤ちゃんは、ママのひざの上が居場所。幼児も親の近くで過ごすこと
   が多い。リビングやキッチン、寝室が主な居所になっている。
●第二ステージ・学童期
   小学校低学年生の約八割が子ども部屋を持っている。子ども部屋を持
   っても、まだ親兄弟とのかかわりが重要な時期である。子ども部屋に
   行きたがらない子どもが多い。リビング、ダイニングで学習をし、就
   寝も同室を望む子どもが多い。小学生の約六割がリビングで学習して
   いる。
●第三ステージ・思春期以降
   学童後期から、徐々に自分の部屋で過ごす時間が増える。中学生でも、
   半数以上がリビング学習をしている。子ども部屋で過ごすようになっ
   た時期を調べると、中学生になってからが六割以上を占めている。思
   春期以降はひとりでの就寝に移行していき、自室が学習・趣味などの
   活動場所になってくる。
            「エデゥ」(2014年1月号、小学館)より引用

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