父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・2・23記




  
各学年の発達特徴と対応の仕方




   
小学校1,2年生の心とからだ


≪自己中心的な傾向≫


 小学校低学年は、まだ幼稚園の延長線上にあり、幼さが抜けきっていませ
ん。幼児的な思考や行動がまだ見られます。夜は、母親と一緒に寝たいとい
う欲求をもっています。ママごと遊び、積み木遊び、ごっこ遊び、人形遊び、
一人でボールを転がして追っかける遊びなどが多くみられます。自分を中心
にして母親(父親、教師)との一対一の遊びを好みます。集団遊びよりは、
一対一の遊びを好みます。行動範囲が狭く、自分の家のまわり、近所の空き
地や公園などが主な遊び場となります。
 小学校低学年は、グループで遊ぶこともできますが、自己中心的で、友人
同士の結びつきは弱いと言えます。一見、友だちと仲よく遊んでいるようで
あるが、よく観察すると、子どもひとり一人の、その時々の気分や興味関心
の向き方しだいで、友だちと、すぐ離れたり結びついたりしており、集団の
形成力に流動性がみられます。
 しょせん、一人遊びの傾向が強く、たまたま、ある子がその場に居合わせ
ているから話しかけたことであって、話しかけも自分からの一方的な話しか
けだけであって、相手の意見を聞くために、聞いて応答を繰り返す目的があ
ったから話しかけたのではありません。その場かぎりの、偶発的な、流動的
な、一方的な話しかけです。ひとつの場所に、ひとつの遊びに、ひとつの話
題に、じっと集中して行動することが弱く、すぐ飽きて、次々と場所や遊び
や話題を変えていく落ち着きのなさもあります。


≪学級集団としてのまとまりが弱い≫

 学級生活でも離散的集合体であり、学級としてのまとまりに弱さがありま
す。学級全員が一致協力して、団結して行動できるには中学年を待たなけれ
ばなりません。低学年生では、それぞれの子どもが自分勝手に、その時々の
気分の趣くままに、好き勝手に、行動することが多いです。全員で一つの目
的に向かって一致協力してやろうという意志が育っていません。二年生後半
になって、やっとグループ学習、グループ作業、グループ製作などのまとま
った共同学習ができるようになってきます。徐々に集団生活になれていく段
階で、組織的な活動をすることは困難です。
 前に述べたように、1,2年生は、外見上、みんなと仲よく遊んでいるよ
うに見えるが、また遊んでいるときもあるが、すぐ友だちから離れて一人遊
びを始めたり、すぐまた仲間に入って遊んだりします。一つのことに集中す
ることができにくいところがあります。
 このように低学年生は自己中心的な行動が多く、他人の立場に立って客観
的に思考することに弱さがあります。自分の興味関心のおもむくままに、自
分を中心にして思考したり行動したり、主観性の強い心理的傾向がみられま
す。自分の行動についての反省的思考もあまりみられません。


≪教師や母親の判断に依存する傾向がある≫

 教師や母親に依存する傾向がみられるのもこの時期です。教師や母親の言
いつけはよく守ります。用事を頼むと喜んで実行します。独立心は伸びてい
るが、まだ自分で自主的に判断して行動することに弱さがあります。やって
よいか、どうやればよいか、おしっこに行ってよいか、薬を飲んでよいか、
始めてよいか、書いてよいか、食べてよいか、いちいち教師(母親)に聞き
に来ることが多く、自分で判断して行動することができません。大人の判断
を待たないと自分からの行動が動けない傾向があります。
 教師のコトバに強く依存する傾向もあります。教師から言われたことは神
様の指示や命令のように信頼し、そのコトバどおりにきちんと行動します。
学級の集団生活での規則の順守は、教師によって与えられる他律的なものに
なる傾向が強く、担任教師のコトバによって学級が統一され動いていく傾向
にあります。それだけに教師のコトバかけのあり方が大切となります。時の
気分で、突発的に行動したりもします。


≪告げ口が多い≫

 低学年の子どもは、善悪の判断は、他律的です。多くの場合、先生が言っ
たから、父母のいいつけだから、守らなければならないと考えています。そ
れだけに低学年生には教師や父母は、よいこと、わるいことをしっかりと教
えておくことが大切です。これはよいこと、これは悪いこと、なぜそうなの
かを具体例をあげて説明します。
 低学年生は、告げ口が得意です。告げ口は低学年の自己中心的思考のあら
われの一つです。
 先生、……ちゃんが廊下を走ったよ。
 ……ちゃんがぼくをぶったんだよ。
 ……ちゃんがぼくの帽子をふんづけたんだよ。
 ……ちゃんが机の上にのっかったんだよ。
 規則に対して厳しい態度で守ろうとしています。守らない子がいるとすぐ
教師に言いに来ます。ところが、告げ口の内容を調べてみると、告げ口にき
た子も、廊下をその子もあとを追って一緒に走ったり、ぶたれたからといっ
て、より強くぶち返したり、ふんづけられてもしかたがない場所に帽子を落
としていたり、というような事実もあります。それを逆に追求すると、今度
は過去にあったほかの他人の例をあげたてて、自分の行動を正当化します。
 これら告げ口には、自分の悪さをタナに上げて、他人の悪さを先生に知ら
せて、先生とコニュニケーションをしたい、お話しをしたい、自分の存在を
認めてもらいたいという心理が働いているように思われます。低学年は、自
分のやった悪さの認識ができていません。自己中心的思考が強く、物事を客
観的につかむことが十分でありません。


      
低学年の話しコトバの実態


 低学年生は、授業中に「ハイハイ」と活発に手を挙げます。うるさいほど
「ハイハイ」と声を出して、教師の指名を求めます。活発な子は自分の席を
立って、教師のそばまで来て「ハイハイ」を言います。指名されると「もう、
忘れてしまった」と答える子もいます。「ハイハイ」を言うことに意識が集
中し、答えるべき内容が消し飛んでしまっているのです。
 低学年は集団意識が弱く、授業での教師とのやりとりは、それぞれの子ど
もは、教師と自分との一対一で話しをしているつもりになっています。学級
集団での教師との話し合いはあるべきか、どうするのがよいか、の認識がま
だ弱いです。
 低学年の話しコトバの実態としては、小さな声で話す、一語表現、助詞落
ち、エコラリー、横取りなどがあります。自分の考えを、きちんとした文
(主部+述部)の連続で分かりやすく相手に伝える表現能力が不十分です。
だが、つたない話力で活発に相手と話し合おうとする意欲はおどろくほどの
ものがあります。
 次のような話しコトバの実態がみられます。父母の協力を求めて、これら
を退治していく指導が必要です。


      
(1)小さな声で話す子の指導


 小学校入学当初の一年生は、はじめの一週間は全児童がお行儀がよい子で
す。いすに姿勢よくすわり教師の話しを静かに聞いています。隣りの子と話
したり、立ち歩いたりする子はいません。おしっこもがまんして聞いていま
す。緊張しすぎておもらしをする子もいます。たぶん母親から毎朝「学校へ
行ったら、先生のお話しをお行儀よくして聞いているのですよ。むだなおし
ゃべりをすると先生に叱られますよ」と、きつく言われて登校しているので
しょう。
 入学式から一週間すぎると、活発な子と、おとなしい子との差がそろそろ
現れてきます。三週間がすぎると、その差がはっきりと出てきます。友だち
にも先生にも学校にも慣れてきます。
 三週間も過ぎると、おしっこをがまんする子はいません。授業中でも、
「先生、おしっこ」と、トイレに行く許可を求めにきます。一年生は、トイ
レに行く許可を一人に与えると、次々と許可を求めに来る習性があります。
こんな笑い話があります。多くの教師が参観している研究授業の最中、一人
の児童がトイレに行く許可を求めにきました。おもらしされてはたいへんと、
教師はトイレに行くように指示しました。そうしたらどうでしょう。一人に
許可を与えると次々と許可を求め始めて、とうとう教室ががらあきになって
しまったということです。
 活発な子は、よくおしゃべりをします。活発な子の中には、のびのびしす
ぎて友だちに乱暴したり、無軌道な行動にはしる子もいます。このような子
には、教師がていねいに過ちを話してやると問題行動をやめるようになりま
す。このような子は、授業中も活発に発言します。
 問題があるのは、おとなしい子です。授業中に発言はしません。友だちと
のおしゃべりや遊びもほとんどしません。授業中に教師が指名して話させて
も、蚊の鳴くような小さな声でしか話しません。中には指名されるとしくし
く泣き出す子もいます。
 しゃべらない、おとなしい子には次のような指導をするとよいでしょう。

≪心理的緊張の解放≫

 @教師が休憩時間などに機会を作っては、話しかけたり、一緒に遊ん  
  であげたりする。
 A友だちを紹介し、一緒に遊んであげるように、誘いかけるようにさせる。
 B授業中に指名されて小さな声で答えたら、褒めてやる。他児童に拍  
  手させる。
 C授業中に、大勢の前でできるだけ話させる機会を作ってあげる。
 Dおとなしい子に対して、教師や児童の心ない不用意な言動を慎むこと 
  です。どもったり、つっかえたり、小さな声で話しても、笑ったりしな
  いことです。
 E小さな声で話す子には、黒板に小さな一つ丸を、大きな声で話す子に 
  は、黒板いっぱいに大きな花丸をあげます。大きな花丸がもらえるよう
  に話しましょうと誘いかけます。
 F両親に、家庭内でも、話しかけたりして、できるだけおしゃべりする 
  機会を多くする、一緒に遊んであげる機会を多くする、ようにお願いす
  る。近所の子どもたちとも遊ぶようにお願いする。放課後、近所の子に
  誘ってあげるようにお願いする。
 G親が、子どもに「黙ってなさい。あたしの話しを聞きなさい。お前の 
  言うことは間違っている」と、あたまごなしに決めつけた言い方をしな
  い。「そうなの、それでどうしたの、それで、そんなことをしたの、そ
  うだったの、それでどうなったの。うんうん、それからどうなった  
  の?」などと発言を促すあいづちを上手に使って、話しださせる、引き
  出す。


       
(2)一語表現を退治する


教師 きのう、正夫君はどこへ行きましたか。
正夫 デパート
教師 正夫君は、デパートへ行って、何を買いましたか。
正夫 なんにも。
教師 何も買わなかったら、つまらなかったでしょう。
正夫 ううん。
教師 じゃ、楽しかったの。
正夫 うん。
教師 どうして楽しかったの。
正夫 遊んだ。
教師 デパートで遊んだの。デパートで遊んだりすると、デパートのおねい
   さんい怒られるよ。 
正夫 屋上で。

 一語表現は、ぶっきらぼうで、まずしい言語表現ですね。この子は、まだ
赤ちゃんのような話し方が残っています。「……ました」「……です」のよ
うに文末まできちんと話すように常日頃から常時指導をしていくように心が
けます。父母懇談会でも話題にして父母の協力や指導を得るようにします。
家庭でもそうした心遣いを持って、文末まで、文として話す指導をお願いし
ます。
次のように話す指導をお願いします。

正夫 きのう、デパートへ行きました。
正夫 ぼくは、デパートでは何も買いませんでした。
正夫 いいえ。
正夫 はい。
正夫 ぼくは、デパートで遊びました。
正夫 ぼくは、デパートの屋上で遊びました。

 一般に話しコトバは、文章コトバとは違って場面に負うことが多く、いち
いち文末まで話さなくても了解できるので、省略される話し方が行われるの
がふつうです。しかし、大人ならば、きちんとした主述文で話そうと意識す
れば、直ちに話せますが、低学年にはそうはいきません。そうした言語能力
がないからです。主述文で話す能力がなければ、あらたまった場所できちん
とした話し方ができないばかりでなく、主述文+主述文+主述文で記述して
いく作文もうまく書けないことになります。
 一般に話し言葉は、場面によりかかり、会話者同士に了解事項が前提され
ているだけに省略が多い文になるとは、よく言われますが、仲がいい恋人同
士や夫婦同士は、目の合図または単語一語でコミュニケーションが成立しま
す。夫が「新聞」と言えば、妻は「新聞を持って来い」なのか「新聞を片づ
けろ」なのか「新聞はまだ来ないのか」なのかが分かります。
 大人は主述文で話そうとすれば直ちに話せますが、低学年生にはそのよう
な能力がありません。授業中の発表、学級会、多くの児童を前にしての話は
書き言葉に近い話し言葉で話さなければなりません。これは作文の文章表現
にもつながります。正しい文型で話させることは、対象に対する判断をはっ
きりさせ、認識・思考を論理的に厳密に行わせる訓練にもなります。
 次のような会話ができるといいですね。

教師 きのう、正夫君はどこへ行きましたか。
正夫 ぼくは、おかあさんとデパートへ行きました。
教師 正夫君は、デパートで何を買いましたか。
正夫 ぼくは、デパートで何も買いませんでした。けれども、デパートの屋
   上の遊園地でイベントをやっていて、いろいろなものを見物したの 
   で楽しかったです。


       
(3)助詞落ちを退治する


 低学年生の話しコトバを聞いていると、次のような助詞落ち表現が多くみ
られます。

「ぼく、けさ、コッペパン、食べた」
「しらない人、ぼくの犬、いし、なげた」
「かみなり、ピカピカ、こわかったよ」
「いぬ、あっち、いっちゃった」
「きのう、ぼく、デパート いった」
「さっき、ハンバーガー、たべた」
「ふみきり、カンカン、けいほうき、なってる」
「わたし、さらあらい、てつだい、した」

 このような話し方をする児童には、その場で正しい表現で話すように指導
しましょう。教師だけでなく、両親にもこうした実態を話して、直す協力・
指導をお願いします。教師はこうした助詞落ちの例文を全児童にプリントし
て配布し、それを正しく話すにはどうすればよいか、指導するのもいいです
ね。

       
(4)エコラリーを退治する


 エコラリーとは、同語反復のことです。

(例1)
教師 3たす5は、いくつですか。
児童 3たす5ですか。

(例2)
教師 さあ、算数の勉強をしましょう。筆箱とノートだけを出しなさい。
児童 算数の本は出さなくてもいいんですか。

(例3)
教師 あすの図工は工作をします。紙粘土でタワーを作ります。前に話して
   いるように、新聞紙3枚、ビールビン一本、牛乳ビン一本を持ってき
   てください。紙粘土は、先生がまとめてか買ってますので、皆さんは
   持ってこなくていいです。
A児 あすの図工は工作ですか。
B児 持ってくるのは、新聞紙3まい、ビールビン一本、牛乳ビン一本で 
   すか。
C児 紙粘土でタワーを作るんですか。
D児 紙粘土を持ってこなくていいんですか。

 低学年は、教師が話したことを、幾度も聞き返します。自分では分かって
いるのに、自分の口から再度聞き返し、教師に同じことを言わせないと納得
しない子どもがいます。教師と一対一で話し、念押しで確かめないと納得し
ないところがあります。
 教師は「低学年は、やっと赤ちゃんから抜け出したかわいい坊や・お嬢さ
んたちだ。一人一人を大切にして、ていねいに答えてあげるのが、やさしく
てよい教師(両親)だ。聞き返しは念押しだから、慎重に考えるよい子だろ
う」などと考えてはいけません。
 教師(両親)が一度話したら、パッとのみこみ、直ちに行動する子どもに
育てる必要があります。ぐずぐず、のろのろ、くどすぎる行動を(思考)を
しない子どもに育てることです。教師が一人一人に話していたら、学級児童
数が35名なら、同じことを35回も繰り返さなければならなくなります。
 これらのことを、学級懇談会でも話題にして両親の協力指導をお願いする
とよいでしょう。


        
(5)話の横取りを退治する


教師 けさ、先生が新聞を読んでいたら、こんなことが書いてありました。
   九州の方で、男の子がゆうかいされて、死体で発見されたそうです。
   男の子は、皆と同じで小学校一年生で……
A児 知ってる、知ってる。
B児 お母さんも、そのこと、話していたよ。
C児 山も奥の道路のすぐそばの雑木林にすてられていたんだって。
D児 犯人は五百万円、持って来いと電話したんだって。
E児 ぼくも、知らない人から声をかけられたことある。
F児 わたしもゆうかいされそうになったことあるよ。

 低学年生は集団意識が薄いです。学習時でも、自分と教師とだけで、自分
と他児童とだけで、いつも一対一で話しているつもりになっています。一つ
の話しが終らないうちに、話しの途中で次々と勝手に話し出します。話し内
容が横道へそれていきます。話題と直接に関係のない単語をとらえて、その
単語に関連することついて話し出します。
 教師の話しが終わらないうちに、教室内のあちこちからガヤガヤが始まり
ます。放っておくと、いつまでもやみません。教師から指名を受けてから話
す、自分が話したくてもがまんして、他人の話しを終わりまで聞く、こうし
たしつけをきちんと身につけておくことです。甘やかすことなく、学習態度
のけじめは厳しくしつけるようにします。
 他人の話しを終わりまで聞きとらせるには、「どんな内容かな。ぼくの知
らないことを話すのかな。ぼくのほうが余計に知っていることはないかな」
などの期待感(問い)を持ちながら聞かせるようにするとよいでしょう。


       
 (6)ダラダラ文を退治する


 低学年生の話し方の実態として多くみられるのはダラダラ文です。ダラダ
ラ文とは、「アノネ……トネ……したらね……テネ……テネ……、ダケドネ
……シタカラネ……チャッタノ」という型のどこまでも切れ目なく続く文の
ことです。
 ダラダラ文を話さないようにするために、例えば、子どものテープを録音
し、それを文字化したプリントを児童に配布します。プリントを読ませると
「ヘー、読むと、全然、分かりにくいね」という声が出てきます。こうした
まずい実態を視覚に訴えて理解させます。次のどう話せばよいか、正しい文
に直させます。


       
 (7)ハイ・ハイを退治する


 低学年生は、教師から指名されて認められたい欲求が先立ち、われ先に挙
手をして「ハイハイ」を繰り返します。積極性のある子は教室が割れんばか
りの大声で「ハイハイ」を繰り返します。
 「ハイハイ」を繰り返すことは活発でよいようにみえますが、答えを忘れ
てしまうという事例からも分かるように、思考が浅薄に流れ「じっくりと考
えさせる」指導ができません。パッと反応できない子、じっくり思考型の児
童もいます。思考進行中に「ハイハイ」を繰り返されると騒々しさから思考
中断をおこす子もいるでしょう。
 新卒教師の授業は、教師の問いに直ちに「ハイハイ」と反応した児童を指
名し、答えが正しければ、次の新しい問いを出すというように超特急で授業
が進行しがちです。これでは優秀児だけを相手に授業することになり、大多
数の子たちは取り残されてしまうことになります。
 教師の問いに対して直ちに「ハハイ」と言わせてはいけません。間をおく
ことです。教師が発問したら黙って考えさせる時間をもうけ、「さあ、発表
しましょう」で一斉に無言で手を上げさせます。「ハイ」を言わせたいなら、
一度だけにします。発表はいすにすわらせたままにすると能率的です。いす
をガタガタさせたり、立ったりする座ったりする時間のロスをなくせます。


        
(附)かがみ文字を退治する


 これは話しコトバのことではありませんが、低学年児童によくみられる書
き文字の実態です。それで付録としてちょっと付記します。
 かがみ文字(mirror writing)は、うらがえし文字、さかさ文字とも言わ
れます。特に一年生に多く見られる現象です。幼児は、よく絵本をさかさに
見ていることがあります。これは上下、左右の方向感覚が未成熟なためです。
 かがみ文字は、二年生になるとぐっと少なくなります。左利きの子に多く
見られます。
 かがみ文字の直し方は、一画ごとの始筆の位置、運筆の方向、終筆の位置
をはっきりと知らせることです。つまり、初めにどこに鉛筆を置くか、その
位置を決めます。次にどの方向へ鉛筆を動かして進めていくか。どの位置で
鉛筆の線を止めるか。これらを、教師が板書して示しながらていねいに指導
します。トレーシングペーパーや薄い紙で正しい文字をなぞって、それを裏
返して見せて分からせるのもよいでしょう。
 この書字指導方法は、1,2年生のひらがなの書字指導、カタカナの書字
指導でも同じように使えます。文字の字形を整えて書くには、一画ごとの始
筆の位置、運筆の方向、終筆の位置をはっきりと意識させて書かせることが
大切です。


       
低学年生の家庭勉強のさせ方


 低学年児童の思考様式は、具体的であり直接的であり現象的であると言え
ます。本質を抽象し、原理原則を概括して思考することは容易ではありませ
ん。お母さんの仕事について発表させるとします。ぼくのお母さん、わたし
のお母さん、友だちのだれさんのお母さんの仕事についてはよ分かっている
が、多くのおかあさんの仕事をまとめた「母親一般の仕事には……である」
と、抽象的に概括して理解するのは容易ではありません。
 お店の学習をするとします。八百屋さん、果物屋さん、魚屋さん、パン屋
さん、洋品店、ドラッグストアー、惣菜屋さん、それぞれの店で売っている
品物、店内や売場の様子、働いている人たちの仕事の内容、売るための工夫
や苦労など、個別的な現象面では理解しているが、商品の製造過程、流通過
程、安く販売する工夫、安心安全・信頼信用へ配慮などを抽象して理解する
ことは困難です。
 家庭における勉強は、こうした社会事象で行われている個別的な現象(事
柄)を食卓を囲んだ時、テレビでいろんな場面が映し出された時、その場面
を話題にして語り合ってみよう。親子で食事作りをしてみよう。おいしく料
理するにはどんな工夫をすればよいか話して聞かせましょう。父母が、家事
や掃除や洗濯や電気機器の修理やちょっとした大工仕事などをする時、それ
らをただ黙って親だけでやってしまうのでなく、親子が一緒になってやって
みましょう。現状がこうで、こうするとこうなる、こう工夫するとうまく完
成する、こうすると失敗する、こんな材料・道具があると仕事が簡単に済む、
材料・道具がないので一緒に買に行こう、など、親だけでやってしまうので
なく、子どもをそばにおいて一緒に工夫したり考えたりしながら、仕事を楽
しんで、遊びのつもりで楽しんで、一緒に考え合い語り合いながら共同作業
をしましょう。
 学校の勉強のしかたは、低学年はまだ自学自習ができません。自分から問
題をを見い出し、やるべき問題を自分からすすんでやることはできません。
父母が「この問題を、私と一緒に勉強していきましょうね。」と誘いかけ、
子どものそばについていて、一緒に考え合い、語り合って解いていくように
します。一緒に遊びのつもりで問題を材料にしつつ楽しんで語り合っていく
ようにします。問題を話材にして楽しく語り合いことがコツで、ひたいにシ
ワを寄せてしちめんどうな理屈・理詰めで「教えてやろう」でやってはいけ
ません。これでは勉強嫌いになってしまいます。勉強は遊びだ、のつもりで
楽しんでやりましょう。
 親としては、とかく「なんで、こんなの、分からないの」と、気短にガミ
ガミと怒りがちになります。これは一番下手な教え方です。とかく母親はこ
うなりがちですが、これでは勉強嫌いになってしまいます。怒りたくなるの
をじっと我慢して、この我慢がとっても重要です、にこにこしながら楽しく
語り合って、親も「これ難しいわね、こんなふうに考えてみようか、これで
もだめか、ではこうしたらどうかな」と、わざと思考錯誤をやってみせます。
怒りたくなるのをじっと我慢して、勉強は楽しいね、という雰囲気・気分を
作り出して、一緒に遊びを楽しむようなつもりで勉強することが一番のコツ
です。




  
小学校3,4年生の心とからだ



≪中学年は、ギャング・エイジの時代≫


 中学年は知識欲と行動欲が旺盛な時期です。何にでも、さわってみたい、
いじってみたい、見てみたいという知りたがり屋、やりたがり屋の時期です。
鉄道、切手収集、模型作り、プラモデル、昆虫飼育、人気スポーツ選手など
に興味をもちはじめます。行動範囲も広がり、自転車に乗って遠くまで友人
の家に遊びに行ったり、電車やバスの乗って商店街や大型スーパーまで買い
物に行ったりもします。
 小学校中学年は、ギャング・エイジの時期と言われています。ギャング
(gang)とは、徒党・仲間・一味・一群という意味で、エイジ(age)とは、
年代・時期という意味です。友だちとワイワイ、ガヤガヤと集団で遊ぶ時期
です。落ち着きがなく、チョロチョロして行動性に富んでいます。一か所に
じっとしていません。冒険好きで、好奇心が旺盛です。何かおもしろいもの
はないかとうろちょろしています。いつも寄り道をして、おもしろそうなも
のに興味を持ちます。集団でワッと行動します。よい行動であれ、悪い行動
であれ、友人同士が群れをなして行動します。荒々しい、乱暴な行動もみら
れます。イタズラやイジメも集団で行います。
 狭い空き地を見つけては集団でワイワイ言いながらボール投げやボールけ
りをしたり、ゲーム遊びをしている子どもは大体が小学校中学年です。大型
店内にあるゲーム機にたむろして騒いでいる、順番待ちで行列しているのも
多くは3,4年生です。他人の家に集団であがって騒がしく、遠慮すること
なく遊ぶのも3,4年生に多くみられます。
 道路に落書きしたり、垣根に穴をあけて他人の敷地に入りこんだり、他人
の家のチャイムを押してさっと逃げたりするのも、多くは3,4年生です。自
転車に慣れてきて、スピードを出して乗りまわしたり、手放し運転をしたり、
友だちと競争したりするのも3,4年生に多く見られます。空家を隠れ家にし
て、そこを根城にしてギャング遊びをしたりもします。崖すべり、木登り、
チャンバラ、ぷろれすあそびなど、危険な遊びもするようになります。ケガ
も増えてきます。いろいろなスポーツの模倣遊びをするのも3,4年生からで
す。テレビのお笑いを真似た行動、道化た行動、ふざけで笑わす行動を好む
のも、この時期です。


≪仲間意識が出てくる≫

 中学年になると友だちが増えてきます。低学年にあった母親を中心にした
生活から離れてきます。母親の影響を受ける生活から、友だちを中心にした
生活、友だちから影響を受ける生活に交代します。友だちとの約束を大切に
します。母親がスーパーへ一緒に買い物に行こう、父親がどっかへ連れてい
こう、と誘っても、それを断って友だちの所へ遊びに行くようになります。
 遊びに夢中で、夕飯の時刻になっても帰らないということがしばしばあり
ます。親の意見よりも友人の意見を大切にし、親からこまごまと干渉される
ことをいやがり出します。親から離れていくようになります。親離れがはじ
まり、自分の考えで判断し、行動する独立心・自立心が出てきます。
 親が意見や小言を言っても、うるさがられるだけで、あまり効き目があり
ません。母親は、「わたしから離れていって、自分で何でもやるようになっ
て、すぐ友だちの所へ行くようになって、さびしいわ」と感じるようになる
のもこの時期です。

           
参考資料(1)

 下記は、東京新聞(2015・2・6)の投稿欄「あけくれ」に掲載されていた
文章です。「子どもと一緒にいられる時間を大切に」というご意見です。

          一緒の時間
              主婦 矢崎菜央 37(東京都港区)

 三歳の次男が、四月から幼稚園に通い始める。次男はとにかく甘えん坊で、
私からなかなか離れることができない。
 最近は、「まだ二歳だから幼稚園に入れない」と言って、年齢詐称までし
たりする。
 ほんの数年前までは、長男、長女にも手がかかり、私はとにかく一日中、
動き回っていた。お風呂や食事の時間は、特にあわただしかった。
 その長男、長女も、あっという間に小学校三年生と一年生になり、友だち
との時間も増えてきたため、今は、ほとんどの時間を、次男と過ごす生活に
なっている。
 私は思う。
 子どもと一緒に過ごせる時間はとても短い。だからこそ、子どもと一緒に
いられる時間を大切にしていきたい。
 子育てというのは貴重な経験だ。そんな体験をさせてもらってありがとう、
と感謝しながら、これからも三人の子どもたちと過ごしたい。


            
参考資料(2)

 下記は、読売新聞(2014・12・24)の投書欄「気流」に掲載されていた記
事です。「子どもと一緒に過ごせる時間は実に短い」と書いてあります。

     スマホ操作に熱中 子ども時間大切に
                 主婦 坂井泰子 43(神戸市)

 先日、スーパーの休憩室で、2組の親子の姿が目にとまった。2組とも子
どもは2歳くらいで、座ってジュースを飲んでいた。それぞれの父親、母親
は、子どもには目もくれず、スマートフォンを操作していた。
 レストランでも同じような光景を見た。4人家族がテーブルを囲み、スマ
ホやゲーム機に夢中になって、全く会話が交わされなかったのを見て、ぞっ
とした。
 私の2人の子どもは、今春に就職し独立した。なので最近はさびしく、子
どもたちが小さかった頃のことを思い出して、過ごしている。子どもと一緒
に過ごせる時間は実に短い。幼い子どもを持つ親に言いたい。今のうちに子
どもの顔をしっかり見つめて、会話をしてほしい。スマホは、お子さんの笑
顔より大事なのですか。


            
参考資料(3)

 下記は、読売新聞(2014・5・8)の投書欄「気流」に掲載されていた記事
です。「親子の触れ合いを大切にしてもらいたい」と書いてあります。

     スマホに母親熱中 子ども成長が心配
               無職 中原保 66 (福岡県みやこ市)

 最近、街で見かける光景で気になることがある。それは、若い母親の多く
が、子どもと一緒に歩いたり、バスや電車に乗ったりしているとき、スマー
トフォンの画面ばかり見ていることだ。子どもと会話をしないばかりか、目
を向けることもないように見える。
 言うまでもないことだが、母親との濃密なスキンシップの中から子どもは
育っていく。母親から見つめられ、語りかけられることによって言葉やしぐ
さを覚え、心を育んでいくものだ。このままでは、子どもたちの心が順調に
成長できるか心配になる。
 スマホは便利なツールの一つだ。だが、使い方のTPOを誤れば、子どもた
ちにもしわ寄せがいく。もっと子どもとの時間を確保し、親子の触れ合いを
大切にしてもらいたい。

           
 参考資料(4)

京新聞(2015・2・23)投書欄「発言」に投稿されていた記事です。

        スマホ漬けの女子高生心配
              無職 桑野真紀子 74 (東京都八王子市)

 女子高生の一日平均のスマホにかかわる時間が七時間と報道された。驚き、
あきれ、不気味に感じた。一日の三分の一に近い時間、スマホとかかわって
いるとは由々しき問題だ。
 人生で一番多感なこの年代を考えるとき、何とか歯止めをかけなければと
思う。親、教師はもとより、本人にも強く自覚を促したい。数年で成人とな
り、さらには親に。人生で今がいかに大切な時期か分かるだろう。
 読書、スポーツ、音楽、ボランティア活動など、勉強以外にも人間として
成長する体験はたくさんある。人間関係はスマホを通してではなく、フェー
スツーフェース、相手の目を見て深めてほしいと切に願う。

            
 参考資料(5)

 
下記は、朝日新聞(2015・2・20)の投書欄「声」に掲載されていた投稿記
事です。

        スマホなしの生活を楽しむ
               主婦  三森恵美 (栃木県 30)

 長年使っていたスマートフォンを手放した。
 きっかけは、公園で出会ったある女性の一言だった。「最近、スマホばか
り見て、子どものことを見ていないような気がする」と彼女は言った。私も
思い当たるような気がした。そこで思い切って、手放すことにしたのだ。
 スマホのない生活は以外に新鮮だった。何よりも、子どもと一緒に遊ぶ時
間が増えた。
 インターネットをダラダラと見ることがなくなり、ソーシャル・ネット
ワーキング・サービス(SNS)をやる代わりに新聞や本を読むようになっ
た。SNSをやらなくなったことで、本当の友達とは何かを考える機会もで
きた。
 スマホは、すごく便利だ。私自身、スマホを持っていた時は、分からない
ことはすぐにインターネットで調べた。SNSを駆使して、すごく楽しんで
もいた。しかし同時に、何かに縛られているようなストレスを、いつも感じ
ていたように思う。
 みなさん、スマホのない生活もいいですよ。少しの不自由さを楽しんでみ
てはいかがですか。


≪言い訳、言い逃れを言い出す≫

 この時期の子どもは、自分の悪さを指摘されると、なんだ、かんだと理屈
をつけ、言い訳・言い逃れをするチエを働かせるようになります。それだけ
チエが出てきたのですから、喜ぶべきです。それだけ我が子が精神的に成長
したのですから、むしろ喜ぶべきことです。親はなんだか最近になって親に
はむかうようになって、生意気になってきた、と嘆くようではいけません。
「あなたは親のいうことをきかなくなった。反抗するようになった、素直に
なりなさい」と非難する前に、この成長の事実を大事にして、上手に対応し
ていくようにします。
 中学年は、何かにつけ行動的になり、物事に積極的に行動する時期です。
からだがよく動き回ります。一つのことに長時間集中して作業ができない、
気が散りやすいところもあれば、物事に打ち込みだすと夢中になるところも
あります。ゲーム機であそぶ、プラモデル作りなどは長時間集中してやり出
すこともあります。競争心も旺盛になり、負けず嫌いになり、他人よりぬき
ん出てえばりたがる時期でもあります。スポーツやゲームの勝負に夢中にな
り、ケンカになることもしばしばあります。スポーツ、習い事、趣味などに
興味をもつ時期ですから、それを生かして身につけさせていく、よいチャン
スでもあります。


≪自律的な集団行動を好む≫

 中学年になると自分の主体的な判断で行動していくようになります。自分
で自分の行動をコントロールできる自立的な力が身についてきます。仲間意
識が高まり、組織的集団的な行動をするようになります。低学年までは親の
指示や命令に素直に従って行動しますが、中学年になると、親の一方的な指
示や命令には反抗するようになります。
 親の一方的な押しつけに反発するようになります。親の考えを子どもに納
得させるためには、対話が必要となります。話し合うことです。子どもの言
い分を十分に尊重して対話していくようにします。
 相手はまだ子どもだと考えて、親の主張を無理に押し通そうとすると、子
どもはますます意固地になって対立が深まり、へんに意地っ張りな、ひねく
れた子になってしまいます。親は大人の立場からおおらかに、余裕をもって
対応するようにしましょう。おおらかにとは、子どもの対応に許容的に対応
するということです。親の思い通りの子にしようと、親の固定観念をごり押
ししては失敗します。


≪自立的な集団活動ができるようになる≫

 学級会での自主的な話し合いも上手にできるようになります。司会者、記
録者を出し、話し合いのルールにのっとり、民主的な手続きで物事を決定で
きるようになります。決定事項は自分らの力で順守していくようになります。
約束や規則を破ったりすると、集団で攻撃を与えたり制裁(罰)を加えたり
もします。決定事項がうまくいかない場合は、また全員で話し合い、適切に
改めていくこともやるようになります。友だちとの約束もよく守ります。
 母親との約束よりも、友だちとの約束を大切にします。子ども同士で決め
た約束や規則は堅く守ります。計画的な実行力も出てきます。自立心が芽生
えてきて、自分たちの集団に他人(親、大人)がチン入し、あれこれ干渉さ
れることをすごく嫌います。自分たちだけで、自分たちが好むように集団を
運営していくことを好みます。
 影響を受けるのは、お母さんからではなく、友だちからが強くなります。
集団を通して、モノ・コトへの対応の仕方や態度を身につけていきます。友
人を通して、ものの見方・考え方・行動の仕方を学んでいきます。それだけ
に、どんな友だちと付き合っているか、どんなグループの仲間に入っている
かが大切となります。


≪口答えの時期≫

 小学校中学年になると、親に口答えをするようになります。低学年までは、
親の指示や命令をハイハイと素直に受け入れて、親まかせの行動をするのが
通常ですが、中学年になると自我意識が出てきて、自分の考えや判断を持つ
ようになり、自分の価値基準で行動するようになります。
 中学年になると、親の指示や命令に対して「だって」「でも」とか言い出
します。「ぼくだけじゃないよ、みんながやってるよ」とか「ぼくだけを叱
らないでよ。妹もやっているじゃないか。時々、ママだってやることもある
よ」とか言うようになります。「ママの考えはメチャクチャだ。昨日はイイ
と言って、今日はダメと言う。おかしいよ」と口答えをします。「わたしが
女の子だからって、わたしにばかりやらせないで。兄さんにもやらせたらい
いでしょ」とか「わたしがちゃんとやろうとしてるんだから、その前にいち
いちうるさく言わないでよ」とか反抗します。
 親は、「親に口答えするとは何事だ。最近、生意気になって困ったもの
だ」とか「親に反抗するな。親不孝者だぞ」とか「三年生になったら、急に
素直でなくなってきた」とか、はては「うるさい、だまれ」と、声を荒げて
しまうことになります。
 中学年になると、自我意識が出てきて、自分の考えや判断で行動しようと
します。親のご都合主義の対応、つまり、その時の気分によって違ったり、
相手によって違った対応をすると、子どもは正当な理屈を述べ立てて反発し
てくるようになります。いちいち親の判断を仰がなくなり、自分の考えで行
動しはじめます。親の意見より友だちの意見を大切にするようになり、とな
り町まで子ども同士で自転車に乗って買い物に行ったりします。
 この年頃は、好奇心や冒険心が高まり、スリルを求め、きまりを破ったり、
禁止事項を破りだすようになります。自分一人でやれないことも、友だち同
士の集団で規律に反する行動をします。だから、親は、中学年の口答えは非
行に前兆ではないかと心配することになります。
 しかし、中学年の口答えは、彼等が順調に成長し発達している証明です。
親が悲しむべきことではなく、むしろ喜ぶべきことです。中学年になると、
物事を筋道だって考えたり、論理的に理屈をつけて考えたりする能力がつい
てきます。自分なりの判断力や批判力を持つようになります。親離れが始ま
ったのです。中学年の口答えは、順調に成長している証明であり、非行の前
兆ではありません。


≪口答え期と反抗期とのちがい≫

 発達心理学では、2〜4才頃を「第一反抗期」と言い、12〜14才頃を
「第二反抗期」と言います。
 2〜4才頃の幼児は、親の手を借りなくても出来ることが増えてくるため
に、何かにつけて「いや」とか「自分でする」とかと我意を通そうとします。
「みんなと一緒に遊びなさい」「いや」、「こちらへきなさい」「いや」の
ような母子会話が交わされます。この時期を「第一反抗期」と言います。
 、12〜14才頃の思春期になると、心と身体の急激な変化で精神と肉体
のバランスがくずれ、親の干渉から逃れ、親から独立しようとして、親の言
いなりにならず、やたら反抗的な態度・自己主張をするようになります。こ
の時期を「第二反抗期」と言います。
 これに対して、小学校中学年にあらわれる口答えは、自我意識が芽生えて、
親から離れて、自分の判断で行動しようとします。この時期を「中間反抗
期」とか「口答えの時期」とか言います。
 中学年の口答えは自発性が発達してきた証拠ですから、親が無理に抑えて
従順なよい子ちゃんに育てると、青年期になっても親から独立した行動がと
れない青年になったり、小さな精神的ショックを受けただけでふさぎ込んだ
り、ノイローゼになったり、家庭内暴力を起こしたりします。雑草のように
いばらの道をたくましく生きる人生を送れない大人に成長してしまいます。
 中学年の口答えは、大いに奨励してよいのです。自己主張ができなかった
子が、できるようになったのですから、大いに理屈を言わせてよいのです。
筋道だった、論理的な話しができるようになったのです。
 こうした反抗期は必ず通る成長過程の道筋です。少しも心配する必要はあ
りません。
 子どもの言い分に親は耳を傾けるようにしましょう。親はとかく頭ごなし
に叱りつけて黙らせようとしがちです。すると、子どもはむきになって口答
えをするでしょう。子どもの言い分に耳を傾け、そうした考えができるよう
になったことをほめてやりましょう。
 親の考えを、筋道だった話し方で、静かに、相談をするような語りかけ方
で話してみましょう。むりに親の考えを押しつけたりせず、子どもに問いか
け、共に考え合うような話しかけにします。どちらが正しいかの判断の余地
を残して、親の結論を押しつけないことです。親の身勝手な言い逃れ、責任
逃れの言い訳をしてはいけません。即座に非を詫びればいいのです。そうす
れば、それを手本に子どもは模倣するようになるでしょう。
 子どもの口答えに対して、頭ごなしに押さえつけるのでなく、イエス(な
るほど)と認めてやり、次に、バット(しかし)と親の考えを述べるように
します。初めは「なるほど」と子どもの主張に耳を傾けてやり、共感を示し
てやります。次に、親の考えを筋道を通して述べ、子どもが気持ちよく「な
るほど」と理解し納得できるように語り出していきます。子どもの意見が正
しければ、すぐに受け入れることです。
 厳格にしつけるとは、子どもの口答えや反抗を押さえることではありませ
ん。子どもの気持ちの中に、こんなことをしたら親は悲しむだろう、親に不
快感を与えていやな思いををさせるだろう。そのためには自分はどう行動し
ていくのがよいか、他人を思いやる、自己規制のできる行動をするようにし
つけていくことです。


≪付和雷同でワルサをする≫

 その時の雰囲気や流れで、みんなでワッとワルサをやってしまうのも、中
学年の時期です。悪い事だと知りつつ、みんながやるものだからオレも調子
にのってやってしまうという時期です。その時のはずみでやってしまうので
す。
 徒党を組んで、集団でいじめたり、からかかったりするのも、この時期で
す。いたずらをしたり、仲間はずれにしたり、いじわるをしたり、文句を言
ったり、言われたりします。本人は悪口だと思っていないのに、言われた相
手は悪口と受け取っていることもあり、そうした悪口を言ったり、言われた
り、これがケンカになったり、この時期の子どもの生活にはよくみられるこ
とです。
 ほんの軽いのりでおちゃらかす行為が、その場だけで笑いで済むのことも
多いですが、特定の子に継続的にそれが行われるとイジメということになり
ます。これがワルと知りつつ隠れて行われると、陰湿なイジメということに
なります。この区別、判別が当人たちにはむずかしいようです。教師は、軽
いのりでのその場だけの遊びであるのか、イジメに当たるのか、よく見極め
なければありません。この判断はむずかしいですが、イジメに結びつく行為
であるから止めるように指導する(知らせる)ことが必要です。
 いたずらをしたり、されたり、悪口を言ったり、言われたり、文句を言っ
て口げんかをしたり、はずみでみんなでワッとワルサをしたり、こうしたこ
とは中学年の生活にはよくみられることです。多くは、そう目くじら立てる
必要のない一過性のものです。
 こうした行動の中で、子どもは強い精神力をみがいていきます。障碍を乗
り越えて強く逞しく生きる意志力と抵抗力とエネルギーを身につけていきま
す。かしこくたちまわり、うまくふるまう子になっていきます。
 なかには長期にわたる陰湿なイジメに発展していくものもあるので、教師
は常に観察を怠らずに見極めて指導に当たっていくことが重要です。


≪命令者と服従者とが分離する≫

 小学校中学年になると、集団遊びの中で自分を犠牲にして集団のために役
立つ、献身的な行動がみられるようになります。友だちとの集団の中にある
自分の位置、役割みたいなものを自覚するようになります。野球遊びの例で
は、レギュラー選手と球拾い選手とに分かれます。彼はぼくより上手、彼は
僕より下手、ということを自覚するようになり、実力の差が遊びの役割を決
定するようになってきます。補欠の役割の子は、いつ自分の出番がくるか分
からないのにじっと待ちます。
 上手な子は命令者(リーダー)となり、下手な子は服従者(フォロアー)
となるシビアな関係ができてきます。集団の中で自分がどう行動するのがよ
いか、自分の実力から位置、地位、役割を知って、自分の果たすべき役割を
自覚して行動するようになります。自分の位置、役割を周囲の友達との関係
の中でとらえる自己意識が発達してきます。
 中学年では、実力の差がはっきりと明確になってきます。いっそう固定化
してきます。下手な子の中には集団から離れるようになります。仲間に入る
のを嫌うようになります。上手な子と下手な子との仲間関係の分離が始まり
ます。個人差、性格の違い、個性の違い、趣味の違い、スポーツなどの分野
で、それぞれの上手下手という実力差が出てきます。その上で集団としての
結合を、各人の個性や特性に応じて行動のしかたを見い出すようになります。


≪親の手抜きの時期になりやすい≫

 親や教師は、中学年の子ども集団を良質な集団に育てようと気を使うこと
が重要となります。中学年は、小学校六年間の中でいちばん重要な時期です。
いちばん腕白ざかりのギャングエイジの時期で、良くも悪くもなりやすい時
期で、指導に困難な時期です。それだけに、親や教師の指導の腕のふるいが
いがのある時期だとも言えます。
 ところが親の場合、一般的な傾向として、中学年の時期の指導に手を抜き
がちです。1,2年生は入学したばかりなので、親は懸命に世話をやきます、
手をかけます。5,6年生は、進学や受験を心配して指導に熱心になります。
3,4年生は、とかく親の指導が中だるみになりがちな時期です。親がいちば
ん手をかけなければならないのが3,4年生の時期なのにです。


≪自力学習と読書習慣のつけかた≫

 中学年になると、自学自習する力が身についてきます。自分で課題を見い
出し、問題を解いたり、まとめたり、自分で答え探したりするようになりま
す。先生から宿題が与えられると、友だちを家によんで、友だち同士で輪に
なって宿題をしている場面もよくみられます。
 中学年になると、内言(思考のコトバ。アタマの中で黙ってコトバを操作
すること)が飛躍的に発達します。黙って考える力が発達してきます。図書
室や家庭内で黙々と読書したり、自主的に調べ物をしたりできるようになり
ます。
 この時期は一般的に、本好きになるか、本嫌いになるかの別れ道であると
言われています。3,4年は友だちと外で遊ぶことに忙しく、読書どころでな
くなってきます。家で静かに読書することから離れてしまう時期でもありま
す。読書好きな子は、友だちと本の貸し借りをしてたくさん本を読むように
なるが、外遊びが楽しくて遊びに没頭してしまう子は、とかく読書から離れ
てしまう傾向にあります。本嫌いにならないように配慮する時期でもありま
す。

≪九才の壁とは何か≫

 「九才の壁」というコトバがあります。九才は小学校3年生にあたります
が、大体その年頃を言います。九才頃から学力の遅れが目立つ子が増えてく
るようになります。魔の3・4年生の時期とも言われています。
 九才の頃から、学力の面で、進んでいる子、停滞している子、遅れがちな
子などの学力差がはっきりと目立つようになってきます。九才頃を境にして
学力がなかなかうまく進まない、乗り越えられない、つまづきの壁が出てき
ます。精神薄弱児は、小学校三年生程度の学力まではなんとか進み得ること
はできるが、それを越えて伸びることは困難であると言われています。
 小学校4年生あたりから学習内容においても、具体レベルの思考から抽象
レベルの思考へと移行していきます。目の前の具体的な対象物、直接知覚で
きる実体験のモノ・コトを扱う学習内容から、それを越えた抽象的に論理的
に思考する原理・原則・法則の領域のモノ・コトを扱う学習内容に移行して
いきます。具体的な現実・現象の領域を扱う思考から仮説的可能性の概念的
本質の領域を扱う思考に移行していきます。現実・現象の世界を越えた抽象
的で論理的な世界の領域を思考する方向へ移行していきます。と言っても、
レベルの差が大きくあるが、要するに飛躍した抽象的思考力が要求される指
導内容が少しずつ入ってくるようになります。それだけ理解に困難やつまず
きが起こり、越えられない壁となって現れ出るようになります。
 よい例が算数です。4年生ぐらいから算数の落ちこぼれは目立ち始めます。
(今の高校生の中には、小4、小5の算数問題や分数計算ができない生徒が
いると社会問題になります)算数が不得手だ、嫌いだという子が小学校4年
生ぐらいから増えてきます。4年生ぐらいから計算がこみいっためんどうな
問題が出てきます。けた数の多い億や兆の単位の加法、減法の計算が入って
きます。百億の百倍は? 十億の百分の一は? 一億より7だけ小さい数
は? 四捨五入 切り上げ 切り捨て 仮商を立てて順次修正していく割算
の計算など、4年生ぐらいから抽象的論理的な領域に近づいた問題が増えて
きます。
 「九才の壁」は「九才、十才の壁」とか「九才、十才の節」とか言われる
ことがあります。いずれにしても、この頃の年齢の時期につまづきの壁、越
えなければならないハードル、成長の一つの節目があるということです。母
親が、わが子に勉強を教えていて、教える内容がむずかしく、そろそろ教え
ることができなくなる学年が小学校4、5年生からです。教える内容がむず
かしく、教えるのがめんどうくさい、学習塾へ行かせる、家庭教師をつける、
というのがこの時期からです。お母さんにも「九才の壁」のようなものがあ
ると言っては失礼になりますね。




   
小学校5.6年生の心とからだ



≪思春期への準備≫


 小学校高学年は児童期から思春期への移行の時期です。思春期への準備の
時期です。子どもの世界から大人の世界へと足をふみだしていく時期です。
男子は肩幅が広くなり、声変わりがはじまります。女子は初潮がはじまり、
乳房が発達しはじめます。身長が急に伸びて、家の中を歩くと、母親と同じ
くらいに成長し、あるいは母親より大きく成長して、母親が圧迫感をおぼえ
ることもあります。何となく大人びたわが子の姿に驚くことがあります。
低・中学年のようにチョロチョロ、チャカチャカした腰の軽さがなくなり、
ぐっと冷静さ、沈着さが出てきます。
 親からみて生意気と思われる言動が出てきます。相手が子どもだと思って、
母親が子どもだましの態度をとると、しっぺ返しの反論でやりこめられてし
まいことになります。相手を軽くみて、ごまかした対応をすると、子どもは
正当な理屈を並べて母親をやり込めます。それだけ自我意識が発達し、精神
的に自立してきています。子どもとして対応するのでなく、大人としてつき
あう必要となっています。対等な立場で共に語り合う中で最良の道を見い出
していくようにしましょう。
 身体的生理的な発達にも著しい特徴がみられてきます。5,6年生になる
と女子の身長や体重が急に伸びる時期です。女子にくらべて男子が小さく見
える時期です。4年生までは身長、体重ともに男子が優位をしめています。5
年生になると、女子が男子をおいこし、6年生でその差がはげしくなります。
身長・体重の女子の優位は中学一年生まで続きます。中学2年生で男子が女
子を追い越してきます。中学2年以後は、女子は男子にくらべて伸びが著し
く低くなってきます。
 小学校5,6年生ごろから女子も男子も家族と一緒に風呂に入るのを嫌がり
だし、一人で風呂に入りたがります。女子の初潮は、早い子は小学校3年生
であらわれ、5年生では15%、中学1年で50%、高校1年で99%になり
ます。性器の発毛は、小学校5年生で男子10%にくらべて、女子は30%
になっています。男子の声変りは、早い子は小学校4年生でみられ、6年生で
は20%、中学1年では50%、高校1年で98%になります。男子の精通は、
早い子は小学校4年生でみられ、6年生で20%、中2で80%、高1で98
%になります。(資料出所、やや古く、昭和56年、教育開発研究所調査・日
本性教育協会調査などによる)


≪性の芽生え≫

 体の変化は、当然に性意識にも影響を与えます。小学校4年生までは殆ど
性意識はありません。男子も女子も、双方が相手を異性として特別な意識を
持って応対していません。中学年の時期では、ふつうは男子同士、女子同士
で遊ぶことが多いですが、男子と女子とが仲間を作って楽しく遊んでいても
どうという意識はありません。4年生の教室で、体育の服装に着替えるとき、
やや乳房がふくらんだ女子が堂々と隠すことなく着替えているし、男子もま
ったく無関心です。低学年に多くみられるスカートめくりも性意識と結びつ
いた意図はなく、逃げる女子があもしろい、という悪ふざけやイタズラをし
ておもしろがっているだけです。ところが、5年生になると、体育の着替え
では、男子を教室から追い出してドアを閉めたりして、男子を意識するよう
になります。学級会などで男子グループと女子グループがわざと対立・批判
して口げんかをしたりもします。
 恋愛感情が芽生えるのもこの時期です。4年生までは、あの子は面白いか
ら好き、いじわるだから嫌いの感情であるが、5年生になると恋愛感情が加
わってきます。特に、女子の方が早熟です。嫌いになると徹底的に嫌いにな
ります。お笑い芸能人やテレビタレントや歌手に憧れて夢中になりだすのも
この時期です。クラスの特定の男子に恋愛感情をもったり、若い男性教師に
恋愛感情をもったりする子もいます。


≪男女の性差が顕著になる≫

 身体的な成熟の変化は、体力や運動能力にも影響を与えます。中学年まで
は、体力や運動能力に男女差は殆どみられませんが、高学年になると男女差
がはっきりと出てきます。走力、筋力、跳躍力、敏捷性、柔軟性などに男子
優位の性差がでてきます。
 読書傾向にも性差があらわれます。男子が鉄道、車、切手、ゲーム機、カ
メラなどの趣味の本、伝記、歴史、推理、スポーツなどの本を好みます。女
子は愛情物語、夢物語、占い、手芸、料理、スリラーなどの本を好みます。
 身のこなしや態度にも性差があらわれ出てきます。男子は「男らしく」ふ
るまうようになり、女子は「女らしく」ふるまうようになってきます。男子
はオトコであることに自己意識をもつようになり、女子はオンナであること
に自己意識をもつようになり、自然にそのようにふるまうようになってきま
す。
 ここで注意すべきは、大人が子どもに、男子には「男らしく」を、女子に
は「女らしく」を求め、そのように強制してしつけてはいけないということ
です。一人ひとりの子どもに潜在している可能性を、男子とか女子とかと区
別せずに、それぞれの特質・特性・個性・持ち味を、十分に開花させるよう
にすることが重要です。男らしく、女らしくと強制してしつけることは、せ
っかくその子に潜在している個性的な能力を引き出すのを押さえつけてしま
うことになります。これは性差別にもつながります。


≪仲間作りと仲間割れ≫

 高学年になると羞恥心が出てきます。体面を気にするようになり、見栄っ
張りになります。授業中、分かっていても発表しなくなります。失敗したら
恥ずかしい、笑われたら恥ずかしい、という気持ちが出てきます。低・中学
年のように「ハイハイ」と手を挙げて発表しなくなります。それだけに落ち
着きが出てきたとも言えます。先生や近所の知人との応対には、落ち着きは
らった態度で、よそゆきのていねいな言葉で話し、おつにすました行動をと
るようにもなります。大人になったなあと感じさせる応対をするようになり
ます。
 その反面、いつも行動を共にしている友だち同士では大声でワイワイとバ
カ騒ぎや悪ふざけをして、中学年生と変わらない言動をすることもあります。
つまり、人前と仲間内とで行動を区別します。
 高学年になると、友だちの中に、気の合う友だち、気の合わない友だち、
つまり好きな友だち、嫌いな友だちとがはっきりと区別されてきます。自分
と気の合う友だちを意識的に選んで、その友だちとだけ付き合うようになり
ます。あの子は、いつもよくない行動をする、悪ふざけをする、乱暴である、
命令ばかりする、いばってばかりいる、身ぎれいである、笑わせてばかりい
ておもしろい、スポーツが上手だ、冗談いっておもしろい、きたならしくて
いや、などで級友を評価し、自分の友達をそういう観点から選んで付き合う
ようになります。


≪いじめが隠然化してくる≫

 高学年になると、クラスは落ち着いてくるが、いじめ問題は隠然化してき
ます。中学年ではすぐ先生に告げ口しますが、高学年になると、いじめは教
師の気づかないところで、教師の目の届かないところで行われるようになり
ます。潜在化し、陰湿に、集団で、特定の子を嘲笑したり、侮蔑したり、乱
暴したり、無視したりするようになります。
 教師も、親も、問題が表面化するまで気づかないということがおきます。
発覚して、その子らに問い質しても、へ理屈をつけて逃げまわります。こう
した場合、中途半端に終わらせずに、徹底的に追求し、親にも事情を話し、
教師と親が協力して指導に当たるようにしなければなりません。


≪自律的な集団運営が上手になる≫

 高学年になると、学級会、委員会活動、クラブ活動などで、みんなで話し
合い、民主的は手続きで意思を決定し、決定した内容をみんなで実行する、
という集団運営が上手にできるようになります。中学年のときは教師の指導
や援助を必要としますが、高学年になると自分たちだけで自主運営ができる
ようになります。
 高学年は正義感が強く、決定事項に違反した場合は級友を厳しく批判し、
非難を与えます。級友からの批判や非難に弱く、それをたいへんに気にする
時期でもあります。
 大人の言動に対する批判力も高まってきます。理屈に合わない大人の言動
には厳しい批判や非難を与えます。それを、へ理屈と受け取る大人(親)が
いますが、その多くは子どもが正論を言っている場合が多いのです。へ理屈
を言っているのは大人の側に多く問題がみられます。


≪内省的、抽象的思考の発達≫

 高学年になると、親に依存しつつも、親に頼らない自立した行動をとるよ
うになります。親から離れて一人立ちしていく時期です。自分の心の中を内
省的に思考できるようになります。友だちとの付き合いに悩みを抱くように
もなります。自分とは何か、大きくなったら何になりたいか、どう生きてい
くのがよいか、などを考える素地ができてきます。社会生活では、どんな行
動をするのがよいか、悪い行動には怒りを抱くようになります。また、自分
の実力(能力)の程度が分かり、自分にできること、できないことを見定め、
自分を制して行動するようになっていきます。
 次は、六年生の男子が書いた作文です。心の中に二人の自分が住んでいる
作文内容です。先生に叱られた直後の心理状態を書いています。

 ぼくの心の中には、(ちきしょう、先生のバカ、男子全員残れとは何事だ。
ふざけていない男子だっていたのに。ぼくは、ほんのすこししかふざけなか
ったし、全然ふざけていない男子だっていたのに)と、くやしさいっぱいだ。
しかし、一方では、(ふざけていない男子もいたが、男子の殆どがあんなに
大声を出してさわいだのだから、先生がカッとなって男子全員残れとおこる
のもしかたがないだろう。ぼくも机の上にのったりしたのだから)という考
えも浮かんできた。先生の命令は当然だ、いや、当然でない、という二つの
考えがたたかっている。だんだんと(しかたがない。先生の命令は当然だ)
と考えるようになってきた。



     
中学生の心とからだ



≪第二反抗期≫


 身体的にも精神的にも子どもから大人への移行期といえます。大人でもな
い、子どもでもない、中間期といえます。からだは大人のように成長しつつ
あるが、ものの考え方や行動はまだ子どもです。親が子供扱いをすると「い
つまでも子どもと思って扱うな」と言って、怒りだします。
 中学生の時期は、第二反抗期に当たります。思春期になって第二次性徴が
見られるようになると、身体の急激な変化で精神と肉体のバランスがくずれ、
親の干渉からのがれようとします。親から独立しようとして、親のいいなり
にならず、やたら反抗するようになります。自分の主体的な判断で行動しよ
うとします。
 親の支配から離れて行動したいという強い願望を持つようになり、親の指
示や命令に何かにつけて批判するようになります。意地でも自分の意思を通
そうとします。正義感が出てきて、批判力も育って、他人の不正や醜さに潔
癖に反発するようになります。親のさしでがましい言いぐさ、口出しに反発
しだします。カッカッと感情を高ぶらせて、大きな声を出し、理屈を並べて、
反抗するようになります。
 親があれこれと言葉をかけすぎると、今度は知らんふり、聞いてないふり
を示し、まともに取り合わなくなります。親が「尋ねたら、返事をしなさ
い」と言うと、「はい、はい、はい、はい」と繰り返して、親をバカにした
返事をします。自分の尺度だけで意志を通そうとします。
 親を批判するだけでなく、友だちや教師も批判するようになります。オレ
はアイツ(友人、教師)のここが嫌いだ、という感情を持つようになり、オ
レはアイツが嫌いだから、アイツと話しをしたり、アイツのグループで一緒
に行動するのはいやだ、と好き嫌いの感情で、アイツと一緒に行動するのを
拒否したりします。
 女子には感情的な部分が強いと言われますが、この傾向は中学生のころか
ら顕著になってきます。感情の起伏が激しく、情緒的に不安定で、他人から
ふと言われた何でもないコトバを妙に気にしたり、快活に話したり遊んでい
たかと思うと、ちょっとしたことでふさぎ込んだりします。特に問題行動を
起こした中学生は、男子は理屈で説明すれば聞き入れてくれますが、女子は
感情的になると、理屈だけではなかなか聞き入れてくれないところがありま
す。

≪思春期のからだの変化≫

 思春期とは、子どもから大人になるために、からだも心も大きく変化する
時期を言います。第二次性徴があらわれ、生殖可能となる時期を言います。
ふつう11〜12歳から16〜17歳までぐらいを言います。時期は、早い子どもは
小学校高学年から思春期が始まりますが、中学生になるとかなり一般的に第
二次性徴が現れるようになります。男子は男らしい体型(ごつごつした筋肉
質の体型)、女子は女らしい体型(丸みのあるふくよかな体型)に変化しま
す。男女とも皮脂の分泌が多くなり、皮ふは滑らかになる一方、脂っぽくな
り、顔にニキビが出始めます。
 男子は、のどぼとけが大きくなり、声変りが始まります。細く、かん高い
声から、低く、太い声に変化します。声がかすれたり、出なくなたりする子
どももいます。この場合、むりに大声を出さないように注意すれば、やがて
低く、太い声に安定してきます。ひげが生えてきます。初めは鼻の下に薄い
うぶ毛が生え、ほほ、あごへと範囲が広がっていき、時間がたつにつれ色が
濃くなってきます。性器やわきの下や脚にも発毛してくるようになります。
性毛の発生は、小六で30%、中2で80%ぐらいです。
 日本性教育協会の調査(2011)によると、射精経験は小6で19%、中1
で30%、中2で36%、中3で51%、高1で78%、高2で88%、高
3で90%となっています。夜、眠っている時に、夢精といってエロチック
な夢を見て精液が出て、パンツを汚すことが多くなるのもこの時期です。起
床時にパンツがゴワゴワしているので、恥ずかしがってゴミ箱に捨てたり隠
したりすることもあります。中学生になったら普通にあることだからと言い
聞かせ、洗濯機に入れるように指導しましょう。
 女子は、骨盤が発育し、おしりが丸味を帯びてきます。毛が性器やわき下
に生えてきます。女性の性毛は、男子より平均して七カ月ぐらい早く発生す
るという統計もあります。
 中学生の頃は、はじめは月経が不規則であったり、腹痛をおこしたりする
ことがありますが、思春期になると女子にはよくあることで、心配する必要
はないと教えましょう。
 中1の時期は、身長、体重、胸囲、座高ともに女子の方が男子を追い越し
ています。もちろん、個人差はあるが、中2になると男子が女子とほぼ同列
に並ぶが、やや女子を追い越すようになり、中3になると男子が身長の伸び
方がめざましくなり、女子を完全に追い越して優位になります。中学生にな
ると、男子の身長の伸び方がめざましく、一年間で10センチも伸びる子も
います。中学生になると、女子の身長の伸び方は男子に較べて低く、ずっと
ゆるやかになります。
 
これらの第二次性徴の性差が精神的な発達の違いとなって現れてきます。女
子は男子よりも、ものの考え方や行動が大人びて、早熟です。女子の中学生
は一年生の夏休みを境に、めっきり大人びた行動をするようになります。体
型や腰つきだけでなく、ものの見方、考え方が成人女子と殆ど変らないよう
な振舞いをする女子が多くなります。一方、男子の中学生は、中3の卒業を
ひかえた頃から急激に異性や性に関心を持つようになる生徒が多くなってき
ます。異性に関心を持ち、異性にひかれるのは、男子より女子のほうが1,
2年早く現れてきます。つまり、性的なめざめは、男子のほうが奥手です。


≪中学生気質≫

 他人の目を意識するようになり、自分から恥をかく行動を警戒するように
なります。小学生時代と比べて無口になってきます。自己顕示欲が強くなり、
他人に認めてもらいたい意識が出てきます。女子は目立つ服装をしたがりま
す。男子は目立つ行動をして他人を笑わせ、自分を突出させようとします。
 一方、主体性のない行動もみられ、物事に対してふざけて茶化して安易に
すりぬけようとし、めんどうくさがりで、投げやりな態度を示しがちです。
困難なことに立ち向かおうとする意志の薄弱さもみられます。嫌なことに出
会うと、「そんなのは、めんどくさい」と逃げ出してしまうところがありま
す。
 集団の中で、自分らしい自分を出そうとしたがりません。固執する自分を
持とうとしません。烏合の衆のように群れて、むりに自分を群れの中の同化
させて、群れに引きずられながら自分を同質化させて、同じ人間としての精
神的な情緒的な安定を保とうとするところもあります。集団でズッコケてふ
ざけて喜び合う幼稚っぽい行動をとることもあります。
 スポーツ行事、文化行事、学校行事、学級行事に喜んで、みんなと協力し
てチームワークよく積極的に参加します。自制心や相手を思いやる気持ちも
あり、落ち着いた協力的な行動が見られます。自制的に思考する力がつき、
自分の行動を監視するもう一人の自分が自分をコントロールするようになり、
種々の問題に悩むようになります。
 一人ひとりが、それぞれの個性や持ち味を発揮しながら、強固な目標や信
念を抱いて、困難を切り開きつつ、それを喜びとしながら、生き生きと活力
に満ちた中学生活を送ってほしいものです。


≪中学三年間の変化≫

 中学校へ入学したばかりの中1の一学期は、まだ小学校の生活態度が抜け
きっていません。あどけなく、ういういしい行動がみられます。中学校へ入
学したばかりの一学期は、中学校生活の集団的なまとまりが弱く、生徒一人
ひとりがバラバラに行動しています。一年生の夏休みが過ぎると、それに変
化がみられてきます。中学校生活に慣れてきて、屈託なく、のびのびと行動
を始めるようになります。
 さまざまな問題行動が現れてくるのが中1の夏休み以後からです。学力が
低くて勉強についていけない子ども、自己中心的で幼稚っぽい行動をする子
ども、こうした子どもの中には、他生徒と対立してケンカを起こしたり、登
校拒否になったり、授業中に騒いだり、上級生のワルのボスの誘惑にひかれ
て非行化していったり、いじめっ子になったりします。
 中2になると、中学校の校則のワクの中で他人と協力してまとまった集団
行動をとるようになります。スポーツ行事、文化行事、学校行事、学年学級
行事に喜んで、みんなと協力しチームワークよく積極的に参加します。
 自制心や相手を思いやる気持ちもあり、落ち着いた協力的な行動が見られ
ます。自制的に思考する力がついてきて、自分の行動を監視しているもう一
人の自分が強力に自分をコントロールするようになり、友人問題、部活動の
問題、愛情(人間関係)の問題などで悩むようになります。愛とは、友情と
は、死とは、生とは、人間とは、自分はこれからどうなっていくのか、など
と思弁的に考え出すのも、この時期です。
 中3になると、自分の進路のことを真剣に考え出します。「中学校で勉強
する意味」についての作文を書かせると、中一では、テストで零点をとりた
くないため、高校入試に合格するため、というだけの内容であるが、中3に
なると、今やっている勉強が社会の中でどう役に立つか、何のために勉強し
ているか、学歴社会と受験地獄、生きがいと将来の職業選択、生きる意味に
ついて、などの広い内容にわたってまじめに論考をすすめるようになります。
中3は進路のことで悩んだり、一つのことに精進したりする時期で、それだ
けに自分の将来を考えて落ち着いて勉学に励むようになります。自分の将来
や進路への見通しが暗く、ぐれてくる子どもがでてくる時期でもあります。


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